絶対にデレない敵役生徒   作:有機栽培茶

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二章:楽園とそれを目指した者
1.動乱の予感


「ただいまヒバナちゃん!!!」

「……」

 

 

 積み上げられた書類をイヤイヤ片付けていたら突然バタンと大きな音を立てて正面の扉が乱暴に開け放たれ、そしてその空いた扉から侵入したナニカは目にも止まらぬ速さで僕にダイレクトアタック。たいしてない胸を顔に押し付けてきやがった。

 

 

「はぁーー!ひっさしぶりのヒバナニウムうっはー!!充電される!!!!」

「……」

 

 

 僕の髪に顔を埋め、思いっきり匂いを吸い込む変態。その行為に特段何かを感じることはない。昨日風呂入れてなかったから匂うかな、とか、髪ちゃんとセットできてないし寝癖そのままだし恥ずかしいな、だとか。そういう感情は相手に一定の興味と好意があるから起こり得るものだ。

 

 好きの反対は嫌いではない。無関心だ。

 

 故に、僕にとって彼女はその様な羞恥心を抱く価値のない存在。せいぜい不快感を感じる程度の取るに取らない存在というわけだ。

 僕の貴重な体力と時間を、君の様な無価値な存在に捧ぐことなど断じてないのだから。

 

 

「あー………久しぶりのヒバナパイ。柔らか───」

 

「いい加減にしてくれないかい!?」

 

「お、やっと反応してくれた」

「ぐっ……」

 

 

 思わず振り返って怒鳴ってしまったことに謎の敗北感を覚え下唇を噛み締める。これで勝ったと思うなよ。くそ、なに笑ってやがる。どこが面白いんだか。

 

 

「ただいま」

「……ちっ、おかえり」

「嫌いって言いながら返してくれる、そういうところ好きだよ」

「……はぁー……君さぁ、よくそんなセリフ恥ずかしげもなく言えるよね。いつか襲われても知らないよ」

「あはは、この前カズサちゃんにも言われちゃったっけ。なんでだろう?」

「それは……知るか!自分で考えろ!」

「えぇー!ひどいよヒバナちゃん!教えてよ!」

「ええい!離れろ!僕にひっつくな!」

 

 

 そういうところだそういうところ!

 わからないのか!?あんたの距離感はおかしいんだ。バグってる。自分の魅力ってやつをわかってないのか?本当にそのうち襲われかねないということをこの人はわかっているのだろうか。

 

 そもそもの話、思い出して欲しい。僕は一度こいつを襲っている。あの時は疲労から理性のたかが外れてたってのもあるが、それは紛れもない事実だ。これだけはこいつに申し訳ないって後ろめたさを持っている。

 

 だからこそもう少し警戒心を持って欲しい。僕にそうやって過剰な身体的接触を行ったらまたああなるかもしれないってわからないのか!?それとも誘ってるのか!?……ふぅ。いや、落ち着こう。まずは深呼吸だ。

 

 そもそもなぜ僕がこんな奴に興奮しなければならない?確かに顔は良いさ。だがその中身はどうだろう。“先生”というつぎはぎの皮を被らされただけの、ただの人間。銃弾が怖くて戦いが怖くて、自分自身がわからなくなるのが怖くて怯えているだけの人間。そこに僕がかつて見た目を焦がすほどの光はなくただ僕に救いを求めるようにすがるか弱い………僕の癖に刺さるな?

 

 いやいやいや。待て、落ち着け?確かに僕の好きなタイプだが………先生だぞ?あの理不尽なほどに光り輝きこいつ中心に物語が回る主人公。僕が憧れ、目指した姿であり、手が届かなかった存在。

 

 

 そして『生徒を助けるのが先生の役目』だのと謳いながら、俺の親友を守ってくれなかった“先生”だ。

 

 

 ……うん。問題なし。

 

 

「……はぁ、良い加減離れろ」

「あぅ!?扱いがひどいよ!」

「ソファーに投げた分ありがたく思えよ」

 

 

 僕の側頭部に胸をくっつけはなれなかった先生をひっぺがしソファーに向かって投げ飛ばす。ひどいだと?逆に感謝して欲しいね。こんなことされて通報しなかった僕に。変態教職め。

 

 

「それで?トリニティはどうだったんだい?やはり害獣の巣窟なだけあって随分と面白い目にあってきたんじゃないかい?」

「うんん?みんないい子だったよ。ちょっとしたすれ違いもあったけど、みんな純粋で一生懸命で、ヒバナちゃんの思うような悪い子はいなかったよ」

「……はっ。君の目は随分と節穴なようだ。確かトリニティのお偉いさんからの依頼って話だろう?ならばあの聖園ミカや桐藤ナギサとあったんじゃないのかい?」

「うん。ナギサちゃんもすれ違いはあったけど、トリニティのために一生懸命に頑張っていたいい子だったし、ミカちゃんも……色々あったけど良い子だったよ?」

「……ほーん。その色々なすれ違いが気になるところだけど……けっ!猫被りしちゃってさ。性悪お嬢様が」

 

 

 以前僕がまだ風紀委員副委員長だった時、ティーパーティのメンバーには何度か会ったことはあった。が、総じて良いイメージは抱かなかったな。小難しい言い回しをして僕の目を回した乳なし横乳狐娘に、事あるごとにこちらを煽ってくる性悪ピンク。そして何を考えているのかわからない腹黒女、桐藤ナギサ。さすがお嬢様学校を名乗るだけあって性格が悪そうだったのを記憶しているね。

 

 他にも桐藤ナギサ以上に何を考えているのかわからないシスターフッドのサクラコに、脳筋救護騎士団団長に、奇声を撒き散らしながらうちの委員長並みの戦闘力を誇る正義実現委員会の化け物に同じく正義実現委員のでか乳………2人くらいおかしな奴がいたが、まあ、良いイメージは抱かなかったな。やはり害獣は害獣だ。シスターフッドのサクラコなんて、別れ際に「わっぴ〜」などという意味のわからない───おそらく呪いの言葉を残していきやがった。そのあと僕はタンスの角に小指をぶつけたりイブキちゃんの細かい積み木系オモチャを踏んでしまい悶絶したためおそらく呪詛で間違いない。得体の知れない女だ。

 

 

「それで?エデン条約は上手くいきそうかい?」

「んえ!?……な、なんでそれが出てくるのかなー…?」

「どうせエデン条約に関する事だったんだろう?あの桐藤ナギサからの依頼で、しかもこの時期ときた。そう考えない方が不自然だろう?」

 

 

 僕はペンをくるくる回しながら、面白いくらいわかりやすく動揺する先生の姿を笑う。

 

 

「どーせ、エデン条約の邪魔になる問題を解決しろだとかそういう依頼だったんだろう?」

「……そう、だね。トリニティ内の怪しい人を見つけろってものだったよ。だけど……みんなそんな悪い子じゃなくて……」

「ああ、いい。どうせ君のことだ“主人公”。“先生”として全部救って解決してきたんだろう?さぞ素晴らしいハッピーエンドだったんだろうな」

 

「……それは、少しわからないかな」

 

「ふむ?」

 

 

 僕はおや、と思う。

 

 アビドスにミレニアムでのゲーム部の一件。文字通り物語の主人公と呼ぶべきコイツが、完全なハッピーエンドを手に入れられなかったというじゃないか。気になるじゃないか。

 

 

「それは一体どうしたんだい?」

「……1人、深い心の傷を負ってしまっただろう子がいてね」

「ほぉ?はっはっは。害獣にも傷つく心はあったか。で?それは誰なんだい?教えてくれよ」

「……ヒバナちゃん」

 

 

「流石に怒るよ」

 

 

「──っ!」

 

 

 ……は、はは。なんだ、生徒だからか?その害獣すらも貴方の生徒だから、守らないとってか?なーんだ。嫌だって言うくせに、ちゃんと“先生”してるじゃないか。

 

 

「……っ!あ、ご、ごめんヒバナちゃん!あ、あの、そんなつもりじゃ……き、嫌わないで!?」

「……く、あはは。いや、ごめんごめん。今のは僕が悪かった。謝るし嫌わないからくっつくな」

 

 

 それがなかったらもう少し見直せたんだがな。

 

 

「で?エデン条約自体はどうなんだい?成功しそう?」

「……そ、それはこのままいけば問題ないみたいだけど……」

「だけど?」

「…… ひ、ヒバナちゃんがそれを妨害しようって言うのなら私はそれを止めるしシャーレに監禁しないといけなくなるからね!?」

「しないよ」

 

 

 あと今だって監禁みたいなものだろ。君がいる時はいつも僕にひっついてきて、自由な時間なんてほとんどないじゃないか。監禁よりタチが悪い。

 

 

「しな……え?なんで?」

「なんでって、もう興味がないからさ」

「興味って……そんなあっさり!?」

 

「ああそうさ。大体あの時の反乱だって賭けみたいなものだった。ヒナちゃんとの勝率なんて3割行けばいいとこだし、実戦となればほぼ無理ゲーだ。その彼女を退けてもティーパーティの元まで辿り着けるかどうかも難しいし、そのうちの1人でも重症に持っていけるかも賭け。最も勝率が高かったのは反乱による、ゲヘナトリニティ間の関係悪化による条約の空中分解だったけど……それも成し得なかった。所詮は僕の自己満だったわけだしね」

 

「い、意外と考えてた……あのヒバナちゃんが……」

「あのってなんだあのって。まあ、とにかく僕はエデン条約にはもう興味がないんだ。あんな仲良し条約が締結されようがされまいがどうだっていい」

「そっか……よかった」

 

 

 先生は胸を押さえ、安堵の息を吐く。

 

 ああそうだ。エデン条約にはもう興味はない。正確に言えば『エデン条約自体には』、であるけどね。

 

 

『……戦華ヒバナだな?話がある』

 

 

 あれは少し前のことだった。人気の少ない路地でコーヒーを飲んでいた時のことだったかな?突然目深く帽子を被った白コートの女の子に話しかけられたんだ。なかなかに長身で、顔はイカしたマスクで見えなかったけど、僕にはわかる。きっと可愛い顔をしていたんだろうね。

 

 そんな子が僕に言うんだ。

 

 『自分はエデン条約に反対する組織である』とか、『エデン条約を台無しにする計画を立てているから協力してほしい』ってね。

 

 おそらく、僕が彼女らと同じようにエデン条約に反対して反乱を起こした人物だって知っていたからなんだろうね。ん?それにしてもペラペラと喋りすぎじゃないかって?ああ、それは彼女、僕に向けて銃器を突きつけてたからね。あれは交渉じゃなくて脅しのつもりだったんだろう。

 実際従わないのなら今この場で始末するとも言っていた。

 

 なら、今僕がここにいるのなら、それに従って言うことなのか………だって?

 

 あっはっは!やだなぁ………僕が害獣の命令に従うわけがないだろ?

 

 こう返してやったさ。

 

 

『面白い話だけど……少し考えさせてくれないかい?楽しそうな方に着きたいんだ。決めるまではここでの事は他言無用であるし、どちらの味方にもつかない中立でいる事は約束しよう』

 

 

 ───ってね。

 どうやら相手も知能のある害獣のようで助かった。素直に退いてくれたよ。彼女がどれほどのものかは知らないけど……ヒナちゃん以下の分際で僕を脅そうだなんて身の程知らずなんだよ。

 

 それに害獣同士で潰しあってくれるのなら大歓迎だ。故に今彼女達の情報を漏らして害獣どもに対策を立てさせるわけがない。

 それに僕自身はゲヘナもトリニティも、彼女達にも……害獣の味方には着きたくはない。先生にだってね。だから中立を保ち最後には、楽しそうな方に───全滅して害獣がいなくなった方につくことにした。

 

 せっかく害獣どもが足りない頭を使ってイベントを用意してくれてるって言うんだ。

 

 

 だったら存分に楽しんであげようじゃないか。




多分そろそろエデン条約に入ります。いや入ってます。そこまで深くは関わらないので肩の力を抜いてさっさと走り抜けようと思います。期待しないで(挨拶)
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