絶対にデレない敵役生徒   作:有機栽培茶

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なんか気がついたら評価に色がついていました。性癖が合うようで嬉しい限り。みなさんありがとうございます。もっとくれ(強欲)


3.先生2

 

 日が沈み、真っ白な月が天高く登る中、僕は暗くなった人気のない公園で一人ベンチに腰をかけながらスマホを触っていた。

 

 ゲヘナ学園からは少し離れ、シャーレという連邦生徒会が保有する建物の存在するD.U.シラトリ区。その端っこに位置する寂れた公園。

 都会にありながらも場所が場所なだけに滅多に人が来ることはない。そんな知る人ぞ知る秘境。

 

 そこに僕が、しかもこんな時間に訪れたのは訳がある。

 

 呼び出されたのだ。

 モモトークで。

 

 それもしつこく。

 

 何度も何度も何度も何度も。

 仕事中だったというのに。

 

 ……失礼。少し取り乱してしまったみたいだね。

 そんなわけで残った仕事を胸部に排熱機構を取り付けた変態行政官殿に押し付け、ヒナちゃんの少し寂しそうな顔に後ろ髪を引かれながらもやってきたというわけだ。

 

 

「……はぁ」

「…あ!おーい!!」

 

 

 スマホを触りながらため息をつくと同時に、遠くから聞き慣れた…いや、聞き慣れてしまった声が聞こえてくる。

 そちらに目を移せば着崩したスーツのまま走ってくる、見慣れてしまった姿の人物が。

 

 

「ごめん!待った!?」

「いいや。大丈夫さ。僕も今来たばかりだからね。」

 

 

 みんな大好き先生だ。いや、語弊があったな。私を除いた、みんな大好き先生だ。

 

 ちなみに付け足すと今来たばかりというのは嘘だ。30分前にはここに着いている。爆速で走ってきたからというのも有るが、喜んで僕の仕事を受け取ってくれた行政官殿のおかげだな。別に僕が仕事をサボりたかったから、というのが理由の全てではない。確かにあんな場所長くいたくなかったのは事実だが、それ以上に先生のためという立派な理由がある。

 

 何せこの人、約束の1時間前にきては僕がいないと途端に寂しいですよアピール、まあつまりメンヘラメールを連投し始めるのだ。先生の姿か?これが…

 

 

「そっか。…ふふふ…」

「なーに笑ってるんだい?」

「5時間24分ぶりのヒバナちゃんだぁ…って」

 

 

 いや怖いよ。

 

 

「あはは。よくそんなの覚えていられるね…ふわぁ」

 

 

 あ、しまった。

 

 思わず漏れ出てしまった小さな欠伸。普通ならば気にも留めない程度の涙すら出ないような小さな物。

 

 だがそれがよくなかった。

 

 

「っ!…ご、ごめんなさい。ね、眠かったよね?疲れてるもんね。本当にごめん。こ、こんな時間に呼び出すなんて非常識だったよね?迷惑だったよね?わ、私なんかのために時間を使うなんて嫌だったよね?ごめん。本当に、今日はもう大丈夫だから、そのだから…私のことをき、き───

 

「あーはいはい。大丈夫。大丈夫だよセンセ。ほーら僕はこんなにも元気。だから落ち着いて?さあ、ゆっくり深呼吸をしようか。ほら。ひっひっふー。ひっひっふー」

 

 

 先生としての矜持が笑顔を保とうとしたまま、涙をポロポロとこぼしながら過呼吸気味になる彼女の背中をゆっくりと撫でる。

 なんでこんなことに?か……あーまあ、うん。あれだ。簡単にいうとー…地雷を踏んだ。

 先生の脳内を予想するならー…そうさな。

 

 僕があくびをする。

 ↓

 疲れている。

 ↓

 それなのにこんな時間にこんな場所に呼び出すなんてなんて非常識なやつだ。あーもう僕先生のこと嫌いになっちゃうなー。

 

 ……ってかんじかな。

 

 うん。

 

 めんどくせぇよ!!

 

 いや僕だって聖人じゃないんだからこう思うのは仕方のないことだろう!?一日中暇さえあれば僕にモモトークを送ってさぁ!大変なのはわかるよ!?先生の事情を知ってるからストレスが溜まるのもわかるよ!?でもね!?でもね!?僕はストレスの捌け口じゃねーんだわ!!!!その発散方法が暴力とかじゃなくて僕への甘えなのは助かるよ!?でも限度ってもんがあるでしょうが!それに迷惑ってわかってんならやめてくれないかなぁ!?!?!?

 

 ───なーんてことは口にしない。

 

 僕はできる女だからね。ストレス管理もなんのその。いっときの感情に流されて動くことはないのさ。わかりやすいほどに、その行動の結果が今よりもめんどくさそうだからってのもあるけど。

 

 

「どう?落ち着いたかい?」

「……ごめんね」

「うーん。僕は謝罪は欲しくないかな。だって暗い雰囲気になるじゃない。だからくれるのなら感謝がいいなーってね」

「あ、ありがとう」

「はい。どーいたしまして」

 

 

 ようやく落ち着いたらしき先生の背中を撫でるのをやめようと離したら、その瞬間に手首を掴まれそのまま先生の頭上に持って行かれた。

 

 

「…あー…センセ?」

「はい」

「はいじゃなくてね?」

「だめ?」

「……あーはいはい。わかりましたよ。この甘えん坊さんめ」

 

 

 ため息をわざとらしくつきながら先生の頭を撫でる。

 

 これもストレス解消のため。先生が潰れないため。仕方のないことだ。私としても先生に潰れられるのは本意ではないし、つまらない。だからこうしてケアをする必要が……あーもう!無駄に触り心地のいい毛並みをしやがって!!クソ近づくな寄りかかるな!いい匂いがする!!

 

 ……先に断っておくが私は先生が好きなわけじゃない。あのクソチョロ委員長とは違うからな。それに誰がこんなクソ重女好きになるんだ。

 

 は?ツンデレ?

 寝言は寝ていうものだよ。知らなかったか?

 

 そもそもの話、私はどちらかと言えば先生のことが嫌いだ。めんどくさいっていうのもあるが……ハッ、『生徒(みんな)を救いたい』だなんてほざくバカ誰が好きになるんだか。それが彼女自身が望んだことじゃなくても、()()()を語るバカは嫌いなんだ。

 

 

「……ヒバナちゃんはさ、私のこんな姿見て…こんな私が先生だと知って失望しなかったの?」

「んー?急にどうしたの?というか今更だね」

「う……その…噂で聞いたんだけどね。私、というか、先生ってさ。なんか、すごい噂が流れてるじゃん。なんでも解決してくれるとか」

「あー…だね」

「だから、ヒバナちゃんも私にそんなイメージを抱いていたんじゃないかなって…」

「…まあ、確かに君に出会うまではそう思っていたね」

「じゃ、じゃあ!」

 

「でも別に失望はしなかったよ」

 

 

 まあ所詮は噂だよな、程度には思ったけどね。

 

 

「……なんで?」

「なんでって、そりゃあ()()()()()()()()()()()()んだから失望も何もないでしょ?」

「ぇ………そ、そっか。そうだよね…こんな私に期待なんかしないよね…」

「あー違う違う!!その!あれだ!別にあの時は先生のことを知らなかったし、関わるとも思ってなかったから無関心だっただけで!今は違うから!ほら!いつも僕に興味深い話をしてくれるでしょ!?だから今日もどんな話をしてくれるのかなーって期待してる!楽しみだなー!!」

「え、えへへ…そ、そうなの?よかったぁ…」

 

 

 なんなんだこの人!どこに地雷があるかわからない…!期待されるのが辛いんじゃなかったのか!?

 

 

「……それに、噂の先生とやらがいくらすごい人でも、過去に戻ることはできないでしょ?」

 

「ん?どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。ささ、今日も僕に何か話してくれないかい?」

 

 

 先生に話を促すと彼女は途端に笑顔になってさらにこちらに詰めてきた。大人のくせに子供っぽい……ストレスで幼児退行していないかい?これ。いつか赤ちゃんプレイとか要求されないといいんだけど……僕やったことないし……。

 

 

「───ってことがあってね。あ、そうそう、今度仕事でミレニアムに行くことになったんだけど、ヒバナちゃんはミレニアムのこと何か知ってる?」

「ミレニアム、ねえ。うーん、頭の良い変人集団ということとかは知っているんだけど………僕自身直接行ったことがないし、知っていたとしても政治的な、先生には言えないことしかないなぁ……それこそ、君のとこの、ユウカちゃんだっけ?彼女に聞いた方がいいんじゃないかな?」

「そっかー…あ、じゃあさ。他の学校について教えてよ。ヒバナちゃんのいるゲヘナ学園とか」

「ゲヘナについてかー……そうだねー。一言で言えば『クソ』かな」

「自分の学校なのに!?」

 

 

 自分の学校だからだよ。

 

 

「あたり一面不良だらけ。犬も歩けば不良に当たり、お代替わりの銃弾に、挨拶がわりの銃弾。雨の代わりに銃弾が降り注ぐ。ただでさえ治安が終わっているキヴォトスでも一際治安の治の字がないほど終わってる自治区。それがゲヘナ学園さ。僕ら風紀委員がいるからかろうじて学園の形を保ってるだけの無法地帯。つまり君のような人間が今日みたいに気軽にくる場所じゃないってこと」

 

「うぅ……それは、ごめん…でもいざとなったらヒバナちゃんが助けてくれるでしょ?」

「普通にめんどくさくなったら見捨てるけど」

「ひどい!」

 

 

 そう思うのならはじめから来ないでくれないかい?

 

 

「まあでも、それ以上に酷いのはトリニティだね」

「トリニティ?ヒフミちゃんの学校かな」

「お、ヒフミと面識があるんだ。いい子だよね、あの子。でも彼女を基準に考えない方がいいよ。あそこは魔窟だ」

「魔窟?」

 

「そ。あそこは魔窟さ。金と権力で身を飾った魔物どもの巣窟。いじめは平気で横行するし、その上、上層部はその事実を黙認している。あの煌びやかな装飾の裏に隠されたモノのドス黒さはゲヘナの比じゃないよ。一見綺麗に見える分尚更タチが悪いね」

 

「すごい言うね…」

「もちろん。全て事実だからね。なんたって───…」

 

 

 …いや、やめておこう。口が滑りそうになった。

 僕は先生に見えないよう、セットしておいた着信音に似せた音声を携帯で鳴らす。

 

 

「おっと。誰から……ああ、もうこんな時間か。先生。今日はここまでにしようか」

「えー……また、来てくれる?」

「勿論。僕だって先生と話したいからね」

「そっか…ふふ、そっか。ありがとうね」

「こちらこそ。じゃあ、また明日」

「うん。また明日」

 

 

 そう言って私はベンチから立ち上がり先生に背を向ける。

 また明日。そんな日々がいつまで続くことやら。

 

 暗い夜道、街灯に照らされ僕は帰路についた。




戦華ヒバナ
噂によれば風紀委員のヒナ委員長とは旧友らしく、普段仏頂面の彼女がヒバナの前ではよく笑うと有名らしい。
また彼女の交友関係は広く、風紀委員の一般生からゲヘナの不良、万魔殿のメンバー。そして意外なことにトリニティの一般生徒とまであるらしい。それは彼女の家がゲヘナ学園領の辺境にあり、トリニティ領近辺にあったことも関係しているのかもしれない。
ちなみに彼女は風紀委員副委員長という恐れられる立場にいながら『気の良い友人』として皆から好かれているらしい。
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