絶対にデレない敵役生徒   作:有機栽培茶

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最後の関門

「まずい…かも……」

 

 

 暗く──アリウス自治区を包む夜空の美しくも寂しい黒ではなく、月光すら差し込まない、カーテンによって徹底的に遮光された個室にて少女は焦りの表情を浮かべて爪を噛む。

 

 ───聖園ミカ。

 

 ブルーアーカイブという物語の第3章。その第四節においてアリウススクワッドと共にスポットライトを当てられたキャラクター。

 そして、この物語をなぞるにあたってアリウススクワッドの次、もしくは同等に注意すべき重要人物。

 その精神性は背負った罪に似合わない、しかし年相応の未成熟で幼く脆いもの。それ故に罪に潰されそうになり、そして自暴自棄になって自ら破滅の道へと突き進む暴走機関車。

 

 そんな彼女がサオリとぶつかり合って互いを理解し、先生の助けを借りて一歩成長し救われる。

 

 素晴らしい物語であった。だからこそ、それを再現するのは至難の業であり、“先生”にしか務まらない。あの傀儡には難所となる場面だと思っていた。最悪の場合、彼女のことは───これも相当な被害を被ることになるだろうが───この場では私がなんとかして、彼女にとって第二の救世主たり得る下江コハルに丸投げするのもまた手であると考えていたが……これは想定外だ。

 

 

「あの…バカ…!」

 

 

 ヒバナちゃんが、彼女に手を差し伸べた。

 害獣害獣言っていたから見落としていた。ヒバナちゃんはああ言うやつだった。困っている奴がいたら手を差し伸べる。泣いている奴がいたらそばに寄り添ってくれる。そんな見た目に反して優しい子だった。当時トリニティであった私の親友になってくれるほどに。

 

 

「……余計なことを、してくれた」

 

 

 かつての、この世界にて目覚めた頃の私なら決して言わないであろう言葉を吐き捨てる。

 聖園ミカが、かつて画面越しに見たブルーアーカイブのキャラが救われるのは、嬉しい。だが、それ以上に私はこの世界に生き、そしてこの世界で友を作っているんだ。推しと友。どちらを助けるのかと問われたら私は友を選ぶ。

 彼女には、危険のないところで物語が危機に瀕し、それを乗り越えるのを知ることもなくただただ平和に過ごしていて欲しかった。

 

 なのに、どうしてこうも。

 

 

「危険な道を歩むんだ…!」

 

 

 私の希望とは裏腹に危険へと、物語へと踏み込んでゆく彼女に苛立ちがつのる。どうして。どうしてそう他者に手を伸ばすのだと。

 

 

「…そんなこと、私にだけしてくれれば……」

 

 

 思わず漏れ出そうになったドス黒い感情を慌てて飲み込んだ。

 そんなことよりも、やることがある。私は通信機を手に取り起動する。映し出されるは真っ赤な貴婦人。ベアトリーチェ。

 

 

『掃除屋、どうしたのですか?』

「……ベアトリーチェ。あまり良い知らせではない。先生達の進行が予想よりも早い。迎え打つ必要がある」

『なるほど』

「マエストロの作品……かの聖女、バルバラを──

『それは無理です。アレの調整にはもう少し時間がかかります』

 

 

 ──面倒な。

 別段、ベアトリーチェの儀式の完遂が間に合わず先生らに止められたとて問題はない。彼の現象への接触はすでに行われているだろうし、あとは秤アツコの神秘を贄に捧げ崇高へと彼女自身を昇華させる儀式のみ。

 達成すべき目標は達成され、阻止すべき事象を未然に止めることができるのであればなんの問題もないのだ、が……

 

 聖園ミカの存在。そして、ヒバナちゃん。

 彼女たち2人を引き連れたアリウススクワッドと先生を傷つけないよう相手取りながらベアトリーチェを回収するのはいかんせん骨が折れる。

 今ここでベアトリーチェを失うわけにはいかない。彼女にはまだやってもらうことがある。故に先生陣営にも消耗してもらわなければならないのだ。

 

 

「…ならばどうするつもりだ?このままでは奴らはバルバラの完成以前…儀式を完遂する前に到達してしまうぞ」

『そのための貴方でしょう?何のために貴方がここにいる事を許したと思っているのですか?』

「………冗談だろう?私にタダ働きしろと。私は他のゲマトリアのように馴れ合うつもりはないぞ」

『それこそ冗談でしょう?今先生がここに来て、困るのは私だけではないと思っていましたが?』

「っ!?」

 

 

 こいつ…どこまで知って……!?

 手が即座にコントローラーに触れる。一瞬の迷い。こいつをここで殺すべきか否か。トリガーに添えられた指はしばらく宙で遊び、外された。

 

 奴がどこまで知っているのか、知っていようが。奴の出番はもう終わる。そしてもはや気づいていようがいまいが何かをできるような段階ではないはずだ。そもそもする必要もない。私達の利害は一致しているのだから。そう、大丈夫…な、はずだ。

 

 そう言い聞かせて私は意識を切り替える。

 

 

「……リナ、仕事の時間……貴方は、“レギオン”の指揮を、お願い」

『了』

 

 

 補助AIに指示を出しディスプレイに向き直る。

 心の底に一欠片の不安を残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ヒバナちゃんのいたゲヘナはどんな感じだったの?やっぱイメージ通りの野蛮な感じなの?」

「そうだね。大体は君の言うとおりだ。どこもかしこも暴力で解決しようとする害獣ばかり。毎日のように抗争は起こるわ僕らの上司的立ち位置だった万魔殿からは無理強いばかり。僕たち風紀委員は毎日胃薬をお供に死に物狂いだったよ」

「へぇー……じゃあやっぱり、謎の科学者が生み出した白いカバ?の化け物が暴れ回るような無法地帯だったんだ」

「それはない。どこで聞いたんだいそんなデマ。せいぜい一つのプリンを巡ってゲヘナ中の不良が戦争を起こしたくらい…」

「そっちの方が気になるんだけど」

 

 

 聖園ミカ。

 トリニティにおけるティーパーティの一角で、僕が下した評価はトリニティの悪い部分を詰め込んだような性格をした女。それでいて僕と同じくトリニティを裏切り、それでいてその罪の重さに耐えられず周りを巻き込んで潰れようとしていたヤバいやつ。

 

 ついさっきまではそんな評価だった女がどうしたことだろう。僕の周りをトテトテとついて周り、意地の悪い性格が透けて見えるような悪い笑みではなく純粋な好意を向けて僕の話を聞いている。

 

 正直エデン条約前の自分にこのことを話しても信じてもらえないような状況だ。

 

 

「だけど、そんなクソみたいな場所だけどヒナちゃんや風紀委員のみんなみたいないいやつはいるし、害獣かと思ったやつも話してみればただただ純粋すぎるバカだったとか、いいとこもあるのさ。トリニティだってそうだ。僕は今まで性悪しかいないクソみたいな学園かと思っていたがヒフミみたいないい子もいるし、君みたいに偏見こそ持っているが友達思いのいいやつもいる。その場所の良し悪しなんて、結局実際に行かないことにはわからないのさ」

「……そっか。私もこうやって話すまでヒバナちゃんのことちゃんと知らなかったしね」

「あんなにも僕らのこと煽ってきてたしね」

「む、それはヒバナちゃんたちもでしょ?」

 

 

 多分、こう言う変化を成長って言うんだろう。僕も、彼女も。ただ偏見と思いこみで相手を嫌っていたけれど、ちゃんと話し合うことでこうして笑って言葉を交わしている。そして僕、もしくは彼女以外にもちゃんと向き合おうとしている。

 しかし、思うのだけどこれは本来僕ではなく先生の役目なんじゃないだろうか。チラチラとこちらを見てはニヤニヤしているお前、お前の仕事なんじゃないか?生徒を正しく導くのが先生の役目なんだろうが。

 

 

「ヒバナ、そろそろバシリカに着く」

「…そうか、じゃあ、もう目前ってわけだね」

 

 

 アリウススクワッドのみんなとも彼女はすでに話し合った。少しまだ納得できていない部分もあるようだが、彼女たちの現状と、過去を後悔していること。彼女たちもまた“共通の悪意”の被害者なのだと言うことを理解し、協力してくれることとなった。

 きっと、ことが全て終わって彼女たちだけでしっかり話し合えば分かり合えるはずだ。

 

 だからこそ。

 

 

「さて、さっさとハッピーエンドといかせてもらおうじゃないか」

「っ!リーダー!」

 

 

 僕はバシリカの入り口。その暗闇に向けて杭を構える。正確に言えば、その暗闇に佇む人影に向けて。

 

 

「…まあ、そう簡単に行かせてくれるわけがないのはわかってはいたけどね」

 

 

 コツッコツッコツッ、と聞き覚えのある足音と共に現れたのはさっきぶりの黒コート。『掃除屋』だ。

 

 

『………悪いが少々付き合ってもらおう』

「みんな!」

 

 

 先生がタブレットを抜き放ち、皆がその合図に合わせ戦闘態勢に入る。あの時は思わず怖気付いてしまっていたが、今更お前如きにビビると思うなよ。

 

 

「へぇ…?アレがみんなが言ってた“悪者”?」

 

 

 なにせ、こっちにはミカとお前を一度破った先生がいるのだから!

 

 

「……退いて。掃除屋。今貴方と争っている時間はない。貴方なら私たちと戦って勝ち目のないことくらい理解できるはず」

『……なるほど。聖園ミカに戦華ヒバナ。そしてアリウススクワッド。私が以前敗北をきした便利屋68とは比べ物にならない戦力だ』

「……」

『ならば、それに見あっただけの戦力で当たればいいだけのこと』

「っ!先生!後ろだ!」

 

 

 ゾワっと嫌な予感に振り返ればそこには月光に照らされていたはずの石畳の廊下にぽっかりと空いた黒い虚空。そこから次第にガシャリガシャリと金属音が鳴り響き、黒光りする機械人形が姿を表す。

 

 

「……なるほど」

 

 

 その数おおよそ200以上。ほぼ同じ姿の機械人形が銃火器を手に列をなすのはまさに軍隊(レギオン)の様。

 

 

『……これで同等とは言わない、が。多少の足止めには十分だろう。さぁ先生。少しばかり私に付き合ってもらおうか』

「くっ……いくよ!みんな!」

 

 

 戦いの幕は切って落とされた。

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