中国の拳雄・烈海王は地下闘技場にいた。
ピクルと云う人類最古の戦士と戦うために更なる研鑽を積み重ねてきた己の武術を試す。そのためにカンフーシューズは最初から脱ぎ捨て、烈海王その物をぶつける一心で此処にいる。
推定身長200cm以上のピクルを見上げる。歓喜、切望、高揚、様々な感情の入り雑じった彼の顔を見て烈海王は理解する。彼もまた現代へと甦った事で己の誇りを喪失しかけている。
「いざ、勝負だッッッ!!」
「グルオォッ!!」
烈は乙の字を描くように腕を交差させ、重心を低く身構える。対してピクルは両の腕を大きく開放し、ヒグマが威圧するような独特の構えを取る。ふと烈は既視感を感じる。そう、あの構えを烈海王は知っている。ほんの数ヵ月前に範馬勇次郎の見せた戦闘体勢にピクルの構えは瓜二つなのだ。
なんたる。なんたる僥倖ッッッ!!!
「ガアァァッ!!」
ピクルは右の鉤突きを放つ。
しかし、そのフォームや重心の移動は滅茶苦茶だと云うのに破壊力も威圧感も半端なく恐ろしい。ゾワリッと身の毛も弥立つピクルの打撃を烈海王は弾くように押し上げ、打撃の軌道を変える。
「噴ッ!!」
正拳、扣拳、柳葉掌、勾手、足刀、回し蹴り、膝蹴り、足払い、横拳、中国拳法の技法を以て編み込まれた怒濤のコンビネーションを受け、ピクルの巨体がだんだんと後ろに逸れていく。烈海王の放つ、あまりにも苛烈な攻めを受けるピクルの脳裏に白亜の時代に出会った無数の手を持っていた巨大なイカが思い浮かんでいた。
アイツの攻撃は凄かった。己を全身に縛るように絡み付き、アイツは自分が死ぬまで絶対に離さなかった理外の生き物だった。
「ゴオオォッ!!」
「グッ、ゴハォッ!?」
ピクルの踏み潰すように放たれた前蹴りを烈海王は受け止めきれず地下闘技場の客席まで吹き飛ばされる。烈海王は正しく白亜の時代を生き抜いてきたピクルと云う雄の膂力を全身で感じている。
ひしゃげた客席を押し退け、烈は僅かに皮膚が切れ出血してしまった肩を押さえながらリングへと飛び降りる。闘争本能をむき出しに己を睨み付けるピクルを見つめ、彼は歓喜していた。
自分はピクルと対等に渡り合える。
ああ、なんと、なんという───。
「(至福だ。このまま、ずっと)」
烈海王は終わってくれるなと願う。だが、ピクルとの仕合は有限である。自分の全てを見せつける。未だ全てを見せきっていない烈は全身を震わせ、時間が一秒を刻む毎に動きをより短縮していき、より確実に相手を倒すために武術を練り上げる。
今まさに中国拳法四千年の歴史は四千一年目に移り変わろうとしていた。白林寺のいる劉海王の元で積み重ね、丁寧に研磨されてきた烈海王の武術は集大成を迎えようとしている。
あらゆる中国拳法を体得し組み合わせ、より繊細に編み合わせ、烈海王は己の武術を作り上げた。そう名付けるならば烈海王流────。
「グルルァッ!!」
「邪ッッッ!!!」
咆哮一閃。ピクルの弾丸のごとき突進を往なし、烈海王は勝利を確信していた。しかし、二人の戦いは呆気なく終わりを迎えた。ケッパー、ピクルのツガイにして今回の仕合を止める役割を持つ彼女の登場に二人の動きが止まってしまう。
「…時間切れ?時間切れだとッッッ!?」
まだ、全てを出し切っていない!
そう烈海王は訴える。
「グルルァッ、ガァウガアッ!」
まだ、おれは戦い足りない!
そうピクルは訴える。
「おっ、おあっ、りぁ……」
それは拙い言葉だ。だが、はっきりとケッパーは言葉を発している。その様子に此度の仕合を観戦していたアルバート・ペイン博士を筆頭に、キャプテン・ストライダム、徳川光成は驚愕していた。それほどまでに彼女の学習能力はずば抜けているのだ。
「はるるぅ」
お願い。そうケッパーはピクルに伝える。本当はもっと戦っていたい。だが、己のツガイが小さな雄達の自分とは異なる唸り声に似た発してまで、この戦いを止めたのならば仕方無い。
「ハルルゥ…」
「むっ?」
ピクルは烈海王にゆっくりと拳を突き出す。はじめて、この時代にやって来たときにキャプテン・ストライダムとやったことを、彼は本能的に烈海王にしようとしているのだ。
「ああ、また戦おうッ!」
「ガァアウッ!」
その仕草の意味を烈海王は感じ、応える。
遥かな時代を越えて、また友を得た。
〈烈海王流〉
烈海王の集大成
ありとあらゆる中国拳法を体得し研鑽を積み重ねてきた烈海王の辿り着いた彼の完成形である。範馬勇次郎による「範馬勇次郎の象形拳」の如く、正しく烈海王を体現する彼の作り上げた拳法だ。