彼女は自分を
範馬勇次郎、烈海王、ビスケット・オリバ、彼女は現代を代表する闘技者達と戦うピクルを応援するばかりで何も手助けできない自分に不安や歯痒さを感じている。もっと力が強ければ、もっと心が強ければ、自分の愛する人を守る事が出来るのに。
彼女はずうっと考える。
あの頃、白亜の時代は良かった。ピクルのために未来の記憶を多用し、彼のために何かをすることが幸せだった。けれど。今の彼女はピクルと闘技者の戦いを見ていることしか出来ない。悔しくて、悲しくて、彼女は申し訳の無さで泣きそうになりながら己のツガイに寄り添う。
「ハルルゥ?」
ピクルは彼女の不安げな顔に首を傾げる。己のツガイはあの強く小さな雄達に怯えている訳じゃない。だが、ここに来てから自分を見上げる顔には、いつも不安と恐れがある。
しかし、彼女を怯えさせる敵はいない。ティラノサウルスやブラキオサウルスだって、この現代に存在すらしていないと云うのに彼女は怯える。いったい、なにに?とピクルが考えたその時だった。ふと空を飛ぶ硬い生き物の腹に入った後、小さな雌に近付かれた事を彼は思い出した。
まさか、それか?と彼は悩んだ。
愚地克巳、空手界の
そう形容され彼自身もそうであると自覚する。
だが、空手の師にして義父、愚地独歩。空手界の武神と謡われる男に近付いていると云う自覚は無く。己の放つ正拳を比較すれば一目瞭然と云っていいほど拳速は遅く、義父の無骨な迄に練り上げられた巌の如き鉄拳と比べれば己の拳など小石程度の物と彼は悔しげに断ずる。
「克巳よォ…何を悩んでる?」
「オヤジ。あのピクルに俺の拳は通じるか?」
「そりゃあ、おめぇ…」
彼の問いかけに愚地独歩は「やってみなければ分からない」と答えるつもりだった。しかし、すぐに言葉を飲み込むと「今のままじゃあ話にならねえよ」と静かにハッキリと嘘偽りなく答えた。その答えに愚地克巳は激昂することなく静かに納得する。
アメリカ軍の基地にて目撃し脳裏に焼き付く野性本能のみを追求し、お互いを喰らうつもりで死闘を繰り広げる範馬勇次郎とピクルの戦いを見て以降、彼は悩んだ。
どうすればヤツと対等に戦える。愚地克巳はその事ばかりを考えて、考えて、考えて、ようやく辿り着いたのは
かつて愚地独歩が愚考した末に辿り着いたように克巳は己の拳を鍛え上げる事を選んだ。そして、その過酷さは十分に理解している。だが、ピクルと戦いたいと切望する彼の闘技者としての誇りが彼の更なる成長を促す。
「克巳、道場に来い」
「えっ」
「おめぇに俺の拳を教えてやるッッッ」
愚地独歩の拳、それ即ち菩薩の拳───。
「お、押忍ッ!!」
克巳は大声を上げ、深々と頭を下げる。
ピクルと戦いたいと不甲斐なく情けなくすがり付いた自分に愚地独歩の拳を教えると云った。だが、愚地克巳とて生半可な覚悟で受けるつもりはない。必ず菩薩の拳を体得し、ピクルと戦うために彼は黒帯を締め直す。
〈愚地克巳〉
空手界の最終兵器
すべてはピクルと戦うために。己の拳を鍛え直し、必ずピクルと対等に戦えるようになる。そのために彼は義父の秘拳を学ぶ。
〈愚地独歩〉
空手界の武神
ピクルと戦いたいと切望する息子のために己の拳を教える。まだ未完成の息子の成長に感化され、彼もまた静かに闘志を燃やす。