烈海王は静かに苦悩していた。
あの時、ああしていれば。
あの瞬間、あれをやっていれば。
ピクルと「遊び」を経て数時間ほど経過した頃から彼の頭の中には「やはり私の全てを出し切れていない」と云う想いが膨らみ続けていた。端から見ればは烈海王はピクルと互角以上に渡り合えるほど実力は拮抗していた。
否、だからこそ烈海王は己に不満を抱く。己は確かに完成形に辿り着くと云う偉業を成し遂げた。しかし、彼は、ピクルは、あの「遊び」に満足しているのだろうかと烈海王は考える。偉大な師の武術を糧として紡ぎ、漸く掴み取った己の全てを───。
本当に出し切っていたのか?と悩んだ末に烈海王は癒えたばかりの身体を起こし、ゆっくりと基礎稽古を再開する。また、はじめたから。積み重ね、積み重ね、積み重ね、烈海王その物を鍛え上げる。
「(ふっ。まるで乙女の様だな…)」
あいつのために己を磨く。
その姿は愛する人に、恋い焦がれた人に、どうしようもなく振り向いてほしい乙女のようだと烈海王は心の中で呟きながら立体映像の如く現れたピクルの攻撃を捌き、弾き、往なす。本来の膂力には程遠い。けれど。ピクルと云う野生をリアルに体験するには烈海王にとってちょうど良い感じなのだ。
「噴ッッッ!!!」
左の崩拳を半歩ほど踏み込み、放つ。
この崩拳はピクルに放つ予定だった。だが、ピクルのツガイであり現代語を話すようになってきたケッパーによって「遊び」は終わりを迎えた。未婚の烈海王には分からないけれど。彼女にすがられていたピクルはどこか嬉しそうに見えた。
きっとそうなのだろう。と、烈海王は思った。いかにピクルが戦士といえど白亜の時代は遥か古の出来事だ。襲い来る外敵はおらず、彼は不満や誇りの欠如を感じているだろう。なにより己のツガイを守ると云う名誉を彼は失ってしまったのだ。
地上最強の生物VS史上最強の原人。
あの夜の出来事を思い出すだけで烈海王は身体を震わせながら、ようやく最強の頂きに近付いてきた事を自覚する。しかし、彼の故郷たる中国には何人も彼以上の拳法家は存命しており、彼らに勝つまで範馬勇次郎に挑むことはしない。いや、出来ないというほうが正しい。
「イィイヤッ!!」
右の上段回し蹴りを放つ。僅かにピクルの脳を揺らし、彼に起き上がる地面を体感させた烈海王の蹴り。もっと練り上げていれば。そう烈海王は悔やみながら手足を空想のピクルに振るう。
ああ、また戦いたい。
今ならば、もっと────。
〈おじさんだって恋をする〉
烈海王は恋をする
ピクルと「遊び」を経て友情を確信する烈海王。しかし、どうしてもやり残してしまったと苦悩する日々を送りながらも己を鍛え上げる。