塩漬け前の太古の戦士との生活   作:SUN'S

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新しい時代に血脈を継ぐ者

彼女は自分を異物(転生者)と知る。

 

彼は大群衆に紛れて歩みを進める。いつものやつより窮屈な衣服を身に付け、傍らにいる己のツガイに手を引かれて、白亜の時代(あのころ)とは何もかもが違う場所を歩く。己とツガイの居場所はあるが、ほんの少しばかり誇りを失った。

 

───けれど。新しい好敵手を二人も得た。

 

その事が誇らしかった。

 

彼女も彼の満ち足りた表情に微笑んで可愛い唸り声を上げ、彼の強さを知らしめるように抱きつき、優しく抱き締めてもらう。ツガイにとってごく当たり前の行為に大群衆は驚き、どこか照れ臭そうに視線をそらした次の瞬間だ。

 

ピクルは優しげな夫の貌から獲物を狙う猛獣のごとき貌に変貌する。そいつは小さな雄ではなく、己に届きうる体躯の雄である。金色の髪の毛を短く切り揃えた坊主頭、分厚く引き締まった筋肉、獰猛性の滲み出た鋭い眼光にピクルは瞬時に反応し、彼を威嚇する。

 

「グルルゥッ」

 

「落ち着け。まだやる気はない」

 

そう言って彼は両の拳をズボンのポケットに仕舞う。五分、あるいは十分ほどピクルと彼は睨み合った末にピクルは威嚇を止めると目の前に立つ大きな雄に近付き、右拳をゆっくりと差し出す。

 

その行動に攻撃の意思はなく、単なる好奇心によって行われた行為だ。彼もピクルのやらんとすることを理解し、ごつんっと右拳を付き合わせた瞬間、さながら加圧された空気が破裂するように二人は後ろに向かって弾け飛んだ。

 

「……る、るぅっ?」

 

彼女は突然の出来事に困惑しながら、コンビニやカラオケ店のガラスをぶち破って入店した二人を交互に見比べて、しょんぼりとした顔で座り込んでしまう。誰がどう見てもいじけている。

 

ケッパーにとって今日のお出掛けは現代をピクルとともに楽しむはずだった。彼とデートをするつもりで着飾ったのに、当のピクルはいきなりやって来た男と喧嘩を始めてしまったと云うわけだ。

 

その様子を遠くから監視していたペイン博士は呆れたように溜め息をこぼし、徳川光成は興奮したように叫んでいるが、ケッパーには彼らの声は全く聞こえることはない。

 


 

地上最強の嫡男、ジャック・範馬(ハンマー)───。

 

異母兄弟の弟に敗れて以降、彼は神の子を含めた日本有数の闘技者あるいは格闘家に挑み、少しばかり療養中に衰えた己の強さを戻すプチ旅行をやっていたとき、匿名で送られてきた映像の中に彼は己の目指すべき姿を目撃した。食らいつき、殴り潰し、蹴り砕く。

 

パワフルに、自由に、本能的に、武術を知らぬ雄は猛々しく威を振るっていた。実父、範馬勇次郎のごとく広げた両の腕は容赦なく相手を粉砕し、破壊する。ピクル。白亜の時代に生まれし最強の雄。ジャック・ハンマーは彼に期待興味を抱いている。

 

そして、東京某所にて邂逅のち即座に膂力比べ。僅かにジャックは押し負け、カラオケ店の二階(・・・・・・・・)まで吹き飛ばされ、ぐったりとしていた。決して気絶している訳でも、ましてや怯えている訳でもない。彼は歓喜しているのだ。

 

己を越える剛腕など範馬勇次郎以外にいない。

 

そう思っていた。だが、彼の目の前に予想外の雄が現れ、その常識を打ち砕いた。ただ、嬉しかった。加減し、労り、優しく、撫でるように、ジャック・ハンマーはプチ旅行の最中に出会った格闘家は悉く弱かった。

 

それゆえに彼は闘争の感覚が鈍り、ピクルと膂力比べをしてようやく取り戻したのだ。ジャックはとても幸せだった。あれほど、不自由すぎるほど力を振るえず、自分の限界を知ることすら出来ない状況に苦しんでいたはずなのに、彼は獰猛に笑った。

 

だが、その感情より根深く───。

 

「殺してやるッッッ」

 

ジャック・ハンマーは怒りを発する。

 

地上最強の息子がたがだが恐竜に勝った程度で持て囃される雄にパワーで負けるなどあってはいけない。いや、そう思われることすらジャック・ハンマーにとって屈辱的で怒りを剥き出しに道路にいるピクルを見下ろす。

 

 

 




〈ジャック・ハンマー〉

地上最強の嫡男

異母兄弟との戦いで傷付いた身体の療養中(その後、基地に忍び込み)に出会ったピクルに惹かれ、さっさと傷を治して闘争の感覚を取り戻すために日本中をプチ旅行(ただの道場破り)していたところ、ピクルに出会った。

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