彼女は自分を
彼女は太古の戦士のごとく強靭な肉体を持っている訳ではない。太古の戦士に比例するまでもなく彼女の肉体は脆く弱い。
だから、彼女はひたすら
あの鋭く恐ろしい爪を、全てを噛み砕く牙を、突き刺し喰らう嘴を、岩をも突き抜ける角を、鉄球のごとく唸る尻尾を、彼女は
その動きは限り無く近代格闘技や短距離走の足捌きに酷似している。だが、その動きは幾度となく恐竜の攻撃を回避し、緻密に練り上げてきた彼女の手に入れた白亜の世界を生き抜くための希望だ。
とある密林の奥地。
太古の戦士と双角を携えた恐竜は出会った。強い。強い。強い。お互いの強さをごく自然に察知した二匹の雄は最も信頼する構え───。否、自然体の最も相手を倒し易い体勢になる。
「GOMOOOOOO!!!」
「グルルァッ!!」
太古の戦士と向かい合う恐竜は重低音の……まるで地鳴りの様な雄叫びを上げ、彼もまた同等以上の雄叫びを上げて威嚇する。己の雄として矜持を懸けて、巨拳と双角をぶつけ合う。
轟音───。
しかし、やがて肉を潰す音に変わる。
あれほど恐竜の分厚く威圧的だった双角の片割れ。あらゆる肉食恐竜を退けてきたトリケラトプスの角は太古の戦士の拳に粉々に砕かれ、彼の生涯は角の破壊と共に終わりを迎えた。
「ルゥオォォォッ!!」
太古の戦士は
自分の勝利と新しく出会えた比類なき突進力を持つ強敵を称えるように。数十分、あるいは数時間にも及ぶ時間を費やし、太古の戦士は己の仕留めた恐竜を喰らい尽くす。
ゴクンッと手のひらに収まりきっていない肉塊を咀嚼し、飲み込みながら太古の戦士は血まみれの身体を川辺で清める。そうするようになったのはいつ頃だろうか。きっと、あのか弱いお前と交わるようになってからだ。
太古の戦士は僅かに残しておいたトリケラトプスの肉を持ち上げ、自分の傍らに寄り添っているツガイの待つ洞穴に向かって歩く。
その道中で彼女の好む木の実や果実、昆虫の蜜を抱えきれないほど運ぶ。きっと喜ぶだろうなあ。と、太古の戦士は己のツガイの顔を思い浮かべて自然と微笑んでいた。
唯一、彼女に出来るのは料理だ。
黒曜石を研磨して作った石器包丁を肉に滑り込ませて、一口大に切り分けていく。食用の果実や木の実を石で粗砕きにして切り分けた肉に刷り込み、焚き火の近くで熱しておいた大岩に乗せる。
尤も此処は白亜の時代だ。いくら彼女な現代のように料理すると言ったところで出来上がるのは石焼きステーキくらいだが太古の戦士は美味しそうに彼女の作った石焼きステーキを頬張る。
彼女も太古の戦士と同じように小さめの石焼きステーキを頬張り。モグモグッ…と小さな口を動かす。しかし、恐竜の太すぎる筋肉の繊維を噛みきれず、ずっと口を動かしてばかりだ。
「ハルルゥ…!」
美味しかった!そう言わんばかりに太古の戦士は彼女を持ち上げ、そのまま自分の懐に納める。その温もりを確かめるように。しっかりと彼女の存在を繋ぎ止めるように抱き締める。
〈彼女〉
太古の戦士のツガイ。
ふと気がつけば白亜の時代に生まれ変わり、いつの間にか太古の戦士と一緒に暮らす最古の肉体に最新の知識を持っている女性だ。しかし、二次創作に登場する主人公のように巨大な相手と戦える度胸はなく、ひたすら逃げることのみに徹するばかり。