塩漬け前の太古の戦士との生活   作:SUN'S

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白亜の時代で文明の利器を

彼女は自分を異物(転生者)と愁う。

 

始まりは黒曜石の石器包丁だった。

 

包丁、穂先、矢尻、幾つ作ったのかさえ分からないほど繰り返し、手頃な岩で黒曜石を砕き、更に黒曜石を研磨して白亜の時代に彼女は先駆けて、数百万年ほど先に誕生する文明の利器を作り上げた。

 

黒曜石の石器包丁は調理器具、あるいは身嗜みを整えるために必要なハサミやカミソリの代用品として活用する。矢尻は蔦や蔓を編んで作った紐で枝に巻き付け、小型の鳥類や魚を狩るために使う。不格好な黒曜石の槍は投擲武器として、遠くにいる獲物を刺すために用いる。

 

太古の戦士の様に超大型生物と渡り合える強さを持ち合わせていない彼女に出来る唯一と云っていい狩猟対象は小さな生き物なのだ。

 

そんな彼女でも狩れた鳥はミンチになるまで切り刻まれ、分厚い岩石の真ん中を丁寧に削ってできた不格好な石器の鍋に運河の水、苦味は強いが野菜のように食べられるものと一緒に投入される。

 

そこからは根気よく丁寧に焦がさないように煮詰めるだけ。彼女はグツグツと煮えたぎる石鍋を転生する以前に使っていた杓文字を真似て作った棒を石鍋の底に押し込み、ゆっくりと時計回りに掻き回す。二十数分ほど煮込み続け、ようやく完成した。

 

彼女は鳥類原種の肉を刻み、ひたすら捏ねて練り上げた。彼女は白亜の時代にて『鶏肉のつみれ鍋』を太古の戦士と共に食する。

 

だが、太古の戦士にとって『つみれ鍋』は初めての食事だった。恐竜達を殺して、そのまま喰った時より、か弱い彼女が作った石焼きステーキを喰った時より。太古の戦士の味覚をダイレクトに濃縮された鶏肉の旨みが彼の全身を駆け巡った。

 

今まで感じた事のない。未知なる旨み。その旨さは太古の戦士の味わってきたどの生き物より、あの生々しく口内を満たす恐竜の血肉を遥かに越える旨さを彼は堪能している。

 

「グルシュウゥッ……」

 

「るるう…」

 

まだ、こんな旨いヤツがいたのか。

 

そう太古の戦士はゴクンッとつみれを飲んで思ったままに石鍋を見下ろす。その驚く様子を見ていた彼女は嬉しそうに笑う。彼もまた同じく唸るように笑ってツガイを懐に運ぶ。なんとなくそこは彼にとっても彼女にとっても心地好い定位置なのだ。

 


 

「グルアァァァッ!!」

 

太古の戦士は咆哮()える。

 

最大最強の好敵手たるティラノサウルスの頑強な上顎を口内で蹴り付け、自分の胴体に突き刺さった歯牙を無理やり引き抜く。おそらく彼の闘争本能は最高潮に達していた。脳内麻薬は止めどなく分泌し、彼の強靭な肉体の限界を越えて────。

 

ある種の神懸かった能力を彼は発揮した。

 

まず彼の肉体に起こったのは筋肉の膨張と骨格の変動だった。更に太古の戦士は肉体を作り替え、より強く、より速く、正しくティラノサウルスを倒すために最善最高の戦闘態勢と云った姿に成った。

 

「GAOOOOOO!!!!」

 

「ルウゥアァァァッ!!」

 

ティラノサウルスの鋼鉄並みあるいはそれ以上の硬さを持つ極太の尻尾を、太古の戦士は右拳のみで真っ正面で真っ向勝負をして打ち負かす。右拳の皮膚は裂けるが、ティラノサウルスの尻尾も同様に肉は裂け、夥しい量の鮮血を撒き散らす。

 

ジリジリと回り込むようにティラノサウルスは旋回しながら太古の戦士に勢いよく突進し、噛み付く。だが、すんでのところで太古の戦士はティラノサウルスの噛み付きを回避(かわ)し、彼が力任せに振り下ろした右のチョップが恐竜の脊髄と頸椎、首の骨をまとめて粉々に叩き砕いた。

 

太古の戦士は激しい死闘の末に勝利した。

 

 

 




〈ティラノサウルス〉

最大最強の好敵手

異常すぎる成長を遂げて超大型になってしまったティラノサウルスの個体。太古の戦士など容易く丸呑みに出来るほど大きく、また頑丈さも強さも白亜最大最強の肉食恐竜だった。


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