彼女は自分を
彼女は米国某研究所にて太古の戦士改め
その間にピクルは不満を抱くことはなかった。だが、一つだけ挙げるとするならば彼にとって自分のツガイと過ごすには現代人の与えてくれた部屋はあまりにも……あまりにも狭すぎるのだ。
二人の部屋の大きさは公園ひとつ分────。
そう聞けば誰もが広いと感じるだろう。しかし、ピクルの大きさとケッパーの二人を閉じ込めておくには窮屈すぎるのだ。もしも彼が一人だけなら問答無用で壁を破壊し、外に向かう。
そうしないのはツガイのためだ。あの
「はるぅ」
「ハルルゥ」
「こんにちは、ピクル、ケッパー」
彼女は扉を開けて入ってきたペイン博士とキャプテン・ストライダムに向かって片手を上げ、こんにちはと挨拶をする。その所作を見ていたピクルも彼女を真似て片手を上げる。
たとえ言葉は通じずとも。ペイン博士とキャプテン・ストライダムは
その功績は人類史に刻まれるだろう。
「本当に宜しいのですな?ペイン博士」
「ああ、構わんよ。むしろ私達はもっと彼らに感謝するべきだ。もしピクルが一度でも暴れれば、この程度の鉄壁など土くれのように粉砕されていたのは確実なのだ!!」
二人の会話を理解するケッパーは苦笑いを浮かべながらピクルの片手を握り締める。白亜の時代。どこかに彼を連れていくときは何時もやっていた行動だ。ピクルも何処かに行くことを理解し、ゆっくりとその場で立ち上がった。
ピクルにとって現代は未知だった。
いつも襲い来る恐竜を倒しツガイの待つ洞穴に帰ると云う時間を誇らしく思っていた。だが、今の彼と彼女はどうだ?小さな雄が身に付けていたモノに似た窮屈な布を身に付け、何をするでもなく狩りをするでもなく。彼は空虚な時間を過ごしていた。
そんな時だった。
彼の鼻腔を貫く脅威の香り───。
ティラノサウルスやトリケラトプス、ステゴサウルスにだって負けない脅威の臭いに彼は歓喜していた。空腹ではない。しかし、その脅威に彼は期待を膨らませ、ゆっくりと壁を開いて現れた黒く分厚い肉を備えた小さな雄をピクルは見据えていた。
「
その小さな雄の名前はビスケット・オリバと云う事をピクルは知らない。その小さな雄こそ今居る大地の最強と云う事をピクルは知らない。だが、ハッキリとピクルはその黒く分厚い肉を備えた小さな雄を好敵手と認識した。
ピクルの剛腕より分厚く極太い筋肉を持つオリバはゆったりと優雅な歩みで彼に近付き、ずいっと両の手のひらを差し向ける。
純粋な腕力比べ───。
「まずは挨拶をしようぜ?ピクル」
その雄の言葉は分からずともやろうとしている事は分かる。ゆっくりとまるで恋人がお互いを求め合うように手を繋ぎ、しっかりと指と指を絡み合わせたその瞬間、ピクルの脳裏に超弩級の重さを誇ったブラキオサウルスが浮かび上がる。
ミシミシミシィッッッ!!!!
まるで巨木をへし折る音が響き渡る最中、研究所に設置された最新型の監視カメラは
「~~~~ッッッジャアァァッ!!」
ビスケット・オリバは腕力に任せた変則投げ捨てジャーマンスープレックスを放つ。地鳴り。地響き。とにかく大きな衝突音を響かせながらピクルはコンクリートに叩き付けられる。
不完全な投げ。
ただの投げ捨て。
だが、ビスケット・オリバにとって相手を腕力でねじ伏せるのではなく力任せに投げ飛ばすと云う行為は初めての事だった。ハッキリと言えばアメリカ最強の男である
「(なんたる、なんたる屈辱ッッッ)」
「グガアァァァッッ!!」
しかし、それはピクルとて同じだ。数多の恐竜を打ち負かしてきた筈の剛力をあろうことか己より小さな雄に打ち負け、地面に叩き付けられると云う屈辱に怒りを露にする。
今度は絶対に逃げない!!!!
両雄の決意は共に重なる。
オリバはフリスビーを投げるように身体をひねり、ピクルも同様に身体をひねり、一気に大きく弧を描くように振りかぶった鉄拳を怯むことなくお互いの顔面に叩き付ける。
その結果は相打ち───。
オリバの鉄拳がピクルにめり込み。
ピクルの鉄拳がオリバにめり込む。
お互いの顔面を捉えて後ろに弾き飛ばす。そこでようやくピクルは確信した。否、すでに彼は理解していたのだ。自分の目の前に立つ黒く分厚い肉を備えた小さな雄は間違いなく────。
めちゃくちゃ強いッッッ!!!
両雄、一歩も後退かずお互いの鉄拳を受けきって打ち返すと云うある種の神聖さを宿した腕力比べを続け、何度目かさえ分からない鉄拳を振り抜こうとしたその時だった。
「やめなぁ!!」
「くるるぁ!!」
「マ、マリア!?」
「グルワァア!?」
ビスケット・オリバの最愛の恋人たるマリアとピクルのツガイであるケッパーの乱入によって両雄の死闘は終わりを迎えた。だが、ピクルとオリバは腫れ上がり血まみれの顔で笑った。
やっぱり腕力比べは楽しいな!!
〈ビスケット・オリバ〉
アメリカ最強の男
米国某研究所へとやって来たところ。あまりにも退屈そうにしているピクルを見掛け、ちょうど良いと彼に腕力比べを挑み、最愛の女性の乱入と云う予想外の事態で引き分けになった。
〈キャプテン・ストライダム〉
地上最強の友達
ピクルとケッパーの監視を請け負っているものの。それほど暴れる様子のない二人に安堵していいのかと考えていたところにやって来たビスケット・オリバに驚きつつ、彼らの腕力比べを見守った。