イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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この話は『記憶喪失』の東雲絵名が主人公です。
なので、原作だと絵名が趣味にしていることなども、物語の進行によって趣味にならなかったりしてます。
原作の絵名(えななん)との違いを楽しむ気持ちで読まないと、解釈違いで瀕死になります。ご注意ください。


中学生編
1枚目 選択肢


 

 

 

 才能か、記憶喪失か(talent or amnesia)

 

 

 ソレは東雲(しののめ)絵名(えな)という、画家に憧れる少女に与えられた、神の悪戯のような選択肢だった。

 

 そんな選択肢を与えた神様は残酷で、かなり意地悪な存在らしい。

 その選択は、何も知らない少女が絵を描いた瞬間、強制的に選択されたのだ。

 

 もしも神様が残酷でも意地悪でもないというのなら、どうしてこんなことをしたのやら。

 ただの愉快犯だとしたら……私は無くしてしまった東雲絵名(かのじょ)の代わりに、その神とやらを助走をつけて殴らなければならないだろう。

 

 というか、絶対に殴る。

 もしも神が目の前にいたら、絶対にぶん殴って「人の記憶を勝手に消すな、この馬鹿!」って、叫んでやる。

 

 

 ──まぁそんな激情すらも、今見ている夢から覚めると、泡沫となって消えるのだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中の彼女(わたし)はまるで映画に出てきそうなゾンビのように、フラフラとした足取りで帰路についていた。

 

 視界がぐるぐると回っていて、気持ち悪い。

 

 思い通りの絵が描けなくて、画塾では散々な酷評をされた。

 何時もならそんな日もあるって思うことも、その日はどうしようもなくメンタルにきていた。

 

 家に帰って、真っ直ぐ自室へ。

 扉を背中で擦るように床に座り込めば、あいつの言葉がハッキリと聞こえてきた気がした。

 

 

『お前には絵の才能がない』

 

 

 絵を描くのは自由だ。だが、画家になるのは諦めろ。

 他でもない、尊敬していた天才画家である父親から断言された。

 

 それはどれだけ取り繕っても私に重くのし掛かり、ありとあらゆる気力が奪われていく。

 

 こんな状態になっている今では、夜ご飯は食べてきたって嘘をついた過去の自分を褒め称えたい。

 胃が地球と共にクルクルと自転しているみたいに気持ち悪くて、ゴミ製造機になる未来しか見えないからだ。

 

 

月曜日(あした)からまた頑張って学校に行けば、3月はもうすぐか)

 

 

 ぼんやりと虚空を眺めていると、壁にかけられたカレンダーが目に入った。

 3月になれば、春休みまでもう少し。春休み中は宿題さえ片付ければずっと絵に集中できる。

 春休みに絵を描き続ければ、そしたら。

 

 

 ──それで、才能がどうにかなるの?

 

 

「〜っ!!」

 

 

 ダン、と私の拳に八つ当たりされる、近くにあったクッション。

 弟が部屋に来たら面倒だ。そう考える理性はまだ残っていたので、サンドバッグになったのはクッションだけ。

 

 沸々と湧き出てくる気持ちをクッションにぶつけ、2度、3度と繰り返しているうちに虚しくなって、やめた。

 

 

「……言わなきゃ、良かった」

 

 

 その代わりに飛び出たのは後悔の言葉。

 

 

 あの日、父親に何気なく話した学校での話。アレさえなければ、私はまだ楽しく絵を描けたのに。

 

 保育園の職業体験で、保育園児の皆と絵を描いたこと。

 それがとても楽しくて、やっぱり画家になりたいと改めて思ったこと。

 だから高校は美術系の学校を考えてるなんて、あいつに話さなければ、私は。

 

 

(後で言われるか、先に言われるかの差でしかないか)

 

 

 どうせないのなら、後でも先でも同じだ。

 少なからず尊敬していたあいつの言葉だから、ダメージが大きいってだけ。

 あいつに認められなくても、他の全員に認められたら関係ない。あいつの言葉なんて気にしなくてもいい。

 

 

「認められたいなら、描くしかない」

 

 

 噛み締めるように、決意をブレさせないように、呟く。

 

 でも、今は思い通りの絵も描けず、保育園の職業体験の時みたいに絵を描くのが楽しいとも思えない。

 それでも筆を持ってみようと決意して、ゆるゆると立ち上がる。

 憂鬱過ぎて視界も暗く感じる中、見覚えのないスケッチブックが視界に入った。

 

 

(こんなの買ったっけ?)

 

 

 買い溜めていたスケッチブックの山に、1冊だけ。ボロ布を貼り付けたような表紙のスケッチブックが混ざっている。

 課題が書かれたページを含めても、片手で数えられる程度にしかないせいで、スケッチブックとしては戦力外のそれ。

 

 こんなの買うはずないのにな、と首を傾げて中身を見ると、これまた変な前書きが書かれていた。

 

 

(【あなたの望む、あなたの理想の姿をスケッチブックの1枚目に描いてください。描けば願いが叶うかもしれません】? ……うわ、何これ)

 

 

 課題を指定してくるスケッチブックとか、初めて見た。

 しかも、その課題の文字は1つ目以外、字がボヤけて見えないし、明らかに不良品だ。

 

 それでも捨てる気にはなれなくて、課題のことをつい頭の中で考えてしまう。

 ……『あなたの理想の姿』ということは、変則的な自画像的なものだろうか。まぁ、何を描くか迷っていたし、課題があった方がやりやすいだろう。

 

 

(でも、私の理想の姿か。理想の私ってどんなものだろう)

 

 

 やはり、画家になりたいのは譲れない。

 画家になって、才能がないとか言いやがったあいつを見返してやりたい。

 絵を描くのは好きだ。画家になるのは憧れだ。

 

 でも、今は苦しくて思うように描けなくて、絵を描くのが嫌いになりそうなぐらい、揺らいでいる。

 保育園の職業体験の時のように楽しく描くなんて、今では想像できない程に、苦しくなってしまっていた。

 

 

(そう考えたら、想い描く理想の私の姿は──)

 

 

 思うように描けないと思っていたのに、何故かこの絵だけは筆がスラスラと動いた。

 何かに取り憑かれたように、自分の理想の絵を下書きして、キチンと形にして、色付けていく。

 

 

 そうして寝る時間も何もかも忘れて、描きづけること数時間が経った頃。

 

 

「よし、描けた! って、もう外が明るいんだけど!? 今何時!?」

 

 

 顔を上げれば、カーテンから陽の光が差し込んでいて、私は思わず素っ頓狂な声を出す。

 時計の針は5時30分を指しているので、お風呂に入るぐらいの時間はありそうだ。

 

 死にかけているスマホに命を吹き込み、急いでお風呂に入る。

 烏の行水のようになってしまっているが、仕方がない。

 ドライヤーで髪を乾かし、素知らぬ顔で朝食に混ざった。

 

 朝食を食べている間に「朝風呂なんて珍しいわね」と言うお母さんへ、「そういう気分だったの」と返して自室に帰還。

 弟にも変な目で見られていたけど、学校に行ったら忘れるだろうし、気にしないことにした。

 

 

(それにしても、我ながら良い出来の絵ができた。才能ないなんて、あいつの主観かもね)

 

 

 変なスケッチブックに良い絵が描けたのが満足で、私は中身を再び確認することなく、学校の準備へと移行した。

 良い気分のまま、家の外に出た私は勿論、あのスケッチブックの前書きの部分なんてすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 もしも、あのスケッチブックの中をもう一度見ていたら、私のあの後の行動は変わっていたのだろうか?

 

 

 ──いや、あのスケッチブックに描いた時点で、この未来は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

(あーあ、太陽が黄色く見えるなー)

 

 

 呑気な朝に、青信号。

 いつも通りだと油断する私──東雲絵名の体が、衝撃と共に宙を舞う。

 電柱にぶつかって止まる黒い車体と、ゴミ袋に突っ込む私の体。

 

 

 全身の痛みと、プツリと消える意識と共に、追体験していた私の意識も溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開くと、白い天井が見えた。

 

 

「っ!」

 

 

 体を起こして居場所を確認しようとしたものの、全身に激痛が走る。

 呼吸するのも痛い。辛うじて無事なのは右手ぐらいではないだろうか。首も固定されていて、周りを見るのも一苦労だ。

 

 それでも何とか目線だけで周囲を見渡すと、病室っぽい部屋が見えた。

 いや、病院特有の薬品の匂いといい、明らかに病院だ。どことなく冷たく感じる白も、ここが病院だと主張しているように見える。

 体の痛み的に事故に遭ったっぽいけれど……どうして入院しているのか、詳しく思い出そうとして。

 

 

 ──あれ?

 

 

「あぁ、絵名。目が覚めたのね!」

 

 

 不意に女性の声がすぐそばから聞こえてきた。

 その声で初めて、私はこの部屋のベッド付近の椅子に、女性が座っていたことに気がついた。

 

 

「あの……私は」

 

「大丈夫よ、1週間も眠っていたんだもの。すぐにお医者さん呼ぶから、待っててね」

 

「いや、その前に。私はどうして、病院にいるんですか?」

 

「……絵名? どうしてそんな、他人行儀な話し方をするの?」

 

 

 優しい笑みを浮かべて、ゆっくりと問いかけてくれる女性。

 良い人そうに見えるその人の顔を、私は今から悲壮で歪めてしまうのだろう。

 

 

「あなたとは初対面ですし、それに……『えな』って誰のことですか?」

 

 

 ……『えな』という名称も、親しげに呼んでくれる女性のことも。

 何1つ記憶にないと言えば、その残酷な事実に女性が膝から崩れ落ちるのも当然だった。

 

 




東雲絵名(記憶喪失)
我らが本作の主人公。初手から事故に遭っちゃったお労しい子。
原作であるプロセカではニーゴのイラスト担当。SNS依存症の絵描き。
ただし、とある理由で記憶がまっさらになってしまった少女が、原作と同じえななんであるはずもなく……
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