イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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104枚目 出店巡り

 

 

 

 

 夏祭り当日となり、私達は神社の前に集まっていた。

 境内に続く道にはズラリと出店が並んでいて、準備中だった時に見たものよりも壮観である。

 

 そうやってぼんやりと夏祭りの灯と喧騒を眺めていると、いつの間にか待ち合わせ場所に最後の1人──まふゆも揃っていたらしい。

 瑞希の張り切った声で私の意識が引き戻された。

 

 

「よーし、皆揃ったね! まふゆも早く来れたみたいで安心したよ~」

 

「うん。今日は自習室に業者の人が入るみたいで、掃除のために追い出された」

 

「あらら。でもラッキーじゃん」

 

「そうなのかな、わからないけど」

 

 

 瑞希とまふゆのやり取りを横で聞きつつ、私はスマホを取り出す。

 画面の時間を見るに、ライブまではまだ時間があるらしい。

 

 夏祭りはあの時のことを思い出すので敬遠していたものの、折角ここまで来たのだ。

 ほんの少しの好奇心が疼くし、聞いてみようか。

 

 

「ねぇ。ライブイベントまでまだ時間があるし、折角だから屋台でも見て回らない?」

 

「屋台か……こういうお祭りって全然行かないから、何があるのかよくわからないんだけど」

 

「わかる。私もお祭りって避けがちだったから、案内できるほどじゃないのよね」

 

 

 奏もわからず、私も記憶を無くしてからは初体験だ。

 まふゆも怪しいところがあるし、頼りになるのは瑞希だけである。

 

 そのせいで3人分の視線を一身に受けることになった瑞希は、ほんの数秒の苦笑いの後、胸を叩きながら笑みを浮かべた。

 

 

「じゃあ、色々見て回ろっか! それじゃあ早速。善は急げと言うことで、レッツゴ〜♪」

 

「あ、ちょっと瑞希! 先に行っちゃダメだって!」

 

 

 逸れたらこのメンバーの場合、高確率で出店も何も楽しめないのだから、本当に気をつけてほしい。

 命綱が勝手に切れるなんて、冗談でも笑えないのである。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 適当にその辺りの食べ物を摘んでから、私達は射的の屋台にいた。

 射的初心者な上に、百発百中の能力を持っていない私の成果は当然のようにゼロ。

 

 そろそろ何かは当てたいところだが……横切る玉をみていると、それもまた難しそうに感じる。

 

 

「絵名ー、頑張れ〜」

 

「うるさいな、言われなくても頑張るわよ……えいっ」

 

 

 瑞希に揶揄われながら狙いを定め、景品に目掛けて撃ち込む。

 しかし、玉は当たるどころか景品の横を素通りし、壁にぽすりとぶつかった。

 

 

「あぁ、また外れた。全然当たんないんだけど……」

 

「あははっ、絵名ってば下手くそだな〜」

 

「射的なんか初めてやったし、しょうがないでしょ!」

 

 

 ずっと揶揄ってくる瑞希に言い返していると、隣に立っていたまふゆが涼しげな顔で構える。

 

 

「……ここかな」

 

 

 私が撃った時はビックリするぐらい掠りもしなかったのに、まふゆが狙った景品はあっさりと倒れた。

 まるで1人だけ別のゲームをしているかのように、まふゆは射的で無双してる。

 

 どうやら今、倒れている景品はまふゆが全て撃ったらしく、1番難易度の高い景品もゲットしたようだ。

 ついでに私が狙っていた景品にも狙いを定めて、まふゆはあっさりと撃ち抜く。

 

 景品が倒れるのを見届けてから、まふゆはゆっくりとこちらに顔を向けた。

 

 

「……」

 

(わぁ、表情変わってないのにドヤァッてしてるのがわかるー)

 

 

 無言でこちらを見るまふゆの表情筋はずっとストライキをしているのに、何故か今、ドヤ顔をしているんだろうなと感じる。

 

 変なところで器用なまふゆは雰囲気を操るのも、初めての射的も容易であるらしい。

 まふゆにとっては簡単なことだったとしても、こうも自慢げにされると可愛げがある……

 

 

「射的は初めてだけど、狙って撃つだけだから簡単だったね」

 

「そんな簡単なものじゃないはずなんだけどね」

 

「でも、難しいのも簡単に落ちたよ」

 

「……」

 

 

 ──前言撤回だ。可愛げなんてない。全くなかった。

 

 私が1つも落とせなかった景品を落とした理由が今の言葉を言うためなのであれば、まっっっっったく可愛くない。これだけは断言できる。

 

 

「うっ……引き金を引くのも結構力がいるんだね」

 

 

 私の心が荒ぶる横で、いつの間にか奏が射的の銃と戦っていた。

 どうやら引き金を引くのに苦戦しているらしく、うんうんと唸りながら引き金を引こうと頑張っている。

 

 数分の激戦の末にやっとの思いで玉を撃ち出したものの、残念なことに引き金を引くことに注力し過ぎて玉があらぬ方向に飛んでいく。

 それなのに奏はどこかやり遂げたような顔で大きく息を吐いた。

 

 

「ふぅ……射的って大変だね。全然当たらないし、持ってるだけで重いし、引き金を引くのも一苦労だった」

 

 

 疲れたよ、と呟く奏は1発撃つだけでかなりの体力を削ってしまったようだ。

 心なしか萎れているようにも見える奏に、私は声をかけた。

 

 

「奏、大丈夫?」

 

「うん。腕が痛くなってきたから少し休みたいけど」

 

「そうね、無理をしてまでやるものじゃないし、休んだ方がいいと思うな」

 

 

 それでなくても奏は普段から無理をしているのだ。こんなところで更に無理を重ねる必要はないだろう。

 

 射的屋台から離れていた瑞希が私の横からひょっこりと顔を出し、同意するように頷く。

 

 

「そうそう、絵名も景品を取れてないし、休んだって大丈夫だよ!」

 

「瑞希は態々私を下げないの。それで? そんなことを言う瑞希は取ってるの?」

 

 

 少なくとも私が見ている時には取っていなかったのだが、瑞希は自信ありげにバッグの中を漁る。

 

 

「ふふーん。実は、さっきこれを落としたんだよね~」

 

 

 瑞希は自慢するように射的の戦利品を見せてきた。

 

 それはこちらを小馬鹿にしたような目が何ともムカつく、可愛らしさはあまりないキーホルダーだった。

 アニメとかに出てくる子なのだろうか。少なくとも私は欲しいとは思えない顔である。

 

 

「これ、何のキャラクターなの?」

 

「シブヤのご当地キャラクターのシブニャーゴ。最近、人気なんだよ~?」

 

「ふぅん、これが人気ねぇ」

 

 

 確かに丸っこいフォルムに描きやすいパーツと最低限、人気になりそうな要素が散りばめられているようだ。

 最近人気だという瑞希の言葉も冗談ではないのかもしれない。私はそこまで好きではないけれど、好きな人は好きそうなキーホルダーだった。

 

 

「これ、猫なんだ。あまり可愛くないね」

 

「むしろそこが良いんだって! 早速、バッグにつけちゃお~♪」

 

 

 まふゆの言葉を気にすることなく、瑞希はバッグにキーホルダーを付ける。

 今のバッグのデザインとキーホルダーはあまり合っていないようい思うのだが、瑞希が気に入っているのであればデザイン面では言うまい。

 

 

「射的で景品が取れたの、そんなに嬉しかったの?」

 

「というより、皆で夏祭りに来た記念かなー」

 

「そっか」

 

 

 嬉しそうな瑞希を見ていると、私も何か景品を取った方が良い気がしてきた。

 ……これ以上やってもお金を溶かすだけなので、もう射的はするつもりはないけれども。

 

 

「ねぇねぇ、絵名。見てよコレ! こうやって付けたらかわいいでしょ!」

 

「んー、そうね。瑞希が良いと思ってるのならいいんじゃない?」

 

 

 やっぱりバッグと合っていないけれど、瑞希が嬉しそうならば私がそのことについて何かを言うのは無粋である。

 

 瑞希の嬉しそうな姿を横目に、私は射的の屋台から距離を取った。

 そんな私に倣うようにまふゆや奏も付いて来て、瑞希がきょとんと目を瞬かせる。

 

 

「あれ、もう皆は射的やらないの?」

 

「うん、当たらないのはよくわかったから」

 

「わたしも……」

 

 

 私も奏も射的に対して降参すると、瑞希がクスクスと笑いながら頷いた。

 

 

「そっかー、じゃあ仕方ないね。次はなにしよっか……皆はお腹すいてない?」

 

「わたしはそんなにすいてないかな。まふゆは?」

 

「大丈夫。でも、絵名はすいてるんじゃない?」

 

「まるで私が食いしん坊かのように言うのはやめない? ……すいてないから大丈夫だし」

 

 

 ここでどんな言葉を言っても、お腹がすいているように取れてしまう状態にもっていくのは狡いのではないだろうか。

 

 意味ありげに笑う瑞希を睨みつけ、八つ当たりを完了させる。

 

 ターゲットになってしまうぐらいニヤニヤと笑っている瑞希が悪い。

 私のストレス解消のためにも尊い犠牲になってもらったと思うことにしよう。

 

 

「これ以上ここにいたら、絵名の視線でボクの背中がハリネズミみたいになりそうだし……そうだ! ヨーヨー釣りやろうよ!」

 

「ヨーヨーって、ライブの時に邪魔にならない?」

 

「そんなに何個も取らないから大丈夫でしょ。ほら、レッツゴー」

 

「あぁこら、瑞希ーっ。だから先走らないでって言ってるでしょ!?」

 

 

 迷子になったら困るのはこっちなのだ。

 

 

「まふゆはボーっとしてないでこっち! 人混みに流されたら大変でしょ」

 

「あ、うん」

 

「あはは……絵名、大変だね」

 

 

 先走る瑞希と立ち止まるまふゆの手綱を握ると、奏が隣で苦笑を浮かべた。

 大変だとは思っていないけど、お願いだから逸れないように行動してほしいとは思っている。

 

 

 

 

 

 

 ──そんな私の願いが届いたのか、ヨーヨーを取ったりスーパーボールを掬ったり、クジを引いても逸れることなく時間が過ぎた。

 

 ちょうどいい時間で瑞希も満足したらしく、人混みから離れたところでにっこりと微笑んだ。

 

 

「あー、楽しかった〜! こうやって遊んでると、ミク達とも遊びたいなーって思うよね!」

 

「遊べたらいいけど、何もないセカイでお祭りって難しくない?」

 

「そこは屋台で使えそうなものをボク達で準備するとかさー」

 

 

 ヨーヨーでしょ、射的でしょ、と指折り数えて準備できそうなものを提案する瑞希。

 瑞希が両手の指を使いだす頃には、奏とまふゆが顔を見合わせて瑞希のアイデアを前向きに捉えていた。

 

 

「屋台とか、ミク達が喜びそうだね」

 

「たぶん。喜ぶと思う」

 

「でしょでしょ!」

 

 

 奏もまふゆも反対しないので、提案している瑞希は嬉しそうだ。

 私も特に反対する理由がないので成り行きを見守っていると、ニヤリと笑った瑞希の目と目が合った。

 

 

「絵名も射的のリベンジとか、いいんじゃない? ほら、下手くそだったしー」

 

「はぁ? 下手くそじゃないし!」

 

「あははっ。じゃあさ、絵名が下手じゃないことを証明するためにも、機会があったら……」

 

「はいはい、夏祭りっぽいことしましょ。その時は瑞希が射的の景品係りね。豪華なものをよろしく」

 

「……えぇー。最悪、全部取られそうだから予算は低めがいいなぁ」

 

 

 一瞬詰まりそうな瑞希の言葉をすかさず押し込んで、1番大変な仕事を押し付けた。

 言い出しっぺの法則というものがこの世にはあるらしいし、是非とも瑞希には普段私を揶揄ってくる分、苦しんでもらうとしよう。

 

 

「じゃあ、そろそろアマチュア部門が始まるみたいだし、会場に行く?」

 

「そうだね。人も多いだろうし、早めに行こうか」

 

 

 私の言葉に奏が答えてくれたので、「全部取らないよ」と拗ねてしまっているまふゆの手を引っ捕える。

 

 奏には前を歩いてもらい、私は不満そうなまふゆと、言い出しっぺとして沈めてしまった瑞希の手を引いて、会場へと向かうのだった。

 

 

 






まふゆさんの射的とか弓道の姿を見ていると、飛び道具を持たせたら1人だけ異世界転生しても大丈夫そうですよね。
シブヤのシモ・ヘイヘになれるかも……?
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