イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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ほんの少しだけ、キミの影を掴めた気がした。







106枚目 影を掴む

 

 

 

 

 

 野外ステージに小走りで向かうと、見慣れたオレンジ髪が周囲を見渡していた。

 オレンジ髪──彰人の隣には冬弥くんもいるし、暑いせいで私が見間違えたという可能性は少なそうだ。

 

 私は2人に気がついてもらえるように、大きく手を振りながら駆け寄る。

 

 

「彰人! はい、お待ちかねのものね」

 

 

 彰人にシューズとバッグを手渡して、念の為に間違っていないか確認してもらう。

 様子を見るに間違ってなさそうだ。ホッと息を吐きつつ、私は声をかける。

 

 

「見覚えのあるモノがあったから、ビックリしちゃった。大切なものはちゃんと揃ってるよね?」

 

「ああ、本当に助かった! ありがとな、絵名」

 

「別にいいわよ。でもまぁ、気になるならお礼、期待しとくね」

 

「わかったよ。また今度チーズケーキを買ってくる」

 

 

 思わぬところで報酬をゲットできそうだし、彰人も助かったみたいなので、正しくwin-winの結果だろう。

 

 大満足な私の横で、一緒について来てくれていた瑞希が彰人と冬弥くんを見て笑みを浮かべる。

 

 

「へぇ。弟くんと冬弥くんはイベントに出るんだねー。ボク、楽しみにしてるよ!」

 

「そうね……冬弥くんも頑張ってね」

 

 

 彰人は私に言われなくても頑張れるのは知ってるし、せめて『も』をつけることで応援することにしよう。

 

 

「絵名さん、ありがとうございます」

 

「暁山もこんなことに付き合わせて悪かったな」

 

 

 頭を軽く下げる冬弥くんと彰人の目は、後は本番のみと言わんばかりに鋭さがある。

 この様子だともう2人は大丈夫だろう。本番のパフォーマンスも楽しみだ。

 

 

「ボクの用事のついでだったから、気にしなくても良いよー。それよりも靴、見つかってよかったね」

 

「瑞希のおかげで届いたようなものだから、頑張りなさいよね」

 

「当然だろ。オレ達がどれだけ練習したと思ってるんだよ」

 

 

 遅くまで練習しているだけあって、彰人の返事は力強く、自信に満ちている。

 その自信の根拠は何となく知っているので、私も心配していない。

 

 

「最近は毎日、帰ってきたらヘトヘトだったしね。それなのに帰ってきたらまた外で練習してるし、心配はしてないよ」

 

「……知ってたのかよ」

 

「まぁ、同じ屋根の下で暮らしてるからね」

 

 

 余程突拍子もないことをしていない限り、大体何をしているかなんて予想できるし、している上で無視したりしているのである。

 

 

(それにしても、これが絵名の日記に書いていた思い出のステージ……か)

 

 

 予想はしていたものの、彰人が本当にシブヤ夏祭りのステージでパフォーマンスを披露しているとは思っていなくて。

 夏休みの日記に書いていたこととか、そこから色々と考えていたことからふと……口から思考の欠片が零れた。

 

 

「まさか彰人があのステージと同じところに立って歌うなんてビックリかな。きっと……今の彰人はあの時とは違って良い顔になってるよ」

 

「あの時って。絵名、それは……」

 

「あはは。ごめんね、こういうことしか言えなくて……えっと、私と瑞希は戻るから。頑張ってね」

 

 

 彰人は何かを言おうと口を開いたけれど、スタッフの人に呼ばれてしまい、そのまま準備に向かった。

 残ったのは私と瑞希のみ。態々野外ステージの裏手に来るなんてスタッフの人や関係者以外はあまりおらず、表の騒がしさと虫の鳴き声によって、辛うじて静けさが打ち消されていた。

 

 

「瑞希、ここまで付き合ってくれてありがとう。それじゃあ、戻ろっか」

 

「……そうだねー。奏達も待ってるし、戻ろっか」

 

「今ならまだプロ部門も始まってないし、急がなきゃね」

 

 

 私の意識は落とし物のことや彰人のことから、野外ステージのパフォーマンスに傾いていた。

 

 だからなのだろう。

 

 

「……」

 

 

 いつもなら気がつきそうなぐらいの無言と、じっとこちらを見ていたピンク色の目に全く気がつくことなく、奏達と合流してイベントを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 プロ部門のパフォーマンスも終わり、私達はまた人混みから離れたところに避難していた。

 

 

「イベント楽しかったねー! アマチュア部門もレベルが高かったし、弟くん達も凄かったなー」

 

「そうね……うん、悪くなかったかな」

 

 

 瑞希の明るい声に私が返事をしたのを皮切りに、奏とまふゆもそれぞれ声に出す。

 

 

「わたしも楽しかったな。やっぱり、生音だと迫力があるし」

 

「音がうるさかったから耳鳴りがする……」

 

「え。まふゆ、大丈夫!?」

 

 

 瑞希の素っ頓狂な声にまふゆは数秒遅れて頷く。

 耳鳴りが酷いのか、まふゆの反応が悪い。あんまり無理をさせない方が良さそうだ。

 

 

「うるさい所にいたら治るものも治らないでしょうし、まふゆも早く帰った方がいいかもね」

 

「そうだね。音が大きいところと絵名には近づかないように、おとなしくしておく」

 

「私はうるさいからねー……って言わないからね? もう、耳鳴りがしてても余計なことを言うんだから」

 

 

 本当なら勢いよく言い返したいところだが、現在のまふゆは鼓膜を酷使している状態である。

 しょうがないのでここは怒りをグッと堪えて、優しめな言葉に抑えておいた。

 

 

「あはは。とりあえずまふゆはゆっくり休みなよー」

 

「うん、そうする」

 

 

 瑞希の言葉には素直に頷くまふゆがほんの少し恨めしいけれど、これ以上祭りの中に身を置くのもまふゆの耳には酷だろう。

 早めに解散させた方がいいかと判断し、私は両手を叩いた。

 

 

「じゃあ、今日はこの辺りで一旦、解散ね。その後の行動は各自自由ってことで」

 

「そうだね……今日は楽しかったよ。ありがとう、みんな」

 

 

 奏が特に反対することなく頷いてくれたので、その後の流れは早かった。

 

 耳鳴りがするので安静にしなくてはいけないまふゆと、曲を作りたくてウズウズしている奏は足早に帰宅。

 

 私も一緒に帰ろうとしたのだが、瑞希に「付き合ってよー」と泣きつかれたので一緒に引き続き夏祭りを回ることにした。

 

 

「それで? 瑞希はどこに行く予定なの?」

 

「やっぱり夏祭りといえばわたあめでしょ。さっき見たんだけど、ピンク色のわたあめとか売ってたんだよねー」

 

「そんなのあったんだ。よく見てるね」

 

「もっちろん。絵名だって夏祭りの定番とかはちゃんと見てたじゃん」

 

「あー、そうね」

 

 

 実は夏祭りに行ったことがないから、そういう定番の出店を良い機会だと思って見ていただけ……なんて、言い出せなかった。

 

 勘の良い瑞希なら何かそこから読み取って来そうで怖いし、だからこそ行ったこともないのに久しぶりの体で話したりしていたのだ。

 

 さて、どう話を膨らませたら怪しまれないかな。

 

 事前に調べていた夏祭りの情報と照らし合わせて何と言うべきか言葉を選んでいると、後ろから声をかけられた。

 

 

「おい、絵名」

 

 

 渡りに船とはこのことだろう。

 振り返るとさっきまで野外ステージで歌っていた彰人と冬弥くんが立っていた。

 

 

「お疲れ。ライブ、いい感じだったじゃん。歌もダンスも盛り上がってて良かったね」

 

「ああ、さっきは助かった」

 

「ん、どういたしまして」

 

 

 彰人は態々私にお礼を言いに来てくれたらしい。

 ここで彰人と冬弥くんだけならすぐにお別れ、となるのだが……

 

 

「みんな、ここにいたのね! 会えて嬉しいわ!」

 

「あら、絵名ちゃんだけじゃなくて瑞希ちゃんも来ていたのね」

 

 

 運が良いことに、夏祭りに来ていたらしい愛莉と雫までこちらに近づいてきた。

 これなら夏祭りの話題が続くこともないだろう。安堵しているのを隠しつつ、私は2人に向かって手を振る。

 

 

「2人とも来てたんだ。今日は練習、休みだったの?」

 

「練習帰りに偶然通りかかったの。彰人くん達とも途中で会って、イベントに出るって聞いたから雫と見ていたのよ」

 

 

 練習の後に遊ぶなんてさすがはアイドル。私なら体力がもたないだろう。

 

 雫ちゃんの誉め言葉に彰人が猫を被って対応しているのは見ないフリをして視線を逸らす。

 目を逸らさないとつい、普段との態度の違いが口から出てきてしまいそうだった。

 

 余計なことを言うまいと、必死に彰人の猫かぶりから全力逃走をしていたら、愛莉から思わぬ提案が来た。

 

 

「そうだ! ここで折角会ったんだし、皆で一緒に回らない?」

 

「私はいいけど……」

 

 

 ぐるりと見渡せば、嫌そうな顔をしているのは彰人ぐらいしかいなかった。

 その彰人も冬弥くんに押し切られてしまい、結局、皆でお祭りを見て回ることに決まった。

 

 ……の、だが。

 

 

 

 

 

「……なんでお前はオレの隣を歩いてるんだよ」

 

「瑞希は愛莉や雫と一緒に仲良く歩いてるし、これ以上並んだら道の行き来の邪魔になっちゃうでしょ。だから消去法で」

 

「はぁ、そうかよ」

 

 

 それ以上何も言ってこない彰人を見るに、折れてくれたらしい。

 

 

(何やかんや言うけど、こうやって祭りを回るのも付き合っているし、優しいよね)

 

 

 そんなことを口に出したらどんな反応をされるかわからないので、言えないけれど。

 姉弟の絵名なら、彰人にかける言葉がもう少し辛辣なのは……何となく予想できてるし。

 

 そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、黙っていた彰人が徐に口を開いた。

 

 

「その、悪かった」

 

「えっと、それは何に対して?」

 

「中学の時に夏祭りの前であんなことを言って、悪かった。あれのせいでお前、夏祭りとか避けてたんだろ」

 

「……知ってたんだ」

 

「まぁ、同じ屋根の下で暮らしてるからな」

 

 

 さっきの私と同じことを言う彰人に、私は思わず笑ってしまった。

 

 記憶がなくても姉弟とだとでも言ってくれているのだろうか。

 直接言えばいいのに、と思ってしまって、さらに笑みが込み上げてしまう。

 

 

「謝らなくてもいいのに。どうであれ、私が悪いんだから」

 

「あの事故も、その後のことも……絵名のせいじゃねえ。次そんなこと言ったら、キレるからな」

 

「……はいはい。わかったってば」

 

 

 不機嫌そうに釘を刺してくる彰人に、やっぱり私は笑うことしかできなくて。

 その笑みに罪悪感が乗らないように、飲み込むのに必死だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの事故、ね」

 

「瑞希ちゃん、ご飯系のものを食べるんじゃなかったの?」

 

「あぁ、ごめん、雫ちゃん。食べるから待って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──愛莉ちゃんは違うかもって言ってたけど。事故が原因なのは確定、かな」

 

 

 







何だか意味深な発言をしてますよね、瑞希さん。
次回は彰人君以外のビビバスの面々が出てくるので、瑞希さんの出番はないんですけど。

というわけで、夏祭り編は終了です。次回からは次のイベストの幕間に入ります。
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