イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回は彰人君が留守の間のビビバス回です。







107枚目 確信と安堵とパンケーキ

 

 

 

 

 

 今日もいつものように被写体を探し求めてシブヤを練り歩いていたら、CDショップ辺りで『コンビ限定・のど自慢大会』というものをやっているのを発見した。

 

 いつもなら遠目から見てちょっとだけスケッチさせて貰った後、すぐにその場を後にするのだが……見覚えのある2人組を見つけてしまったら立ち去るという選択肢は消える。

 

 長い黒髪とクリーム色の短めのツインテを見れば、知っているという補正も入って期待値が爆上がりだ。

 他の参加者を詳しく知らないのでどの程度の実力者なのかとか、そういう話はわからない。

 

 しかし、2人が歌ったらあっさりとその場の空気を支配したように見えたので、大会優勝候補なのは間違いないだろう。

 そんな私の予想通り、優勝者として紹介されたのはあの2人──というか、白石さんと小豆沢さんだった。

 

 

『キリの良い第10回、コンビ限定・のど自慢大会優勝者は白石・小豆沢ペアだ~! 優勝した2人にはトロフィーとこの優勝賞品をプレゼント! 惜しくも2位だったコンビには──』

 

 

 司会の人らしい男性の声を聞きつつ、舞台から降りて行った2人の姿を探す。

 イベントをしているだけあって、見つける前に人混みに飲み込まれそうだ。流石に流されるのは嫌なので、這う這うの体でのど自慢大会を見ている人達の中から抜け出す。

 

 

「はぁ、いくら外に出るようになってるとはいえ、人混みには慣れないなぁ」

 

「そうですね。俺も人混みの流れに逆らうのは大変なので、絵名さんの感想は当然だと思います」

 

「!? え、冬弥くん!?」

 

「はい、こんにちは。絵名さん」

 

「あぁ、うん。こんにちは」

 

 

 やっと人混みから出てきた私に声をかけてきたのは冬弥くんである。

 人が沢山いるせいか気配も足音も感じず、ぬるりと現れたように感じた冬弥くんに驚いてしまったのに、相手は全く気にしていないようだ。

 

 意外と図太いのか、それとも私が目を白黒させているのに気が付かない天然さんなのか。

 ドクドクと煩い心臓を落ち着かせるために深呼吸をしてから、私は改めて冬弥くんの方を見た。

 

 

「冬弥くんは白石さん達の応援?」

 

「いえ、偶然です。今日は彰人がバイトの日で練習が休みなので、俺はCDショップに寄っていたんです」

 

「へぇ、そうなんだ……って、休み?」

 

 

 私の視線はゆっくりと冬弥くんからのど自慢大会の会場へと移動する。

 じっと白石さんと小豆沢さんが歌っていたステージを眺めてから、また視線を戻した。

 

 

「休みって、何だろうね」

 

「……休みの日でも、歌いたくなる時はありますから」

 

「私も人のこと言えないけど、休みの日でも動いちゃうよね」

 

 

 冬弥くんの苦し紛れのフォローを深堀りする気にはなれず、苦笑いした。

 私も人のことは言えないし、何なら絵のことになればお休みなんて知らないなと毎日描いている身なので、ちゃんと休みを取ろうとしているだけ冬弥くん達の方が偉い。

 

 

「絵名さん、この後、時間を貰ってもいいですか?」

 

 

 弟の仲間達の凄さを見習っている間に、冬弥くんはこちらを窺うように問いかけてきた。

 

 

「時間? 別にいいけど、この場じゃ言えないようなことがあるの?」

 

「少し長引くかもしれないのと、彰人がいないタイミングの方がいいので」

 

「彰人が?」

 

「はい。白石達も交えて話したいので《WEEKND GARAGE》まで来てもらってもいいですか?」

 

「そこって、白石さんのお父さんのお店だよね……」

 

 

 彰人がいない時に、態々私をホームに呼んで話し合い。

 この言葉の羅列だけで嫌な予感しかしない。できるものなら逃げ出したい、が。

 

 

(でも、冬弥くん達は彰人の大切なチームメイトで、何なら冬弥くんは相棒だし)

 

 

 きっと、彰人のために動いているであろう彼らに対して、嫌な予感がするからと断るのは違う。

 世の中、逃げた方が良いことの方が多数だろうけれど、今、逃げるのは彰人や冬弥くん達に不誠実だ。

 

 

 ──なら、怖気付く気持ちは飲み込め。

 

 

「わかった。じゃあ、行こっか」

 

「ありがとうございます」

 

 

 冬弥くんがスマホを操作するのを見てから、私は彼と2人でビビットストリートへ向かって歩く。

 まるで刑を実行される前の囚人のような気持ちになっている自分は見ないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に冬弥くんと一緒に《WEEKND GARAGE》に到着した後、10分後ぐらいには白石さん達も追いついて来ていた。

 急いで来てくれたのだろうか。それだけでも私に聞きたい話というのが大切なものだということがわかる。

 

 

「絵名さん、今日は突然だったのにありがとうございます」

 

「ありがとうございます、絵名先輩」

 

「特製のパンケーキもあるので、パクッといっちゃってください!」

 

 

 冬弥くんが頭を下げて、隣に座っていた小豆沢さんも頭を下げる。

 全員分の飲み物と、今日の迷惑料としてパンケーキを持ってきてくれた白石さんはグッと親指を立てた。

 

 ……白石さんの言う通り、パクパクッと食べれそうなパンケーキだが、今は食べる時ではない。

 フォークを手に持ったものの、静かに元の場所に返した。

 

 

「真面目な話なのに、食べながらだと悪いから。まずは先に話をしましょ」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん。冬弥くん達が彰人を想って動いてくれているのは十分伝わるから」

 

 

 冬弥くんにそう返したものの、冬弥くんも白石さんも顔を見合わせて何も言ってこない。

 第一声に戸惑っているのだろうか。2人からは一向に声が出てこなかった。

 

 私の方から声をかけた方が良いのかもしれないが、どう話を切り出そうか。

 相手の会話の内容を予測しきれていないから、こっちも冬弥君の出方を窺うしかできない。

 

 どうしたものかと3人で見つめ合っていると、唯一、空気の読み合い合戦に参加していなかった小豆沢さんが動いた。

 

 

「あの、絵名先輩! 聞いてもいいですかっ?」

 

「大丈夫だよ。何を聞きたいの?」

 

「えっと……絵名先輩って東雲くんと喧嘩してるんですか?」

 

「えっ、喧嘩!? 心当たりがないんだけど……どういうことか、聞いてもいいかな?」

 

 

 正直に言うと、私は記憶を失ってからというものの、彰人と喧嘩をしたことがない。

 記憶喪失前の対応のためにちょっと言い合いをすることはあっても、喧嘩には発展していないのだ。

 

 そういう前提条件もあり、小豆沢さんの言葉は青天の霹靂で。

 どうしてそんな話になったのか。できる限り叫ばないように意識して質問すると、小豆沢さんの代わりに冬弥くんが口を開いた。

 

 

「絵名さんと彰人は普段の仲の良さから信じられないぐらい、余所余所しくなる時がありますよね。夏祭りのイベントの時はそれが顕著だったので、2人に何かあったのではないかと思いまして」

 

「何か、ねぇ。彰人からは何も聞いてないの?」

 

「それが……絵名さんに関することだから、自分の口からは何も言えないと」

 

「……そっか」

 

 

 仲間に隠し事なんて苦しいだろうに、律儀に言わないのは色々と言いつつも優しい彰人らしい。

 目を瞑って線引きを探していると、白石さんも話の中に混ざってくる。

 

 

「彰人ってば、どう聞き出しても『オレが悪い』としか言わないんですよねー」

 

「わかってると思うけど、彰人は悪くないよ」

 

「私もそう思います。でも、彰人自身はそう思ってなさそうなんです。だから、私達も気になっちゃって」

 

「そうだよね……うん、それは当然だと思う」

 

 

 彰人は私の為に言わないでくれて、白石さん達は彰人の為に心配してくれているのだ。

 ならば、私の言える範囲で話してみるしかない。

 

 

「彰人は私のこと、どれぐらい話してる?」

 

「今やってることとかは聞いてますけど、過去のことはあまり。そういうこともあって、私はもしかしたら喧嘩してるんじゃないかなって思ったんです」

 

 

 小豆沢さんがおずおずと答えてくれた言葉で、私の中の線引きができた。

 仮に、ここで冬弥くん達からニーゴの皆に話が漏れたとしても……甘んじて受け入れよう。

 

 

「私と同じ中学の子なら知ってる子は知ってるんだけど……私、中学1年の最後の月に、ほぼ1ヶ月丸々入院するぐらいの事故に遭ったのよね」

 

「1ヶ月入院しちゃうぐらいの事故!? それって、後遺症とかあるんじゃ……?」

 

「うん。小豆沢さんの言う通り、傷だけじゃなくて後遺症が残っちゃって……その後遺症のせいで彰人ともギクシャクしちゃって。その時のこともあって、彰人は自分も悪いことをしてしまったって思ってるみたいなの」

 

 

 後遺症というのはもちろん、記憶喪失のことである。

 これならばぼかせているだろうし、彰人や冬弥くん達への不義理ではないはずだ。

 

 隠すところは『後遺症』で誤魔化して、話せる範囲のことを並べると、冬弥くんは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「でも、それって絵名さんも彰人も悪くないですよね?」

 

「うん、彰人は何も悪くないよ。でも、あいつ、優しいから気にしちゃってね」

 

 

 事故はともかく、記憶喪失の件はスケッチブックを描いたせいなのだ。

 彰人は姉を奪われた被害者であっても、悪者ではない。

 

 ……全てを知っているのに黙って、隠している私が全部悪いのだ。

 

 

「私の後遺症が治らない限り、彰人は気にしちゃうと思うんだ」

 

「後遺症を治す、ですか。やっぱりすぐには治らないですよね」

 

「治るのが1番なんだけど、こればっかりは難しいと思う。だから……皆には彰人の味方になってほしいかな」

 

 

 冬弥くんと目を見てから、次に白石さん、その次に小豆沢さんへと視線を向ける。

 すると、小豆沢さんだけは眉をキリリと上げて、口を開いた。

 

 

「事故が中学生の時ってことは、長い間ずっとリハビリも頑張ってきたんですよね? なら……絵名先輩は1人で大丈夫なんですか?」

 

「ありがとう、小豆沢さん。私にも友達はいるし、1人ってわけじゃないから大丈夫。それに……Vivid BAD SQUADは彰人の居場所でしょ。なら、皆には私よりも彰人の味方でいてほしいの」

 

 

 ──だから、よろしくね。

 

 そう頭を下げると、3人とも力強く頷き返してくれた。

 

 

(うん……3人がいれば、彰人のことは安心かな)

 

 

 きっと、私という足枷なんて振り解いて、彰人はちゃんと羽ばたいていけるだろう。

 

 そんな確信と安堵、後は報酬のパンケーキがある今日は、とても実りのある1日だった。

 

 

 

 

 







えななんがビビバス(彰人君除く)にちょっとヒントタイムをしている中、次回は奏さん視点で話が進みます。
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