イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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夏祭りをすると話したので有言実行させましょう。








109枚目 セカイで夏祭りの空気を

 

 

 

 

 

「絵名……さっきから何してるの?」

 

 

 リンの呆れるような視線が、背中に突き刺さる。

 

 おかしい。

 私の予想では隣でソワソワしているミクみたいに、リンも楽しみにしてくれると思っていたのに、当てが外れたようだ。

 

 

(って思ったけど、そうでもないのかな……?)

 

 

 振り返ったついでに観察すれば……顔は興味なさそうなのに視線はずっとこちらに固定されているし、お腹の前で組まれた手が落ち着きなさそうに動いている。

 

 どうやらいつも通りのリンの態度が全面的に出ていただけのようだ。

 これならば、このまま準備を進めてもいいだろう。

 

 こっそり胸を撫で下ろし、私は改めてリンの質問に答えることにした。

 

 

「この前ニーゴの皆で夏祭りに行った時にね、セカイでもやりたいねって話になったのよね」

 

「じゃあ、今やってるのはお祭りの準備?」

 

「ミク、正解! 正解者には、これをプレゼントしようかな」

 

 

 正解したミクにはスーパーボール用に貰って来た『ぽい』をあげよう。

 水を入れた2つのタライにスーパーボールとヨーヨーを浮かべていると、ミクがぽいを眺めながら首を傾げる。

 

 

「これ、なに?」

 

「ぽいって言って、スーパーボールとかを掬うのに使うものだよ」

 

「これ、すぐに破れそうだね。手で掬っちゃダメなの?」

 

「身内でやることだからダメとは言いにくいけど……このぽいで掬う遊びだから、手はちょっとズルいかもね?」

 

「そっか。破れそうっていうのが大事なんだね」

 

 

 わかりにくい説明になったのに、ミクは自分で咀嚼して納得してくれたようだ。

 ミクは興味津々なの様子でぽいの薄紙を指で触り、観察している。

 

 

(さてと、今のうちに準備を進めなくちゃ)

 

 

 ミクとリンがぽいに夢中になっている間にスマホを操作し、セカイから一旦離脱する。

 最後の荷物を取りに部屋に戻っている間に、セカイに奏とまふゆの姿があった。

 

 

「絵名、おつかれさま」

 

「景品になりそうなもの、持ってきたよ」

 

「奏とまふゆも早めに来てくれたんだ。ありがと、射的の景品はこっちに置いてね」

 

 

 今回、夏祭りの準備をするにあたって、ヨーヨー掬いや射的の小道具は瑞希が担当。

 私は食べ物系やスーパーボール掬い、くじ引きを担当することになっている。

 

 まふゆは下手に動き過ぎると嗅ぎつけられる可能性があるので、奏と一緒に射的やクジの景品係だ。

 そんな風に役割分担をして、『誰もいないセカイの夏祭り』を準備していた……のだけど。

 

 

「あの、奏?」

 

「うん? どうしたの?」

 

 

 一生懸命に台の上に並べる奏に申し訳ないのだが、これだけは言わせて欲しい。

 

 

「その、そこって射的の景品を並べるところで、カップ麺の陳列棚じゃないからね?」

 

 

 白地に赤の字のものから、青、黄色、緑と並び、他にはラーメンの写真が載ってるものや、私も見たことのない黒いものまで、様々な種類が並べられていた。

 

 

 ──が、それら全てカップ麺である。

 

 

 緑や赤い動物系の名前のうどんや蕎麦みたいなカップの大きさではないものの、どれを取ってもカップ麺。

 何やかんや全部味が違うのは奏の拘りだろうか。よくもまぁ、ここまで集められたなと感心してしまう。

 

 

「缶詰はダメかと思って、カップ麺にしたんだけど……ダメだった?」

 

「ダメというか……いや、でも、奏達の好きな景品にしていいって言ったのは私だし、うーん」

 

 

 まるでコンビニのカップ麺コーナーのように並ぶ奏の景品ゾーンは異色を放っているものの、射的で倒せる範囲の景品なのは間違いない。

 

 なら、私が良くなかったのか。そう頭を悩ませている間に、瑞希がセカイに現れた。

 

 

「おーい、こっちも準備できたよー……って射的コーナーがコンビニのカップ麺コーナーになってる!?」

 

(あ、瑞希も同じこと思ったんだ)

 

 

 セカイに来て早々、オーバーなリアクションで驚く瑞希にちょっと安心してしまった。

 まふゆも何も言わないから、自分の感性を疑いそうになっていたのだ。安心するぐらい、許して欲しい。

 

 

「うーん、ちょっと気になるから待ってて」

 

 

 射的の準備をしているようには見えない棚を眺め、瑞希は再び姿を消した。

 思わず自室に戻ってしまうぐらい、あの棚がショックだったのだろうか。

 

 電話をした方がいいのか迷っていると、瑞希の姿が現れ、棚に何かを貼り付けていく。

 奏とコソコソと話してから、棚にペタペタと何かを貼っていた瑞希はやがて、満足気な様子で頷いた。

 

 

「うんうん、やっぱりこれだよね!」

 

「いや、コンビニ感が増してるんだけど!?」

 

 

 コンビニとかで見る簡素な値札をモチーフにした点数板と、コンビニにありそうな手書き感満載のポップが貼り付けられていた。

 

 しかも、よく見ればポップには『リーダーのオススメ!』やら芸が細かい。

 どうしてこんな所に力を入れてしまったのかと問いかけたいぐらいである。

 

 呆れ半分、感心半分で棚を見ていたら、コンビニ棚を完成させた瑞希がにやりと笑い、奏の方へと体を向ける。

 

 

「奏ー、コンビニっぽい音楽とかあるー?」

 

「えっと……これとかどうかな?」

 

「どれどれ。おぉ、いい感じじゃん! じゃあ、BGMはこれで……」

 

「はいはい、調子に乗らないの」

 

 

 ミクが勢い余って破ってしまったらしいぽいを瑞希の頭の上に乗せて、暴走するバカを戒める。

 ここまで飾り付けたのだからニーゴらしいということで何も言わないが、音楽は事前の打ち合わせから『夏祭りらしくしよう』と決めていたのだ。急に夏祭りからコンビニへと方向転換させるわけにはいかない。

 

 

「もう。瑞希、準備はいいの?」

 

「ボクはダイジョーブッ。後はメイコとルカを見つけてくるだけだね~」

 

「──その必要はないわよ」

 

 

 そんな言葉と共に現れたのはルカだった。

 その後ろには不本意そうなメイコが付いて来ている。どうやら手を握られているようで、メイコはルカに連行されてここまで来たのがすぐにわかった。

 

 

「折角楽しそうなことを企画してくれているのだもの。ちゃんと皆で参加しなくちゃね」

 

「……私は良かったのだけど」

 

「あはは。ボクはメイコに来てもらえて嬉しいけどな。ほら、どうせならヨーヨー釣ろうよ!」

 

 

 開始だとか、そういう合図も何もなく、瑞希はメイコの手を引きヨーヨー釣りを始めてしまった。

 

 ミクとリンの期待するような視線が痛い。

 丁度良いタイミングでまふゆも近づいてきたし、もう始めてしまおうか。

 

 

「じゃあ、こっちは食べ物系を揃えてるけど、何がいい?」

 

「何がいいって、何があるの?」

 

「結構色々持ってきたよ」

 

 

 首を傾げるミク達の前に、私は用意してきたものを並べていく。

 

 縁日の食べ物ということで、たこ焼きや唐揚げ。

 フライドポテトにフランクフルト、店売りのものを割り箸で刺した縁日風綿飴、後は手作りの林檎と蜜柑の飴も揃えていた。

 

 

「結構あるんだね」

 

「手当たり次第用意したら、こうなっちゃって」

 

 

 まふゆの言う通り、多いと思ったので当初は半分ぐらいに抑えようとしたのだが、瑞希が「多い方が楽しいって!」と言うのでそちらに合わせた。

 

 その甲斐あってか、ミクはキラキラとした目で食べ物を見ているし、リンも蜜柑飴に視線が釘付けだ。

 

 

「リン、蜜柑飴食べなよ」

 

「いいの?」

 

「うん。むしろ食べてくれないと困るかも。ミクとまふゆは林檎飴にしておく?」

 

 

 リンに蜜柑飴を渡してから問いかけると、まふゆとミクは顔を見合わせた。

 

 

「ミク、どうする?」

 

「えっと……貰う。絵名、ありがとう」

 

「じゃあ私も」

 

 

 似たような顔をこちらに向けて、同じタイミングで手を伸ばしてくるまふゆとミク。

 何故か両者共にソワソワしているように見えて、内心、笑いを堪えながら飴を渡した。

 

 

「絵名、ごめん。ちょっと来てもらってもいい?」

 

「奏? 待って。今行くから」

 

 

 自分用の蜜柑飴を手に持ち、口に付けようとした瞬間に奏から呼ばれた。

 私は飴を片手に持ったまま、まるでカルガモの親子の様にまふゆ達を連れ、困り顔の奏が小さく手招きをしているところまで歩く。

 

 

「これ、どうやって撃てばいいのかな? 使い方がよくわからなくて」

 

 

 近づいて奏の手には瑞希お手製の割り箸鉄砲が握られており、奏の背後に立っているルカと一緒に射的をしようとしていたのがわかる。

 

 

「そう言われても私もその辺りはノータッチだから……ねぇ、瑞希!」

 

「はいはい、鉄砲職人ですよ~っと……奏、ちょっと見せてね」

 

 

 ヨーヨーを片手にこちらに来た瑞希は、奏から割り箸鉄砲を受け取って状態を確認する。

 目視する限り、折れていたりしているわけではなさそうなので大丈夫だろうとは思うけど、どうだろうか。

 

 1通り確認した瑞希は目を眇め、割り箸鉄砲をカップ麺へ向ける。

 

 

「特に問題なさそうだったから、こうやって狙って撃てば──」

 

 

 説明を挟みながら、割り箸鉄砲から解き放たれた輪ゴムは勢いよく飛び……カップ麺の上を素通りした。

 

 

「あ……」

 

「外したね」

 

 

 林檎飴から口を離したミクとまふゆの声が、嫌なぐらい響く。

 言われなくても外した本人が1番わかっているわけで、瑞希の耳が朱に染まった。

 

 無言で輪ゴムを装填し、1発、2発と撃ち込んだものの、カップ麺には当たっていない。

 一応、足場を不安定にすることによって倒しやすくしているのだが、そんな仕組みも当たらなければ意味もなく。

 

 

「結構難しいのね、それ」

 

「うん……思ったよりも難しかった」

 

 

 動作確認自体はできているので慰めの意味も込めて、瑞希の肩を軽く叩く。

 その隣で瑞希が置いた割り箸鉄砲を手に持ち、涼しげな顔でカップ麺を倒していたまふゆは見ないフリをしよう。

 

 ……見ていないフリをしている間にちゃんと倒れるのは確認できたので、私はそのまま食べ物を置いている場所まで戻った。

 

 瑞希がやらないのかと言わんばかりの目で見ていたが、それも無視だ。

 ノーコンと言われる未来しか見えないし、今は蜜柑飴を食べるのに忙しいのである。

 

 

 

 

 そうやって逃げていたものの、セカイでの縁日モドキは種類が少ないので、結局、射的もすることになり。

 

 奏も瑞希もちゃんと当てていたので、ニーゴのノーコンという不名誉な称号は私のモノになってしまったのであった。

 

 

 

 

 






ノーコンとか言われている記憶喪失えななんですが、ブーメランの扱いはとても上手みたいです。

次回までは幕間です。
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