イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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11枚目 狙撃作戦

 

 

 夏休みを終えてからの1ヶ月はかなり早かったと思う。

 

 私はテストと秋にある絵画コンクールの準備で忙しく、愛莉の方も夏休みのチャンスを見事に掴んだようで、学校にあまり来ていない。

 

 今度、愛莉が熟す仕事はバラエティのちょい役やバックダンサーではなく、事務所の先輩のライブで1曲、披露することだ。

 

 先輩の曲を借り、QTのメンバーの1人として1曲だけ披露する……とはいえ、愛莉にとっては初めてのメインで披露できるステージである。

 是非とも、彼女の言う希望を届けるアイドルの1歩として、力強く歩んでほしいものだ。

 

 そんな愛莉にとってもコンクールを目指す私にとっても多忙な9月を乗り越えて、私の前に最初に現れたのは去年とは違って2の数字が消えた成績表。

 

 お母さんはすっごく驚いていて、先生からも「今のまま頑張れば志望の高校に行けますね」とお墨付きを貰った。

 ……残念ながら、進路希望調査書に書いたのは志望校(仮)なんだけど。

 

 先に貰った学校の成績表は脇役であり、私の本命はコンクールの結果である。

 家のポストに例の封筒を見つけた私は、足早に絵画教室へと向かった。

 

 

「絵名ちゃん! こんにちは」

 

「こんにちは、二葉。座ってたのならこっちに来なくても良かったのに」

 

「だって、絵名ちゃんの結果が気になったから……」

 

 

 恥ずかしいのか顔を赤くした二葉の視線が下に向かい、私が持っている固く閉ざされた封筒を瞳に映す。

 

 

「あれ、まだ開けてなかったの?」

 

「学校から家に取りに帰って、すぐにこっちに来たから時間がなくて。そう言う二葉は見たの?」

 

「もう見たよ……結果は残念だったけど」

 

 

 落ち込んだ声で落選と書かれた用紙を見せられるのは気まずい。

 同じ賞に送ろうと誘われて、乗らない方が良かったのではないかと少し後悔しそうになるぐらいには、気まずく感じた。

 

 

「二葉が落選なら、私も危ないかもね」

 

「そんなことないよ! だって2年生になってからの絵名ちゃんはすっごく頑張ってたし、私じゃあ敵わないぐらい上手になってるもん」

 

「そう真っすぐ言われると照れるんだけど……」

 

 

 筆箱からいつものカッターを取り出して、二葉に見守られる中、封を切る。

 数枚の紙から結果が描かれたであろうモノを取り出し、折り目を伸ばして中を見た。

 

 東雲絵名様という頭の言葉と定番の文章の中にある、特別賞を受賞したという言葉。

 落選とは違う文字が紙の上を踊っていて、私は叫びそうになった声を飲み込んだ。

 

 

「受賞って……絵名ちゃん、おめでとう!」

 

「う、うん。これ、夢とかじゃないよね?」

 

「もちろん現実だよっ。すごいなぁ絵名ちゃん、私も頑張らなきゃ」

 

 

 我が事のように喜んでくれている二葉を見て、私の頭は夢見心地の気分から戻ってくる。

 自分よりも喜んでくれている人を見ると気持ちがストンと落ちてきて、頭が冷静になった。

 

 そうだ──これは特別賞。最優秀賞じゃない。1番じゃ、ない。

 夏休みの成果を全て込めて、今できる限りの力を詰め込んで、小さなコンクールで取れたのは特別賞だ。

 

 

(あの子を殺して才能を手に入れた癖に……この程度で満足するな。特別賞じゃ、あの子の理想には程遠いんだから)

 

 

 私の今はあの子の上で成り立っているのに、こんなところで満足してはいけない。

 私はまだ何1つ証明できていないのだから、気を抜く暇なんてない。

 

 まだ、東雲絵名(わたし)は願いを叶えきれていないのだから、走り続けるのだ。

 

 

「ねぇ、二葉。今回の受賞者の絵、見てみない?」

 

「そうだね、私も気になってたんだ」

 

 

 緩んだ心に喝を入れ、二葉と一緒にスマホで今回のコンクールに入賞した絵を検索する。

 最優秀賞、優秀賞、入賞した作品達はどれもすごい絵だ。良いところが次々に思い浮かんで、私には足りていないと痛感する。

 

 

 

 ──お前に絵の才能はない。

 

 

 

 急にフラッシュバックする言葉に、私は頭を軽く振る。

 どうして今、あんな言葉を思い出したのか。

 あり得ないことを考えてしまいそうになって、心の中で苦笑を浮かべた。

 

 

(今は余計なことを考えずに雪平先生の教室に集中。そして、帰ってから反省会をして、思い浮かんだことを全部試す。そして今度こそ最優秀賞を取って証明しなくちゃ。じゃないと私は──)

 

「絵名ちゃん? ボーっとして大丈夫?」

 

「……え? あぁ、ごめん。考え事してた」

 

「もう少ししたら先生も来ると思うし、早く席に着こう」

 

「えぇっ、もうそんな時間!?」

 

「あはは。お互いに思うところもあると思うけど、今日も頑張ろうね」

 

 

 私よりも二葉の方が落ち込んでいる筈なのに、気を遣わせてしまった。

 そのことに申し訳なさを覚えつつも「ありがとう」ともう1度伝える。

 

 そうこうしている間に雪平先生がやって来て、早速、テーマを言い渡された。

 テーマに頭を悩ませてイメージを絞って、表現したいものを紙に描く。

 

 そして今日もまた、ズタボロの雑巾になってしまいそうなぐらい、こってり絞られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。

 ご飯を食べて、彰人達が寝ているであろう時間になっても、私はいつも通り机に付けられたLEDライトを付けて、秋のコンクールに出した絵を見返していた。

 

 

(これは……拙いかもしれない)

 

 

 いつも通り反省点を並べて、改善した方が良いところも洗い出した後、私は胸に襲い掛かる焦燥感に頭を抱えた。

 成長が頭打ちになりましたとか、そういう問題ではない。そっちの悩みはまだ先の話で、伸びしろは沢山あると思っている。

 

 

(どうしよう。今のまま冬のコンクールに出しても、最優秀賞には届かない可能性が高いんだけど)

 

 

 このまま実力を伸ばしても、どこまで伸びるかは目に見えている。

 今までのコンクールの受賞者のことを考えると、奇跡が起きても彼らには届かないだろう。

 

 それでも最優秀賞を狙うというのなら、彼らにはないもっと別の要素も取り入れていかないと届かない。

 最優秀賞を受賞できない。才能を証明できない。

 

 

(画家はお客さんに絵を売る仕事……だからといって、この手は使いたくなかったんだけど)

 

 

 口から漏れる溜息と共に、己の不甲斐なさを吐き出す。

 

 物を売りたいのなら、需要と供給を満たせばいい。

 相手に欲しいと思わせて、お金を出して貰えばいいのだ。

 

 これはコンクールのような『審査員』が決まっているからこそ、客が固定しているからこそできる可能性がある賭けだ。

 絵描きとして、実力を認めてもらわなければいけない存在として、やっていい行動なのかと迷ってしまう手段だ。

 

 

(実力が足りないなら、別の要素で……『審査員を狙い撃ち』して突破できるか試してみて、祈るしか手段がない気がする)

 

 

 他にも方法があるのかもしれないが、私の頭では差を埋めるにはこれぐらいしか思いつかない。

 

 幸いなことに、私の父親は画家であり、彼の個展で絵関係の仕事をしている人達の知り合いも作れた。

 審査員のプロフィールや書籍、ファンが出している情報やネットに発信されている情報を精査して、足りないところは知り合いの人に直接聞いて補完。

 

 審査員の好みの範囲を絞って、後は私の絵に邪魔にならない程度に要素を調和させて、絵を完成させる。

 

 この作戦が通じるかわからないものの、1度は試してみるのも手だろう。

 確か近い内に2つ、コンクールがあるのは覚えていた。

 思いついた小細工が通用するかどうか、その2つで試金石にさせてもらおう。

 

 通用しなければそれはそれで乗り越え甲斐があるし、後は覚悟を決めてやるだけ。凹むようなことはない。

 

 作戦は思いついたし、試すだけの価値はあると思うが──そういう小細工を通用させるにはそれなりの下地も必要だ。

 そして実力を伸ばすには練習しかない。練習練習、また練習である。

 

 

(最近は彰人も歌の練習を頑張ってるみたいだし、私も頑張らなきゃね)

 

 

 記憶を無くしたという話を聞いて、1番傷ついていそうな顔をしたのが絵名の弟の彰人だった。

 最近は歌の練習を頑張っていて悲しそうな顔を見るのも少なくなってきたのだが、それでも私のせいで悲しませてしまっている。

 

 私では、彼が音楽を始めた理由すら思い出せない。

 

 絵名の夏休みの宿題の断片にあった夏休みのお祭りの話。

 ここで弟と音楽を始めるきっかけになった話をしたらしいけれど、私は何1つ覚えていない。

 

 彰人のことだけじゃない。家族のことだって、何も思い出せないのだ。

 

 

(願いを完全成就させたらもしかしたら……って思ったけど、こんな調子じゃいつになるやら)

 

 

 壁にある特別賞貼り付け予定地に視線を向けて、肩を落とす。

 

 あのスケッチブックは記憶を奪う代わりに、絵名の願いを叶えたという。

 しかし、あの絵を見ていればまだ叶っていない要素は多くあり、記憶という大切なものを奪った割には中途半端だった。

 

 壁に並べて貼れるぐらいの賞状。

 記憶を無くしたせいで叶わなくなった、家族の優しげな微笑み。嬉しそうな顔。

 

 もしもこれらを完全成就できたのなら、記憶も戻ってきてくれないかなぁ、なんて。

 現実逃避気味な思考で目標の1つに入れているものの、それらすら私にはまだ難しそうだった。

 

 

「どうしたらいいのかな」

 

 

 呟いた言葉は時計の音に掻き消される。

 時刻は3時過ぎ。流石にそろそろ寝た方がいいかと思い、ベッドに身を投げ出す。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 そう言って眠ったら、次に目が覚めた時に記憶が戻っていないかな。

 

 そうすれば私は記憶のこととか悩まなくても済むのに。

 本当に私が東雲絵名だって名乗ってもいいのか、迷って自分から名乗らないとか臆病な選択も、しなくていいのに。

 

 もしも本当に記憶が戻ってくるというのなら、私は消えてしまってもいい。

 そう思っている反面、その確証がないからと言い訳して、怖いものは何も見ないように現状維持を選んだまま動けないでいる。

 

 スケッチブックだって嫌なら燃やすなり捨てるなりすればいいのに、鍵をかけて保管しているのだってそうだ。

 

 仮に、大切な人が……それこそ彰人が歌えなくなったり、お父さんが利き手を使えなくなったとかで困ったことになったのなら。

 私の記憶や命で助けられるのなら安いのではないかと思って、捨てられずにいる。

 

 

 

 ──私は本当に東雲絵名だって、名乗ってもいいのかな?

 

 

 

 それ以外に名乗る名前がないから、そう名乗らせて貰っているけれど。

 家族や彼女の中学や絵画教室の友達にとっても、私なんて記憶のない別人のようなものだろうに、騙すように名乗り続けてもいいのだろうか。

 

 何をしたら私は東雲絵名(わたし)だって、言い聞かせなくても言えるようになる?

 

 画家になればいい? 沢山の賞状があればいい? 才能を証明する? 絵を描き続ける?

 

 何をしたら、どうしたら、私はここにいても良いよって思えるようになるのかな。

 罪悪感も何も感じずに、普通に笑うことができるかな。

 

 

「だれか、おしえてくれないかな」

 

 

 呟いてみて、苦笑する。

 誰にも相談せずにずっと悩んでる癖に、他人任せにするなんて都合が良すぎた。

 

 

(明日もあるんだから、もう寝よう)

 

 

 沸々と湧き出てくる疑問を考えないようにシャットダウンし、何も考えないように力を抜く。

 

 

  誰か……ここにいても良いよって、許して。

 

 

 寝る努力をしたおかげなのか、私の意識はすぐに落ちていった。

 

 

 

 目が逸らさなくなる瞬間まで、逃げ続けたのだ。

 

 






記憶喪失えななんは受賞する為に『自分のオリジナリティ』の比率を風味程度に留めて『審査員ウケ』を狙いに行った……という設定。
『審査員の為の絵』を描くことにしたとも言います。
はたしてこの作戦は通用するのでしょうか? 通用してしまっても大丈夫なのでしょうか……?



それにしても。
改めてイベストを確認するとプロセカの時系列ってとんでもないですね。

こういうことを考え出すと、プロセカ二次創作してる先達の皆皆様がすごいなぁと、本当に尊敬します。
(後書き長かったので、活動報告に移植と追記しました)
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