イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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大体3話ぐらいの灯のミラージュ編、開始します。




111枚目 大きな子供を探して

 

 

 

 

 まふゆが風邪をひいたらしい。

 

 

 

 昨日の夜の話だが──セカイで集まっていたところ、まふゆが熱っぽかったので解散することになった。

 そういうのも知っていたので、てっきり今日は学校に来ないのかと思いきや、まふゆは当然のように登校してきた。

 

 解熱剤や家にある常備薬を飲んでから学校に来たらしく、咳もなければ鼻も詰まってなさそうなまふゆは一見、何もなさそうに見える。

 

 ……だけど、それとまふゆがいつも通りの生活を送ろうとするのは話が別で。

 

 当然のように先生を手伝おうとしたり、クラスメイトに手を差し伸べるバカの間に入ってガードする仕事をしていたせいで、私は燃え尽きた状態で夜を迎えていた。

 

 

 

「──私が風邪ってわけじゃないのに、今日はすっごい疲れた……」

 

『えっと。おつかれさま、えななん』

 

 

 (K)の労いの言葉が唯一の癒しだ。

 

 まふゆ()の体調不良もあって、暫くの間、作業はお休みである。

 それなので瑞希(Amia)は当然のこと、風邪を引いて寝ていなければならないおバカさんもここにはいない。

 

 休みの日なのにどうしてKがナイトコードにいるのかはわからないけれど、いるのであれば丁度いい。

 そういうわけで、私はKに今日あったことをつらつらと話していたのである。

 

 

「はぁぁ……しんどいのなら断ったり、隠れたらいいのに。何でいつも通りの激務を熟そうとするんだろ」

 

『雪って、えななんがそんなに疲れるぐらい学校で頼られてるの?』

 

「とりあえず困ったら朝比奈さんって風潮あるからねぇ。誰も彼も、まふゆ以外にも人が沢山いるのが見えないんですかー? よければ眼科紹介しますよーって言いたい」

 

『え、えななん。落ち着いて』

 

「……ごめん」

 

 

 動物が威嚇するような音が喉から漏れ出てしまい、Kから宥められてしまった。

 ナイトコードで暴れたって問題は解決しない。深呼吸して精神を落ち着かせる。

 

 

「ただ、頼られるだけならいいんだけどさ。ぜーんぶ受けるのよ、あいつ。おかげさまで先回りするこっちも疲れちゃった」

 

『でも、えななんのおかげで雪も楽になってると思うよ』

 

「それならいいんだけどね……まったく、世話が焼けるんだから。いつも頑張ってるんだし、辛い時ぐらい休めばいいのに」

 

 

 何とか昼休みは準備室に連行し、昼ご飯を食べさせて寝かせるなどの努力はしてみたものの、どこまで効果があるのやら。

 

 早く休みよ来い、無理して学校に来るバカの為に! と迫真になってしまう私がいても、許してほしい。

 

 

「明日は体育もないけど、予備校があるとか言ってたっけ。きっと、行こうとしてるんだろうなぁ」

 

『雪の予定、把握してるの?』

 

「朝に登校してきた時点で嫌な予感がしたから、明日の予定だけ聞き出した」

 

 

 どうせ明日は学校を休むように言い聞かせても、お母さんに心配かけたくないとか熱が下がったとか色々言って、登校してくるのは目に見えているのだ。

 

 であれば、妥協できそうなところを探して、こちらで阻止していくしかない。

 その為に、ぼんやりしがちなまふゆから明日の予定を聞き出した。

 

 

 そうすれば案の定、予備校の課題をやろうとしてたり、委員会に出ようとしてたりしてるから堪らない。

 

 委員会はまふゆのタイミングで行けてしまうので止めれなくても、せめて予備校には行かずに休ませなければ、治る風邪も治らないだろう。

 

 

「あいつの行動を縛るつもりはないし……無理してそうなら、阻止するつもりで動くことにしようかな」

 

『そうだね。無理するなっていうのは、わたし達が言えることじゃないけど』

 

「あー、Amiaなら『えななんはノーコンなのにブーメランの扱いは上手だね〜♪』とか言ってきそう」

 

『どうかな、それは偏見かもしれないし』

 

 

 Kは優しいから庇っているけれど、Amiaならばそれに近い言葉を言ってくるだろう。賭けてもいいぐらい自信がある。

 

 

「雪が明日、休んでくれたら1番話が早いんだけどね」

 

『わたしじゃ何もできないし……えななん、雪のことお願いしてもいい?』

 

「はは。それしかないよね」

 

 

 1日で完治するか、学校に来れないくらい悪化するか。

 どちらであってくれと祈りながら、私達はこの日、解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──昨日、フラグを乱立させてしまったらしい。

 

 

「まふゆー、まふゆー?」

 

 

 まふゆの代わりに先生の仕事を手伝ってから教室に戻ると、教室には見慣れた紫髪が見当たらなかった。

 

 帰りは家まで送るからおとなしく待っていてと伝えたはずなのに、どうして姿が見えないのか。

 嫌な予感がするものの、とりあえずまだ教室にいたクラスメイトに声をかける。

 

 

「ごめん、朝比奈さんってどこに行ったか知ってる?」

 

「え、さっき帰ったよ。予備校に行かなきゃ行けないらしくて、部活に寄れないって後輩の子に断ってたし」

 

(あ、あのバカ……ッ!)

 

 

 下ろしていた左手が握り拳を作り、怒りで震えてしまうぐらい力を込めた。

 しかし、その怒りを表に出すわけにもいかないので、私は慌てて笑みを取り繕う。

 

 

「教えてくれてありがとう。おかげで校内探索はしないで済みそうだよ」

 

「いいよ、これぐらい。今日の東雲さんの動きを見るに……朝比奈さん、あんまり体調良くないんでしょ。風邪とか帰り道とか、色々気をつけてね」

 

「あはは、そうする。そっちも気をつけてね。じゃあ、また明日」

 

「うん、またね!」

 

 

 まさかあの笑顔の仮面を見破れる生徒がいるとは予想外である。

 彼女は特にまふゆと話すタイプではないのに、内側より外から眺めている子の方がまふゆを理解しているなんて、皮肉な話だ。

 

 そんな滅茶苦茶察しの良いクラスメイトに見送られて、私は教室を飛び出す。

 

 

 

(お昼の時点でフラフラし始めてたのに、何で予備校に行こうとするのかなぁ。バカ、本当にバカ!)

 

 

 まさかと思って朝、早めに来たら委員会に出ているどころか先生の手伝いをしているまふゆを目撃し。

 

 危うく紫髪に向かってフルスイングしそうになった衝動をグッと堪えて、先生を口先だけで丸め込み、バカの仕事を強奪。

 

 そこからクラスメイトや先生、後輩とバカの1つ覚えのように頼ってくる人達を別の人を頼るようにちぎっては投げ、ちぎっては投げて。

 

 いい加減、上手く断る方法を覚えてもらった方がいいんじゃないかと思いつつも、本人が必要としていないのなら押し付けられないしと、悶々としながら授業の時間をやり過ごして。

 昼休みは昨日と同じように準備室に押し込んで、強制的に昼食と休みを取らせた。

 

 ここまでやってもまふゆはまだ辛そうだったので、今日は予備校に行かずに休むよう、何とか説得できたと思っていたのに。

 

 目を離した隙に、まふゆは姿を消していた。

 口煩い私がいないことを良いことに、自分の『やらなきゃいけないこと』を優先したのだ。

 

 

(あぁもう、自分が嫌になる! 渋ってたまふゆを見たら、その後の行動なんて予想できたはずなのに……!)

 

 

 何がそこまでまふゆを予備校に向かわせるのかはわからないけれど、もしもそこら辺で倒れていたら、後悔してもしきれない。

 

 とりあえず、まふゆが行きそうな場所……というか、予備校に向かう。

 

 去年と同じ場所なら公園を通る道を行けば早く辿り着けるはずだ。

 速足で目的地に向かいつつ、私はスマホを操作する。

 

 奏は……今日はお父さんのお見舞いに行くと言っていたし、病院内で電話を取らせるのも悪いから個チャで返信が来てから電話しよう。

 

 ならば1番最初に電話するのは瑞希か。

 電話に出なさいよ、と祈りながら電話をかけてみると、ワンコールで聞き馴染んだ声が応答した。

 

 

『はいはーい。こちら瑞希、ご用件をどうぞ。オーバー』

 

「……冗談言ってる場合じゃないんだけど。はぁ、今度は何のアニメに影響されたのやら」

 

『ないしょ~♪ それで? 何か慌ててるっぽいけど、どうしたのさ』

 

「まふゆが目を離しているうちにどこかに行っちゃったの。だから、瑞希の手を借りたくて……」

 

『えっ!? それを早く言ってよっ』

 

 

 何かを崩したのか、電話越しでドンガラガッシャーンッ! と大きな音が響いた。

 

 相手の方が動揺していると冷静になるというか、耳が痛い方が気になるというか。

 きっと今の自分は呆れているのが顔に出ているのだろうなと自覚しつつ、足を止めずに電話越しに声をかける。

 

 

「大丈夫? そっちも大変そうだし、電話切ろうか?」

 

『待って待って待って! 態々電話してくれたってことはまふゆを探す人手が必要ってことでしょ。ボクも手伝うから……あいたっ』

 

 

 ゴーンッと鈍い音が響き、瑞希の呻く声が聞こえてくる。

 

 本当に、電話越しでは何が起きているのか。瑞希の『あーっ。やっちゃった!』という声と片付けているような音を聞きながら早歩きをしていると、通過点の公園に辿り着いた。

 

 

「あ……」

 

『絵名? どうしたの?』

 

「どうしたのはこっちの台詞なんだけど、瑞希の手伝いは今、いらなくなったっぽい」

 

『もしかしてまふゆが見つかったの!?』

 

「そのもしかしてよ。ただ……」

 

『ただ?』

 

「奏が潰れそうになってるけど」

 

『え、一体どういう状況なの!?』

 

 

 努めて冷静になろうと努力しているけれど、それはこっちが叫びたい台詞である。

 

 ぐったりとしているまふゆと、それを持ち上げようとして潰れかけている奏。

 そんな状況を見る限り、まふゆが公園でダウンしていたのを見つけた奏が、救助してくれたのだろうが……奏まで要救助者になりかけている。

 

 

「電話したのにごめん、奏を手伝ってくる」

 

『あー、そっか。まふゆのこと、よろしくね』

 

「うん。瑞希もありがと」

 

 

 瑞希に助けを求めている間にまふゆを発見できたけれど……事態はあまり良くないようだ。

 意識はあると思っていたまふゆの意識は朦朧としているようで、そのせいで奏も運ぶのに苦戦しているらしい。

 

 

「奏」

 

「あ、絵名……もしかしてまふゆを探してたの?」

 

「そいつ、黙って学校を出ちゃったから。倒れてたら大変だと思って探してたんだけど……奏に見つけて貰えてよかった」

 

「偶然なんだけどね。わたし1人だけなら(ウチ)で休んで貰おうと思ったんだ」

 

 

 真剣な面持ちでそう言ってくれる奏の顔はとても頼もしい。

 しかし、少し視線を下に向ければ、まふゆを支えているか細い両足は『もう限界ですーっ』と悲鳴を上げているように震えていた。

 

 

「えっと。そのまま見送るのも心配だし、せめて手伝わせてくれない?」

 

「……正直に言うと、絵名が手伝ってくれるとすごく助かる」

 

 

 奏も無理をしている自覚があったようで、弱々しい笑みを浮かべる。

 私は大きな手のかかる子供(まふゆ)を背負って、まふゆの荷物を持ってくれている奏の後ろを付いて行く。

 

 手入れもしていないと聞いているのに絹の様に綺麗な長い髪を追いかけているうちに安心したのか、ふと、どうでもいいことを思い出した。

 

 

(そういえば私、奏の家に行くのは初めてかも)

 

 

 

 






原作の絵名さんは度々奏さんのお家に行きたがってましたが、行きたい欲がないえななんがあっさり行っちゃうという。
これが物欲センサー……?(たぶん違う)
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