原作とは違い、既に文化祭の時から待ちの姿勢だったえななん。
さて、今回のイベストはどうなることでしょうか……早速スタートです。
とある日の25時、ナイトコードにて。
まふゆの歌詞がついてからイラストも完成させた後、私と瑞希は動画を完成させるために日夜励んでいた。
大まかなイラストを描いた後もMVのために細かいところを追加したりと時間をかけてしまったものの、今日、何とか動画を完成させた。
今はそのMVを奏とまふゆに見せて、反応を待っている最中なのだ。
瑞希とも話し合って作成したから自信はあるものの……奏達に見せる時と動画を公開した時はいつもドキドキしてしまう。
『──うん、すごく良くなってる。これでアップしよう』
誰も見ていないことを良いことにソワソワと手を握ったり開いたり動かしていると、
それと同時に安堵したらしい息を吐いたのは
『やったー! 徹夜して直した甲斐があったぁ』
昨日は共に徹夜したこともあって、Amiaはすごく嬉しそうだ。
私も今回は早めに準備した割にはいつも通りの時間に完成するという苦戦を強いられていたので、Amiaの小躍りしそうなぐらい明るい声には全面的に同意である。
「本当に、何とかなって良かったよね……」
『えななん、最後の調整、相談に乗ってくれてありがとね!』
「おかげでお互い寝不足だけどね。Amiaもちゃんとこの後は休みなさいよ」
『あはは、りょーかい! 昼までたっぷり寝ちゃおっかな』
私は明日も学校なので普通に登校する予定だが、Amiaには是非ともゆっくり寝てほしいものである。
『これで曲もMVも完成だね』
『だねー。動画、沢山再生されるといいね!』
Kの言葉とAmiaの嬉しそうな声でやっと、私も曲が完成した自覚が出てきた。
Kが苦労して作り出して、
それが世に出るのだから、感慨も
『それじゃあ、アップするよ』
Kの宣言と共に、夜の遅い時間にネットの海へと放出されるニーゴの動画。
バズとか小手先のことを考えると、動画の投稿時間としては適切ではないのだろうけど……私達にとってはこの時間だからこそ良い。
それに、今回の曲はKにとっても雪にとっても思い入れの曲だ。きっと、沢山閲覧されるだろう。
「動画の反応とかも気になるけど……すぐに反応が来るとは思えないし、もう寝ちゃおっかな」
『そうだね。最近は作業が長引きがちだったから、今日は早めに切り上げてゆっくり休もうか』
私の言葉にKが続いてくれたので、今日の作業は2時を少し過ぎた時間で切り上がることになった。
ありがたい話だ。これならば昨日の徹夜を取り返す気持ちで眠ることができるだろう。
『じゃあ皆、おやすみ』
『おやすみ〜、ボクもゆっくり寝るぞー』
「2人ともおやすみ、また明日ね」
KとAmiaがナイトコードから出ていき、珍しく私と雪が残った。
「あんたも明日、ちゃんと学校に行くんでしょ。早く寝なさいよ」
『うん……』
返事はあるのに、雪は中々ナイトコードから出て行こうとしない。
このままだとずっと画面越しで見つめ合うことになりそうだったので、私の方から動いた。
「じゃあ、私もそろそろ落ちるから」
『えななん』
「うん? 何よ?」
『……なんでもない。お疲れさま』
「え、それだけ? ……その、おやすみ」
何でもないというには無理があるぐらい間を溜めて発言したのに、雪はあっさりとナイトコードから抜けてしまった。
(絶対に何かあるでしょ、あれ)
とはいえ、今から電話をするのも忍びない。
明日学校に行くのは否定してなかったので、明日、問い詰めてみよう。
(そうと決まればまずは……明日に備えて早く寝よっと)
推定・
明日の準備もそこそこに、私はベットの中へと潜り込んだのだった。
☆★☆
「おはよう、まふゆ」
「おはよう」
朝の教室にて、委員会も特になく予習をしているいい子ちゃんを美術準備室まで連行した私は、早速、気になっていた理由を問い詰めることにした。
「まふゆ、昨日のナイトコードでのあれは何なの?」
「……」
「えっと、聞こえてる?」
「聞こえてるよ」
「ふぅ……聞こえてはいるのね」
ならばちゃんと返事をしろ、と怒らない私は今日もアンガーマネジメントが上手くできているらしい。
優等生をかなぐり捨てたまふゆと話す時のコツは『根気強くあれ』だ。怒っていても何も解決しないのである。
「昨日の夜、何か言いたそうにしてたでしょ。何かあったのかと思ったからここまで連れて来たんだけど」
「何かは感じたけど……絵名じゃなかったみたいだから」
「つまり、何か感じたから私を疑ってみたけど、昨日話しかけた感じ違ったから何も言わなかったと?」
「昨日の時点ではわからなかったけど……今、話して違うなって思った」
まず違和感を覚えたら私を疑うのは何事だと言いたいところだが、最近の私は前科がある。まふゆには何も言えない。
(それよりも気になるのがまふゆの感じたことの方かな)
朝比奈まふゆは自分のことはわからないらしく、鈍いところがある。
……リンからは『絵名がそれを言わないで』という評価も貰っているが、それは脇に置いておくとして。
とにかく、まふゆは自分への感覚も他人に振り分けているタイプなのだ。そのまふゆが昨日のナイトコードでの会話で『何かを感じた』と言って探りを入れているのであれば、それを無視するのは得策ではない。
「やっぱり引っかかったのは瑞希?」
「どうだろう。私は絵名だと思ったからわからない」
「何それ。じゃあ、瑞希じゃないってこと?」
「……瑞希も絵名並みに隠れるのが上手でめんどくさいから、私に聞かれても困る」
「いやいや。あんたも面倒なタイプよ? 自分のことを棚に上げるのはやめてよね」
何を言っているのかわからないと首を傾げるまふゆの額を人差し指で小突いてやる。
まるで自分は関係ないと言わんばかりの顔でしれっと『めんどくさい』の称号を押し付けてくるが、まふゆも大概なのだ。知らんぷりはやめてもらおう。
「……団栗の背比べ」
「まふゆ、ちょっと黙ろうか」
余計なことを言う口を閉じさせて、明後日の方向に飛んでいきそうな思考を戻す。
私が気が付いたことではないので情報が少ないものの、まふゆが気になって探ってくるぐらいなのだ。気を付けた方が良いのは明確だろう。
(公園でのこともあったから瑞希だって決めつけたけど……決まったわけじゃないし、2人とも気をつけた方がいいよね)
瑞希と山勘をしてみたものの、奏が思い悩んでいる可能性だってあるのだ。決めつけるのはよろしくない。
とりあえず奏には今のうちに連絡を送っておいて、読んでもらえたら御の字程度の気持ちで。
瑞希は昼まで眠るという話なので、今連絡を送るのはやめておこう。
「まふゆ、時間を取らせてごめんね」
「今日は特に急いでやることもないから大丈夫。無理なら断ってる」
「私相手なら断れるのねー。それ、普段からできてたらいいのに」
「……」
「はいはい、難しいわよね。無理言ってごめんってば」
じっと、黙って見つめてくるだけなのに何を言いたいのか予想できてしまって、私は苦笑した。
パッと見れば何を考えているのかわからない無表情でも、何となくその場の空気や行動でわかるようになったのは付き合いの長さだろうか。
このまま準備室で話していても楽しいのだが、時計の針がそれを許してくれそうにない。
無理してでも優等生生活を続けているまふゆの努力を水の泡にするのも不本意なので、私は時計を指さしながら提案する。
「そろそろ予鈴が鳴る時間だし、戻ろっか」
「うん、早く行こう」
まふゆも反対することなく頷いてくれたので、2人揃って教室に向かう。
気持ち早めに戻った甲斐があってか、先生が教卓の前に立つよりも早く席に戻ることに成功し、そのまま1限目を迎えた。
──そこまではいつも通りだったのだが、私にとって都合が良いことに2限目には予定外の連絡が舞い込んできた。
「今日は古典の先生がお休みになりましたので、2限目は自習です」
幸運なことに、先生不在である。
課題さえサクッと片付けたら後はコソコソ隠れて何かしても良い天国。ボーナスタイムだ。
普段の私ならスケッチブック1択だが、現在の時刻は10時。そろそろ瑞希が起きていても不思議ではない時間なので、ここはスマホを選ぼう。
先生が来た時のために古典の教科書を開き、その教科書の隙間にスマホを滑らせる。
下にノートも広げれば偽装工作は完成。先生が来ても咄嗟に教科書でスマホを隠せるステキな盗み見スマホスタイルだ。
(瑞希との話のネタはどうしようかな……あ、新曲の再生回数がいつもより伸びてるし、これにしよ)
瑞希が起きていることを願って『起きてる? 新曲の再生数見た?』と送信する。
どうやら瑞希は起きていたようで、すぐに返信が来た。
『見た見た! いつもの倍ぐらい伸びててすごいね!』
『ねー。MVもぴったりだってコメントも沢山あるし、今回、今までで1番バズるかもよ』
『だね! Kも雪も喜んでくれたらいいな~!』
文字からでもわかるぐらい嬉しそうな文章である。
これだけならいつもの瑞希らしいので問題はないが、やっぱりまふゆの言葉もある。少し、私の方からも仕掛けてみよう。
『じゃあ、そろそろ次の打ち上げの日を決めよっか。この前言ってた林檎フェアは難しそうだけど、Amiaはいつなら大丈夫そう?』
さて、どう来るか。
数分程待っていると、少し長めの文が送られてきた。
『バイトのシフトが確定してないからまだはっきりしないんだよね。今週には決まるはずだから、決まったら連絡するよ』
『わかった。雪とKにも聞いておくね』
林檎フェアがーっと楽しみにしていた割に、瑞希から来たのは玉虫色の返事だ。
ハッキリとしない時は大体誤魔化してる時が多いことを知っているだけに、何かあったのかもしれないと疑ってしまう。
『打ち上げ、ちゃんと来てよね。Amiaがいないと盛り上がらないんだから』
『もう、しょうがないなー。えななんってば寂しがりなんだから〜♪』
間があって返ってきた返事を確認してから、私はスマホを隠しながら目を閉じた。
(やっぱり、まふゆの予感は外れてなさそうね……外れててくれて良かったのに)
単純な文字のやり取りだけでも嫌な予感が膨らみ、私は大きくため息を漏らしてしまった。
こちらの様子を窺っていたらしいまふゆと目が合ったものの、首を横に振って大丈夫だとジェスチャーを送る。
(瑞希って隠すのが上手なタイプだし、無策で突っ込んでも拗らせそう……どんな感じなのか、一旦様子を見るしかないかな)
自習の時間ではこれ以上できることはない。
気になってしまうものの、私も課題を片付けるために目の前のことに集中することにした。
ここのまふゆさんが『わからないけど様子がおかしいかも』と感じた時に真っ先に確認するのはえななんです。
仮に間違っていても、悪い結果にはならないと思ってるからでしょうね。