イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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123枚目 手探り、探り

 

 

 

 

 

「ってわけで、かんぱ~い! 皆、今回の曲もお疲れー!」

 

「うん、乾杯」

 

 

 いつものファミレスにて、瑞希のハイテンションな声が音頭を取る。

 相変わらずのハイテンションに誰も追従していないものの、奏は落ち着いて乾杯を返していた。

 

 ちなみにまふゆは相変わらずのテンションが低い(ローテンション)で、とても打ち上げをしに来たようには見えない。

 どうして瑞希もまふゆもテンションが両極端なのか。奏がいなかったらテンション差で風邪をひいてしまいそうだ。

 

 3人の様子を見比べつつ肺から息を抜いていると、ふと、珍しい姿を目にした。

 

 

「あれ、まふゆがずっとスマホを見てるなんて珍しいじゃん。何見てんの?」

 

「コメント」

 

 

 まふゆが打ち上げの時にじっとスマホを見ているのも珍しいが、コメントを見ているのも珍しい。

 そう思ったのは私だけではないようで、瑞希がウキウキとした様子で握り拳をまふゆに向けた。

 

 

「珍しいこともあるんだね~。それでどう? コメントのご感想は!」

 

「何時もより長文のコメントが多い」

 

「あ、気になったのはそこなんだ……」

 

 

 瑞希は何か言いたげだが、ちゃんと答えてくれるだけまだマシになったと思う。

 

 高校1年生の時の素のまふゆに聞いたら、高確率で「どうして答えなきゃいけないの?」とか「答えて何の意味があるの?」という返事が返ってくるに違いない。

 

 しかも本人は本当にわかってなくて、純粋に疑問だから聞いているっていう厄介さ。

 そういう前提を踏まえると、ちゃんと言えるなんて随分と成長したなと感動してしまう。

 

 

「絵名」

 

「何よ?」

 

「変なこと考えないで」

 

 

 まふゆの成長に喜んでいたら、本人から釘を刺されてしまった。ちょっと悔しいのでゴネようか。

 

 

「べ、別に『色使いが凄くいい』ってコメントに感動してただけだから。やっぱりわかる人にはわかるよねーって」

 

「絵名……誤魔化し方が下手だね」

 

「コメントに感動したのも本当だし」

 

「自白してるよ」

 

「自覚してる」

 

 

 まるでコントのようなやりとりをしていると、奏がクスクスと笑い出した。

 どうやら奏のお気に召したらしい。楽しそうなら何よりである。

 

 

「ふふ、でもよかった。皆にわたし達の曲が届いてるみたいで、すごく嬉しいな」

 

「うん! やったね、奏! さぁさぁ、今日はいっぱい食べてお祝いだ〜♪」

 

 

 奏のコメントに瑞希は笑いながら、冷ましていたポテトを前に差し出す。

 2つ注文していたのは自分用と皆の分としてだったのか、ちゃっかり1つ分は瑞希の前にある。

 

 奏が「ありがとう」と言いながら瑞希のポテトを摘み始めたので、私も目の前のパンケーキに手をつけようか。

 そんな軽い気持ちでフォークに手を伸ばすのと同時に、店員が席に近づいてくる。

 

 

「お待たせしました。ホットティーです」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 どうやらまふゆだけが注文したらしく、一瞬だけ愛想笑いを浮かべて店員から受け取った。

 

 

「まふゆ、今日は誰かと同じ注文じゃないんだ?」

 

「奏はチャーシュー麺だし、絵名もパンケーキだったから。私はそんなにお腹が減ってない」

 

「へぇ。前は何でも良いって言って選べなかったのに、ちゃんと選べたんだ?」

 

「何となくだけど」

 

 

 前までなら逆に何でも良いから選べなくなっていたのに、随分と成長したものである。

 釘を刺されていたのもすっかり忘れて感動してしまい、またしてもじっとりとした視線を頂戴した。

 

 

「絵名の視線、鬱陶しい」

 

「ちょ!? そこまで言わなくても良くない!?」

 

「絵名ー、ここファミレスだからねー。どうどう、どうどうどう、落ち着いてー」

 

 

 間に入って仲裁しようとしてくれる瑞希に対して、まふゆは首を傾げる。

 

 

「瑞希のそれ、馬を落ち着かせる時に言う言葉じゃないの? 絵名を馬扱いするなんて酷いね」

 

「えっ……そうなの? 何だか悲しくなってきたんだけど」

 

「待って。そんなつもりで言ったんじゃないから待って! えっと、そのぉ──」

 

「ふふっ……」

 

 

 まふゆの言葉に私も乗っかって、仲裁しようとしていた瑞希が慌てて弁明する。

 その様子に一歩下がって見守っている奏が笑うので、私と瑞希は顔を見合わせて笑い合った。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 ──いつも通り、楽しい打ち上げの時間が過ぎていき……気がつけば良い時間になっていたので、ファミレスを後にする。

 昼に集まっていたはずなのに、外に出たらもう日が暮れそうだ。

 

 ファミレスから少し離れた場所まで歩いていると、オレンジ色の空を見上げた奏がほう、と息を吐いた。

 

 

「もう日が暮れそうなんて、時間が経つのが早いね」

 

 

 奏の横に並びつつ、まふゆがこちら側を見ながら問いかけてきた。

 

 

「今日はこれで解散?」

 

「そうだね! 今日は解散して、またナイトコードで集合かなぁ……」

 

 

 隣にいる瑞希も特に反対せずに頷くので、今日はこのまま素直に解散になりそうだ。

 私も反対するつもりはないので口を開こうとしたのだが──ふと、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 

 

「あ! もしかして瑞希?」

 

 

 瑞希が「え?」と呟きながら振り返るので、私も合わせて振り返る。

 

 

「やっぱり瑞希だ。こんなところで会うなんて偶然だねー!」

 

「えぇっ、杏!? それにこはねちゃんに弟くんや冬弥くんまで!」

 

 

 後ろを向いた私の目には、白石さんを先頭にしたVivid BAD SQUADの面々が勢揃いしていた。

 勢揃い、といっても白石さんが先走って、その後ろを3人が追いかけてきたらしい。

 

 追いついて白石さんの隣に並んだ小豆沢さんは、ゆっくりと息を整えてから瑞希に頭を下げる。

 

 

「あ、暁山さん! 文化祭の時は色々と気を遣ってくれてありがとう……!」

 

「あぁ、気にしないでよ。こっちもこっちで絵名と回ったし!」

 

 

 小豆沢さんの頭を上げさせた瑞希に、今度は男子組が声をかけてくる。

 

 

「暁山か。夏祭りぶりだな」

 

「最近はあまり見かけてなかったが、元気だったか?」

 

「うん、元気だよー! っていうか、そっちこそ揃ってどうしたの?」

 

 

 瑞希と白石さん達が話している間に、私はこっそりとまふゆ達の後ろに移動した。

 コソコソしてしまうのは申し訳ないが、弟の視線が痛いのだ。戦略的撤退である。

 

 

「私達はイベントをやって来てその帰り! それで、そっちの人達は……?」

 

「こっちは前にちょっと話した音楽サークルの子達だよ。ボク達、今日は打ち上げで集まってたんだ」

 

「へぇ、そうだったんだ! 初めまして、瑞希のクラスメイトの白石杏です!」

 

「あ、どうも……宵崎奏です」

 

「朝比奈まふゆです。態々丁寧にありがとう」

 

 

 ぴゅーっと奏とまふゆの後ろに隠れた筈なのに、奏達に注目が集まったので隠れた私にまで視線が注がれる。

 彰人の何をやってるんだと言わんばかりの目が辛い。このまま他人のフリができればいいのに、目を細めた弟は逃がしてくれなかった。

 

 

「さっきから何やってんだよ、お前」

 

「何か嫌な顔されてるし、隠れようかなーって」

 

「そっちの方が反応に困るんだが……」

 

 

 噛みついた方が彰人のお好みだったらしい。確かにそちらの方が絵名らしいか、不覚である。

 反省したので隠れようとしていた姿勢を解除し、冬弥くん達に向けて手を振った。

 

 

「絵名さんも暁山と一緒にいたんですね」

 

「うん、そうなの。瑞希とは同じサークルで活動しているから、よく遊ぶのよね」

 

 

 冬弥くんの言葉に首肯すると、白石さんもするりと話に入ってくる。

 

 

「じゃあ、瑞希から聞いていたよく遊ぶサークルの子っていうのは絵名さんだったんですね! まさか絵名さんだったとは予想外でした!」

 

「予想外って、瑞希は白石さんにどんな話をしてたの?」

 

「え、別に変な話なんてしてないよ!? 杏もやめてよーっ」

 

 

 白石さんの話題の矛先をちょっと瑞希に向ければ、そのまま2人は楽しそうに話し始めた。

 どうやら白石さんと瑞希はただのクラスメイト、と分類するには仲が良い方らしい。

 

 ほんの少し、探りを入れてみようか。

 

 瑞希の秘密の件は待つと言ったものの、乃々木公園でのことを見ると少しは探らないと心配になる。

 別件で瑞希が困っているのに、気が付かなかったとか何もできなかった……というのは嫌だった。

 

 

「白石さんと瑞希って仲が良いんだね。ねぇ、学校での瑞希はどんな感じなの?」

 

「え、絵名……?」

 

 

 震える瑞希の声が鼓膜を揺らして、私の罪悪感を煽るがここで引き下がるなら発言した意味がない。

 

 そんな私の引き下がりそうにない空気を察したのか、白石さんは瑞希と私を交互に見比べた後に、薄らと笑みを浮かべた。

 

 

「瑞希ですか? いつも自由人って感じですね! 授業も出たり出なかったりで……」

 

「そうなんだ。それでクラスの子から不評だったりしない?」

 

「授業に出なくて何か言うのは先生ぐらいですよ。いろんな先生に「成績は良いのに〜」ってコッテリ絞られてるんですよねー♪」

 

「……も〜っ! 杏ってばそんなことまで言わなくても良いのにっ」

 

 

 たぶん、白石さんも反応したのは私が瑞希の件で探りを入れているとバレバレだったからだろう。

 瑞希にも負担をかけてしまったし、露骨過ぎたのは反省しなければ。

 

 

(でも、今ので1番懸念していた線は消えたかな)

 

 

 白石さんのような子が物語で出てくるような苛烈な方法で追い詰められているのなら、あんな反応にはならないだろうし。

 

 ……その代わり、真綿で締め付けるような苦しみが、乃々木公園での1件や学校に行ったり行かなかったりしていることの原因であるのは確定したのだが。

 

 

(ねぇ、瑞希。私が待つことを選んで、少しは楽になったの?)

 

 

 瑞希を苦しめるぐらいなら、待つことを選んでみたけれど。

 それでも瑞希が苦しいって言うのなら、私は──

 

 ぐるぐると頭の中で言葉が回っていると、耳が大切な言葉を拾って脳に届けてきた。

 

 

「あ、ごめんなさい。私、門限があるからそろそろ帰らないと」

 

「じゃあ、オレ達もここで解散だな」

 

 

 考え事をしている間に時間が過ぎてしまったようで、まふゆと彰人の声を皮切りに解散することが決まったらしい。

 全員、解散する空気を出しているものだから、私は慌てて白石さんに声をかけた。

 

 

「白石さん、色々とお話ありがとね。それと……学校に来てたら、瑞希のことをよろしく」

 

「もちろんです、こちらこそありがとうございました! それじゃあ、皆さんさようならー!」

 

 

 笑顔で手を振る白石さん達を見送り、同じく帰ろうとする瑞希の方を盗み見る。

 

 

「……」

 

 

 気が抜けていたのか、タイミングが良かったのか。盗み見た瑞希の顔はやはりどこか影があるように見える。

 

 

(……やっぱり、力になりたいって思うのは迷惑なのかな)

 

 

 深く入り込むことで苦しくなることだってあるのは、わかっている。

 誰にだって知られたくないことがあるのなんて、身をもって体験しているつもりだ。

 

 でも、だからこそ。

 

 待っていて楽になれるのなら、いくらでも待つ覚悟はある。でも、私自身が大切な人の苦しむ理由の1つになってまで待ちたくない。

 そう叫んでいるこの感情は間違いなのかもしれない……が、知ってしまった以上、ただ待つのは難しそうだった。

 

 

 

 

 







正解か間違いかだなんて、その時々の状況や相手や自分の解釈によるから難しいんですよね。

結果がわかるのはやってみてからのお楽しみなのでしょう。
……やるしかない側からすると心臓が痛いしやめてーって叫びたくなるんですけど。

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