イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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124枚目 オーバー・リアクション

 

 

 

 

 

(……やっちゃった、かな)

 

 

 昨日の夜に作業を休んだ瑞希に対して、私の頭の中に浮かんだ言葉がソレだった。

 

 瑞希はいつかのまふゆの時のように、黙って休んでいるわけじゃない。

 ちゃんと『ごめん、今日は調子が悪いから休むね』という連絡も入っている。

 

 最近は徹夜していたし、もしかしたら本当に風邪という可能性もあるかもしれない。

 だけど、私には打ち上げの日に白石さんにやってしまった瑞希的減点行動があるのだ。そうですかと受け入れられるはずもなかった。

 

 

(今日も来てなかったらどうしよう)

 

 

 頭の中でフワフワと不安が浮かんでは消えている間に、スマホに設定していたアラームが鳴り響く。

 

 25時前になったら気が付けるようにと設定したものだ。これを無視したら作業に遅れてしまうし、瑞希に続いて私まで心配をかけるわけにはいかない。

 

 諸々の考えは一旦他所に追いやって、私はナイトコードにログインした。

 

 

「おまたせー。遅くなっちゃってごめんね」

 

『大丈夫、わたし達もついさっき入ったところだから』

 

『うん』

 

 

 (K)まふゆ()の声が鼓膜を揺らすものの、来ていてほしい人の声はない。

 的中してしまった予感に口角が引き攣ってしまうが、声には出ないように努める。

 

 

「……Amiaはまだ来てない?」

 

『連絡は来てないよ』

 

「そっか」

 

 

 嫌な予感が的中したかもしれない。背筋が凍ってしまったように寒くなる。

 嫌な予感を振り払うためにスマホに手を伸ばすのとほぼ同時に、ナイトコードに最後の1人がログインしてきた。

 

 

『やっほー♪ 遅れてごめーんっ!』

 

「あ、Amia! ここに来たってことはあれなんだろうけど、調子はどうなの?」

 

『あはは、昨日はごめんね。この前の徹夜がちょーっとキツかったみたいなんだ。でも、今は大丈夫だよ!』

 

 

 ボイチャに入ってきたAmiaの声は元気そうに聞こえる。

 

 ただし注意しなくてはいけないのが、Amiaという子は言葉やテンション通りに受け取ったら、気がつけるものも全く気がつけなくなるという点か。

 正直に言うと、今回もそのパターンだと私は疑っていた。

 

 しかし、Kは特に何も言わず『じゃあ作業を始めようか』と、雪と一緒にデモのブラッシュアップを始めてしまう。

 

 こうなったら私も脇道に逸れることは難しい。

 仕方がないので、Kの指示通りにAmiaとモチーフのアイデア出しをすることになった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「──うん、アイデアはこんな感じでいいんじゃない?」

 

 

 ある程度話し合ってから、私はAmiaに声をかけた。

 キリが良いという理由もあるが、そろそろまたAmiaにちょっとだけ探りを入れたいという下心もある。

 

 

『そうだねー! この調子だったら今回は徹夜を回避できそうかな〜』

 

 

 嬉しそうな声を出しているAmiaに水をかけるのか、否か。

 正直、休んだ理由のこともあって、先送りにしてしまっている。

 

 粉砕するまでぶつかるぞ、相手が折れるまでダイレクトアタックだと力技大好きな人間だという自覚はある。

 あるけれど、雪との長い付き合いやら様々な経験より、ただ突っ込むだけが正解ではないことも知っているわけで。

 

 

『話は変わるんだけどさ、駅前に新しいお店ができたみたいなんだ。皆で遊びに行かない?』

 

 

 情けないぐらいにどう踏み込むかと悩んでいると、悩みのタネの方からスルリと近づいてきた。

 

 

『色んなVRゲームができるお店なんだ。良かったら今週の日曜日とか、皆でどうかな?』

 

『その日は部活の練習試合だから行けない』

 

『Amia、ごめん。わたしもVRゲームは酔っちゃうからちょっと……』

 

 

 更に、雪は用事があって無理らしいし、Kも体質の都合上難しそうだ。

 これはチャンスなのではないか。私は思わず椅子から立ち上がってしまった。

 

 ……たぶん、音はギリギリ乗っていない。ゆっくりと椅子に座り直して、スマホの予定を確認する。

 

 

(あー、やっば。お母さんと出かける約束してる日じゃん)

 

 

 たまには親孝行的にお母さんの行きたいところについて行こうとしていたのだが、その予定を飛ばしていいものだろうか。

 

 

『雪は予定があるし、Kも気持ち悪くなるならしょうがないか……でも、えななんは暇だよね?』

 

(うぐっ)

 

 

 たぶん、目の前にいたら潤んだ目で縋り付いてきそうなAmiaの声が、私の胸に攻撃してくる。

 Amiaとお母さん、どちらが大切なんて選べない。選べないけど。

 

 

(でも、お母さんなら「じゃあまた今度行こっか」って言ってくれるだろうし)

 

 

 むしろ、友達を優先しないでこっちを優先するなんて何事だと言ってくれると思う。

 ならば、後は私が覚悟を決めるだけだ。ごめんって後で謝ろう。

 

 

「暇人だって決めつけるのはやめてくれない? 一応、遊びに行ける算段はついたけどさ」

 

『ってことは遊びに行けるの? なら強ち間違いじゃないんじゃない?』

 

「何? 誘っておいて遊びに行きたくないですーって遠回しに言ってるの?」

 

『あーあーっ、違うよえななん! 全滅だけは勘弁して! 遊びに行きたいからーっ』

 

「もう。しょうがないわね」

 

 

 ははーっと頭を下げてそうな勢いでお願いしてくるAmiaに、やれやれと呆れているフリをして了承する。

 

 お母さんには申し訳ないけれど、今回だけはAmiaを優先しよう。

 そのためにもまずは明日、お母さんに断るところから始めようか。

 

 

(チーズケーキを食べに行こうって話だったから、ちょっと残念だけど)

 

 

 ほんの少し後ろ髪を引かれる気持ちを断ち切るように、私は首を横に振ってから作業に戻った。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 翌日。

 お母さんに来週の予定をキャンセルしてもらってから、部屋に戻った。

 

 今日はナイトコードではなく、奏がデモを完成させたのでセカイで集合だ。

 時計の針はそろそろ25時を指し示そうとしている。早く行かないとまた瑞希に遅刻云々と言われるだろう。

 

 

(それに……セカイなら瑞希の様子がおかしかった場合、気がつく存在がいるだろうし)

 

 

 私が見逃したとしても、周りの反応から違和感を確信に変えられるかもしれない。

 そんな希望を胸に、私はいつもの曲を再生させた。

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

「ううん、待ってないよ」

 

 

 光が消えてセカイに移動したら、皆は勢揃いしていた。

 奏が真っ先に答えてくれたから瑞希はニヤニヤ笑っているだけで何も言ってこない。

 

 先手を打ってくれなかったら、遅いぞーって揶揄ってきそうな笑みだ。そこには悲壮感も違和感も何もない。

 

 

(今見てる感じだと、いつもの瑞希って感じもするけど)

 

 

 こじつけるなら、ちょっとだけ空元気のようにも見える。

 だが、あくまでそれは穿った見方をしている私の勘だ。明確な証拠も根拠もない。

 

 奏がミク達にデモを一緒に確認しようと説明している間も、瑞希の様子を盗み見る。

 

 それとなく観察しても、わかりにくそうでわかりやすいところもあるまふゆとは違い、わかりやすそうでわかりにくい瑞希が相手だ。

 表面上はほんの少しの違和感しか残っていない。

 

 

 

「ふんふんふーん♪ 今度の曲も楽しみだなー! 曲だけじゃなくて歌詞も楽しみだけどねっ」

 

「……そう」

 

「うぇーんっ、まふゆの塩対応!」

 

 

 瑞希の様子を伺っていたら、いつの間にか話が進んでいたらしく、瑞希がこちらに泣きついてくる。

 

 

「絵名えもーん! まふゆが冷たいよぉ〜!」

 

「まふゆのリアクションはいつものことでしょうが。というか、絵名えもんって何?」

 

 

 どういう話でそんなノリになったんだろうか。私は青くもなければ、狸と勘違いされる猫でもない。

 瑞希の細か過ぎる物真似でネタがわかってしまうのも癪だが、変なところで反応に困るあだ名を増やすのはやめてほしい。

 

 私の微妙そうな感情が顔に出ていないのか、無視されているのか。瑞希はへらりと笑う。

 

 

「カワイイでしょ? 絵名えもん」

 

「全然可愛くないからね」

 

 

 いつものような漫才みたいなやり取りも、距離が近いせいか何かおかしいところは見当たらず。

 

 

「じゃあ、デモを再生するよ」

 

「……」

 

 

 そんな奏の掛け声と共にデモを聴いている間も、メイコの視線以外は気になるところはなかった。

 

 

 

 

「──まふゆ、どうかな?」

 

「……あたたかい、と思う」

 

「そっか。良かった」

 

 

 曲の再生が終わり、いつものまふゆチェックが完了した後。

 瑞希がやけに明るい調子で会話に混ざる。

 

 

「うんうん! いつもいい感じだけど、最近の奏の曲はもっと良くなってるよね〜! 流石はボクらの奏! こっちも頑張らないといけないなぁ!」

 

 

 まふゆ流に言い換えると「いつもよりうるさい」と思う反応だ。

 

 

(やっぱり、色眼鏡を外そうとしても空元気のように見えちゃうかな。それに……)

 

 

 視線を横に向けると、メイコがルカに絡まれている姿が見える。

 2人の視線の先には当然のように瑞希がいて、付け加えるとルカの口から「瑞希が……」という声まで聞こえてしまったらもう、ほぼ確定と言ってもいい状態だろう。

 

 何を話しているのかは知りたいけれど、メイコが教えてくれるものか。

 ルカに聞いたら「メイコが先に瑞希の異変に気が付いたし、そっちに聞いた方が(面白そうだから)いいと思うわ」と言われるのは目に見えている。メイコから何も聞けなければ自力で何とかするしかない。

 

 

「絵ー名ーっ!」

 

「わっ、え、何!?」

 

「何じゃないよ、も~。デモも聴いたし、そろそろ帰るよ?」

 

「あっ、うん。そうね」

 

 

 意識外から来た瑞希に対して、私は大袈裟な反応を返してしまった。

 

 メイコ達の方ばかり見ていたから気が付かなかったが、どうやら奏もまふゆも一足先に帰ったらしい。

 それに気が付かずにじっとしていたら、瑞希も声をかけてくるのは当然だろう。

 

 そうやってまた考え事に頭が引き摺られてしまったせいか、瑞希が小首を傾げる。

 

 

「ぼんやりしてるけど大丈夫? もしかしてボケちゃった?」

 

「は? ボケるわけないでしょ!」

 

「あはは、冗談だってば~♪ それじゃ、戻って作業を始めよ~!」

 

「はいはい、戻るから押さないで」

 

 

 ほらほらと瑞希に急かされた私は言われるがままにスマホを取り出す。

 

 

「……」

 

「あ……」

 

 

 セカイから戻る一瞬、ちらりとメイコとルカがいた方へと視線を向けると、こちらを見ていたメイコと目が合った。

 すぐに逸らされたし、私も自分の部屋に戻ってしまったので確認するのは難しいけれど、間違いない。

 

 

(メイコ、やっぱり瑞希のことを気にしてるんだ)

 

 

 なら、瑞希が違和感の原因であるのはほぼ確定だ。

 ……だからといって、何をどうすればいいのかはまだ決まっていないのだけど。

 

 

 






止まっているつもりでも、時間だけは勝手に過ぎていく。
相手が待ってくれていても、現実だけは勝手に追いかけてくる。

逃げてもいいし、止まるのも休むのも大事ですが……それだけは残酷なぐらい平等なお話です。

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