イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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このお話は『亀裂を強引に繋ぎ止めようとするストロングスタイルえななん』でお送りします。






125枚目 亀裂キャンセル

 

 

 

 

 瑞希と集まる時は大体、10時にシブヤ駅前集合のような風潮がある。

 それは今日も例外ではなく、私は早めに駅前に来ていた。

 

 どうやら瑞希はまだ来ていないらしく、見慣れたピンクはどこにもいない。

 とはいえそこまで早く来たわけではないので、ぼんやりと相手を待っていると、聞き馴染みのある声が耳朶に触れた。

 

 

「おーい、なんな~ん」

 

「……いや、何よそれ?」

 

 

 ただし、待ち人である瑞希に呼ばれた名前は全く想定しているものではなかったのだが。

 

 

「何って、半分ずつに分けようって時に使う言葉?」

 

「それは半々(はんはん)でしょ」

 

「じゃあ、やる気とかが満ち溢れている時に使うかも?」

 

「それは満々(まんまん)

 

「なら、めちゃくちゃ悪い事ばかりが起きて、今日は~って言う時に使う言葉かな?」

 

「それは散々(さんざん)……って漫才をしに来たんじゃないわよ!」

 

「あははっ!」

 

 

 急に漫才を仕掛けてくるなんて、朝の出会い頭から何事かと問い詰めたい。

 

 私も私で頭をフル回転させてバカの漫才に付き合ってしまったのだから、同罪かもしれないけれども。

 とはいえ、こっちはちゃんと付き合ったのだから、付き合った分の文句を言っても許されるだろう。

 

 ムカつく感情のままに瑞希の顔を見ると、化粧でも隠しきれていない顔色の悪い瑞希が、行動だけはオーバーに笑っていた。

 

 

「……瑞希?」

 

「んー、どうしたの? 怒っちゃった?」

 

「怒ってないっていうのは嘘になるけど……あんたの顔色が悪いように見えるから、そっちの方が気になったの」

 

「え。そうかな~?」

 

「前も体調を崩してたんでしょ、無理してまで遊ばなくてもいいんじゃない?」

 

 

 半目で釘を刺しに行くと、瑞希はソレをひらりと躱す。

 

 

「うわっ、絵名がボクに優しいなんて……もしかして今日の天気は隕石だったりする?」

 

「槍を通り越した珍しさってこと? あんたのノリに付き合った私の評価がそれなら、こっちにも考えがあるんだけど?」

 

「あはは、ごめんってば~。絵名はいつでも優しいよね、うんうん♪」

 

「……本当にそう思ってるのかしらねー」

 

 

 やはり瑞希は不調のようだ。

 いつも以上に笑う姿が上機嫌のようには全く見えなくて、むしろ痛々しく見える。

 

 

(身体的に辛いのなら今すぐ休めとベッドに叩き込むんだけど……精神的な理由なら、遊びに付き合って憂さ晴らしした方が良いのかな)

 

 

 そう考えると帰ろうと提案する気にもなれなくて。

 

 

「あっ、信号が赤になっちゃうよ! いっそげ〜!」

 

「は? ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 

 結局、信号が赤になりそうだからと走り出した瑞希を止められず、私は慌てて瑞希の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 VRゲームをするのは予定通り午後からなので、現在は瑞希の憂さ晴らしのためにもショッピング中だった。

 

 買い物程度で紛れる嫌なことなら、瑞希だって露骨なぐらい態度に出ることもなく。

 予約の時間近くになっても、瑞希は服を見て悩んでいた。

 

 

「うーん……白か、ピンクか。これは究極の選択だよ……!」

 

「その究極の選択とやらに随分時間をかけてるわねー。早くしないと予約の時間になっちゃうんじゃない?」

 

「うぅ、でも! 白は前に買ったスカートにピッタリで、ピンクは絶対的にカワイイんだもん!」

 

「はいはい。買うなら早く決めなさいよね」

 

 

 そう言ってみたものの、かれこれ20分ぐらいは買う服を迷っている瑞希を知っている私としてはあまり期待していなかった。

 店に予約の時間通りに行けない可能性の方が高いだろうし、今から確認の電話を入れた方がいいかもしれない。

 

 

「瑞希、まだ選ぶのに時間がかかりそう?」

 

「そうだね、まだボクの中でのビビッと感が熾烈な争いをしてるから難しいかも!」

 

「ビビッと感って何よ、それ……私、お手洗いに行ってくるからその間に決めててよ?」

 

「はーい! ……う~ん、どっちがいいかなぁ」

 

 

 いつもならポンポン買うのに今日の瑞希はお悩みモードに入ってしまったらしく、冗談で考えていた確認の電話も先にしていた方が良いかもしれない。

 そんなことを考えながらスマホを取り出していると、ふと、頭の中に『勝手に進めてもいいのか?』と理性が不安を囁いてきた。

 

 

(あ~、勝手に決めるのはマズイよね。瑞希に最終確認してから電話しよ)

 

 

 電話をかける前に冷静さを取り戻した私はくるりとUターンして瑞希が迷っているであろう店の前に戻る。

 その行動はそういう意図をもって行ったわけではなかったのに、結果的に私の中に確信をもたらしてしまった。

 

 

「……瑞希?」

 

 

 ピンクと白で迷っていた姿はどこに行ったのか。

 手には服の1つも持っておらず、暗い影を宿した瞳が虚空を見つめていた。

 

 普段の姿と比べるとあまりにも冷たい視線なので、人によっては睨んでいると思ってしまいそうな目だ。

 何があったらそんな目になるのか、あるいは私が待つという名前の『何もしない』選択を選んでしまったからなのかもしれない。

 

 

 ──私が待つことを選んだのは、あんな顔をさせる為じゃないのに。

 

 

 そう考えてしまうと、これが悪手だとわかっていても体が勝手に動いてしまっていた。

 

 

「あ、あれ? 何で絵名がここに? お手洗いに行ったんじゃ……」

 

「ちょっと用事があって戻ってきたのよ。そんなことより大丈夫なの? 顔色、駅の時よりも悪くなってるけど」

 

「えっ、そう? 眠たかったからかな……はは」

 

 

 空元気にも限界が近づいているせいなのか、瑞希の笑う声には力がない。

 やはり、あの公園の日から無理をしているように見える。

 

 

(無理してるのなら休ませるのが1番……なんだろうけど)

 

 

 この後は予約をしている上に、現在位置は店の中。突っかかって、強引に物事を進めるには難しい場所だ。

 それでも、何かできることはないかと頭を働かせる。

 

 

「瑞希、1つだけ聞いてもいい?」

 

「何?」

 

「瑞希の辛いこととか困ってることって、やっぱり話せない?」

 

「話って──そんなの、ないよ」

 

「……そっか。じゃあ、しょうがないわね」

 

 

 暗い目のまま吐き捨てる瑞希の姿を見て、私は追求しようと思っていた気持ちを押し込んだ。

 

 崖っぷちまで追い詰められている子を、崖から突き落とす勢いで追い詰めるような趣味はない。

 いくら押せば何とかなると思っていても、引き際ぐらいはわかってるつもりだ。

 

 

「ちょっと待ってて」

 

 

 私は瑞希が迷っていた白とピンクの商品を手に持って、小走りでレジに向かう。

 私が戻って来ても瑞希はまだ逃げずに留まってくれていたので、袋に入れてもらった商品を瑞希に押し付けた。

 

 

「え、絵名? これは何なの?」

 

「そろそろお店で予約してる時間でしょ。迷ってるのなら両方私の方からプレゼントするから、この時間だけは悩み事禁止ね」

 

「いや、でも……」

 

「でもも何もないの。話なんてないし、隕石が降っちゃうぐらいこっちの心配は気のせいなんでしょ。じゃあ後は遊ぶだけじゃない。違うの?」

 

「……ううん、違わないね」

 

 

 瑞希は押し付けられた袋を両手で握り締める。

 何かを言いたそうに口を動かしたものの、それは音にもなっていなかった。

 

 チラリと横目で盗み見た瑞希の顔色は、お手洗いに行ってたフリをした直後よりも良くなっているように思う。

 

 

(顔色、ちょっとはマシになってくれたかな)

 

 

 瑞希の不調は精神的な問題が原因だからなのか、駅で顔色も駅で見かけた時ぐらいには戻ってきている。

 一か八かなところもあったが、私は賭けに勝てたようだ。

 

 

「ほら、遊ぶのなら行くわよ。無理なら電話とかしなきゃいけないんだから」

 

「うん……あの、さ」

 

「何?」

 

「その、ありがとう」

 

「別に、お礼を言われるようなことはしてないっての」

 

 

 買って渡したものだって今日、楽しく遊ぶための報酬兼前のお詫びでしかない。

 いつまでも辛気臭い顔をされていたら堪らないので、私は瑞希の手を引いた。

 

 

「もう、このままじゃ本当に予約の時間に間に合わなくなっちゃうんだけど! ほら瑞希、早く行くわよ!」

 

「……本当にこのまま行っても良いの?」

 

「何よ、何かしてほしいの?」

 

 

 できれば何も言わず、今は遊んだ方がお互いのためにも良いと思うのだが。

 そんな不満を視線にこめると、瑞希は申し訳なさそうに目を逸らした。

 

 

「あのさ、やっぱり遊ばないっていうのはアリかな?」

 

「それで家に帰って、ズルズル引き摺らないならアリね。できそう?」

 

「……無理かも」

 

「じゃあナシね。この時間だけはウダウダ考えずに楽しんで……難しいこととか嫌なことは全部、後回しにしなさいよ。そのための報酬なんだからね、それ」

 

 

 逃げそうな瑞希の手を握り締め、私はプレゼントした袋を指差した。

 それでも瑞希の逃げ癖がひょっこりと顔を出しているのか、狼狽えている。

 

 

「良いから黙ってついてきなさいよ。今日はそれで良いって言ってんの」

 

「……うん」

 

 

 そこまで言ってやっと、瑞希の足は動き出した。

 後はVRゲームができる店まで行って、空気を変えれば瑞希も気持ちを切り替えることができるだろう。

 

 その予想通り、瑞希は店に辿りついた頃には表面上は笑っていた。

 

 ……きっと、今はそれで良かったのだ。

 私は自分にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あの時はそれで良かったとしても、その後もそのままで良いとは言っていない。

 

 探るのが正解なのか、そのまま待つのが正解だったのか。

 

 それを知るのは未来の自分か、神のみだろうけど……ただの厄介ごとに巻き込まれている人間の身分ではそれが正しいと信じて進むしかない。

 

 できることの中で、できることをやる。

 その結論として選ばれたのがセカイに行くことであり──メイコから聞き出すことだった。

 

 

 

 

 

「見つけた、メイコ」

 

「……私は見つかりたくなかったけど」

 

 

 近づいてこないメイコにこちら側から迎えに行くと、露骨に嫌そうな顔をされる。

 メイコにとってはスタンスを揺るがすような面倒ごとを持ってきているのだから、嫌がられるのは当然か。

 

 

「聞きたいことがあるんだけどいい?」

 

「……嫌だと言っても、聞いてくれないでしょう?」

 

 

 それでも私は自分自身のためにも、メイコと話をしなければならないのだ。

 

 

 







そろそろえななんの特技に、綱渡りでギリギリ落ちないとか追加されてもいいかもしれませんね……


次回はメイコさんからキツーく言われます。

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