イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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それがとても恐ろしいことでも、あなたの為になるのなら──





126枚目 フェアじゃないなら

 

 

 

 

 セカイでメイコを捕まえた私は、嫌そうにしている彼女に話しかける。

 

 

「瑞希のことで聞いてほしいことがあるんだけど、いい?」

 

「……本当に聞くだけならね」

 

 

 目は嫌そうなままだけど、メイコの体は逃げの姿勢から聞く体勢へと変化する。

 会話をしてくれる気になったメイコに胸を撫で下ろし、私は口を開いた。

 

 

「たぶん、乃々木公園でクラスメイトって子達と話してからぐらいだと思うんだけど……瑞希の調子がどんどん悪化してるみたいでさ。今日の瑞希なんて顔が真っ青だったのよね。本人は隠したいみたいだから、そのまま遊んだんだけど」

 

「そう」

 

「この前まではすっごく打ち上げを楽しみにしてたのよ? それなのに、直前になって急にバイトが~とか言って渋っちゃうし。今日も顔を見たら苦しそうだし……心配なのよ」

 

「様子がおかしいのは同意するわ。それで、絵名はどうしてそんなことを私に話してくるの?」

 

 

 話だけは聞いてくれるつもりなのか、メイコは直接要点を聞いてきた。

 どうして、と聞かれてもそんなのは1つしかない。

 

 

「メイコが私達のことを……瑞希のことをセカイで1番よく見てるって思ったから」

 

「そういうことね。でも、私は……」

 

「見守るつもりなだけ、でしょ。だから瑞希のことについて教えてほしいとも聞きたいとも言ってないんだし」

 

「……それで『聞いてほしい』だったのね。目的が背中を押して欲しいということなら、ルカに話した方が良いと思うけど」

 

「背中を押してほしいって気持ちも嘘じゃないんだけど、今の私の考えのままだと瑞希には寄り添えないと思ったのよ。だからメイコの率直な意見を聞きたい」

 

「結局のところ、絵名は瑞希にどうしてほしいの?」

 

「やっぱり私が瑞希に求めてるのは……話してくれることなんだと思う」

 

 

 私の回答はルカならば好ましく思ったのかもしれない。

 だけど私が相談相手に選んだのはこちらに介入することなく、近くで見守ることにしているメイコだ。

 

 私の答えはあまり好ましいものじゃなかったようで、メイコはキュッと目を細めた。

 

 

「相手に話したくないことを話してほしいだなんて、傲慢じゃないかしら?」

 

「そうかもしれない。けど、待ってるだけじゃ瑞希が苦しむ姿を見続けることしかできないでしょ。だから……」

 

「──あなたなら、瑞希が話したくない気持ちを1番理解していると思ったのだけど。私の思い違いだったようね」

 

 

 メイコの瞳がいつの間にか嫌そうなものから落胆の色に変わっていることに気が付いてしまい、私は頭を殴られたような衝撃に襲われた。

 

 私の手が震えてしまうのに対して、メイコは淡々と言葉を投げかけてくる。

 

 

「……少し、整理しましょうか。まず、瑞希の様子が変わったのは何時ぐらいなのかしら?」

 

「最初も言った通り、乃々木公園でクラスメイトと話している時からかな」

 

 

 その前までは「林檎フェアがないんだよ!?」とかとち狂ったことを言ってたぐらい楽しみにしていたはずだ。

 しかし、乃々木公園の件からその態度が一変した。ナイトコードやセカイで交流するのは好意的なのに、外に出るとなった瞬間、やけに嫌がるようになった。

 

 

「絵名はその理由は何だと思ってるの?」

 

「……最初はクラスメイトと話してから様子がおかしくなったから、学校で虐められてると思ってたの」

 

 

 クラスメイトの態度とかも鑑みて、もしかしたらと思って白石さんに鎌をかけてみた。

 しかし、帰ってきた言葉はイジメのヒントを得られるどころか、瑞希を想って何かを隠すような上手い言い回しだった。

 

 思えば、乃々木公園でのクラスメイトの男子が言っていたそっち系だとか、騙してるやら酷い奴やらとまるで瑞希の何かを知っているような発言をしていた。

 その何かが、瑞希自身の話したくない秘密なのだ。仲の良さそうには見えないクラスメイトですら知っている、公然の秘密。

 

 

「瑞希は……私達に知られたくなくて、怖いんだと思う」

 

 

 不調の原因は乃々木公園でクラスメイトと話したから、ではない。

 乃々木公園でクラスメイトと瑞希が秘密にしたいことに関して話していたことを『私に見られたから』精神的に参ってしまって、突然の不調として表に出てきたのだ。

 

 記憶喪失のことを知られたくない私と、同じかそれ以上に……瑞希は私達に自分が隠していることを知られたくない。

 

 

「……そこまでわかっているのなら、どうして聞きたいだなんて思うのかしら」

 

「それは、瑞希が苦しんでるのなら黙って見てられないのよ」

 

「手を差し伸べようとすることが、余計に苦しみを生むことになっても?」

 

「あっ……」

 

「話すことが良くない結末を呼ぶこともある。それをよくわかっているあなたが瑞希に黙って手を差し伸べるの? それで友達を想っているのだと言うのなら──とても傲慢な考えね」

 

 

 言葉が出なかった。

 

 全てメイコの言う通りなのだから、言葉も出てこないのは当然か。

 自分だけは例外だと言わんばかりに黙っている癖に、素知らぬ顔をして友達の秘密だけ喋らせようとするなんて……傲慢だと言われても仕方がない。

 

 

「動くのかどうかは絵名、あなた自身が決めることだけど……少なくとも自分は黙ったままで瑞希には話してもらうなんて、都合の良い話だとは思うわ」

 

「確かにフェアじゃないよね……」

 

 

 地面だと思って歩いていたら、いつの間にか落とし穴に落ちていたような感覚だ。

 

 正直に言うと逃げ出したくて仕方がない。

 でも、ここで逃げたら瑞希のことを心配してるとか、メイコに言った言葉も全て薄っぺらくなってしまうから……逃げるわけにはいかない。

 

 喜怒哀楽、頭の中でグルグルと様々な感情や思い出がかき混ぜられているような気分に陥りながらも、私は1つだけ、確かにしなければいけないことを口に出す。

 

 

「メイコはさ、瑞希が私の隠し事を探してる時は苦しそうに見えた?」

 

「いいえ。自分のことを忘れてしまうぐらい、あなたを心配していたと思うわ」

 

「今はどうなの?」

 

「逃げていた先に現実が追い付いて来て、自分のことで精一杯でしょうね」

 

「そっか」

 

 

 私には皆に知られたくないことが2つある。

 

 1つは家族や病院側、後は中学の先生には知られている記憶喪失のこと。

 そしてもう1つは──セカイに封印中の天敵、スケッチブックのことだ。

 

 私もそろそろ記憶喪失歴は4年目。

 バレたら気まずい相手とは殆ど中学の時に疎遠になっていて、仮に再会して会話しても二葉以外は高校デビューで印象が変わったのかもとでも言い訳できる程度の年数が経っている。

 

 

 懸念点は記憶喪失からスケッチブックに繋がるようなミラクルが起きることだが……冷静に考えて、そんなミラクルが起きるだろうか?

 

 

 記憶喪失の件は実は私が言わなくても誰かが漏らして知ってしまう可能性がある話だ。

 特に担当医のお喋りから奏辺りにバレていても納得してしまうぐらいにはバレてしまうリスクが隣り合わせである。

 

 対してスケッチブックだが、存在を知っているのはセカイの皆のみ。

 しかもそのミク達も嫌な感じがするのだけはわかっているけれど、スケッチブックがどういうものなのかまではわかっていない。

 

 

(うん、ないわ。万が一にも繋がらない)

 

 

 むしろ、事故のせいで記憶喪失になりました。ちゃんちゃん、と終わるだろう。私が何も知らない第3者側ならそれで納得する。

 

 心配点ならバラした時に皆にどう思われるかだが……それは瑞希の秘密だって同じだ。

 私が『カミングアウトしてきたら笑ってやる』と決めているから私の中で自分の秘密の方が比重が大きくなってしまったけれど、懸念レベルとしてはほぼ同じ。

 

 違いは余計なオプションの有無のみ。後は覚悟を決めるかどうかの話だろう。

 

 

「ありがとう、メイコ。とりあえず瑞希と話そうと思う。話してみて、それでも瑞希の隠してることを聞いた方が良いって思ったその時は……私も話せることは話そうと思う」

 

「絵名はそれでいいの? 誰にも話したくなかったんでしょ?」

 

「うん、まぁ……そうなんだけど」

 

 

 覚悟を決めた、と言ってもズルい私はやっぱり全てを話せない。

 スケッチブックは荒唐無稽過ぎてどう言えば良いのかわからないとか、そういう理由も含めて話せない私は……公平なフリをした卑怯者だ。

 

 でも、それでも。

 

 

「それで私が瑞希の苦しみの1つで無くなるのなら、私は自分のことより瑞希を優先したい」

 

「……そう。あなたは誰かの為なら選べるのね」

 

 

 メイコはあまり変わらない表情を緩ませると、くるりと半回転して話は終わったと言わんばかりに背中を見せた。

 

 

「メイコ?」

 

「決めたのなら、私がこれ以上話すことはないわ」

 

 

 役割が終わったと言わんばかりにメイコがその場から歩き去っていくので、私は1人セカイに残された。

 

 セカイでどうしても聞きたかったことも聞けたし、これ以上止まっていても意味はあまりない。

 私はスマホを操作してセカイを後にする。

 

 

(さて、部屋に戻ってやることといえば……どうやって瑞希と接触するかよね)

 

 

 椅子に座って、近くにあったノートとボールペンを手に持つ。

 できれば早く、瑞希と話したいから最短で瑞希と話す方法を考えよう。

 

 

(できれば今日、会いたいけど……セカイに呼び出したりなんかしたら、警戒されるわよね)

 

 

 できれば警戒されない方法かつ、最短で瑞希と接触したい。

 

 確か、瑞希は「最近は徹夜とかして学校を休みがちだったから、そろそろ行かなきゃなー」と愚痴っていたはず。

 確率としては2分の1だが、神高で瑞希と話すのは悪い賭けではないだろう。

 

 

(よし、決めた。学校に来ている瑞希と何とか接触して、話そう)

 

 

 ──そう決めたは良いものの、この時の私はすっかり忘れてしまっていた。

 

 いや、あるいは1回えむちゃんと一緒に神高に行っていたので、ハードルが地面にめり込むぐらい下がっていたのかもしれない。

 

 

 どうやって宮女生である私が、神高生の瑞希を見つけて他校にて接触するんだ、と。

 そう冷静にツッコんでくれる人は、自分の部屋には存在していなかった。

 

 

 






メイコさんは今は踏み込まない方がいいんじゃないかと思って、キツく言ったはずなのに──逆に焚き付けちゃったみたいですね。

そのせいで無計画に神高に侵入しようとするえななんが爆誕するという……思考がわんだほーいと神高にダイナミックお邪魔してる子に引っ張られてしまったようです。

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