イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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冷静になったら見えてくるものもあります。





127枚目 第2回神高潜入作戦

 

 

 

 

 

 ──誰か、深夜テンションで計画を考えていた過去の私に言って欲しい。

 

 神高って他校ですけど、どうやって会って話をしようと思っていたんですか、と。

 そもそも今日、この時間に瑞希は学校にいるのですか、と。

 

 部活だというまふゆと別れて、神高まで来てから我に返るのはあまりにも遅すぎた。

 

 門の前でどうするんだと呆然としてしまう私と、また宮女の子が来てるよとチラ見してくる周囲。

 気まずいことこの上ない。常識的に侵入するのはダメだという気持ちと、緊急事態なのだから早く侵入しちゃえと誘惑してくる気持ちが頭の中で戦争中だ。

 

 これがえむちゃんなら躊躇いなく、堂々と校門を潜るのだろうが……他校生が入ってはいけないと身をもって知った人間としては、そういう行動は躊躇われる。

 

 

(あー。どうしようかな、入ろうかな……それとも諦めてセカイに呼び出す? 来てくれるかわからないのに?)

 

 

 瑞希ならのらりくらりと避けそうな姿を想像できるだけに、私はその場を動けない。

 

 いっそ、怒られてしまうのも覚悟して侵入するかと決意して門へと視線を向けた時だった。

 

 

「──えっと、絵名さん? 何してるんですか?」

 

 

 困惑顔の白石さんと、バッチリ目が合った。

 同じユニットで活動している仲間の姉が不審者ムーブをしていたらそんな顔にもなるだろう。

 

 

「こんにちは。鞄も何も持ってないから帰りってわけじゃなさそうなのに、どうして校門に?」

 

「今日は練習もお休みなので、風紀委員として見回りをしてたんですよ。そしたら校門前に宮女の人が来てるって聞いたので、立ち寄ったんです」

 

「あー、そういうことなんだ……本当にごめんなさい」

 

 

 白石さんが手ぶらで校門前に来たのは私が原因だったようだ。手間をかけさせて申し訳ない。

 ただ、私も知っている人が来てくれたおかげで光明が見えてきた。

 

 

「あのさ、相談があるんだけどいいかな?」

 

「それって門の前で話しても大丈夫そうなものですか?」

 

「……ちょっと困る相談かな」

 

「なら、裏門に回りましょうか。付いて来て下さい」

 

 

 先頭を歩く白石さんに付いて行き、神高の裏門まで歩く。

 誰もいないかを確認してから、白石さんは口を開いた。

 

 

「もしかして瑞希に会いに来たんですか?」

 

「え、何でわかったの?」

 

「この前、瑞希のことを聞いてましたから。あれと校門前でいる絵名さんを見たら、鈍くてもわかりますよ」

 

 

 苦笑いする白石さんからすると、私の態度はかなりわかりやすかったようだ。

 わかっているのなら話が早い。白石さんを味方につけて瑞希と接触しよう。

 

 

「その通り、今日は瑞希に直接話したいことがあって来たのよ。出席日数的に今日は学校に来てる可能性が高いかなーって思ってたんだけど、どこにいると思う?」

 

「今日は学校にいるのを見たので、たぶんまだ校内にいるとは思いますけど……絵名さんはどうして学校に来てまで、瑞希と話したいんですか?」

 

 

 ほんの少しだけ見え隠れしている警戒の色。

 その反応だけで白石さんが瑞希をどう思っているのかがわかり、私は思わず笑みを零した。

 

 

「この前の質問がややこしかったよね。瑞希がクラスメイトの子達と話してから調子が悪そうだったから、もしかしたら学校で何かあったんじゃないかって疑ってたの。鎌をかけるようなことを言ってごめんね」

 

「そうだったんですか。瑞希が……」

 

「第3者からすれば、他校に乗り込んでまで話すようなことじゃないかもしれない。でも、私が瑞希の苦しむ原因の1つになっちゃってるって思うと、居ても立っても居られなくて」

 

「苦しむ原因の1つに……そういうことでしたか。わかりますよ、その気持ちっ!」

 

 

 何かが心に触れたのか、白石さんは私の両手を握り締める。

 さっきまであまり乗り気じゃなさそうだったのに、今では感情移入をしてくれているのかうんうんと力強く頷いていた。

 

 

「もしも私が原因でこはねが悩んでるのだとしたら、私だって宮女の壁ぐらい乗り越えたくなります!」

 

「ふ、風紀委員がそれで良いの?」

 

「神高の風紀委員の前に、私はこはねのただ1人の相棒ですから!」

 

 

 ──絵名さんは違うんですか?

 

 声には出ていないのに、そんな副音声が聞こえてきそうなぐらい挑戦的な目だ。

 試すような目を年下の子に向けられると、胸の内から負けず嫌いな面がひょこりと顔を出してきた。

 

 

「私だってこの気持ちで負けるつもりはないよ。だから今、ここにいるの」

 

 

 真っ直ぐな目を見つめ返して覚悟を伝えると、白石さんはオレンジの瞳をキラリと輝かせる。

 私がその答えを告げるのを待っていたかのように、彼女は大きく頷いた。

 

 

「絵名さんならそう言ってくれると思ってました! 私だって瑞希と友達ですから、ここは私が脱ぎますよ!」

 

「えっ、はっ? 脱ぎますってどういうこと!?」

 

「あ、違った……いや、違わなくはないんですけど、まぁ助ける為に脱ぐのは間違いないですかね?」

 

「あぁ。もしかして一肌脱ぐって、助けてくれるって言いたかったの?」

 

「いえ、物理的にも脱ぎます」

 

「物理的に!?」

 

「はい!」

 

 

 いや「はい!」じゃないんだが。

 力強くて頼もしい返事だけど、弟のチームメイトからそんな発言を聞きたくなかった。

 

 そんな内心があからさまになっていたのだろう。白石さんは慌てて弁明を述べる。

 

 

「あっ、違いますよ。私の制服を貸すので、それを着て学校に入ってもらおうと思ったんです!」

 

「制服を貸してくれるから脱ぐって話に繋がるのね、ビックリしちゃった。あれ、でも……その間の白石さんの服は?」

 

「体操服があるので、それを着て隠れてようかなと。絵名さんが瑞希にビシッと言ってくれたら、その分早く私も元に戻れますし」

 

 

 白石さんは明るい調子で提案してくれているものの、かなり無理を通そうとしてくれているのはわかってしまった。

 

 白石さんも瑞希のことを想っているのが伝わってきて、頭が上がらない。

 

 

「ありがとう、絶対に結果を掴み取ってくる」

 

「はい。その……瑞希のこと、よろしくお願いします」

 

 

 白石さんに制服を託された私は白石さん指導の元、着替えて神高に潜入するのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 放課後でそれなりに時間が経っているということもあって、そこまで人通りのない廊下にて。

 白石さんの制服に着替えてしれっと学校に潜入している私は、素知らぬ顔でその廊下を歩いていた。

 

 

『いいですか、絵名さん。まずはウチの教室……1-Aに向かってください。後ろの扉からなら瑞希の席が見えると思うので、鞄の有無を確認しましょう』

 

 

 学校に入る前に言われた白石さんの言葉通り、まずは1-Aの教室へと向かう。

 瑞希の席は教えてもらっている。

 最近、席替えして窓際の1番後ろの席になったらしいので、パッとみたらすぐにわかるだろうとのことだ。

 

 1-Aの教室に辿り着いた私は、白石さんの言葉をゆっくりと思い出した。

 

 

『その席に鞄がなかったら瑞希はもう帰っちゃってると思います。探し回るのは絵名さんと先生がすれ違っちゃう可能性があるので、すぐにこっちに戻ってきてください』

 

 

 教卓から遠い方の──後ろの扉から教室の中を覗き込む。

 幸いなことに生徒が1人残っていたものの、勉強に集中していてこちらに気がついた様子はない。

 

 そして、肝心の机の鞄だが……それらしいものが1つ、机の横にかけられていた。

 

 

(机に鞄があったら、時間的に瑞希は例のあの場所にいると思います……だったよね)

 

 

 例のあの場所、というのは屋上のことらしい。

 基本的に屋上というものは封鎖されているのが多い昨今、宮女も神高もバカ高いフェンスで遮ることによって、屋上を開放することを叶えているという。

 

 少なくとも宮女の高等部の屋上は最近、色んな意味で人気だ……モモジャンの配信がこっそり見れるかもしれないという意味でも。

 

 しかし、神高の屋上はそこまで人気があるかと言われたら、そうでもないらしい。

 

 というのも、神高の屋上では結構な確率で『変人ワンツーフィニッシュ』の片割れ、ツーの方と出会ってしまうからだとか。

 しかもそのツーの人、人の頭を火薬で爆発させたり、プールを爆破させたりと人体実験を平然と行う問題児だという。

 

 ……どこかで聞いたことがあるエピソードが多いけど、そんな不名誉なことを言われるほど酷い人ではなかったはずなので、気のせいだと思うことにしよう。うん。

 

 思考が他所に行ってしまったが、そんな人が来にくい屋上なので、瑞希にとっては都合の良い場所みたいで。

 学校に来て姿を見ない時は、高確率で屋上にいると思ったら間違いないと白石さんは言う。

 

 

(そこまで上手くいくとは思えないけど……会えることを祈って扉を開けるしかないか)

 

 

 大人がいないことを祈りながら、屋上に続く階段を駆け足気味に登っていく。

 生徒ともすれ違わずに上がって、オレンジ色に染まった窓がついた扉の前まで登り切る。

 

 

(白石さんの予想なら、この先に瑞希がいるんだよね)

 

 

 乱れてしまった息をほんの少し整えてから、私は鍵の開いている扉に手を伸ばした。

 

 扉を開けた瞬間、最上階ということもあって、夕日の眩しさと風が私の顔に向かって襲いかかる。

 一瞬、目を閉じてしまったものの何とか両目を開き、ほんの少し開いた扉の隙間から目的の人物を探す。

 

 広い屋上には誰もいないように感じたが──1人分だけ影が伸びている。

 

 

「あーあ……」

 

 

 今にも泣きそうな、限界そうな顔で何かを呟いているあの姿は間違いなく瑞希だ。

 フェンスがなければ下手したら落ちてしまいそうな雰囲気に、私は頭から『慎重に動く』という前提条件も落っことして扉を完全に開いてしまった。

 

 静かな場所にギイッと響く扉の音。

 

 

「えっ?」

 

 

 その音に気が付かないほど、瑞希は鈍感じゃない。

 私も覚悟を決めて、瑞希の前に姿を現す。

 

 

「瑞希!」

 

「……え、絵名? 何でここに……?」

 

 

 まさか宮女生の私が神高の制服を着て目の前に現れるなんて、瑞希も予想できなかっただろう。

 大きく目を見開く瑞希を横目に、扉をしっかりと閉める。

 

 準備完了。後は野となれ山となれ、だ。

 

 

「瑞希のこと、ちゃんと面と向かって話したいから、無理を通してここに来たの」

 

 

 ──だから、付き合ってよ。

 

 覚悟を決めた私に対して、不意を突かれた瑞希はポカンと間抜けな顔を見せたまま、目を丸くした。

 

 

 

 

 






ええっ、ここで終わるんですか!? ってところですけど。
続きは次回──水曜日に予約投稿済みですので、瑞希さん視点で会いましょう。
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