みんな違って、みんないいんですけどねー。
良い子ならば寝ていると言われている時間でも、高校生ともなれば動いている人は多く。
「そういえば……屋上を開放してる学校って少数らしいけど、宮女も神高も普通に開放してるよね」
25時を過ぎて、作業中のほんの一休み中の時間。私はふと、気になったことを口に出した。
『随分と急な話だね。わたしはどっちの学校も行ってないから知らないけど、そうなの?』
急だと言いながらも最初に乗ってくれたのは
通信制のKが学校の屋上事情を知らないのなんて当たり前だ。知ってる方が怖いと思う。
そう思うのは私だけではないので、当然のようにツッコミが入った。
『急にそんな話をするなんて、今度は神高の屋上まで侵入してきたの?』
「何で私が学校に侵入したこと前提で話してるのよ」
『鳳さんから聞いたんだけど、前科があるらしいね』
「うっ……正論で突き刺してくるのはやめない?」
思わず胸を抑えていると、最近はちょっと聞けていなかった
(元気になって良かったって喜んでいる心と、大爆笑されて滅茶苦茶腹立つ心もあって、すっごい複雑……)
どっちも私の本心なのだから、本当に複雑だ。
Amiaが一通り笑うのをやめるまで音量を
そうやって大爆笑をやり過ごしている間にAmiaの沸点も下がってきたのか、笑う声が聞こえなくなってきた。
少しずつ音量を戻していると、だんだん大きくなる声がイヤホンから聞こえてくる。
『まぁまぁ。えななんはボクに会う為に神高の制服を着てまで屋上に来てくれたんだから、詰めないであげてほしいなーって』
『えななん……』
Amiaの執り成しによって雪の言葉のナイフは切れ味を落としたものの、その平坦な呼び声が呆れているように感じるのは私の被害妄想ではないだろう。
それもそうか。ただAmiaに会って話したいだけならセカイや学校の外で会えばいいのだ。態々ルールを破ってまで強行する必要はない。
『Amiaを逃がさない為』という前提条件を知らなければ、私が無駄なことをしているようにしか見えないのは当然のことである。
それなのに、そんな私を味方してくれる神のような存在が1人、ボイチャで声をあげた。
『雪、えななんにも何か理由があったんだよ。あまり強く問い詰めるのはやめよう? Amiaにも関係しているのかもしれないし、2人に嫌な思いをさせたいわけじゃないでしょう?』
『そこはわかった。でも、もう1つ気になるところがある』
『気になるところ?』
『えななんが神高の制服を着てたってところ』
『あー……』
女神のような助け舟を出したKが、唸るような声をあげて舟ごと沈没した。
私が舟に乗る前に、目の前で沈没するところを見てしまったような気分だ。見たくなかったというのが正直な感想である。
「何よ? そんなに他校の制服が気になるものなの?」
『ボクは気になる気持ちがわかるけどなぁ。というわけでー、こちら! えななんの神高制服バージョンとなりまーす♪』
「は?」
ぽんぽんぽん、と軽快な音と共に送られてきた画像は見覚えのあるものが1枚と、ないものの2枚。合計3枚で構成されていた。
1枚目は記憶に残っている。Amiaと話した後、言葉巧みに誘導されて2人並んで写真を撮った記憶が残っているので、このAmiaと私のツーショットはその時の物だろう。
だが、2枚目と3枚目は何時撮ったのだろうか? 廊下で撮られたような写真と、教室で撮った写真には心当たりがない。
『Amia、2枚目は盗撮じゃないの?』
『雪、これはね、ちょっとえななんが外を見ているうちに写真を撮らせて貰っただけだからセーフ! の、はず……』
『アウトかもしれないって自覚、あるんだね』
『うっ』
語尾を自信なさげに詰まらせてしまった時点で、Amiaの負けだ。勝手に写真を撮っているのだから当然である。
2枚目がこっそり撮られていたとわかったからこそ、Amiaが送信してきた3枚目の写真に心当たりがないのが怖い。
1枚目の様に写真映えを気にしたような写りでもなく、かといって2枚目のようにとられているのかわかってなさそうな視線ではない。
何というか、写真を撮ると言われてすぐに撮られてしまったかのような画像だ。
そして、私が制服を着ている時にそんなシチュエーションになった記憶なんて1つしかない。
「Amia、3枚目の画像ってもしかして誰かから貰ったりしてない?」
『あー、被写体のえななんならわかるよね。うん、これは貰い物だよ』
まさかAmiaに写真を流出させているなんて何をしてくれているのだろうか、白石さん。
すごく似合ってるからデータで残したいです、なんて言いながらスマホのカメラを起動していたのは知っていたが、画像を消すどころかAmiaに横流しするのは予想外である。
チームメンバーにまで回っていないか、彰人に問い合わせてみようか……いや、ただの迷惑になるからやめておこう。
こっちは理性が今日も深夜出勤で働いてくれていることに胸を撫で下ろしているのに、どうやら身内には私の理性の夜勤なんて関係ないと言わんばかりに、混乱の坩堝に落すことが好きなやつがいるらしい。
『Kは神高と宮女、どっちの制服が似合うんだろう?』
そいつはきっと画面の向こうでも『わかりません』と言わんばかりの無表情で、バカみたいな話を振っているのだろう。
軽く頭が痛くなっている中、ナイトコードでは話が進んでいく。
『Kに似合う制服? それは勿論神高でしょ。組み合わせの幅は広いし、えななんだってちょっと制服を借りた先の人によって陽キャ風になってるけど、新鮮で似合ってたでしょ?』
(陽キャ風で新鮮って何よ?)
白石さんに借りて上からカーディガンを羽織っただけなので、着こなし方などは白石さんに寄っていたのは確かである。
だが新鮮とはなんだ。まるで私が陽キャから程遠いような存在みたいではないか。
(いや、よく考えなくても私って陽と言われるようなタイプじゃないか)
私が白石さんのようにサバサバしてるかと言われたら、いやジメジメしてるんじゃない? と自己評価するぐらいには自覚がある。
鈍感やら自己評価底辺過ぎて雪並みに自分のことをわかってないんじゃないかとか好き勝手言ってくるピンクもいるが、私だって自分が周りに向けている感情が重過ぎて並大抵のことでは動じていないという認識は持っているのだ。
ちゃんと自覚している私はここで噛み付かないように深呼吸を入れて、対抗馬である雪のコメントも聞く。
『宮女の制服はセーラー服だし、ブレザーよりもKに似合うと思う』
「あー、それはわかるかもしれない」
決してKにはブレザーが似合わないとは言わないけれど、宮女に通う者としてはほぼ毎日見ているセーラー服の方が想像しやすいという贔屓的な思考がある。
そういうのも相まって雪の言葉に同意したものの、言ってもいない事情をAmiaがわかるはずもなく、不満そうな声が聞こえてきた。
『見慣れているのはズルくない? ねぇ、Kもそう思うでしょ?』
『え? えっと、個人的にはジャージでいいんじゃないかなって……』
『K、それはダメだよ』
『Amiaの言う通り、制服の話でジャージは違うと思う』
(仲いいなぁ、2人とも)
Kの妥協案に即座にAmiaと雪が反応しているのを見てほっこりとしている私は、間に入らないように見守る体勢に入った。
『え、えななん……助けて……』
ブレザーとセーラー、どちらが良いかとKに仲良く迫る2人を黙って聞いていると、Kからヘルプが入った。
2人のプレゼンのような言い分も聞いたし、仲裁の言い訳も整った。
頭で整えた道順通りに行くかは不明だが、今度は舟を沈めないように気をつけていこう。
「そんなに言い合うのなら、今度セカイで奏に着て貰えば良いんじゃない?」
『それだぁ!』
「わっ、うるさっ」
Amiaがとんでもなく大きな声で反応するので、思わずイヤホンを取ってしまった。
途端に広がる無音の空間。Amiaのアイコンが輝き続け、Kのアイコンも点滅しているのを見るに、困惑しているのがありありと伝わってくる。
(ごめん、K。でもこの解決方法が1番マシだと思うの)
心の中でKに詫びを入れつつ、再びイヤホンを耳に取り付ければ、Amiaと雪のやり取りが飛び込んできた。
『制服かぁ。ボクのだとKには大きいだろうけど、神高の制服は調整できるからこっちが有利かな〜♪』
『……こっちはえななんの制服を借りるから大丈夫』
『ちょ、それはズルくない!?』
『やるからにはできる限りのことはするものらしいよ』
『うぐ、そう言われると弱いなぁ。雪ってば、いつの間にかえななんの良いところを吸収しちゃってさー』
勝手に決められていく予定にKの『えっと、わたしの意見は……?』という戸惑いの声が儚く消えていった。
私も勝手に制服が貸し出しされてるので、安心して欲しい。
(あれ、この場合はKを売るような真似をした報いなのかな?)
何はともあれ、雪がこういうことにも動くようになったという成長をまずは喜ぼう。
私の制服は必要経費だったのだ。予定日が決まり次第、急いでクリーニングすることだけはたった今、決定した。
(それにしても……Amiaも元気になったし、雪も結構言うようになったしで去年と比べたらすごい進歩よね)
自分のことは棚に上げた私は、Amiaと雪の戯れ合いを眺めつつ、これ以上の被害が来ないように立ち回る。
Kはどうしたのかって?
……まぁ、制服の着せ替えだけだし、ほぼ被害がないってことでいいんじゃないかなーって。
皆お揃いがいいからセーラー服が似合ってることにしたいと無意識に思っているまふゆさんvsその無意識を何となく察知しつつも奏さんを着飾りたい瑞希さん
……という、ほぼ瑞希さん1人勝ち状況があったとかなかったとか。
次回は遠くの方で旋律が聞こえましたって話です。