イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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該当イベストでは驚くほどえななんの登場が少なかったので、さらっと1話。
触れる程度です。





131枚目 遠くで交わる旋律

 

 

 

 

 

 

『ねぇねぇ、そろそろ1回休憩にしようよ〜』

 

 

 時計の針が2周した頃、ミュートを外した瑞希(Amia)の声が聞こえてきた。

 

 確かに、いつもであれば休憩を挟んでいてもおかしくはない時間だ。

 集中し過ぎて視野が狭くなるのも嫌だし、Amiaの提案を飲んでもいいかもしれない。

 

 

「そうね、私もそろそろ休もうかな。同じ体勢でずっといると体が固まっちゃう気がするし」

 

『つーまーりー? えななんが人間からカッチカチの石像に進化しちゃうってことだね!』

 

「石像に進化するって何よ? 人を気軽に人外にしないでよね」

 

 

 Amiaといい、他人を人外扱いするのが好きな人が多いから困ったものである。

 この話題を広げるなという意味でも釘を刺したつもりだったのに、どうやら伝わっていないらしく、Amiaは構わずネタを引っ張る。

 

 

『あっ、そうだ! えななんの人外云々で思い出した! Kに聞きたいことがあったんだ!』

 

『Amia? そこから思い出すってどういうことなのかな……?』

 

 

 どう取り繕っても誤解しか招かないようなAmiaの話題の切り出し方に、案の定(K)は動揺していた。

 

 

『Kの生活態度的に、人間じゃないみたいだって言いたいんじゃない?』

 

『えっ……そうなの?』

 

『ちょっと雪さん!? ボク、そんなつもりで言ってないからね!? Kもこのボクのつぶらな瞳を見てから言ってほしいな。これを見たら1発でわかるはずだから!』

 

 

 まふゆ()の憶測が入ってKもすっかり信じそうになっているせいか、Amiaは弁明に必死である。

 

 私が黙っているせいなのか、ボイチャで瞳が見えるはずもないのに「目を見てほしい」と弁明するAmiaに対し、ツッコむ存在は誰もいない。

 このまま放置しておいたら混乱が続きそうだ。そろそろ私も混ざらないと、収拾がつかなくなりそうである。

 

 

「はいはい、Amia。ボイチャで顔が見えるわけないんだから、目を見て欲しいなんて無茶言わないの」

 

『えっ、あっ……』

 

「気づいた? もう、声とかで悪気はないのは伝わったでしょうから、ちょっとは落ち着きなさいよね」

 

『うぅ、ごめん』

 

「それで、Kに聞きたかったことって何よ?」

 

 

 動揺する相手が落ち着くように話を進めれば、Amiaは思い出したように声を上げた。

 

 

『あぁ、そうそう! この前、CDショップでギリギリ欲しいCDが買えなかったって話、してたでしょ。それってどうなったのかなーって気になってさ』

 

 

 Amiaの言う話は恐らく、KがCDを買えなくて落ち込んでいた時の話だろう。

 

 確か、好きなクリエイターのCDが発売されたと知ったKがCDショップに買いに行ったところ、運命的な出会いがあったらしい。

 

 Kがショップに行った頃には、欲しかったCDも最後の1枚しか残っておらず。

 残っていて良かったと手を伸ばしたところ、同じタイミングでCDを買おうと手を伸ばす人がいた。

 

 同じタイミングで同じものを欲しているからと、KはそのCDを相手に譲ったらしいが──その日の夜、ナイトコードで話していたKが少し落ち込んでいるように感じたのでよく覚えている。

 

 ……後、Amiaが『恋愛漫画で始まりそうなシチュだよ! Kが王子様だよ!』とウキウキしていたので、忘れようにも難しかった。

 

 

 ここまでが、私とAmiaがナイトコードでKから聞いた話だ。

 

 

 

 そしてここからが雪から聞いた話である。

 

 とある日の委員会の日、雪は後輩からKから聞いた話にそっくりな話を聞くことになった。

 Kらしき人にCDを譲ってもらったと話す後輩の正体は、私も知ってる一歌ちゃん。

 

 世間は意外と狭いようで、ピンときた雪がKと一歌ちゃんを繋ぎ、CDの貸し借りを実現させた。

 その後は返すだけなのだが、朧げな記憶によると返す時にも何かがあったと雪が軽く言っていた気がする。

 

 

「あぁ、思い出した。CDを返す時にKと雪と相手側とでファミレスに行ったんだよね?」

 

『うん、そうなんだ。家事代行の人とCDショップで会った人が幼馴染だったらしくて。その2人とわたしと雪とでファミレスに行ったんだ』

 

『へぇ〜。ボクはファミレスのことまでは知らなかったなぁ。ねぇねぇ、K達は何の話をしたの?』

 

 

 興味津々なAmiaに対して、Kは淡々と話を進める。

 

 

『何って、ちょっと自己紹介をしてから、曲作りとかの話をしていたかな』

 

『おぉ、曲作りの話をするなんて中々マニアックじゃない? ちょっとした勉強会みたいだね〜』

 

『相手の2人がバンド活動をしてたから、共通の話題だったんだよ。勉強会というほど硬くはなかったかな』

 

『そっかそっか。話は曲の話だけ? 曲以外ではどんな話をしたの?』

 

 

 KとAmiaの話は特におかしいところはない。

 ただ、どんな話をしたのかという普遍的な疑問だったせいか、私は次の話の衝撃に無防備だった。

 

 

『他に話したことといえば……あぁ、そういえば。えななんの話は出たよ』

 

「いやなんで!?」

 

 

 4人の間に入ってくる、突然の異物。

 寝耳に水過ぎて思わず声を荒げてツッコんでしまった。

 

 いや、でも。これは許されるのではないだろうか。

 

 私のイメージだが、その場に影も形もない人間が話題になることなんてほぼないと思う。

 それに、その場にいない人が話題に出る時って大体、あまりよくない話題であるイメージが強い。

 

 家事代行の人っていうのは穂波ちゃんだし、一歌ちゃんやK達もそんな話で盛り上がるイメージがない。

 だからこそ、ファミレスで私の話が出てくるなんて予想外である。どんな話なのか聞くのが怖い。

 

 

『えななん、別に悪い話をしてないよ』

 

「え?」

 

『話の途中で動画のイラスト担当がえななんじゃないかって話になったの。4人共通の知り合いだから、話が盛り上がっただけ』

 

 

 私の内心がわかっているかのように、雪が補足を入れてくれた。

 なるほど。確かに言われてみれば穂波ちゃんとも一歌ちゃんとも私はよく話している。

 

 共通の話題ということで曲作りで盛り上がったのであれば、共通の知り合いという範囲で私の話題が出てもおかしくはない。

 ……雪が盛り上がるって言うと、ちょっと想像できなくて頭が思考停止してしまうけど。

 

 雪に対して感謝の言葉を個チャで送信していると、ボイチャの方ではAmiaが大声を出していた。

 

 

『あれ、ちょっと待ってよ。共通の知り合いにえななんが入ってるってことは、Kの家事代行の人を知らないのはボクだけってこと!?』

 

『言われてみれば、そうかも?』

 

『うっそでしょ!? ボクだってKをお世話してくれてる家事代行の人に会ってみたいと思ってたのに〜っ』

 

 

 言われてみれば、家事代行の人と呼ばれる穂波ちゃんだけでなく、CDの件で出てくる一歌ちゃんも知らないのはAmiaだけである。

 

 

「2人とも宮女の子だし、Amiaが知らないのも無理ないんじゃない?」

 

『それでも学年が違うっぽい後輩を、ピンポイントで知り合ってるえななんがヤバいよ。別に同じ委員会だとか同じ部活って繋がりもないんだよね?』

 

「あー、うん。ないわね……強いて言うなら、知ってた子の幼馴染繋がり?」

 

『わぁ、幼馴染ってすごいなー』

 

「それは私も思う」

 

 

 病院で偶然会った咲希ちゃんから繋がって一歌ちゃんとも知り合い、後から穂波ちゃん、志歩ちゃんと知り合ったわけだけれども。

 

 咲希ちゃんの幼馴染がそれぞれ雪とKと繋がっていたのだから、驚きだ。

 幼馴染で繋がっている世間。私と雪の繋がりはともかく、Kと知り合う難易度なんて極高だろうにこの偶然はちょっと怖かった。

 

 

『これは今度、ボクも顔合わせしたいかも。バンド活動してるんだっけ? バンドの名前は何だろ』

 

「いや、何でそこが気になるのよ?」

 

『それはもちろん、そういう活動をしているのであればまずは見て、ビビッときたら応援しないと無作法というものだからだよ』

 

「そんな作法、聞いたことないわよ」

 

 

 そんな手間と面倒がかかるだけの遠回りの作法なんて、どこの作法なのかと聞きたい。

 たぶんこの時間のAmiaのことだから、その場のノリとテンションでありもしないことを言ってるだけだろうけど……それにしても謎の作法である。

 

 しかし、その謎作法をどうしても実行したいようで、AmiaはKに問いかけた。

 

 

『ねぇ、K達はバンドの名前を聞いてないの?』

 

『えっと……確かレオニって言ってたっけ?』

 

『K、それだと略称になってる。正式名称はLeo/needだよ』

 

『おっけ、Kも雪もありがと〜。それじゃあLeo/needで検索検索〜♪』

 

 

 ウキウキと検索しているAmiaに、ふと、私の頭に余計な言葉が舞い降りてくる。

 そもそも、検索して出てくるような動画を、高校生バンドとして活動し始めた一歌ちゃん達がやっているのだろうか……と。

 

 一歌ちゃん達は高校生になり、咲希ちゃんが学校に通うようになってからLeo/needを結成したという話をチラリと聞いたことがある。

 

 そんな彼女達がつい最近になってライブをするようになり、そこから自分達で動画などセルフプロデュースをするようになる……?

 最初から絶対にプロになるぞと集まっていない限り、その確率が低いと思うのは私だけだろうか。

 

 

『む、むむ……レオニで感想がヒットしたけど、音質あんまり良くないし、こういうので知ったかするのは失礼だなぁ』

 

 

 私の懸念通り、Amiaが求めるような答えが出なかったらしく、渋い声が聞こえてくる。

 しょうがない。最近、志歩ちゃんにお願いしてチケットを買って見に行ったばかりだが、またライブが開催する頃にお願いしてみよう。

 

 

「ねぇAmia。良かったら今度、レオニのライブがある時に一緒に行かない?」

 

『え、いいの?』

 

「この前のライブはお願いしたらチケットを買えたし、大丈夫でしょ。Amiaが見たいなら、またお願いしとくわ」

 

『やった〜。じゃあお願いしてもいいかな? お金は出すから、買えそうなら教えてね!』

 

 

 私とAmiaの会話を終わったのを見計らって、Kの声が聞こえてくる。

 

 

『じゃあ、そろそろ作業を再開しようか』

 

『わかった』

 

『オッケー、この後も頑張ろ〜♪』

 

「うん、私も集中するからミュートするね」

 

 

 Kの声を掛け声で今日の休憩時間が終わり、また夜の作業が再開されるのだった。

 

 

 






次回のイベストは絵名さんバナーなのですが……正直、今のえななんならあの話の展開に持っていくのは難しいので、オリジナル挟んじゃいます。
次回から早速、やっていきましょう。
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