イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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己が課した縛りを忘れてしまうと、それはただの邪魔な枷でしかなくなる。






135枚目 一緒に好きにしてみて

 

 

 

 

『やっほー、えななん! 突然だけど今週の土曜日、10時にフェニラン集合ね!』

 

 

 ……なんて連絡が、ナイトコードで瑞希から送られてきた。

 しかもこの連絡主、土曜日と日時を指定しておきながら自分は来ないつもりのようなのである。

 

 一体何を企んでいるのやら。奏、まふゆときて瑞希からもアプローチがあった流れ的に予想はできるものの、フェニランというのがほんの少しだけ不安を呼び起こす。

 

 

(いやいや、何で不安なのよ。瑞希達は動いてくれているのに、失礼でしょ!)

 

 

 雪平先生の言っていることを理解できなかったのは私のせい。

 それなのにその焦りを周りにぶつけるのはお門違いだ。感謝しなければと自分を諫めて『ありがとう、時間を空けとくわ』と返信したのが数日前のことだ。

 

 

(瑞希の言う通りにフェニランに来たけど。ここで私は結局、何をするんだろう)

 

 

 もう1度、スマホからナイトコードに開いて瑞希とのやり取りを見る。

 そこには土曜日やら10時、入場門前で待つこと……といった指示はあるものの、肝心の待ち合わせ相手が不明だ。

 

 瑞希ではないことだけは確かなので、ここで待ちぼうけて1日が過ぎてしまう可能性も否めない。

 相手も名前しか知らないとかになったら最悪だ。大声で「東雲さーん」と探し回られるのも羞恥心とかを考えると辛い。

 

 そんな葛藤があるけれど、どうしたものか。瑞希に鬼電して聞き出す選択肢が脳内に現れた頃にふと、聞き馴染みのある声が私の名前を呼んだ。

 

 

「おーい、絵名さーん」

 

「その声は……えむちゃん!?」

 

 

 瑞希は神高生であり、えむちゃんは宮女。

 そんなイメージがあるので頭の中で2人が上手く繋がらない。

 

 

「もう、えむったら置いてかないでよ」

 

 

 だが、猛スピードで近づいてくるえむちゃんの後ろを必死に追いかけてくる草薙さんを見て、やっと点と点になっていたものが線として繋がる。

 そういえばえむちゃんと言えばフェニランでショーキャストをやっているのだ。そのメンバーは4分の3が神高生。つまり、えむちゃんの方が少数派である。

 

 瑞希が頼る先としてえむちゃん達が選ばれてもおかしくはない選出だった。

 

 

「おはよう、えむちゃん、草薙さん。もしかして2人が瑞希の言っていた待ち合わせの人なの?」

 

「絵名さん、もにもに~ぐっもーにーんぐですっ!! あたしは類くんから迎えに行って欲しいって言われただけだから、詳しい話は知らないんですけど……」

 

 

 朝から元気いっぱいなえむちゃんはほぼ何も知らないらしく、草薙さんの方を見ている。

 えむちゃんと私から見られている草薙さんは少し眉を下げ、小さく頷いた。

 

 

「類が暁山さんから相談を受けたみたいで……わたし達の方が東雲さんと面識があるので迎えに来たんです」

 

「そうなんだ。ごめんね、私の方は何となく瑞希が動いてくれたってことはわかってるんだけど、詳しいことは全く聞けてなくて」

 

「いえ。それじゃあ、案内しますのでついてきてください」

 

「ワンダーステージへ……レッツゴー☆」

 

 

 落ち着いている草薙さんとテンションが高いえむちゃんの2人に連れられて、私はフェニランに入場した。

 

 ……時間が余ったら、南雲先生に勧められたアトラクションをこっそり遊ぼうかな、と目論んでるのは内緒である。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、東雲さん!! ここまで来てくれて感謝するっ!!」

 

「あっ、はい……」

 

 

 右の鼓膜から左の鼓膜へと貫くような大きな声。

 これが耳がキーンとする音なのか……という感想が強過ぎて、久しぶりに会った天馬さんの歓迎の言葉に単純な肯定しか出てこなかった。

 

 私の反応は失礼だったのではないかと頭に過ったが、誰も彼もツッコんでこない。

 どうやら天馬さんの大声に驚いてしまうパターンは珍しくないようだ。私の反応もあっさり受け入れているように思う。

 

 相手の反応を窺っている私の姿を見て、黙ってこちらを見ていた神代さんが口を開いた。

 

 

「司くん、もう少し声を抑えた方がいいかもしれないね。東雲さんがビックリしているよ」

 

「むむっ、それはすまないな!!」

 

「……すまないね。見ての通り、司くんはこんな調子だから、慣れてもらえると助かるよ」

 

「元々こちらからお願いしてるので、大丈夫です」

 

 

 まだ声は大きく感じるが、天馬さん以外の3人はけろりとしているので慣れれば平気なのだろう。

 

 ならば、私が努力して適応するまでだ。

 こちらが付き合ってもらっている手前、相手に要求を押し付けるわけにはいかない。

 

 ただ、私の低姿勢が気になったようで、天馬さんの視線がこちらに向く。

 

 

「暁山から頼まれたとはいえ、オレ達と東雲さんは顔見知り同士。そこまで低姿勢じゃなくてもいいと思うが」

 

「えっと。じゃあ、お言葉に甘えて。瑞希からはどこまで聞いてるのかわからないけど、よろしくね」

 

「うむ、オレ達がバシッと相談に乗るのだから、東雲さんは大船に乗ったも同然!! 気を張り詰めるよりも気楽に行こうではないかっ!!」

 

「……わたし達、絵に詳しいわけでもないんだけどね」

 

 

 自信満々に胸を叩く天馬さんに、草薙さんの冷静なツッコミが入った。

 

 ここまで自信満々だと詳しくないという前提条件があっても何とかなるんではないか、と思うのだから不思議だ。

 気がついたら元気つけられるこの言動は勉強になる。私には真似が難しいが、その力強さは見習いたい。

 

 

「司くんのように自信たっぷりに言いたいところだけど。寧々の言う通り、僕達は絵のことについてはほぼ素人だ。そういう方面では力になれないだろうね」

 

「何ぃーっ!? 相談を受けた類が弱気になってどうする!?」

 

「弱気じゃなくて事実だよ。だからこそ、僕達はまた違うアプローチで原因を究明しようと思う」

 

 

 天馬さんの大きなツッコミなんてなんのその。受け流した類さんは改めて提案する。

 

 

「今から東雲さんには瑞希が相談してきた事の経緯をできるだけ事細かに話してもらおう。そして、僕達は東雲さんの話を『劇で演じる役の1つ』として掘り下げていくんだ」

 

「役の1つ? なら、絵名さんの設定は『画家を目指して絵画教室とかに通いつつ、絵を描いてる女子高生』って感じでいいのかな?」

 

「うん、えむくんの言う設定が1番僕達のイメージに近いだろう。それで、東雲さんはどうだろう? この方向で1度考えてみてもいいかい?」

 

「もちろん。こちらがお願いしてる側だから、よろしくお願いします」

 

 

 私は神代さん達に頭を下げてから、雪平先生とのやり取りなども含めて覚えている限りの話をした。

 大体日記に書いていることは覚えているということと、ニーゴの皆や一歌ちゃん、愛莉達と話をするのが4回目なこともあって、スムーズに話せたと思う。

 

 私が話し終えたのを確認した神代さんは、天馬さん達を見て口を開いた。

 

 

「さて、大体東雲さんの話を聞いたけれど、皆はどう思ったかな?」

 

「まずはオレからいこう。そうだな……聞いている限りだと絵画教室の先生が何を問題にしているのかがイマイチ掴み切れなかったというのが、オレの第一印象だな」

 

 

 天馬さんが先頭を切って意見を言うと、草薙さんやえむちゃんも続いて声をあげた。

 

 

「わたしも。先生に言われるまではちゃんとトラブルも乗り越えて、夢に進んでるようにしか聞こえなかったかな」

 

「でも、先生はそんな絵名さんに引っかかるところがあったんだよね?」

 

「技術的にも進歩してるし、コンクールも受賞してるんでしょ? どこに問題があるの?」

 

「むむむ~、難しいなぁ」

 

 

 両手の人差し指でこめかみを抑え、えむちゃんは小さく唸った。

 

 

「ごめんね。こっちが読み取って理解しなくちゃいけないことなのに、無理難題を押し付けちゃって」

 

 

 私だってわかっていないことなのに、赤の他人であるえむちゃん達がすぐに分かるはずもない。

 なんとかそれらしい答えが出ないかと脳味噌を捻っていると、こちらをじっと観察していたらしい神代さんがほんの少しだけ目を細めた。

 

 

「絵画教室の先生が教室に来なくても良いと言ったのは昔と今の絵を比べて、感想を聞いた後だった。なら、先生が言いたかったのは絵のことではなく、精神的な部分だろうね」

 

「精神的な部分……」

 

 

 一歌ちゃん達からは『どういう想いで絵を描いたのか』を聞かれた。

 愛莉達からは『どの絵も根っこの想いは同じように感じる』という感想を貰った。

 

 そして、神代さんからも今、雪平先生が言いたかったのは技術的な不足ではなく、精神的な部分だろうという。

 

 

「つまり、私の中の何かの想いが原因だと?」

 

「何かではないかな。前もって瑞希からは話を聞いているせいなのか、東雲さんの話を聞いているとどうも……自分のことを下に見ているように感じるよ」

 

「っ!?」

 

「僕にはどうにもそれが、東雲さんの可能性を縛る足枷のように感じてしまうかな」

 

 

 前々から自己評価の点では皆から言われていたが、まさかそこまで対面していない神代さんからも言われるとは思っていなかった。

 

 この自己評価が雪平先生に教室に来なくても良いと言われた原因なのだろうか?

 だとしたら、闇雲に絵を描いていても解決するかわからない。

 

 たらりと背中に汗が伝うのを感じていると、いつの間にか間近まで近づいてきていたえむちゃんが私の両手を握っていた。

 

 

「つまり、絵名さんはちょっと今は自由になりきれてないってことですよね!?」

 

「そうとも言う、のかな?」

 

「なら、自由に元気に! 楽しくいっぱいわんだほいな気持ちにならなくちゃ!」

 

 

 握ってきた手を上下に振りながらえむちゃんがそんなことを言うのだが、私の頭の中は『?』でいっぱいだ。

 

 それは天馬さん達も同じらしいが、私よりも彼らの方が適応力が高かった。

 

 

「ふむ、つまり自由なステージを今からお披露目しようということだな! 皆で自由なステージを即興でやるとは中々挑戦的だが、スターであるオレに死角はない! 今からでもショータイムといこうではないかっ!!」

 

「えっ、今から? 東雲さんの相談はもういいの?」

 

「ふふ、寧々は困惑していても、えむくんと司くんはやる気みたいだね」

 

「いや、わたしだけじゃなくて。東雲さんも置いてきぼりになると思うんだけど」

 

 

 そんな会話をしつつも、振り返った寧々ちゃんの顔はとても楽しそうで。

 

 

「急な話で戸惑ってると思いますが……絵名さんの為のステージになりますので、楽しんでいってください」

 

 

 自由に元気に、楽しくいっぱいわんだほいと言ったえむちゃんの言葉通り、4人はとても楽しそうに舞台に立つ。

 

 私は置いてきぼりなのは否定できないものの、この自由さは雪平先生に出されている課題的にも見習わなければいけないのかもしれない。

 

 

(自分自身への認識が、足枷になってる……か)

 

 

 心当たりが多過ぎて、困っちゃうというのは今みたいな時に言うのかもしれない。

 心当たりがあったとしても、そう簡単に変わらないからこそ行き詰まっているのだけど。

 

 

 

 






──他人ならともかく、身内の言葉なら届くかもしれないから。




次回、こはねさんやら杏さんやら冬弥君が出てきそうですよね?
残念なことに、弟君である彰人君しか出て来ません。

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