イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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オリストとしてはこの辺りで終わりですかね。





139枚目 カミングアウト

 

 

 

 

 1週間が過ぎ、今日の25時から作業に復帰できるようになった。

 

 新しいデモを作っているからイラスト待ってるね~、と瑞希が連絡してくれていたので、自分の遅れは大体把握している。

 動画担当の瑞希の作業へ直撃しているのだから、休んだ分もしっかりかっちりイラストを描かなければ。

 

 そうやって気合いを入れていると、ナイトコードに連絡が入っていた。

 

 

『ごめん、えななん。今日は作業する前にセカイに来てほしいな』

 

 

 奏からの連絡だ。

 復帰の日早々に何があったのか不思議に思ったものの、反対する理由もない。

 

 首を傾げながらも『わかった、すぐに向かうね』と返信して、私はセカイに向かう。

 移動した先には学校でもよく会っているまふゆと、電話以外の連絡はしていなかったので対面という意味では久しぶりの瑞希が揃って立っていた。

 

 

「2人とも、お疲れー。この時間に会うのは久しぶりね」

 

「おっ、絵名じゃん。久しぶり、絵画教室解禁おめでと~!」

 

「私は久しぶりじゃないけど」

 

「ありがとね、瑞希。それとまふゆ、この時間って言ったんだから、そこは久しぶりでよくない?」

 

 

 笑顔の瑞希と素っ気ないまふゆという正反対の反応に迎えられると帰って来たな、と感じる。

 ちょっと休んでいても通常運転な2人に安心しつつ、私は周囲を見渡した。

 

 

(やっぱり、奏の姿が見当たらないな)

 

 

 呼び出した本人である奏の姿がどこにもない。その事実が安心していたはずの胸を(ざわ)つかせた。

 この前、公園で考え事をしているような姿を見たということもあって、どうしても奏の姿が見当たらないのが気になってしまう。

 

 このまま待つのも落ち着かなくて、私は先に来ていたであろう2人に尋ねる。

 

 

「ねぇ、私はさっき奏にセカイに来てほしいって言われたんだけど……2人は呼び出しの要件とかって知ってる?」

 

「んー、ボクは知らないかなぁ。デモもある程度できてたし、絵名だけを呼ぶのならともかく、ボクらも呼ぶ理由はわからないんだよね~」

 

「……ミク達もいないし、それと関係してるんじゃない?」

 

 

 瑞希もまふゆも本当に心当たりがないようだ。

 自分が知っていることをそれぞれ話してくれているものの、2人もお互いに知らないせいか、声音に『知らない』という態度が滲み出ている。

 

 何かあったのかと悪い方向に考えてしまいそうになる私の前に、探していた主がひょっこりと現れた。

 

 

「皆、おまたせ。急な連絡だったのに来てくれてありがとう」

 

 

 スマホを片手に持ったまま現れた奏の後ろから、親鳥の後を追いかける小鳥の様にミクとリンの頭が飛び出る。

 

 

「みんな、いらっしゃい」

 

「ふぅん。今日は揃ってるんだ」

 

 

 ミクは薄っすらと笑みを浮かべて歓迎してくれているのに、リンだけは私に対して冷たい視線を向けている気がする。

 もしかして1週間、セカイに行かずに絵を描いていたせいだろうか……いや、確実に理由はソレ(・・)だ。

 

 

(うわー。そこまで考えてなかったけど、後でリンと話さなきゃ)

 

 

 己のことはかなり鈍感だと言われても、他人に対しては鈍感だと言われたことのない女、東雲絵名とは私のことである。

 この予想は絶対に外していない自信があるので、後でリンに何かお詫びとか何かをしよう。

 

 リンの視線の理由に気が付いてしまったので、そうしないと気まずくなりそうだった。

 

 

「ねぇねぇ、奏。今日は皆を呼び出してどうしたの?」

 

「瑞希とまふゆも呼び出した理由はちょっと言い難いんだけど……2人に迷惑をかけちゃう提案をしようと思っているから呼んだんだ」

 

「迷惑って?」

 

 

 首を傾げる瑞希に、スマホを手に持った奏はゆっくりと首肯した。

 理由は上手く言えないけれど、嫌な予感がする。

 

 私はつい最近まで休んでいたのもあって、イラストを描いていない。だから迷惑する話から除いたのだろうとは思う。

 そういうわけで、瑞希にもまふゆにも迷惑という話が出る行動なんて凡そ1つしかない。

 

 

「もしかして、デモを作り直したの?」

 

 

 私の考えていることを読み取ったかのように、私が頭の中で考えていたことをまふゆが代わりに口に出した。

 

 が、デモを作り直しただけでは私の嫌な予感への答えにはならない。

 一体何が私の予感に引っかかっているのだろうか。訝しく思う私の前に、答えが現れるのはすぐだった。

 

 

「うん。新しくデモを作ったから、こっちを動画にしたいなって思って」

 

 

 奏がそんなことを言いながら曲を再生した瞬間、嫌な予感の理由がわかった。

 

 

 ──これ、私が原因だ、と。

 

 

 デモとして流れてきた曲が、明らかに私が公園で見せた絵を意識しているように聴こえるのだ。

 

 最初から答えというか、元にした(モノ)を描いた本人だからこそわかる。

 あるいは奏の天才性が丁寧に私の絵を表現してくれていると言い換えてもいいぐらい、デモの曲に心当たりがあった。

 

 

「それで、どうかな?」

 

「ボクはまだ素材を集めていただけだし、大丈夫だよ。問題があるとしたらまふゆじゃない?」

 

「私も大丈夫。ただ……奏とかに聞きたいことがあるけど」

 

 

 頭の中でデモの曲と自分の絵に関連性を見出している間に、いつの間にか話が進んでいた。

 奏の提案に反対する意見はないらしく、トントン拍子に話が進み、奏とまふゆが話し合うところまで決まっていた。

 

 

「じゃあ、ボクは先に戻って動画に使えそうな素材を探してくるね~♪」

 

 

 一足先にセカイから消えた瑞希を見送った後、私も特に残る理由もないのでスマホを手に持つ。

 

 そのまま私も一言告げてセカイを後にしよう……と思っていたのだが、何故かまふゆの手が逃がさんと言わんばかりに私の手を掴んできた。

 

 

「絵名にも聞きたいことがあるから残って」

 

「……やっぱり?」

 

 

 何となくまふゆが言った『奏とか』という言葉に違和感はあったのだ。

 私には関係がないだろう、気のせいだろうと誤魔化したが、それは許されなかったらしい。

 

 素知らぬフリして帰ることができなかった私にできることといえば、まふゆの『聞きたいこと』とやらを待つことのみ。

 

 観念して手に持っていたスマホをポケットに仕舞うと、まふゆは無表情なのに見慣れた人には満足そうにも見える顔で頷いた。

 

 

「あのデモ、絵名と何か関係があるんじゃないの?」

 

「えっ、どうしてわかったの?」

 

「……奏の反応で今、確信した」

 

「あっ……」

 

 

 どうやら奏にカマをかけていたらしい。驚く奏に対して、まふゆの態度は淡々としていた。

 奏から情報を抜き取ったまふゆは、何を考えているのかわからない目をこちらに向け、パッと開いた手の指をゆっくりと折り曲げる。

 

 

「デモを聴いていた時の絵名の反応と、カマをかけた時の奏の反応。後は奏の曲にしては別の何かを意識しているように聴こえたから、2人に話を聞きたかったの」

 

 

 1曲の、それも1回流しただけのデモを聴いてそこまで読み取るとは、驚きで言葉が出てこなかった。

 私の描いた絵を知らなければ、あの日の公園の出来事のことも知らないまふゆが、重要そうな部分は当ててくるのだから恐ろしい。

 

 現時点の情報でもそう思うのに、まだまだまふゆの読みは深いらしく、更に立てられていた指が折られた。

 

 

「あのデモには少し強引かなって思うところがあった。その強引な部分を──奏のイメージしきれない何かを明らかにしないと、歌詞にするのは難しいと思う」

 

(うっそでしょ。そんなところまで当ててくるの……?)

 

 

 奏のデモやまふゆの感性を侮っていたつもりはない。だけど、それでもこの読みの深さは驚いてしまう。

 

 天才への解像度がまだまだ低かったようだ。

 1回聞いただけで曲から意図を読み取るまふゆや、暗闇の中で短時間、絵を見て曲を仕立て上げてしまう奏を見ていると、自分の思い上がりが恥ずかしくなった。

 

 驚愕している私を他所に、奏は小さく頷く。

 

 

「うん……実は絵名から先生に出した絵を見せてもらったんだ。そこから今回のデモを作ったんだけど、どうしても見せてもらった絵のイメージと重ならなくて。強引に聞こえたのはそういうところだと思う」

 

 

 申し訳なさそうに語る奏の『イメージと重ならない』部分とやらは1つしかない。

 そう──実はまだ、私は瑞希以外に記憶喪失のカミングアウトをしていないのだ。

 

 瑞希には相手の秘密を聞き出すために話すと決意したものの、2人には言わずにズルズルとここまで来ていた。

 だが、そろそろ覚悟を決めなくては奏にもまふゆにも不誠実だろう。向き合わないままでいるのは私の本意ではない。

 

 

「絵名が良ければ、奏が題材にした絵のことについて聞きたい」

 

 

 あくまでも良いものを作りたいがために言ってそうなぐらい、真っ直ぐなまふゆの瞳。

 奏もちらりと視線を向けてくるのもあり──私は2人にも話す覚悟を決めた。

 

 

「絵の話をする前に、1つだけ事前に話さなくてはいけないことがあるの。その……冗談みたいな話に聞こえるんだけど、本当にあった話をしてもいい?」

 

 

 2人が頷いたのを確認してから、私は瑞希に話した『記憶喪失』のことを話した。

 そこから彰人との会話も話してみたのだが、奏もまふゆも全く驚いた様子がない。

 

 

(記憶喪失のことを話したはずなのに、なんでだろ。逆に納得しているような……?)

 

 

 想定していなかった反応に首を傾げると、まふゆは無反応ではあったものの、奏の方からは微笑みが返ってきた。

 

 

「実は絵名の記憶喪失はちょっとだけ予想してたんだ。わたしのお父さんと絵名の担当医の人、一緒だから」

 

「え?」

 

「だからその、ごめんね?」

 

「……いや、奏は悪くないから謝らなくていいよ」

 

 

 あのスピーカーな医者、個人情報をどこまで拡散しているのか。心配になってしまう証言である。

 少ない情報から予想した奏がすごいのだと思いたいが、あのおしゃべりな医者には五寸釘を打ち付ける勢いで釘を刺さなくては。

 

 いや、医者の話は今、重要な項目ではない。今は奏が受け入れてくれて、まふゆの反応が気になる方が重要だった。

 

 

「それでその、まふゆは何か言いたいことはある?」

 

「ない」

 

「え、本当に? 今しか受け付けない予定だけど」

 

「絵名は絵名だし、それさえわかってればいいと思う。過去の出来事は絵名が向き合ったんだから、それでいい」

 

「まふゆ……」

 

「それより、奏が見たっていう絵を私も見たいから、早く持って来て」

 

「ま、まふゆ……?」

 

 

 事実を認識した上で、早く資料を持って来いと要求してくるまふゆはどこまでも『いつも通り』であった。

 

 あるいはこちらを気遣ってそう演じてくれている可能性……は、なさそうだ。

 早く寄越せと言わんばかりに伸ばされる図々しい手は、本気で打ち明けたことを重要視していないようである。

 

 2人の反応が想定よりもあっさりしていてビックリしたけれど、悪い反応が返ってくるよりはこの反応の方がありがたい。

 

 

「2人とも、ありがとう」

 

「こちらこそ話してくれてありがとう、絵名」

 

「絵名、絵は?」

 

「まふゆはもうちょっと手心を加えてくれない?」

 

 

 そうお願いしてみたものの、まふゆの手が片手から両手に増えたので、そのお願いは諦めるしかなさそうだ。

 

 安心と呆れでどんな顔をすればいいのかわからなくなってしまったことを除けば、その後のイメージの擦り合わせはかなり上手くいったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ちょっとちょっと! なんで皆、セカイで盛り上がってるのさ!? もぉ〜っ」

 

 

 ……1人だけナイトコードに戻っていた瑞希が、ぷりぷりと怒りながらセカイに乗り込むハプニングがあったけれども、上手くいったということで。

 

 

 






えななんはまふゆさんが気にしてないと思っているようですが、まふゆさんなりに考えての反応なのは気が付いてません。


とりあえず全員、スタートラインに立ちました。
えななんに関しては、スケッチブック君だけですね。


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