イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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……藪から蛇が出て来たと思ったら、何か別のものも出てくる時があるかもしれませんね。





141枚目 藪からドラゴン?

 

 

 

 

 

 朝比奈まふゆという少女は積み上げた実績と物腰から何かと頼られがちであり、教室にいると『殆ど』と言っていいほど誰かに呼ばれる。

 

 表面上は笑顔で嫌な顔もせず、断る方が稀。

 しかも高確率で物事を解決してくれる優良物件だと周囲に認識されている節があるせいだろうか。

 

 本人も頼られること自体が嫌というわけではないようなので普段は目くじらを立てるほどではないものの、あまりにも放置しているとキャパオーバーギリギリまで頑張ってしまうポンコツな面もある。

 

 そういうわけで、限界に達しないように様子を見ながら、今日は息抜きということで教室ではなく屋上でお昼を食べようと誘った……のだが。

 

 

「まふゆ、購買にお昼を買いに行ったんじゃなかったっけ?」

 

「そうだけど」

 

「でも、手に持ってる焼きそばパンって購買のヤツじゃないよね?」

 

「そうだね」

 

「そうだね、って。買ってないのなら誰から貰ったのよ、それ」

 

 

 地面に落ちてたとか、空から降ってきたとか。

 そんな不思議な状況下で手に入れた食べ物ではないということだけは確かだ。

 

 中々答えに辿り着かない返答にどう聞いたものかと頭を捻らせていると、漸く望んでいた答えが返ってきた。

 

 

「星乃さんから貰ったの」

 

「え、焼きそばパンを3つも一歌ちゃんに奢らせたってこと?」

 

「違う。困ってそうだったから貰った」

 

「……本当にどういう状況なのよ? 詳しく聞かせてくれない?」

 

 

 まふゆの勘違いで一歌ちゃんに迷惑をかけているのであれば、大変である。

 そんなことはないだろうと思っている自分もいるが、イマイチ理解が追いつかない。

 

 こちらの理解不足で申し訳ないものの、まふゆに最初から話を聞いてみることにした。

 

 

「詳しくって言われても、大したことはないけど──」

 

 

 そんな言葉と共に始まったまふゆの話によると、購買に行く途中の道にて一歌ちゃん達とバッタリ遭遇したのが、事の発端らしい。

 

 4人揃って中庭でワイワイと話している姿は大変目立っていたらしく、知っている相手ということもあって、まふゆもついその近くに寄ってみたんだとか。

 

 誘蛾灯に誘われるように少し寄ってみると、何やら4人は困っている様子。

 優等生モードな上に知っている後輩が困っているのなら、素通りできないのがまふゆだ。

 

 どうしたの? と声をかけた瞬間にはもう、その先の展開は決まっていたも同然だったらしい。

 まふゆがお昼を求めて購買に行く途中だったのと、一歌ちゃんが焼きそばパンを余らせて困っていたという利害の一致もあり、焼きそばパンを貰ったという結果になったようである。

 

 

「焼きそばパンが余る状況って、想像できないわね」

 

「そもそものきっかけは1週間前。景品と交換するために始めたらしい」

 

「1週間前? ということはもしかして、1週間前から毎日お昼は焼きそばパンってこと?」

 

「そうみたい。星乃さんはまだまだ大丈夫みたいだったけど、望月さんとかはギブアップみたいだったから……そこに偶然通りかかった私に白羽の矢が立った」

 

「ふぅん、そうなんだ。ちょっとだけ状況がわかった気がする」

 

 

 気がするだけで、周囲が飽きるぐらい焼きそばパンを食べ続ける生活は中々、想像できないのだけど。

 

 

(それにしても……一歌ちゃんが1週間以上、焼きそばパン生活をするような景品って何だろう?)

 

 

 気になってしまうと放置できないのが私の悪い癖だ。

 

 まふゆに許可を貰ってからスマホを触り、検索画面に移動する。

 何の懸賞かはわからないものの『焼きそばパン 景品』と調べて出てくるものか、パン全般の景品か。そのどちらかであるはず。

 

 そんなアタリを付けて検索すると、流石は文明の利器。あっさりとそれらしい検索結果が姿を現した。

 ……女の人が気持ちよさそうに焼きそばパンを模した抱き枕に抱き着いているシュールな写真と共に。

 

 

(え、まさか一歌ちゃんがほしいのってこれじゃないよね?)

 

 

 いやいやまさかと否定する気持ちと、薄っすらと『いっちゃんは焼きそばパンが好きなんですよー!』と、嬉しそうに語ってくれた咲希ちゃんの記憶から、あり得ないとは断言できない気持ちが睨み合っている。

 スマホを持ったまま固まる私の横から、まふゆがひょいと身を乗り出してスマホを覗き見た。

 

 

「焼きそばパンの抱き枕なんてあるんだ」

 

「こんな枕、私も初めて見たわ」

 

 

 ただ、そう思っていたのは私だけらしい。

 意外と細長いパンと抱き枕は相性がよろしいようで、ホットドッグやら探せば色々とバリエーションがあるようだ。今回は焼きそばパンの出番だったみたいである。

 

 

「絵名もチーズケーキの枕とか欲しいの?」

 

「そんなのあってどうするのよ。チーズケーキは食べるから良いの、飾るようなものじゃないから」

 

 

 ただ、これはあくまで私の持論であって、一歌ちゃんは違うのかもしれない。

 人の趣味に口を出してはいけないし、人の価値観は十人十色だからノータッチ。

 

 それが藪蛇にもならない賢い生き方なのである。

 

 だが、そういうのもわからないフリをする奴が目の前にいるわけで。

 こっちの切り上げたい気持ちを読み取る事なく、まふゆは話を続行する。

 

 

「写真は撮るのに、よくわからないね」

 

「写真はスマホがあればいくらでも撮れるけど、こういうのはお金を積まないと無理でしょ」

 

 

 タダやプレゼントだというのであれば、物を置くスペースがあるかとか、慎重に検討してから決めるけれども……お金を払ってまで買う代物ではない。

 これを買うならチーズケーキやパンケーキを食べに行くか、もしくは画材を買うだろう。

 

 お小遣いは無限じゃないのだから、変な枕を買う余裕があるなら画材が欲しかった。

 

 

「……星乃さんも、枕じゃなくてお皿集めのついでに自分の好きなものを食べてるだけだったみたいだけど」

 

「え?」

 

「このパン、毎年シールとお皿を交換している会社のパンだって」

 

 

 言われてみると、確かにまふゆが手に持つ袋には見覚えのある会社のロゴがプリントされている。

 

 ……冷静に考えたらわかることだった。

 購買で売ってないパンまでは確認しているのに、ロゴの会社からキャンペーンが思いつかないのは視野が狭くなり過ぎている。

 

 自己嫌悪のままお弁当をやけ食いしていると、まふゆは興味なさそうに口を開いた。

 

 

「そういえば、先生が『東雲さんがまだ進路希望調査票を出してない』って言ってたよ」

 

「え? 嘘。そんなのあったっけ?」

 

「うん、選択授業の後に配ってた」

 

「あー。そんなことがあったような、なかったような……」

 

 

 薄っすらとした記憶が蘇る。

 早く帰りたいと考えながら、貰ったプリントをスケッチブックに栞代わりに挟んで、中身も見ずにそのまま鞄に入れた記憶。

 

 そしてそのスケッチブックは現在、家の棚の中だ。

 学校にいる今ではどう抵抗しても届かない場所にあった。

 

 

「紙は家にあるから、すぐには出せないんだけど。というか、先生は私に何も言わないで何でまふゆに言うわけ?」

 

「さぁ?」

 

「……ですよね~。はぁ、提出期限っていつだったかなぁ」

 

「今日まで。紙も貰って来たから、今から書けば?」

 

 

 用意周到なまふゆから紙を差し出されてしまったので、しぶしぶ紙の項目を埋めていく。

 進路なんてこっちで決めてこっちで何とかする予定なんだから、態々書く必要なんかないだろうに面倒くさい。

 

 南雲先生なら知っているだろうし、あの人が勝手にしてくれたりしないのだろうか。

 無理なのはわかっていても、面倒な気持ちから文句がフツフツと湧き上がってきていた。

 

 

「絵名は自分で簡単に埋めていくんだね」

 

「はぁ? 何言ってんの、よ……」

 

 

 こっちは不満たらたらなのに、と表情を取り繕うことすらせずに前を見ると、羨ましそうな目と目が合った。

 

 何でそんな目でこっちを見るのだろうか。

 顔と同じように、いかにも「興味ありませんよ」と言いそうな目をしてくれたら、こっちも後腐れなく不満をぶつけられるというのに。

 

 

「そういうあんたはコレ、出したんでしょ。どうやって埋めたのよ?」

 

「お母さんが言ったものをそのまま記入した」

 

「ごめん、どういうことかもうちょっと詳しく聞かせてくれない?」

 

「お母さんに『そろそろ進路希望調査票が渡されるはずだ』って毎日聞かれるから、貰ったその日にお母さんの前でお母さんが良いんじゃないかっていう進路を書いた」

 

「はぁぁ……?」

 

 

 藪を突いたらドラゴンでも出てきたかのような、予想外な展開である。

 

 ……かなり譲って中学までは親同伴で進路を記入するのはあり得ても、高校生になってまで大学の進路を親と一緒に決めることなんてあるのだろうか?

 

 あっても第1志望の指名ぐらいではないか、と勝手にイメージしていたのだが、私の想像よりも数倍、現実の火力が高い。

 第2、第3まで決められることなんてありえないと思っていたのに、まふゆの母親は私の想像なんて余裕で超えてくるらしい。

 

 

「──まふゆ、嫌なら嫌って言わないと、自分のことなのに何も決められなくなっちゃうよ」

 

 

 どんな反応をしたらいいのかわからずに何とか言葉を振り絞ると、まふゆはゆるりと首を横に振った。

 

 

「でも、これといって行きたい大学もないから。お母さんが喜ぶのなら、それで……」

 

「本当に、それがまふゆの気持ちなの? あんたにはお母さんに決められた道を進む理由が──どうしても医者になりたい理由とか、あるの?」

 

「それは……わからない」

 

「そう。でも、そこで考えるのをやめないでよね。ないとわからないとでは、全然違うんだから」

 

 

 目を見開くまふゆを視界に入れつつも、私は食べ終えた弁当箱と進路希望調査票を片付ける。

 

 

「今はわからなくても考えてさえいれば、ちゃんとわかるようになるわよ。ない側の私が保証してあげるから、ちゃんと考えておくこと! わかった?」

 

「絵名……わかった」

 

 

 まふゆは何か言いたげに私の名前を呼んだものの、結局、何も言わずに頷いた。

 

 その行動で何となく言いたいことがわかったけれど、まふゆが何も言わないのだ。私も口を動かさずに頷き返す。

 

 そうこうしてる間に、早く戻れと言わんばかりに予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 私もまふゆも黙っていたせいだろうか。その音は酷く響いて聞こえる。

 

 

「戻ろっか」

 

「そうだね」

 

 

 この中で唯一、雄弁だったチャイムの音に従って、私達はいつもの行動に戻るのだった。

 

 

 







えななんの大学選考基準
・やっぱり大学のネームバリューって世間体的には馬鹿にできないので、良いところには行きたいかな。
・画力はこっちで頑張るしかないから、コネとか人脈を更に伸ばせそうなところがいいよね。
・パトロン、パトロンをください!(切実)


たぶんこんな感じかもしれません。


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