イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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まず最初に謝罪を。
登場回以降、名前を出してもガッツリとは出す予定はありません〜、とか言っていた先生が今回、再登場しちゃいました。






142枚目 痛恨のミスとフラグ

 

 

 

 

 

 最近、思うことがある。

 ──私は宮女の生徒であって、美術の先生ではない、と。

 

 

 これも全て、我が師の1人と呼んでも良いような南雲先生が、逃げ上手で誰も捕まえることができないせいだ。

 もしくは、私が意図せずに『優等生のまふゆ化現象』に陥ってるせいかもしれない。

 

 己のできる範囲のことをしていたら、先生の皺寄せが私に集中し始めるなんて想定外のことが今、起きている。

 

 一応、今までも先生のことについて聞かれることはあった。

 だが、最近は更に悩める生徒(子羊)に捕まることが増えているのだ。

 

 お前が言うなとまふゆに言い返されそうなペースで相談される現在の生活から、早く脱しないとマズい。

 疲労からくる危機感に対し、私は早歩きで廊下を駆け抜けるぐらいには焦っていた。

 

 

(まふゆは来週に模試があるからって忙しそうだし、ちょうど自由時間ができた。このチャンスを活かして、今日こそ先生を捕まえなきゃ)

 

 

 今日こそ、この知らない生徒まで相談しにくるような相談窓口役から脱するのだ。

 

 こっちはまふゆと違って、優等生戦略で売っていないのである。下手に絵の時間を削られるわけにはいかない。

 そう決意して美術室に行くと、珍しく机の上にぐったりと倒れている南雲先生がいた。

 

 

「あれ。先生、今日は珍しく、ちゃんと美術室にいるんですね」

 

「あぁ……うんー? なぁんだ、ドクダミちゃんかぁ。やっほぉー……」

 

「東雲です」

 

 

 何回話しても名前を覚える気のない定番なやり取りをしつつ、私は南雲先生の前に座る。

 名前は覚えていなくても存在は認識されているようで、机に伏せられた先生の顔がこちらに向けられる。

 

 

(あれ?)

 

 

 私が勝手に持っている南雲先生の印象といえば、間延びした口調と飄々とした態度と。

 己を天才だと認識しているが故の自信満々な目が特徴的だと思っていたのだが……今日の先生の目には覇気が感じられない。

 

 一体全体、どうしたのだろう?

 そんな疑問ばかりが頭の中を駆け巡り、『文句を言ってやる!』と意気込んでいた気持ちが萎えてしまい、心配が勝利した。

 

 

「先生、何かあったんですか?」

 

「えっ?」

 

「なんて言ったらいいのかわかりませんが、いつもより元気がないように見えるので」

 

 

 思ったことを正直に話すと、南雲先生は頭を抱える。

 

 

「あー、うわぁ……ごめんねぇ、いい年の大人が子供に心配かけちゃうなんて、気が抜けてたよー」

 

 

 口では謝っているものの、声はまだまだ立ち直っていないのがわかるぐらい弱々しい。

 それもそうか。大人だって人間である。そう簡単に気持ちが切り替えられるのであれば、態度に出てくるはずがないのだ。

 

 

「先生、私で良ければ話を聞きましょうか? 他人に話をするだけでも気持ちが楽になるかもしれませんし」

 

「……ありがとう。そうだね、先生もそこまで大人になりきれていないみたいだし、ちょっと聞いてもらってもいいかなー?」

 

 

 南雲先生は眉をハの字に下げながらも、ポツリポツリと悩み事を語ってくれた。

 

 

「話すほどのことでもない私用の話なんだけどね? 来週の日曜日、実は外せない用事があったんだよね」

 

「そういえば、来週は予定が空いてないって言ってましたよね」

 

「うん、そう。来週の日曜日がちょうど、先生の親友というか、幼馴染の1人の誕生日なんだー」

 

 

 そこから酔っ払っているのかと思うぐらい、途切れ途切れに話してくれた話をまとめるとこうだ。

 

 ……どうやら南雲先生には、小学校の時から高校までずっと同じだった幼馴染が3人いるらしい。

 一歌ちゃん達のような仲睦まじい4人組は大人になっても関係が続いており、今も誕生日には予定を空けて祝うのが当然なんだとか。

 

 今年も誕生日を当然のように祝うことになり、来週の日曜日も予定を空けて4人でお祝いをしようとしていたところに、事件は起きてしまった。

 

 

 ──痛恨のチケット購入ミスである。

 

 

 南雲先生はフェニラン大好き人間であるが、その4人にとってもフェニランは思い出の場所であり、来週の誕生日会場に選ばれた。

 しかし、チケットを確保する係の子が来週の日曜日と再来週の日曜日を間違えて買ってしまったのだ。

 

 別に再来週の方は置いておいて、当日券で遊びに行けばいいじゃんとも思うかもしれないが……どうやらその事前購入チケットにはショーの優先権があるらしくて、それを外すのはできるだけ避けたいとのこと。

 

 どうにかこうにかできないものかと模索しているが、時間だけが過ぎていき。

 誕生日の子が『再来週に行こうよ』と言うので話がまとまったらしい。

 

 ……だが、それで納得できるかと言われたら難しいのが南雲先生の心情な訳で。

 それが露骨に態度として現れていたのが、現在までの一連の流れのようだ。

 

 

「だから元気がなかったんですね」

 

「うん。ごめんねー、関係もないのに話を聞いてもらっちゃってさ。でも、私みたいな名前もまともに覚えられないような人間と、ずっと付き合ってくれる子達だからさ……何とかならないかなぁってずっと考えちゃってるんだ、情けない話だけどね」

 

 

 南雲先生はまた机に額を押し付けて、大きなため息を吐く。

 ぐったりと突っ伏す姿を見ていれば、来週か再来週までは話が通じないことは明白だ。

 

 今はまともに話せないだろうと説得を諦めた私は、美術室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 ──さて。

 フェニランといえば、私の知り合いの中で1番ご縁のある子がいる。

 

 南雲先生がその伝手に既に頼っているのか、あるいは親しいからこそ頼れないかはわからないが……当たって砕けるのは悪くないと思いたい。

 

 そう考えた私は翌日のお昼休み、1年生の教室前まで来ていた。

 

 

(さーてと、えむちゃんはいるかなー?)

 

 

 四方八方、視線が突き刺さるような気持ちになりながら、えむちゃんがいるであろうBクラスを覗き込んだ。

 

 

(うっそでしょ。知ってる顔が全くないんだけど)

 

 

 1年で仲良くしている子は結構いるつもりだったのだが、パッと教室を見た中では知っている顔が1人もいなかった。

 どういう確率なのだろうか。穂波ちゃんもBとは聞いていたものの、別のところでお昼を食べてるせいなのかもしれない。

 

 こんなことなら、アポ無し突撃なんてするんじゃなかった。

 後悔が頭の中に過ったものの、教室の前まで来ていたら後の祭りである。

 

 

(このまま待つにも、1年の教室に2年生がいたら目立ってしょうがないし……)

 

 

 誰にも伝言はできないし、視線は痛いしとお昼休みの時間をギリギリまで長居するには、状況が悪い。

 ここは戦略的撤退の後、えむちゃんに会えるかどうかメッセージを入れるしかないか。

 

 廊下の隅に寄りながら、スマホを取り出す。

 メッセージを打とうと画面に指を滑らせた私の耳が捉えたのは、ドドドッと誰かが走ってくる足音だった。

 

 

「えーなーさーんっ!! わんわんー、わんだほーいっ!!」

 

「ひゃあっ!?」

 

 

 探していた相手の声が聞こえたと思ったら、背中に衝撃がくる。

 口から飛び出たこえは何とか体面を整えたようなものに変換されていたが、ここが宮女でなければもっと間抜けな声を出していたに違いない。

 

 

「え、えむちゃん。こんにちは、久しぶりだね」

 

「こんにちは、絵名さん! 絵名さんがここにいるなんて珍しいですね。今日は1年の教室まで来てどうしたんですか?」

 

「どうもこうも、ちょっと聞きたいことがあってえむちゃんに会いに来たんだよ」

 

「なら、ナイスタイミングだったり?」

 

「うん、ナイスタイミングだね」

 

 

 オウム返しのような肯定になってしまったものの、ここで会えなかったらまた後日に会うことになっただろうし、本当にありがたいタイミングだ。

 

 内心では拍手喝采で大喜びだったものの、何とか飲み込んで平静を装う。

 急に大喜びする絵名さんはイメージと違うと言われたら、そっちの方がダメージが大きいのだ。不要なダメージは負いたくなかった。

 

 そんな自己保身はどうでもいいとして、早速えむちゃんの元まで尋ねに来た本題に入ろう。

 

 

「えむちゃん、急な話で申し訳ないんだけど、1つ聞いてもいいかな?」

 

「あたしにですか?」

 

「うん。フェニランのチケットのことだから、もしかしたらって思って……あぁでも、ダメで元々! 無理を言ってるのは承知してるから!」

 

 

 前提やら前条件やら言い訳を並べ立て、南雲先生からの話をどうにかこうにか伝えてみる。

 かなりの無理を言ってしまっているようで、ニコニコしていたえむちゃんは眉を八の字にした。

 

 

「先週までは買えたと思うんですけど、そのチケットは今はもうないんです」

 

「あぁ、やっぱり? ごめんね、無理なことを聞いちゃって」

 

「うぅ、ごめんなさい」

 

 

 えむちゃんの申し訳なさそうな顔を見ると、こんな話をしに来るんじゃなかったと後悔が押し寄せてくる。

 

 1年の教室の前で謝罪合戦をしそうになるぐらいお互いに謝ることになったものの、別れる間際にえむちゃんから興味深い情報を聞くことができた。

 

 

(最後のチケットは神代さんが知り合いにプレゼントをするために持って行った、か)

 

 

 瑞希に協力して貰えば、或いは──と考えたものの、私の頭の中にえむちゃんの悲しそうな顔が過ぎる。

 

 

(……やめとこ。南雲先生だって大人なんだし、自分でどうにかするでしょ)

 

 

 いつもよりも雲隠れ率が上昇しているだけで、授業はちゃんとしているようだし。

 不本意だが、再来週まで耐久できれば、私のまふゆ化現象はオサラバだ。

 

 えむちゃんのような顔をする人を増やさない為にも、私が何とか捌き切れば良い。

 

 

(とりあえず、無茶なことを言っちゃったえむちゃんには今度、フェニランにお邪魔する時に鯛焼きを持って行こう)

 

 

 一緒にショーをやっている3人も鯛焼きが好きかどうかはわからないものの、そこまでハズレな食べ物でもないはずだ。

 

 つい最近、SNSで美味しそうなお店も見たし、そこのお店のものを持っていけばいいだろう。

 

 

(その時に先生の件でも朗報を持っていけたらいいんだけど……それは高望みかな)

 

 

 何はともあれ、まずはこの数週間を乗り越える。

 その後にお詫びだ。目の前のことから頑張ろうと、私は手を握り締めた。

 

 

 






オリキャラというだけあって、都合がいいことに使いがちな南雲先生です……本当にお世話になってます。

話の流れ的にピンと来る方もいるかもしれませんが、次回をお楽しみに。


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