イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回の話から『迷い子の手を引く、そのさきは』の範囲に入ります。
つまり、フェニラン回ですね。






143枚目 欠片を繋げて

 

 

 

 

 人間、慣れたら何とかなるものらしい。

 何とびっくり。あたふたしていた私も数日経てば慣れたもので、悩める生徒達への対応も迷うことなくできていた。

 

 南雲先生があの話からちょっと持ち直し、ある程度は先生として機能するようになったのも理由の1つかもしれない。

 慌しい日々への光明が見えた私は、今日もニーゴとしての活動をする為に作業に向き合っていた。

 

 

『うん。この調子だったら、明後日には新曲を投稿できそうかな』

 

『やったぁ~! 今回のMV、すっごく頑張ったもんね! 反応が楽しみだな~』

 

 

 (K)の落ち着いた声と、瑞希(Amia)の心底嬉しそうな声がイヤホンから聞こえてくる。

 投稿できそう、というだけでまだ決まっていないことなのに、Amiaはもう終わったかのように喜んでいた。

 

 

『皆、お疲れさまー!』

 

 

 ……いや、本当にAmiaの中では終わった話になっているのか。

 何とも言い難い気の早さに、私は呆れてしまった。

 

 

「お疲れ様って、まだ投稿も完成もしてないでしょ。終わってないことなのに、気が早いってば」

 

『いやぁ、そうなんだけどねー。最近、すっごく曲のクオリティが上がってるでしょ?』

 

「それはまぁ、同意するけど」

 

『でしょでしょ! だから、MVの反応を見るのが楽しみなんだよね~』

 

 

 目の前にいなくても想像できるぐらい、ニコニコしてそうな声だ。

 Amiaの言葉は遠足を楽しみにし過ぎている小学生のようなものだと思えば、可愛らしいものだろう。

 

 態々水を差すことでもないと判断して、私は話の流れから気になったことを口に出した。

 

 

「そういえば、次の曲のラフってどうなったの?」

 

 

 私が休ませて貰っている間に進めていたものは結局、動画にしないという話は聞いている。

 

 私がまだ聴いていなかった曲が不採用になってしまったのなら、次回作の状況はどうなっているのか?

 普段のKの作曲ペースならそろそろデモがあってもおかしくないせいか、何の音沙汰もない現状が気になってしまう。

 

 

『あ……そのことなんだけど』

 

 

 軽い気持ちで聞いたつもりだったのに、帰ってきたKの言葉は予想よりも気まずそうだった。

 

 嫌な予感に身構えてしまったのは私だけではないはずだ。

 イヤホンからもAmiaの『え?』という呟きが聞こえてきたし、恐らくK以外の全員の頭の中には訪れてほしくない4文字が顔を出しているに違いない。

 

 

『ごめん。曲のコンセプトを考えるのに、まだ時間がかかりそうで……ラフができるのは、いつもより遅くなる、かも……』

 

 

 今にも消えそうなKの声は『スランプ疑惑』の確定演出そのものにしか聞こえなかった。

 

 まさかそんなことになっているとは思っていなくて、私は次の言葉を上手く出せない。

 しかし、こういう時にもズバズバと言える存在が1人、いるのだ。

 

 

『K、また行き詰まってるの?』

 

『うっ。その、空いた時間に少しずつ考えてたんだけど、いいアイデアが浮かばなくて』

 

 

 今まで黙っていたというのに、こういう時ほどまふゆ()はハッキリと言うのだ。

 ズバッと切られたKは苦しそうに呻きながら、苦戦していることを認めた。

 

 

(スランプって言ってるけど。曲のクオリティが上がっているということは、要求レベルも上がってるって事だもんね)

 

 

 Kの行き詰まっている原因として本人の申告以外にもあるかもしれないと、頭の片隅に置いて話を聞こう。

 杞憂である可能性が高いとしても、1人ぐらいはそういう懸念があってもいいだろうし。そう自己正当化させてから、私はKに声をかける。

 

 

「まぁ、どうしても出てこないことってあるもんね。それに今はまだ今回の動画も投稿してないでしょ。少なくとも明後日までは微調整とかしてるだろうし、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」

 

『……ありがとう。なるべく早くデモを作れるように、頑張ってみる』

 

 

 焦らなくてもいいと言ったつもりなのだが、余計にKを焚きつけてしまったような気がする。

 言葉選びを間違えて追い詰めてしまったか。焦る私のことなんて当然、画面の向こう側にいる皆に伝わるはずもなく。

 

 私の耳に届いたのは、Amiaの悪戯っぽい声だった。

 

 

『──ふっふっふ。そういうことなら、このボクにお任せあれ!』

 

 

 どこから湧き出てくるのか、とんでもなく自信に満ち溢れてそうな声だ。

 Amiaがここまで張り切っているのを聞くと、どうにも嫌な予感が頭の中に過ってしまう。

 

 

『あ、Amia?』

 

 

 Kも私と同じようで、不安そうな声が鼓膜を揺らした。

 ……とはいえ、誰かが踏み込まないと何時までもAmiaの真意は謎のまま。私は意を決してAmiaの発言に踏み込んだ。

 

 

「その言い方、もしかして変なことを考えてるんじゃないでしょうね?」

 

『あぁ、またミステリーツアーに行くとか』

 

『えっ!? ちょ、ちょっと怖いのは遠慮したいというか……』

 

 

 私の予想を何故か言葉にしてしまった雪のせいで、Kの声がホラー映画を見た後なんじゃないかと思うぐらい震えてしまっている。

 

 そう何度もミステリーツアーに行こうとするのであれば、Amiaの趣味の項目にそれが追加されることになるが……Amiaの返事はどうだろうか?

 

 

『そう不安にならなくてもだいじょーぶ! 今回は怖いのじゃないよ~』

 

「ってことは、どこかに行く予定ではあるのね」

 

『ふふーん。実はここにフェニランの1日チケットがあるんだよね~!』

 

 

 画面の向こう側でチケットを振っているのだろうか。ペシペシと微かに紙があたるような音が聞こえてくる。

 

 

『フェニランって、フェニックスワンダーランドのこと……?』

 

『いえーす。まふゆの言う通り、そのチケットだよ。サークルの子達と行ってきなよって、ショーキャストをしている知り合いから貰ったんだ~♪』

 

 

 雪とAmiaの会話を聞いていると、ふと何かが引っかかるような気がした。

 何だったか、喉の奥まで来ているのに出てこない気持ち悪さがある。

 

 

『なんだか特別なチケットらしくて、今週の日曜限定になっちゃうんだけど……どうかな?』

 

 

 Amiaの更なる情報でも思い出せなくて、私は眉間に皺を寄せて考える。

 ……思い出せないのは私が悪いだけなので、先に返事をしようか。

 

 

「私は賛成かな。ナイトショーとかすっごい綺麗だし、良いアイデアが浮かぶんじゃない?」

 

『そうなんだ。でも、フェニランってあんまり行ったことないんだけど、大丈夫かな』

 

『ヘーキ、ヘーキ。良い息抜きになるかも~って気楽に行ってみようよ!』

 

『うん、そうだね……』

 

 

 不安そうなKにAmiaが明るく肯定したおかげか、Kもフェニランに行くのは前向きなようである。

 

 後は雪だけだが、こういう時に思い出してしまうのだ。

 

 

(あー……そういえば雪って今週の日曜日、模試なんだっけ)

 

 

 だが、ここで模試の話を出した場合、雪は確実にそれを理由にフェニランに行くのを断ろうとするだろう。

 

 確か、模試の会場はフェニランからも近かったはず。

 ならば、ここは素知らぬ顔して模試の話題を引き出し、終わった後に遊ぶ約束をすれば、雪も途中からでも参加してくれるだろうか?

 

 

 頭の中で雪が来る誘い方を並べつつ、とりあえずジャブを入れた。

 

 

「雪はどうなの? 行けそう?」

 

『私は…………その日、模試があるから行けない』

 

 

 かなり悩んだようで、雪は絞り出すように言葉を告げた。

 気遣い屋のAmiaはそれで『そっかぁ、じゃあ仕方がないね』と言っているけれど、あの反応を見るに、悩んでいるのはわかる。

 

 ここで雪の言葉通りに進めるのは何だかムカついてきて、雪の考えに抗いたくなった。

 

 

「でもあんた、模試の会場ってショッピングモールの近くだったわよね?」

 

『うん、そうだよ』

 

「じゃあフェニランにも近いじゃん。模試が終わってから合流できないの?」

 

『おお、えななんナイスアイデア! せっかくなら皆で行きたいよね!』

 

『皆で……うん。模試が終わった後、少しだけなら──』

 

 

 Amiaの援護射撃もあり、もう少しで雪から参加の返事が貰えそうなところまで行ったように思った。

 だが、どうやら予想外なことが起きたらしい。雪の声色が急に変わった。

 

 

『っ! ごめん、少しミュートする』

 

 

 そんな言葉と急にミュートになった雪のアイコンをみれば、向こう側で何が起きたのかは大体予想できた。

 誰かが部屋に来たのだろう。今までの経験上、その相手は母親である可能性が高い。

 

 

『……ごめん。お母さんが早く寝なさいって言いに来たから、急にミュートにしちゃって』

 

 

 その予想通り、戻ってきたまふゆの第一声はそれだった。

 

 

『それと、さっきの件だけど……やっぱり、私は行けない。模試が終わった後も自己採点とかあるから、皆で行ってきて』

 

 

 そして、さっきまで前向きだった考えも一変してしまった。

 もしかすると、さっき悩んでいた理由も雪のお母さんが関係していたのかもしれない。

 

 

『それならしょうがないか~。じゃ、また模試がない日に一緒に行こうよ!』

 

「そうね。また模試がない日、行けそうな時があったら皆で行きましょ」

 

『……無理はしないでね、雪』

 

 

 頭の中で考えていたシミュレーションもお母さんが関与してしまえば吹き飛ぶ可能性が高く、Amiaも私もKも、雪に対して何も言えなかった。

 

 

『うん、ありがとう……お母さんがまた見に来るかもしれないから、今日は先に落ちるね』

 

 

 雪はそのまま落ちてしまい、AmiaとKが『雪は来れないか~』と、残念そうに会話を始めている。

 私はマイクもミュートにしないまま、2人の会話には参加せずに目を閉じた。

 

 

(……ダメだ。このままだとムカムカし過ぎて頭がどうにかなっちゃいそう)

 

 

 理由があり、本人が言ったことだとしても、このまま雪だけ除け者にしてフェニランに行くのは納得いかない。

 

 予定が合わなかったのだから、仕方がないことなのかもしれない。

 しかし、私の何かが『諦めなくてもいいんじゃないか?』と言ってくるのだ。

 

 きっと何か、見落としている何かがあるはず。

 例えばそう、今回みたいに無理だと思って諦めてしまいそうなこと、とか……

 

 

(あっ)

 

 

 ──痛恨のチケット購入ミス。

 

 ── 最後のチケットは神代さんが知り合い(・・・・)にプレゼントをするために持って行った。

 

 

 パチ、パチ、と。

 

 頭の中に浮かんだワードとAmiaの『ショーキャストをしている知り合いから貰った』と『特別なチケットらしくて、今週の日曜限定になっちゃうんだけど』という台詞が繋がっていく。

 

 もしかしたら、いけるかもしれない。

 私の予想が正しければこの一手が1番、丸く収まるのではないだろうか?

 

 

「ねぇ、Amia、K。ちょっと話を聞いてくれない?」

 

 

 ──それに気が付いてしまったのならば、動かないわけにはいかないではないか。

 

 

 






今回のは即フラグを回収していきます。
もしくは誰もいないセカイに初めての男の子が来る回……とも言うかもしれません。

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