イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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四季の中では秋が好きなんですけど、今年の秋も消し飛んでるらしくて……悲しいですね。





144枚目 新しい顔と昔からの問題

 

 

 

 

 

「うん、結構いい感じじゃない?」

 

 

 雪平先生の所にはあまり行けなくなった上に、南雲先生からも『いや、それでバイトを増やすのも違うでしょー? 学生の本分は青春と勉強だぞー?』と苦言を呈されて。

 

 それでも絵を描かないと落ち着かなくて、最終的に自主練習を増やしているわけなのだか、これが結構楽しい。

 

 先生達から貰う課題をやるのも新しい発見などがあってよかったのだが、自分で課題を見つけたり考えたりして取り組み、どうしようもなくなった時に初めて先生を頼るのもまた、自分の技術などが向上しているようで嬉しくなるのだ。

 

 そういうわけでウキウキしながら絵を描き上げていると、私の意識にスマホの通知音が割り込んできた。

 

 

(あー……通知音切るの、忘れてた)

 

 

 聞いてしまったら気になってしまうのが、人間というものなのか。

 このまま絵を描く作業に戻る程、追い込まれてもいなければ神経が図太いわけでもなく、私は誰からの通知だろうかと目を通す。

 

 通知画面に出ている名前は瑞希だ。

 買い物のお誘いか、遊びの誘いか。そのどれかだろうと思っていたのに、飛び込んできた文章はどれでもなかった。

 

 

『今からセカイに来れる? 皆に話したいことがあるんだ!』

 

 

 一体、何があったのやら。

 そう思うものの、私はスマホを取り出してセカイに向かった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 ……セカイに来たのはいい、のだけども。

 

 

「これは、怖がられちゃったね」

 

「えぇー、何で怖がるのさー? ボク達、怖い人じゃないよー。ホントだよー」

 

「いや、何してんの?」

 

 

 慌ててセカイにすっ飛んできたら、奏が困った顔をする側で瑞希が必死に誰かに声をかけていた。

 

 本当に何をしているのか、パッと見ただけではわからない。

 ミクの白髪にメイコの茶髪、ルカのピンクの髪までは良いとしても、リン以外に金髪が増えたのだけは理解できた。

 

 だが、どうして新しく増えた金髪の男の子に、瑞希達は怯えられているのだろう?

 イマイチ状況を掴み切れず、私は瑞希の隣にいる奏に問いかける。

 

 

「ごめん、奏。これ、どういう状況?」

 

「わたしもあの連絡で急いで来たから、わたし達がレンって子に怯えられてることぐらいしかわかってなくて」

 

 

 奏がちらりと男の子に視線を向けるので、私も同じように目を向けた。

 2人分の視線が集まったせいなのか、ミクの背中に隠れている男の子は頭を引っ込めてしまう。

 

 どうやら、レンと呼ばれた男の子は臆病な性格のようだ。

 

 接し方を間違えたら一瞬で瑞希の仲間入りなのは明らか。

 とはいえ、声をかけようにも慣れていない現状ではその行動すら悪手になり得る。

 

 

「ねぇ」

 

「……っ」

 

 

 ちょっと声をかけただけでも、ミクの背中に引っ込む怯えよう。

 

 これは大変そうだなと内心では苦笑いをしてしまうものの、顔には出さないように。

 俯きがちな相手の視線に合うように調整しつつ、相手に負担にならなさそうな距離から尋ねた。

 

 

「私、東雲絵名っていうの。あなたの名前を教えてくれないかな?」

 

「えっ、と……」

 

「難しい?」

 

「その……ぼくは、レン。鏡音、レン」

 

「そっか。よろしくね、レン」

 

 

 恐る恐る名前を言ってくれた男の子──レンに手を伸ばしたものの、レンは怖がってしまってまたミクの背中に隠れてしまった。

 

 握手はまだ許容範囲外、と。

 少し踏み込み過ぎたようだし、これ以上は突っ込まない方がいいだろう。

 

 レンから距離をとって奏達がいる方へと振り向くと、ニヤニヤしている瑞希と目が合った。

 

 

「……何よ?」

 

「誑しの絵名にも誑せないものがあるとはな~、と」

 

「は? 私のことを何だと思ってるのよ?」

 

「人誑しかなぁ。ボクじゃまともに話せなかったのに、初対面でも絵名は会話できてるし~♪」

 

「はぁ? それはあんたがグイグイいって怖がらせるからでしょ」

 

 

 己の行動を棚に上げて、私の行動について指摘しないでもらおうか。

 そんな意味も込めて睨み付けるものの、瑞希はニッコリと笑みを浮かべるだけで発言の撤回はしなかった。

 

 

「──皆、どうしたの?」

 

 

 私が真剣に瑞希の両頬を抓って私刑に処そうかと検討していると、まふゆが遅れてセカイにやって来た。

 不思議そうに首を傾げるまふゆに対して、ルカが両手でジェスチャーをする。

 

 

「ふふ。見た方が早いかしらね」

 

 

 ルカが手で指し示し、メイコも見やすいように無言で1歩下がればもう、まふゆにも見えるだろう。

 これでミクの背中に隠れている、セカイの新しい住人の姿を全員が認識できた……というわけだ。

 

 

「えっと。挨拶、できる?」

 

「うん、えっと、その……は、はじめ、まして」

 

 

 ミクに促され、改めてレンがこちらに視線を向けつつ、小さく頭を下げる。

 ミクにはべったりと懐いているようで、瑞希に「よろしくね、レン!」と声をかけられてビックリしている時も、亀のようにミクの背中に隠れていた。

 

 

「……また、増えたんだね」

 

「そうそう! セカイに来たらレンがいるからボク、ビックリしちゃってさ。これは皆に伝えなきゃ~って思って、急いで連絡したんだよね!」

 

 

 まふゆの淡々とした事実を述べる言葉に対して、いい笑顔で答える瑞希の言葉であの連絡の意味がわかった。

 

 レンを皆にも早く見て欲しくて、急いで来てほしい気持ちのままに連絡したのがあの文面だったのだ。

 それならそうと書いてほしいものだが、瑞希が慌てながらスマホに文章を撃ち込んでいる姿も想像できるだけに、今日のところは見逃そう。

 

 私が口を噤むことを選んだことにより危機が去った瑞希は、笑顔のままに体を小さく横に揺らす。

 

 

「レンもやって来たし、またセカイが賑やかになりそうだなぁって考えると、嬉しくなっちゃうよね!」

 

「そうだね。ただ……レンはまだ、慣れてないみたいだけど」

 

 

 瑞希が楽観的に喜んでいる横で、奏は心配そうにレンを見ている。

 奏の言う通り、レンはまだこちらに慣れてなさそうではあるものの、ミクだけには懐いているように見える。

 

 親しい人が1人いるなら心配はいらないだろうが、どうしてミクだけに懐いているのか?

 不思議に思っていると、今まで黙っていたメイコから私の疑問を解決してくれる話が飛び出してきた。

 

 

「レンがミクに懐いているのは──レンを見つけて、私達のところまで連れて来たのがミクだったから、でしょうね」

 

 

 レンにとって最初に出会って頼れると判断した相手がミクだったようだ。

 だから後から来た私達だけでなく、ミク以外のセカイの住人にも慣れていないように感じたのか。

 

 私の思ったことと似たようなことを思っていたのか、ルカが「私達にも心を開いてくれてもいいのに」とか言いながら、レンににじり寄っている。

 

 

「ルカ、レンが怖がってる」

 

「あら? でもリンのことも怖がってるかもしれないわよ?」

 

「っ!?」

 

 

 そこにリンが割って入るものの、ルカに言われた言葉で撃沈。

 とんでもなくショックを受けたようで、今度はリンまでレンに縋り付くように近づいていた。

 

 ……どちらにしても性急になり過ぎである。

 レンの様子を見るにゆっくりと仲良くなるしかないのだから、慌てたってどうすることもできないだろうに。

 

 

「あぁ、そういえば……まふゆ!」

 

「何?」

 

「あんたって今週は模試だけど、来週の日曜日も何か予定があるの?」

 

「別に。何もなかったと思うけど……それが?」

 

 

 急になんだと言わんばかりに胡乱に見てくるまふゆに、私は瑞希に目配せしつつ、話を続ける。

 

 

「今週行くつもりだったフェニラン、皆で来週の日曜日に行くことになったから。あんたも行けるのなら、模試の打ち上げのつもりで行かない?」

 

「……どういうこと?」

 

 

 ニーゴでフェニランに行くことと、模試を受けなくてはいけないこと。

 それはどうしても変えられない予定のブッキングだったはずなのに、急に変わったと言われたまふゆは目を見開いていた。

 

 予想通りの驚きっぷりだ。覆すために動いた身としては、良い意味で無表情を崩せて大変満足である。

 

 

「ボクが貰ったチケットを欲しがってる人がいるって絵名から聞いてさ。どうせ遊ぶなら、まふゆと一緒に憂いなく遊びたいでしょ? 絵名を仲介してチケットを交換してもらったんだよね~」

 

「そう、なんだ……でも、いいの?」

 

「いいって何が?」

 

「フェニランに行くのは元々、奏のためなのに。延期する理由にはならないと思うけど」

 

 

 瑞希と話していたまふゆが疑問を口に出すが、その点の問題も既に解決済みだ。

 まふゆが奏の方へと視線を向けると、奏は小さく頷く。

 

 

「確かに話のきっかけはわたしだけど、曲の方は1週間で何とか掴むから大丈夫だよ。それより、わたしは皆で遊びに行きたいかな」

 

「……そうなんだ」

 

 

 まふゆは細い指を唇に当てて、目を閉じる。

 暫く黙って考えていたようだが、考えが纏まったのか閉じられていた目が開く。

 

 

「皆、ありがとう。ただ、模試が終わった後でもちょっと……難しいかもしれない」

 

「え? それってどういうこと?」

 

 

 キョトンとした顔の瑞希の問いかけに、まふゆは気まずそうに目を伏せた。

 

 

「お母さんが、許してくれないかも」

 

「え、あんたのお母さんが? 何で?」

 

 

 急に顔を出して来たまふゆの母親に、私は少し強めの言葉で聞いてしまった。

 

 相変わらず、宮女でのまふゆの成績は1位をキープしているし、塾とかのテストでも成績は悪くないと言っていたはず。

 

 まふゆの母親が不満に思うような行動を表面上、していないように思うのだが……一体、何を嫌に思ったのかがわからない。

 

 心当たりがあるといえば、シンセサイザーだろうか。

 頭の中で考えてみてもわからないことばかりなので、答えを知っているであろうまふゆに直接聞いてみた。

 

 

「ねぇ、まふゆ。シンセサイザーはセカイに隠してたのよね?」

 

「うん。絵名にまたシンセを捨てられる可能性があるって言われたから、毎日隠してるよ」

 

「そう……なら、何があんたのお母さんの気に障ったの?」

 

「今までシンセを置いてたところに何もないのが気になったから、絵名から貰った食べ物の箱とか置いてたの。そしたら、それがお母さんに見つかって、最後に『そんな友達と遊んで、後悔しないでね』って言われた」

 

「はぁ!? いや、はぁぁ……」

 

 

 まふゆに怒りをぶつけたって解決しないと、冷静な己がブレーキをかけてくれたので火山の噴火はキャンセルされた。

 私は前々から状況をまふゆから聞いていたので知っていたものの、全く知らない奏達はキョトンとしている。

 

 

「えっ、シンセを捨てられるってどういうこと……?」

 

「ねぇ、まふゆ。良ければその辺りの話、ボクらにも聞かせてくれないかな?」

 

 

 そういえば、奏も瑞希もまふゆのシンセサイザーをお母さんに捨てられてたことを知らないのだった。

 

 その辺りの情報を共有する良い機会なのかもしれない。

 

 

(ま、私のことじゃないからまふゆの判断に任せるんだけど)

 

 

 だから、助けを求めてくるような視線を向けられても私は何も言わないのだ。

 

 そういう意味も込めて首を横に振ると、私の姿勢を理解したらしいまふゆはゆっくりと奏達の方へと向き直る。

 

 

「ちょっと話が長くなると思うけど、それでもいい?」

 

 

 そんな言葉から、まふゆのお母さん対策会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 






ストーリーを見返す度に、まふゆさんのお母さんの言葉に頭を抱えそうになるのが難点……
まふゆさんって、奇跡的なバランスで成り立ってるんだなぁって感動を覚えます。


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