イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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家族に隠れて○○っていうのはよくやることだと思います。
布団の中で懐中電灯を片手に本を読んだり、ゲームをしたり……捲られて寝なさいってされるまでがセットでしたね。
まふゆさんってそういうことすらしてなさそうなイメージ、あります。






146枚目 フェニラン・対策会議

 

 

 

 

 そもそもの話。

 まふゆはニーゴでの音楽活動について、自分の母親に全く話していない。

 

 普通ならば1つ屋根の下で暮らしている相手に隠し事なんて、バレる時期が早いか遅いかなだけの自殺行為といっても過言ではないだろう。

 

 それなのにどうして秘密にしているのか?

 その理由はまふゆのお母さんが悪気もなく行ってしまったことも、原因の1つ。

 だが、1番の理由は──

 

 

「──高校2年生になってすぐの頃、お母さんに部屋に置いていたシンセを捨てられそうになったの」

 

 

 嫌な思い出を吐き出すように言ったまふゆの言葉が、お母さんに言えない理由だった。

 

 まふゆは医者になる為に医大を目指している……なんて思っていそうなまふゆのお母さんは、まふゆには勉強に集中してほしいと思っているようで。

 そんな善意もあってか良い意味でも悪い意味でもまふゆのお母さんのバックアップは豊富であり、娘の応援に力を注いでいた。

 

 

(しかもこれの何が厄介かっていうと、まふゆのお母さん的には全く悪気がないっぽいところなのよね)

 

 

 無知な上に善意で動く人よりも、悪意のある人間の方が相手の利益さえ提示できれば話がわかる、とはよく言ったものだ。

 

 まふゆのお母さんは『まふゆの夢は医者になること』だと思い込んでいて、自分はそれを『献身的に応援している良い母親』……みたいなことを思ってそうな節がある、と私は思っている。

 

 そんな相手にサークルで曲を作って動画投稿をやっていて~、なんて言ったとしても『まふゆの為』という免罪符があると思い込んでいる以上、その大義名分を掲げて反対されるのは容易に想像できた。

 

 そういうまふゆのお母さんの勘違いした視点から考えると、まふゆのお母さんが見当違いなことをしていると断言できないだけに、始末が悪い。

 

 正義は我にありと思ってる人間に言葉を尽くしても、泥沼化するのは目に見えているのだ。

 

 

「なるほどねぇ。シンセを捨てられたって話はそういうことかぁ。ってあれ? ボクの記憶違いでなければ、その頃って……」

 

「わたしも心当たりがあるよ。皆、セカイに初めて行った時に近いよね」

 

 

 私が頭の中で考え事をしている間に、瑞希と奏が顔を見合わせていた。

 2人とも、大変勘が良いようで、まふゆが消えたくなった追い打ちの原因を的確に予想できている。

 

 この先もまふゆに説明をしてもらうのが良いとは思うのだが、目を伏せているまふゆを見ていたらそれを強要するのも忍びない。

 

 自分のお母さんの悪口を言いたくない、というまふゆの気持ちも理解できなくもないので、説明を引き継いで私の方からわかっていることだけを告げた。

 

 

「うん、2人の予想は正しいよ。参っていたまふゆに追い打ちをかけるみたいに、シンセを捨てようとしてたのがまふゆのお母さんだから。とりあえず、応急処置としてセカイに絶対に隠すように言ってたのよ」

 

「対策はしてるんだね。じゃあ大丈夫なのかな?」

 

「瑞希の言う通り、まふゆがセカイに隠し忘れたりしない限りは大丈夫……って思ってたんだけどね」

 

 

 それでもまふゆのお母さんは釘を刺してきたらしいので、油断できない。

 

 高校1年生の時とは違い、2年生ともなれば高校3年生という受験目前の年ということもあるのだろう。

 まふゆのお母さんがどこまで過敏になっているのか、子供の身分では想像が難しい。

 

 それに、まふゆ自身は自分のお母さんを嫌っているわけでもないし、お母さんの言い分は正しいと思っているようなのだ。

 であれば、現状を維持するためのアプローチも慎重にならざるを得ない。

 

 ここには瑞希や奏だけでなく、セカイの皆もいるのだ。三人寄れば文殊の知恵ともいうし、複数人いればアプローチの仕方も無限大だろう。

 まずは話を聞く。そこから作戦を考えてみよう。

 

 

「というわけで、まふゆ。お母さんとどういう話をしたのか聞かせてくれない?」

 

「何がというわけなのかわからないんだけど」

 

 

 なんてことを言いながらも、まふゆはポツポツと話してくれた。

 

 今日、まふゆが家に帰ったところ、お母さんから「隠し事をしていないか?」と聞かれたらしい。

 その時のまふゆは頭の中にニーゴのことが過ったものの、無いと答えて誤魔化した。

 

 その結果、まふゆのお母さんが出してきたのがシンセを置いていた所に収めていた私がプレゼントした食べ物の箱だった……と。

 

 まふゆの部屋を掃除していたら見覚えのないものが出てきて、まふゆが友達と遊び過ぎじゃないかと心配になったというのがまふゆの母親の言い分で。

 

 

(こっちは塾とか予備校とかそういうのはちゃんと避けてるんだから、空いてる時間の少しぐらい自由にしていいじゃん)

 

 

 というのが正直な感想なのだが、今回の件は私がプレゼントしたものが原因で起きたようなものなので、強く出れない。

 

 

(そもそも、まふゆが残すことも考えてアイテムを選んでなかった私も悪い……って、いくら何でもそんなところまで予想できないから!)

 

 

 今ここで自分が悪かった~とか、考えたところで起きてしまったことは変えられない。

 

 過去の自分も予想できなかったのだから、そこはもう割り切るとして。

 優先するべきことはこれからの対策。そのためにまふゆの母親の言い分をもう少し聞き込もう。

 

 

「まふゆはお母さんから『友達と遊んでいて後悔しないでね』とか言われたんだっけ?」

 

「うん、間違いないよ」

 

「じゃあ、まだサークル活動の方はバレてない可能性が高いわね」

 

 

 サークル活動がバレていないのであれば、だ。

 まふゆが自分の知らないところでよくわからない友達と遊んでいる可能性というのが気に入らないと思った可能性が高い。

 

 

「その友達について何か言われたりした?」

 

「受験勉強をしている子なのかって聞かれたから、同じ学校の子だって答えておいた」

 

「その答えだと納得しなかったんじゃない?」

 

「うん……学年2位の子って言ったら、後悔しないようにねって言われた」

 

 

 イメージするまふゆのお母さん的に、この話の流れでは押しが弱いように感じる。

 さて、ここからどうやって憂いなくフェニランに遊びに行くような誘い文句を考えようか。

 

 周りに人がいるのも忘れて頭をフル回転させていると、思考の外から瑞希の素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 

 

「えぇっ!? 絵名が学年2位!?」

 

「そんなに驚くこと?」

 

「ボク、そんなの初めて聞いたんだけどっ!」

 

 

 大声を出す程驚くことなのだろうか。

 首を傾げつつぐるりと見渡せば、奏もちょっとびっくりしてるみたいだし、リンを筆頭に意外そうな顔をしているのも見えてしまった。

 

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

「勉強はできる方って聞いてたけど、そこまでできるとは思ってなくて」

 

 

 申し訳なさそうな奏の言葉で理解した。

 まふゆに負け続けているのも事実だし、それで何かを聞かれても「赤点は取ってない」とか「勉強はできる方だから」としか言ってなかった気がする。

 

 

「絵名って12点の女だし、ボク的には絵名の「勉強はできる方」って言葉はちょっとした見栄だと思ってたよ~」

 

「失礼な、ゲームの話と結びつけるのはやめなさいよね」

 

 

 12点の女というのはこの前、奏の運動不足を解消するために遊んだゲーム内でのミニゲームで私が取った点数のことだろう。

 初見なのだからしょうがない……と言いたいところだが、ゲームをほぼしないまふゆが軽々と高得点を取っていた手前、負け惜しみにしか聞こえない。

 

 

(……あれ?)

 

 

 よくよく観察してみると瑞希の笑みがいつもとちょっと違う。

 こういう時の瑞希は揶揄ってそうな、悪戯っ子みたいな顔をするのに、何か伝えたがっているような……?

 

 

「瑞希。何か案があるなら、聞くけど?」

 

「おぉ! 言わなくてもわかるなんて、ボクと絵名は以心伝心かもしれないね~」

 

「私への負担が大き過ぎる以心伝心なんて嫌なんだけど」

 

 

 どう頑張って好意的に解釈しようにも、今のやり取りでは瑞希よりも私の読みとか、そういう能力への負担が大き過ぎると思う。

 

 私の正直な感想に全く堪えた様子のない瑞希は、自慢げな顔で人差し指を立てた。

 

 

「そもそも、絵名って自分だけだったら学年2位になるまで勉強を頑張るタイプじゃないよね。えななん検定を持っているボク調べによると、絵名が頑張る時は大体他人の為と相場が決まってるんだよ!」

 

「確かに、勉強は邪魔にならない程度に出来てたら良いやって割り切って、絵に全力を注ぎそうだもんね」

 

「流石は奏。類友(るいとも)である絵名のことはよくわかってる~」

 

「る、るいとも?」

 

 

 奏はよくわからなさそうに首を傾げたが、私は何となくわかってしまって顔を顰めた。

 

 類友。類は友を呼ぶ──つまり、奏と私は同類だと言いたいのだろう。

 間違ってないが私と奏を同類扱いするのは奏がかわいそうなので、やめてほしい……が、今は関係ないので不満は飲み込むとして。

 

 

「色々気になるところがあるけど、まぁ間違ってないわね」

 

「でしょでしょ。で、その頑張る理由がまふゆの為……というか、まふゆのお母さんの対策なんでしょ?」

 

「……そこも正解」

 

「そこでボクが作戦を考えました!」

 

「ふぅん? 聞かせて貰おうじゃないの」

 

 

 私の答えを待っていましたと言わんばかりに、瑞希は人差し指を立てていた手に中指も追加で立たせ、ピースサインを作った。

 

 

「1つ目に、絵名がまふゆのお母さんのお眼鏡に叶うスペックがあること。その辺は大丈夫そうだと仮定するよ。そして2つ目だけど……絵名がバイトでフェニランに入ってたって言ってたよね。その時のデザインってどうなってるの?」

 

「え、南雲先生とのバイトの話よね? 確かまだ飾られてると思うけど」

 

「なら、条件は揃ったね! まふゆは正直にフェニランに遊びに行くっていうんじゃなくて、友達が描いた絵を見に行くって嘘でもない変化球的な伝え方をすればほぼ解決じゃないかな?」

 

「……瑞希にしては良い案じゃん」

 

「ボクにしてはって何さ!?」

 

 

 ワイワイと騒ぐ瑞希を無視して、瑞希の案を頭の中で検討する。

 

 瑞希の案でもまふゆのお母さんが渋るのであれば……あまりやりたくないことだが、お父さんの名前という手札を切ってもいい。

 

 

「まふゆはどう? いけそう?」

 

「……たぶん。1回、話してみる」

 

 

 

 

 

 ──そこから、瑞希の作戦を軸にあーでもない、こーでもないと作戦を立てること数分。

 

 

 

 一旦セカイから解散して、まふゆの報告をナイトコードで待つこと1時間ほど。

 ボイチャを繋ぎながら今か今かと待っていると、まふゆから『いけそう』という連絡が来たので、その日の作業はとんでもなく捗った。

 

 

 






12点の女のとかゲームの話って? となった人は、プロセカ公式のYouTubeにある『セカイのゲーム日和』という再生リストをチェック!


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