イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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レッツゴー、フェニラン回です。






148枚目 フェニラン日和

 

 

 

 

 

 まふゆが模試を乗り越えて、あっという間に時間が過ぎた。

 

 学校も特に大きなイベントもなく、まふゆが受けた模試の結果もまだ先のようで、判定はまだ不明。

 結果はわからないものの、その前に遊んでしまったら怖いものなんて何もないでしょ、とまふゆを丸め込むこと1週間。

 

 私達は無事に誰1人、遅れることなくフェニラン前で集合することができた。

 

 

「──いやぁ。正直、絵名辺りは遅刻すると思ってたけど、皆揃って何よりだね〜」

 

「遅刻するわけないでしょ。何でそこで私だけ名指しなのよ」

 

「胸に手を当ててみたら、絵名もわかるかもよ~?」

 

「胸に手を当てた結果、拳まではオッケーって結論が出たんだけど……」

 

「あはは、それは遠慮しようかな」

 

 

 それならば最初から揶揄うなとは思うものの、ここで揶揄わない瑞希も想像できないので色々と複雑だ。

 拳のプレゼントは遠慮されてしまったこともあり、瑞希には八つ当たりの意味も込めてジト目をプレゼントしよう。

 

 一通り瑞希への抗議を終えたところで、私は1番気になっていたまふゆへと視線を向ける。

 

 

「そうそう、まふゆ。今日はナイトショーも見る予定だけど、門限を過ぎるのは許されたの?」

 

「……たぶん」

 

「たぶんって、何でそんな曖昧なのよ?」

 

「わかったって言ってくれたけど、嫌そうだったから……」

 

 

 まふゆの話から察するに、まふゆの母親から得られたのは『消極的な許可』なのだろう。

 

 許可を貰ってよかったと喜べばいいのか。それとも、不満の矛先がどこに向くのかわからないと恐れればいいのやら。

 嫌な予感がこんにちは~と顔を出してる気がするけれど、今すぐどうにかできる問題でもない。

 

 

(今は楽しめるんだし、心配事は楽しんだ後に悩むしかないよね)

 

 

 言質は取っているのだから、今日のこの件で何かを言われることはないだろう。

 

 

「良いって言ってくれたのなら、今は気にしてもしょうがないんじゃないかな」

 

「そうそう。考えたって答えは出てこないだろうし、とりあえず今日は楽しんだ方がいいよね!」

 

 

 奏と瑞希も同じ意見らしいので、私だけ考え過ぎて身が入らないのもダメだ。

 まふゆの方に視線を向けてもいつも通りの無表情だし、考え過ぎたって何も始まらない。

 

 

「そうね。ここで考えたって何も出てこないし、楽しみましょっか」

 

「……うん、そっちの方がレン達にもいいと思う」

 

「何でそこでレン達が出てくるのよ?」

 

「何でって、こっちに来てるからだけど」

 

 

 まふゆが自分のスマホの画面が見えるように差し出してくる。

 周りの人から見えないように3人で覗き込んだ画面には、ミクとレンの姿があった。

 

 ひょいと顔を出しているミクと、隠れるように顔を覗かせているレンは髪色が一緒ならば姉弟の様にも見えるぐらい仲良く並んでいる。

 

 2人揃ってまふゆのスマホに来るなんて、一体何があったのだろうか。

 不思議に思っていると、ミクが先に疑問に答えてくれた。

 

 

『まふゆのことが気になったのと、フェニランを見たいって話になったから、見せてもらおうと思って』

 

『ぼくがミクに無理を言って連れて来てもらったんだ。ダメ、だったかな……?』

 

「全然ダメじゃないよ! あ、でも他の人にバレないように気を付けてね。バレちゃったら絵名がキレなんに進化するからさ」

 

「そこ、人のせいにして注意を促さないの」

 

 

 瑞希が言っていることは概ね賛成だけど、どうして態々私を謎の方向へと進化させたがるのだろうか? 私には理解できない弄り方である。

 

 ボケなきゃ話を進めようとしない瑞希に更にジト目を向けつつも、とりあえずフェニランに入場する手続きをする。

 

 このまま入口付近でコントをして時間を浪費するのはごめんだ。

 瑞希がこれ以上私を弄ってくる前に、さっさと終わらせてしまおう。

 

 

『わぁ……!』

 

『皆、楽しそうだね』

 

『うん、ニコニコしてるね』

 

 

 チケットを渡してフェニラン内に入ると、レンとミクがわかりやすい反応を見せてくれる。

 私も最初に来た頃はこうやってビックリしていた……いや、ビックリするよりも絵を売る方に頭を悩ませていたな。

 

 子供のような純粋な反応をすることなく、アトラクションのみを楽しんでフェニランに来たことがない自分自身を思い出してしまい、口角が引き攣ってしまった。

 

 最近だって悩み事相談かバイトでしかフェニランに来ていないし、こうやってただ遊びに来るだけなのは初めてなのに、どうしてこうも楽しくないことばかり考えてしまうのか。

 

 

(前と比べても人が多いとか、何で私は皆で遊びに来てるのに水をかけるようなことばかり考えてるんだろ)

 

 

 ナイトショーでバズッたことと、えむちゃん達が宣伝公演を頑張っているおかげで地方からのお客さんも増えているのは事実であっても、マイナス面ばかり見てしまうのはよろしくない。

 

 

「──あれ、朝比奈センパイ? ……と、絵名さんだ!」

 

 

 何とか気持ちを切り替えようと気合いを入れていると、丁度良く気分を上向きにしてくれそうな声が聞こえてきた。

 タイミングが良いとは個人的に思うものの、今はちょっとマズい。

 

 

「ミク、レン、ごめんね。ちょっとの間、隠れてて!」

 

『わ、わかった……!』

 

『う、うん……!』

 

 

 瑞希も私と同じことを考えていたようで、いち早く小声でミク達に呼びかける。

 間一髪、元気な声の主であるえむちゃんが近づいてくる前に、ミク達はスマホから隠れることに成功した。

 

 

「鳳さん?」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 素早く優等生の皮を被ったまふゆが、えむちゃんに声をかけたは良いものの。

 どうやら今のまふゆは『笑っていない』判定らしく、えむちゃんが上擦った声を出す。

 

 これだと気分を上向きにしてもらうどころか、えむちゃんの気分が下落しかねない。

 まふゆもお母さんのことで少々気分が落ち込み気味だろうし、ここはえむちゃんの知り合いである私も話に入らなければ。

 

 

「えむちゃん、久しぶり。最近は宣伝公演で色んなところに行ってるって聞いてたけど、今日はフェニランにいたんだね」

 

「お久しぶりです、絵名さんっ。今日はナイトショーの前にもワンダーステージでショーをするので、絵名さん達も見に来てください!」

 

「ありがとう、えむちゃん。じゃあ、両方とも見させてもらうね」

 

「えへへ……はい! わんだほいな気持ちになれるように、頑張りますね!」

 

 

 えむちゃんはいつもの調子を取り戻したようで、満面な笑みを浮かべている。

 

 私の後ろでは「わ、わんだほいって何……?」と困惑する奏がいたものの、瑞希も楽しそうにえむちゃんを応援している。

 

 

「えっと、朝比奈センパイ……」

 

「うん?」

 

「ひょっ!?」

 

 

 後はまふゆだけなのだが、首を傾げるだけでえむちゃんを飛び跳ねさせており、何だか状態が悪化している。

 

 喧嘩をしているわけでもないのに、えむちゃんとまふゆの仲介なんてどうすればいいのやら。

 何もできずに途方に暮れてしまった私を他所に、動きを見せたのは小動物のように怖がっていたえむちゃんだった。

 

 

「そ、そのぉ……あ、朝比奈センパイ!」

 

「……何かな?」

 

「あの、フェニックスワンダーランド、楽しんでくださいね! ここは、みんなを笑顔にしてくれる素敵な場所なので!」

 

「え? ……うん、ありがとう」

 

「はい! じゃあ、あたしはこれで失礼します!」

 

 

 流石はえむちゃんと言うべきだろうか。

 最後は飛んで逃げるように立ち去ったものの、見事にまふゆからほんの少し、笑みを引き出すことに成功していた。

 

 この快挙に瑞希も「おぉ、すごいなぁ」と感心しているし、スマホから心配そうに顔を覗かせているミク達も、いつの間にか小さく拍手をしている。

 

 

「笑顔にしてくれる、場所……」

 

 

 まふゆもえむちゃんの言葉に思うことがあったのか、自分のお母さんの反応がすっかり頭から抜けているようだ。

 私もえむちゃんの方に集中していたので、ズルズル引き摺られていた思考が前向きになった気がする。

 

 

「あの子、絵名とまふゆの後輩? すっごい明るい子だったね」

 

(えむちゃんってやっぱりすごいなぁ)

 

 

 あんなにまふゆを怖がっていたのに、ちゃんと言いたいことは言えるえむちゃんはとんでもなく凄い子だ。

 

 

「あの子、まふゆ達の学校の後輩? すっごい明るい子だったね」

 

「うん。絵名の前だともっと明るいよ」

 

「あー……さっきの態度を見てたらわかる気がするよ」

 

 

 私が感心している間に、瑞希とまふゆが2人で話している。

 ミクとレンも『まふゆは怖くないよね』と会話に参戦していて、4人で盛り上がっているようだった。

 

 まさかミク達もえむちゃんの笑顔に関する感度というか、他人の表面よりも内面をよく見てしまう子だからこそ、まふゆの複雑怪奇な内面を感じ取って怖がっているとは思うまい。

 両者共に知らない相手ではないので、えむちゃんの怖がる理由も察せるし、ミク達の言い分も良くわかる。

 

 そういうこともあって黙って見守っていると、私以上に黙っていた奏が口を開いた。

 

 

「まふゆ、大丈夫? もしも調子が悪いなら、休んでもいいと思うけど」

 

「さっきまでは胸の中が冷たかったけど、今は平気。それで、お化け屋敷系統を除いて何か乗るの?」

 

「そうだね~。まふゆの言う通り、とりあえずお化け屋敷系は省くとして……ボク、乗りたいものがあるんだけど、皆で乗ろうよ!」

 

 

 しれっとまふゆと瑞希がお化け屋敷系統には行かないと宣言している。

 奏もホラー系はちょっとと言っていたし、気を遣ったのだろうか。私も得意ではないので避けてくれるのならありがたい。

 

 

「乗りたいものって、瑞希は何に乗りたいの?」

 

「ふふーん、よくぞ聞いてくれました! ボクが乗りたいのは──フェニックスコースターだよ!」

 

 

 ででーんという効果音が聞こえてきそうなぐらい自慢げに言ってきたアトラクションは、本格的なアトラクションだと言われている絶叫系だった。

 近くで動かれるのは無理だが、乗るのはまだ大丈夫……ではあるものの、今回のアトラクションは私1人ではない。

 

 

「レン達もいるし、もう少し大人しいのから始めない?」

 

「おやおや、絵名は怖いのかなー?」

 

「はぁ、煽るのはやめてくれない? 1発目から行くには重たいって言ってるだけで、乗りたくないとは言ってないでしょ」

 

 

 瑞希にそう言いながら、わかりやすいようにまふゆのスマホへと視線を向ける。

 

 そうすれば予想通り、レンが『こ、怖いの?』と震えており、どう頑張って解釈しても瑞希が希望するアトラクションに乗れそうな雰囲気ではない。

 

 

「瑞希、わかった?」

 

「うん……ちゃんと段階を踏んでから遊ぼっか」

 

 

 そういうわけで、いきなりクライマックスのような状態を避けて、子供向けのアトラクションからチャレンジしていくことになったのだった。

 

 

 






えななんはジェットコースターが近くに通ってるのを見るのも覚悟がいるので、走ってる姿からは全力で目を逸らしています。


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