イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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心配し過ぎて空回り。




149枚目 杞憂合戦

 

 

 

 

 

 えむちゃんが嵐のように過ぎ去った後、まずは空いていた子供向けのコースターに乗ることになった。

 

 フェニランでは『おさかなコースター』と呼ばれているそれは子供向けのようで、周りにいるのはほぼ小さな子ばかりである。

 その付き添いに保護者らしい人の姿や、たまに学生も混ざっているので、小さな子供専用ってことはないはず。

 

 これならば、初心者向けだと思っても的外れではないだろう。

 トラウマを刺激されない程度に吟味した私はくるりと身を翻し、同じく厳しい視線を向けていた瑞希に声をかけた。

 

 

「ねぇ瑞希、最初に乗るならこれとかいいんじゃない?」

 

「だね。ここを入門編ってことにして、レン達がいけそうならレベルを上げていきたいな〜」

 

「……仮に無理だったとしても私が一緒に乗るから、ボッチになる心配はないけどね」

 

「えぇー、絵名が絶叫系に乗るなんてホントかなー? 後でやっぱり怖いーって、取り消しちゃうんじゃないの〜?」

 

「はぁ? もう、取り消さないっての」

 

 

 瑞希の同意も得れたということで、奏とまふゆも引き連れて『おさかなコースター』の列へと並ぶ。

 

 10分は待つことになりそうな最後尾に辿り着くと、ふと、まふゆが何かを思い出したかのように声を出した。

 

 

「……あっ」

 

「うん? まふゆ、何かあったの?」

 

「……別に、何も。ただ、このアトラクションを見てたら、小さい時のことを思い出しただけ」

 

「小さい時のこと、ねぇ。もしかしてまふゆ、フェニランに来たことあるの?」

 

「一応。子供の頃にお母さんと1度だけ来たよ」

 

 

 目を伏せて、記憶を掘り起こしているらしいまふゆを見るに、お母さんと共にフェニランへと遊びに来ていたのは本当の話らしい。

 

 まふゆの話から聞こえてくるお母さんの話を聞いていると、失礼かもしれないがこういう場所に遊びに来るのは意外だった。

 まふゆの話を聞いていて出来上がっていたまふゆの母親像的に、まふゆを遊園地へ連れて行くのは嫌がりそうだと思ったからである。

 

 私の偏見が大外れだとは思っていないものの、相手は会った事もない人だ。一方的なレッテル貼りはやめておこう。

 

 

 そうやって自分の思考回路の流れを正している間に、スマホから少し顔を出したレンが問いかけていた。

 

 

『まふゆちゃんは1回来たことがあるんだね。皆はどうなの?』

 

「ボクは子供の頃から家族と何回か来たことがあるし……最近も来ることはあったから、結構詳しい方だと思うよ~?」

 

「わたしは小さい時に何回か来たことがあった気がするけど、最近は全く来てなかったから微妙かも」

 

『そうなんだ。じゃあ、絵名ちゃんは……?』

 

 

 レンの何気ない言葉に、奏と瑞希が「「あっ」」っと小さく声を漏らした。

 まふゆもいつもは何を考えているのかわからない目をしているのに、今向けられてくる目には心配の色が籠っている。

 

 ミクもあわあわとレンの後ろで不安そうに視線を彷徨わせているのを見れば、流石の私でもわかる。

 

 どうやら皆に気を遣わせてしまっているらしいが、この程度の質問はなんてことはない。

 特に気負うことなく、レンに事実を告げる。

 

 

「私のバイト先の人がフェニランが好きだから、高校に行ってからは結構フェニランに来てるよ。最近のフェニランのことなら詳しいかもね」

 

「もしかして、ニーゴのフェニラン博士であるボクにもライバルが出現しちゃった?」

 

「フェニラン博士ってどっから生えてきたのよ、その肩書き……はぁ、そういう面倒なのはパス。瑞希が1番フェニランに詳しい博士ね。おめでとう」

 

「えぇー。そこは乗ってよ〜」

 

 

 瑞希が肩を落としているが、面倒でしかないので辞退する。

 瑞希もそこまで本気ではないようで、私の様子を窺いつつも特に変化がなさそうなのを見て露骨にホッとした顔をしていた。

 

 

(気を遣わせちゃったかなぁ)

 

 

 別に気を遣わなくてもいいのにと思うけれども、同時にどこか胸の中がソワソワする。

 そこまで気を遣ってもらうようなことではないだろうし、私は話をぐいっと戻すことにした。

 

 

「それにしても……急にアトラクションを見て小さい時のことを思い出すなんて、まふゆはここに何か思い入れがあったの?」

 

「別に。乗ってもないアトラクションだから、思い入れはないはずだけど」

 

「けど?」

 

「乗りたいって思ってた気がするけど。私が『悪い子』だったから、メリーゴーランドも結局乗れなかったなって……」

 

 

 これは私もやらかしてしまったかもしれない。

 ちらりと隣を見ると、瑞希が「あちゃー」と言いたげな顔でこっちを見ているし、これは確実にやらかした。

 

 背中に嫌な汗が出ているのを感じながら、脳から熱が出るんじゃないかと思うぐらい働かせる。

 ……が、私の頭が答えを弾き出す前に奏が口を開いた。

 

 

「じゃあ、これに乗った後にメリーゴーランドも行こう。わたしも皆と沢山、思い出を作りたいから」

 

 

 格好をつけたり気負うようなこともなく、当然のように言ってしまう姿を見て、改めて奏の凄さを感じた。

 

 

「絵名、大丈夫?」

 

 

 そのままミク達も巻き込んで話す奏達を他所に、瑞希が囁くような声と共に1歩、近づいてくる。

 

 

「うん……奏のおかげで事故にはならずに済んだわ」

 

「人を避けようと思ってハンドルを切ったら、その先に別の人がいたようなモノだもんねぇ。ボクもレンの言葉に過剰に反応し過ぎたし、ごめんね」

 

「私も迂闊だったし、気にしてないから謝らないでよ」

 

 

 こっちとしては過剰に気にされる方が困るのだ。

 そんな気持ちが通じたのか、瑞希はそれ以上謝罪することなく、ちらりと後ろに視線を向ける。

 

 視線の先にはまふゆがスマホをさりげなく前に出して、ミクやレンにおさかなコースターを見せてる姿が見えた。

 

 

「もしかしたらまふゆの好きなものをまた1つ、見つけることができるんじゃないかって思ってたんだけど……まだまだ考えが甘かったわ」

 

「そうは言ってもねー。遊園地系の思い出で楽しかった話より、未練が先に出てくるなんて思いつかないと思うよ?」

 

「いや、まふゆの家庭環境ならあり得る話だって考えられるのに、そこまで考えられなかったし」

 

「サトリ妖怪でも目指してるのかな? そこまでいったらもう、ボクは絵名が怖くなっちゃうんだけどなー……」

 

 

 態とらしくブルブルと震える瑞希の言うことも尤もである。

 

 瑞希命名『えななん検定』とかいう検定でも、私が思うようなことができるレベルは検定範囲を超えているだろう。

 仮にまふゆ検定ができたとしても、1級だって相手の心を読むような真似は想定されているはずもなく。

 

 言葉にしなくても瑞希が言いたいことが何となくわかってしまい、浮かび上がっていた言葉を全部飲み込んだ。

 

 

「……そもそも、反省会をやるとしてもここでやることじゃないわよね」

 

「うんうん。絵名が気にしてないって言ってくれたように、まふゆだって絵名が思うほど気にしてないかもよ?」

 

 

 瑞希がまふゆの方へと視線を向けるので、私も真似して後ろを盗み見る。

 レンとミクの質問に淡々と答えている姿を観察しても、先程のやり取りを気にしているようには見えない。

 

 瑞希の言う通り、杞憂だったわけだ。

 これでまだ私が気にしていたら、自分が嫌なことをまふゆに押し付けることになってしまう。

 

 

「そろそろ順番が回ってきそうだし、今は楽しまなきゃ損よね」

 

「そうそう! 乗りたいものが目白押しだし、近いものからドンドン乗ってこ〜♪」

 

 

 瑞希がそう言った後に、タイミング良く私達の順番がやってきた。

 

 瑞希にも楽しむと言ったのだ。今からは何も考えずにお楽しみの時間である──

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「──あーっ、楽しかったぁー!」

 

 

 リクエストしていた乗り物を乗れた瑞希は、ご満悦な顔で大きく伸びをする。

 

 おさかなコースターを乗った後、まふゆの希望だったメリーゴーランドにも行って、その後は瑞希が希望していたアトラクションに乗っていった。

 

 私は特に希望もなかったし奏もお任せ気味なので、乗ったアトラクションはほぼ、瑞希が選んだもの。

 とはいえ、皆が配慮してくれたのかお化け屋敷系はとことん抜かれていたし、周囲の反応を見つつ器用に回っていたと思う。

 

 私にはそんな立ち回りは難しいので、進んで仕切ってくれる瑞希がすごくありがたかった。

 

 

「結構回ったよねー。絵名とまふゆの後輩の子のところも行ったし!」

 

「あー、神代さんもいたよね。こっちを見てビックリされたけど」

 

「あはは。チケットは先週の分を渡したはずなのに、何で今日? って顔だったよねー」

 

 

 瑞希は笑ってるが、こっちとしては非常に申し訳なくて、ショーが終わってから理由を説明した上で頭を下げたぐらいである。

 

 そういうことか、と神代さんも笑ってくれたから良かったけれど、違う反応だったらどうなっていたことやら。

 相手が優しくて本当に良かったと、改めてそう思う。

 

 

「この後、ナイトショーだよね。奏も疲れてるみたいだしちょっと休もっか」

 

「私も少し疲れちゃった。皆でベンチに座って……って、あれ?」

 

 

 そういえばレンやミクの声も聞こえないなとは思っていたが、特徴的な紫髪が視界に全く入らない。

 慌てて周囲を見渡してみたものの、目に入る距離には紫色の髪の毛の人間は全く存在していなかった。

 

 

「……まふゆはどこに行ったの?」

 

「あれ、ほんとだ。奏、まふゆがどこに行ったのか知ってる?」

 

「さっき、飲み物を買ってくるって言ってたよ」

 

「は? あのバカ、もしかして1人で行ったの!?」

 

 

 こんな人が多いところで1人、何かを買いに移動するなんて『迷子になります!』と宣言するようなものだ。

 ミク達がいるから厳密には1人ではないのかもしれないが、それでも動けるのはまふゆのみ。ほぼ1人と変わらない。

 

 

「本当についさっきだから、すぐに戻って来ると思うけど」

 

「奏の言う通りになればいいんだけどね……」

 

「んー。じゃあさ、ここで今から10分ぐらい待ってみよっか。待っても戻って来なかったらスマホに連絡を入れて、探しに行こうよ」

 

 

 奏の言葉に嫌な予感しかしない私に対して、瑞希が中間のような提案をしてくれる。

 まふゆが迷子になっていないのであれば、瑞希の言う通りにするのが良いとは思う。

 

 

「そうね。迷子の才能もないことを祈っておくわ」

 

「迷子の才能って、迷子にそんな大層なものは必要ないんじゃないかなぁ」

 

 

 瑞希は苦笑いしてるけれども、感情どころか本人も迷子になるのであれば、それはもう才能だろう。

 

 

(あいつ、ちゃんと戻ってきたらいいんだけど……)

 

 

 才能がありませんように、と願っていたはずなのに。

 10分ほど待ってもまふゆは戻って来なくて、探しに行くことになった。

 

 

 

 






GPSのおかげで迷子の才能はかなり薄まってくれるので、現代社会に感謝ですね。

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