イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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150枚目 ワンダリング

 

 

 

 

「とりあえず、まふゆに連絡しなきゃいけないんだけど。出るかな……」

 

「あ、こっちに連絡きたよ」

 

 

 私がいそいそとスマホを取り出している間に、奏が自分のスマホを見せてきた。

 

 全体ではなく、奏個人にまふゆからメッセージが来たらしい。

 瑞希と揃って奏のスマホの画面を覗き込むと、そこには『帰り道がわからなくなった』という文字が迷子のお知らせをしていた。

 

 

「……」

 

「え、絵名? 無言でスマホをタップするのはやめない? カワイイ顔もちょーっと、怖くなっちゃってるよ〜?」

 

 

 取り出したスマホからまふゆに電話をかけている横で、瑞希が上擦った声で話しかけてきた。

 

 だが、こっちとしてはそれどころではない。わからないだけだと、こっちも手がかりがなくてお手上げ状態になるのだ。

 早く出ろと5回ぐらい連続コールしてみるが、どれも梨の礫。応答は全くなし。

 

 現状、まふゆの現在位置がわかりそうなヒントが『道がわからない』以外にない状態である。

 何かのアトラクションの近くとか、特徴的な建物が見えるとか、そういうヒントが全くない。

 

 これでどうやって探せというのか。考えれば考えるほどムカムカしてくる。

 頭の中が瞬間湯沸かし器の如く一瞬で茹で上がるような感覚と共に、私は叫んでいた。

 

 

「メッセージを送れるのなら、電話ぐらい出なさいよ! あ、の、バカーーッ!!」

 

「ちょっ、絵名!? どうどう、落ち着いて……って、スマホを投げようとしないでよ!? あぁもう、落ち着くまでスマホは預かるからねーっ?」

 

 

 思わずスマホを地面に向けてフルスイングしそうになった私から、瑞希は器用にスマホを盗み取り、子供をあやす様に声をかけてきた。

 

 手持ち無沙汰になった手は宙を彷徨い、周囲の視線を気にする程度の理性が顔を出す。

 そのおかげなのか、少しずつ沸騰していた頭が冷えてきた。

 

 

「……」

 

「絵名ー? 落ち着いた?」

 

「……うん」

 

「じゃあ、スマホを返すよ。受け取った瞬間、投げないでね?」

 

 

 疑惑の視線を向けつつも、瑞希は苦笑いを浮かべてスマホを差し出す。

 

 瑞希に回収されたおかげでスマホは無事だし、頭も冷えた。

 よくよく考えなくても、スマホに八つ当たりしたってまふゆが見つかる可能性はゼロなのだ。奏も心配そうにこちらを窺っているし、まふゆのことを優先しなくては。

 

 

「ごめん、迷惑かけちゃって」

 

「んー、まぁ。まふゆのことだと一歩手前で耐えることが多い絵名が珍しく爆発してるから、ボクもビックリしたけど。まぁ、ねぇ……」

 

「うん、わからないって気持ちはわたし達も一緒だから。絵名を見てたら落ち着いたよ」

 

 

 私が頭を下げると、2人は気にしないでと笑って許してくれた。

 あのご乱心の後でこの寛容さである。いくらまふゆが迷子になっているとはいえ、心優しい対応には感謝しかない。

 

 

「飲み物を買いに行くって向かった方向はあっちだけど、そこからまふゆを見つけられないかな?」

 

 

 奏はまふゆが向かった方向を指さし、小首を傾げながら問いかけてきた。

 私は入口付近で取った地図付きのパンフレットを広げて、現在位置と奏が指さす方向から範囲を絞る。

 

 

「この範囲にある自販機とか飲み物屋さんを探したら見つかるでしょ」

 

「でも、店で買うつもりならまふゆも1人で行かないんじゃないかな? 自販機を優先的に回っていいと思うよ」

 

 

 地図にスケッチ用に持って来ていた鉛筆でマークをつけようとすると、瑞希からやんわりと注文が入った。

 

 瑞希の言うことは正しいように聞こえる。

 仮に1人で行ったとしても、お店とかならまふゆもちゃんと『○○の店にいる』とか連絡しそうだ。

 

 

「なら、1番近そうなここの自販機から行ってみましょ」

 

「オッケー、そうしよう!」

 

「まふゆ、すぐに見つかるといいな」

 

 

 幾つか行きそうな場所をピックアップすると、瑞希は両手を叩いて同意してくれた。

 奏も特に異論はないようで、まふゆのことを心配している。

 

 

(ミク達がこっちに呼びに来ない上に、あいつが電話に出ないってことは……まぁ、大丈夫でしょ)

 

 

 たぶん、まふゆのことだ。

 

 メッセージを送った時点で自分で帰るのを諦めてその場で待機状態に移行して。

 その後、ミク達と話すのに夢中で私の電話をスルーしたのだろうと、冷静になった今では想像できる。

 

 なので、心配している奏の前では言わないものの、最初に比べると私の中の心配の種は随分と小さくなっていた。

 

 

(今となっては大丈夫だって思ってるけど……心配だし、早く見つけなきゃね)

 

 

 まずは近くの自販機だ。早く見つけるために回ろう。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 何とびっくり、1つ目で当たりを引いたらしい。

 ミク達が見えないように周りに隠しながら、会話をしてるっぽい紫髪の姿が見えて、奏が真っ先に駆け寄った。

 

 

「──まふゆ、大丈夫?」

 

「……奏」

 

 

 迷子になっていたというのに、まふゆの顔には動揺の『ど』の字もない。

 

 

「まふゆがすぐに見つかって良かったぁ」

 

「1つ目で当たりを引けて良かったわよね。ほんと、世話が焼けるんだから……メッセージといい電話といい、もう少しやりようがあったでしょ。あんたも少しは反省しなさいよね」

 

 

 とりあえず『道がわからなくなった』という連絡をしてから、音信不通になるのはやめるようにと注意する。

 

 

「……ごめん」

 

 

 涼しげな顔をしているものの、内心ではちゃんと反省しているようで、まふゆは素直に頭を下げる。

 反省している相手に詰め寄るほど子供でもないので、今回の件ではこれ以上、何かを言うのはやめておこう。

 

 

「それにしても……まふゆがすぐに見つかって良かったよ!」

 

「うん。すぐに合流できたし、無事で安心した」

 

 

 私のお節介な説教話を終えたのを見計らって、瑞希が改めて声をかける。

 奏も瑞希に首肯しながらまふゆの前に立ち、小さく微笑みかけた。

 

 

「まふゆ、1人にしてごめんね。逸れて不安だったよね……でも、もう大丈夫だよ」

 

 

 見つけてから初手から文句を言った私と違って、奏の言葉は包容力に溢れている。

 

 ……こういう姿を見ていると、自分の悪いところを突き付けられているようだ。

 いくらメッセージだけ送られてきたからって、無事で良かったという言葉よりも先に注意から入るのはよろしくなかったかもしれない。

 

 

(今はまふゆに当たっちゃったばかりだし、奏に任せるとして……後でちゃんと謝ろう)

 

 

 いくら感情も迷子になっていたとしても、まふゆは高校生だ。

 その辺りの配慮が足りなかったと、奏達が話している間に1人、脳内反省会を行う。

 

 そうこうしている間に空も暗くなってきて、周囲の人もちょっとずつ増えてきた。

 そろそろナイトショーが始まるからだろうか。波のように人が移動しているので、また逸れないように注意しなければ。

 

 

「って、まふゆ! ぼーっとしてたら危ないでしょっ!? ……あっ、すみません!」

 

 

 周囲を観察していたら、またしてもぼーっとしているまふゆが人とぶつかりそうになっていた。

 私は慌ててまふゆの腕を引っ張り、軽く掠ってしまった人に頭を上げながら奏の方へと送り出す。

 

 少し目を離したら、人とぶつかりそうになるなんて笑えない。

 高校生だから〜と考えてるのが甘かったようだ。嫌われてでももう少し強く言うべきだったかと、新たな反省が私の頭を(もた)げた。

 

 

「もう、危なっかしいんだから……ぶつかってないから大丈夫だとは思うけど、平気?」

 

「まふゆ、怪我してない?」

 

 

 迷子になって、人にもぶつかりかけたまふゆを放って置けないのか、奏はまふゆの手をしっかりと握っていた。

 

 今のまふゆは子犬のようなので、是非ともそのままリードに繋ぐように握っていて欲しいと思ったのは内緒である。

 私の口が余計なことを言わないように固く閉じていると、まふゆがゆっくりと首を横に振った。

 

 

「絵名が引っ張ってくれたから大丈夫。けど、どうして奏は手を……?」

 

「あ……ごめん。心配だったから、つい握っちゃって」

 

 

 私の願いに反して慌てて手を離そうとする奏に対して、まふゆの方がしっかりと手を握り返す。

 

 

「別に、嫌じゃないから」

 

 

 今日のまふゆは何かを考えていることが多いようで、どこか危なっかしい。

 じっと奏と繋いだ手を見つめているまふゆはやはり何か考えているようで、上の空だ。

 

 危なっかしくて目を逸らすと、その視線の先には苦笑いを浮かべる瑞希がいた。

 

 

「絵名はまふゆを庇ってたみたいだけど、大丈夫そう?」

 

「まぁ、上の空気味のまふゆよりはね。奏、今日のまふゆは危なっかしくて見てらんないから、ちゃんと手を握ってあげてよ」

 

「え……うん。まふゆが嫌じゃなければ、そうするね」

 

 

 私よりもまふゆの方が心配だ。

 奏にはまふゆがふらふらと何処かに行ってしまわないよう、手を繋いでもらいたい。

 

 そんな私の無言の圧が通じたのか、奏とまふゆの手は繋がれたまま。

 これで2人は安心だろう。満足して頷く私ににんまりとした顔の瑞希が近づいてくる。

 

 

「絵名、絵名」

 

「何よ?」

 

「ボクらも手、繋ぐ?」

 

「は? 何で?」

 

 

 それはただ、頭の中に疑問符が浮かんだから出ただけの言葉のはずだった。

 それなのにどうしてだろう。私の言葉を聞いた瞬間、しょんぼりとした瑞希の顔を見ていると、途轍もなく悪いことをしたように感じてしまった。

 

 

(え、これって私が悪いの? ……悪いのかな? というか瑞希の顔、絵文字みたいにしょんぼりとしてるんだけど……あれ、どうなってるんだろ)

 

 

 余計な方向に思考が転がりだが、瑞希が落ち込んでそうであり、原因もハッキリとしている。

 

 

「もう、わかったってば。ナイトショーもあるし、さっさと行くわよ」

 

 

 手を繋ぐことを求めてきたので、右手を瑞希の方に差し出す。

 自分から言い出した癖に怖気ついてしまうところがある瑞希は手を伸ばすものの、途中で繋ごうとした手を止めてしまった。

 

 

「それじゃ、手を繋げないでしょ」

 

 

 言い訳を並べ立てそうな瑞希が何かを言う前に、私は中途半端な手を奪い取った。

 

 

「よし。じゃあ、時間もないし急いでナイトショーを見に行くわよ!」

 

「絵名ってば、1人で張り切っちゃって〜」

 

「はいはい、瑞希は揶揄ってこないの。折角だから、良い場所で見たいでしょ」

 

 

 誰も彼も考え過ぎなのだ。

 えむちゃんだって『ここは楽しむ場所だ〜』みたいなことを言っていたのだから、余計なことを考えるのはやめたら良い。

 

 

 

 ──私も、まふゆも、瑞希も、奏も……今、この瞬間だけは楽しいことに逃げたって、誰も文句は言えないって……そう信じたって、良いではないか。

 

 

 

 

 

 






断られると思った冗談が普通に実現してしまった瑞希さんの気持ちはいかに……?


今回でイベストは終了ですね。
ここからは混同イベントが続きますので幕間とイベストの境界線が薄めです。

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