イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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創立記念日とか休日に学校があった日の振替休日とか、他の学校の子は学校なのに自分は休み〜っていう優越感、あると思います。





153枚目 平日昼間の優越感

 

 

 

 

 平日の時間は人が少ない。

 

 

「おぉ~。このパンケーキ、動画通りめっちゃプルプルだね!」

 

「そうね。パンケーキなのにプリンみたいって謳い文句も大袈裟じゃなかったわね」

 

 

 それはサボった日も例外ではないようで、お昼ご飯代わりのパンケーキを食べに来た今日も、その法則が当て嵌まるらしい。

 

 人があまりおらず快適な空間にて、私と瑞希は注文したパンケーキの皿を少し揺らして『まるでプリンのよう』という宣伝文句を確認していた。

 

 

「絵名、写真撮ってあげようか?」

 

「私も写ったらピクシェアに使えないでしょ。自分でやるから気持ちだけ受け取るわ」

 

「えー、ザンネンだな~」

 

 

 言葉ではそう言うのに、瑞希の顔は何かを企んでそうな笑みを浮かべている。

 こういう時の瑞希は大体、何かを企んでいるのだ。

 

 

「瑞希、もしも私がスマホを渡してたら何をしようとしてたわけ?」

 

「んー。さて、何でしょうー?」

 

 

 これは何かを企んでいたのは確定だ。

 ナイス判断。1分ぐらい前の己を褒めつつ、私は自分のパンケーキを写真に収めた。

 

 

「それにしても、絵名とこうやって遊ぶのも久しぶりじゃない?」

 

「遊ぶこと自体はあっても、平日の昼間から遊ぶことはなかったもんね」

 

「絵名も悪い子だよね〜」

 

「こっちは通院って理由があるから、瑞希よりはマシでしょ」

 

 

 高校2年生になってからは先生の勧めもあって、病院も月1回と頻度が減っていたのだ。

 なので、サボり魔である瑞希とは違い、平日昼間からの予定は中々合わなかったのである。

 

 

「今日は結構荷物があるみたいだけど、何かあったの?」

 

「あぁこれ? 中身は薬じゃなくて、全部湿布よ」

 

「湿布? もしかして絵名はご老人だったりする?」

 

「は? 人を年寄り扱いするなっての」

 

「ご、ごめんって」

 

 

 失礼なピンクを睨みつけてから、私は早速1枚目のパンケーキに手をつけた。

 

 ふわふわとしている食感に、クリームと合わさった滑らかな甘味……幸せの味だ。

 瑞希に言われた失礼な言葉も吹き飛ぶレベルである。

 

 

「幸せそうに食べるねぇ」

 

「幸せだもの。瑞希はいつも通り、冷めるのを待ってるのね」

 

「冷めなきゃ美味しくいただけないからねー……それで、湿布ってどうしたの?」

 

 

 手でパンケーキを煽るフリをしつつ、瑞希は湿布に視線を注ぐ。

 その視線には心配の色が見えていて、誤魔化す理由もない私は素直に理由を話す。

 

 

「絵描きってどうしても手に爆弾を抱えやすい生き物なのよね……」

 

「あー。ボクの好きな漫画家さんとかイラストレーターの人もそういう話、ピクシェアでしてるね」

 

「若いからちょっとのケアで何とかなっていたとしても、後々絶対に響く。だから、ちょっとでも痺れとかを感じるのなら、ちゃんと病院に行けってお父さんに言われたのよ」

 

「その結果が湿布だと」

 

「うん」

 

「そっかー」

 

 

 言いたいことを全て込めたような一言を漏らすものの、瑞希はそれ以上は何も言わなかった。

 言葉にしなくても目から心配しているのが伝わってくる。

 

 ……お父さんも同じ気持ちだったのかもしれない。

 瑞希に心配されるのは不本意なので、これからはもう少し自分の体も顧みよう。

 

 そんなことを考えているうちに、瑞希がパンケーキを食べ始めた。

 

 

「おっ、このパンケーキ美味しいじゃん」

 

「瑞希のセンスっていいよね」

 

「でしょ。久しぶりに絵名と遊べるからね、張り切って選んだよ」

 

 

 にやり、と笑う瑞希はパンケーキを口の中に入れる。

 私も1枚目のパンケーキを食べてから、気になってたことを口に出した。

 

 

「瑞希の方から誘ってくれたけど、大丈夫だったの? ウチの学校はもちろん、瑞希の学校も休校日とかじゃなかったよね?」

 

「大丈夫かそうかでないかというと、ボクの計算上では平気だよ」

 

「計算って、何処かに穴が空いてる計算じゃないといいけどね」

 

「ふふーん。その辺も考えてるからダイジョーブ!」

 

「まったく、その自信は何処からくるんだか」

 

 

 頭の中では『来年、補習になっちゃった〜』と真っ青になってる瑞希を思い浮かべつつ、言葉が出ないようにパンケーキごと飲み込む。

 

 計算してるというのであれば、瑞希のそれを信じよう。

 私はぼんやりと感じる嫌な予感から、そっと目を逸らした。

 

 

「そういう絵名はどうなのさ? 1年前は結構一緒に昼間から遊んでたのに、最近は学校に行ってるじゃん」

 

「私の場合は通院回数を減らしていこうって話になったからよ。病院の日以外に学校を休む理由もないから、ちゃんと通ってるだけ」

 

「絵名って意外と真面目だよねー」

 

「意外って何よ」

 

「サボりたいとか何とか言いつつ、サボらないところ」

 

 

 真面目だなんて口では言っているのに、瑞希の顔はそんな風に思っていなさそうな笑みを浮かべている。

 何か別の理由があるなら吐き出せ、とでも言ってるみたいだ。

 

 

(いや、みたいじゃないわね)

 

 

 確実にそう思っているのを確信できるぐらいには、私と瑞希は付き合いがある。

 誤魔化したって上手いこと聞き出されるのは明白なので、素直に吐露した。

 

 

「サボってやろうかなーって思ってたことはね、何度もあるのよ。体育祭とかも目論んでたんだから、当然よね」

 

「ほほう。じゃあ、何で真面目なーん状態なの?」

 

「いや、誰なのよそれ……理由はたったの1つだけ、見られてるからよ」

 

「見られてる?」

 

 

 本当にどういうことなのかわからないのか、瑞希は不思議そうに首を傾げている。

 

 主語を抜き過ぎたか。

 私にとっては当たり前でも、瑞希にはとっては違うのだ。思い至らないのも当然だろう。

 

 

「ちょっと明日は休もうかなーって考えてると紫色の髪の毛がひょっこり現れて、考えを変えるまでジーッと見てくるのよね……」

 

「あぁー、なるほど。まふゆが見てるのなら、簡単にはサボれないねぇ。ボクでも学校に行っちゃいそう」

 

「それはそれでいいんじゃない? 瑞希のためにもまふゆを貸し出した方がいいかもね」

 

「わーお、まふゆがサボり防止アイテムみたいになってんじゃん」

 

 

 人をアイテム扱いするなと言われそうだが、サボりたい時の私にとって、まふゆはサボり対策の防波堤そのものなのだ。

 

 瑞希に貸し出せるのであれば学校生活が矯正されること間違いなし。

 少なくとも、授業の出席日数で悩むことはなくなるだろう。

 

 その前に家からお迎えが来て学校に連行される姿が目に浮かび、私は笑みを溢した。

 

 

「もう、変な想像して笑わないでよ」

 

「元々は瑞希が真面目なーんって、揶揄ってきたのが原因なんだけどね」

 

「あちゃー。これは藪蛇、自業自得の巻だったかー」

 

 

 左の指先で自分の額を軽く叩き、瑞希は大袈裟に肩を落とす。

 ツッコんで欲しそうだったが、瑞希の細かいボケはスルーするとして。

 

 

「ということでお互い、学校の話はナシね」

 

「だね。ボクも今食べてるパンケーキを態々マズくしたくないし」

 

 

 休戦協定は成功だ。

 そこから先はパンケーキを食べ終わるまでの間は学校の話に触れずに最近の作業について話して終わった。

 

 

「──学校といえば」

 

「おおう、ホントに学校の話を続けるんだね」

 

「この前、彰人達から体育祭に瑞希も参加してたって聞いたから、どうだったのかなって」

 

「弟くんから? どうって言われてもな~」

 

「良いか悪いかで言ったら?」

 

 

 のらりくらりと躱しそうな瑞希を捕まえるために1歩、詰める。

 すると、瑞希はまふゆのように指を顎に沿えて答えた。

 

 

「まふゆ風に言うと『悪くない』かな」

 

「結構よかったってことね」

 

「絵名翻訳だとそうなるんだ」

 

「瑞希の翻訳だと?」

 

「似たニュアンスになるから、絵名が聞きたい言葉って意味でも正解だね」

 

 

 肩を竦めた瑞希はとうとう、自分の気持ちを素直に認めた。

 私も高校1年生の時よりも病院が少なくなって学校に行っているというのであれば、瑞希だって最近は去年よりも学校をサボっていないのは知っているのである。

 

 事実を言ったとしても、瑞希は『中学は義務教育だし、高校とは違うからね~』という返事をするのが目に見えているので、あえてそれを指摘するつもりはないけれど。

 なんやかんや苦しく感じる空間でも楽しみを見いだせているのは、同じサークルの仲間として安心した。

 

 

「ボクの心配をしてくれるのは嬉しいけどさ。もっと心配が必要な子がうちには沢山いると思うよ、ママなん」

 

「ママって言うな。って、瑞希が言うってことは誰か気になってる人がいるの?」

 

「気になるってほどじゃないけど……最近って秋があるのか疑わしいぐらい暑いじゃん?」

 

「確かに暑いけど、それが?」

 

「奏、外に出た時に溶けてないかなって」

 

「あー……」

 

 

 奏には非常に申し訳ないが、初めて出会った状態が状態だったので瑞希の言うことも納得できる。

 

 私が何ともコメントできなくて言葉を探している間に、瑞希はアイスココアをストローで混ぜながら氷を溶かす。

 

 

「しかも奏って涼しい部屋から滅多に出てこないでしょ。あの酷暑を耐えれるのかな~って、心配しちゃうよね」

 

「余裕で想像できる話はやめてよね。今の所はそういう話が出てないし、大丈夫でしょ。うん、大丈夫……なはず」

 

「……ボクも気を付けようと思うから、お互い、奏を見たら声かけていこうね」

 

「そうね、まふゆにも話しておくわ」

 

「まふゆも心配だけど、こうも暑いと奏の方が心配だからねぇ」

 

 

 精神的に心配になるまふゆと、体力的に心配になる奏。

 誰も彼も心配になる人が多いな、と苦笑いを紅茶と共に流し込む。

 

 ふと、こちらをじっと見つめながら、口をパクパクと動かしている瑞希と目があった。

 

 

(お、あ、い、う……?)

 

 

 音に出ていないし、読唇術が得意なわけでもないので、口の形的から推測するしかないわけだが。

 今までの話の流れと、先程の4つの言葉を合わせれば──おまいう。つまり、お前が言うな、と。

 

 

「うん、瑞希。はっ倒すから座って待ってなさい」

 

「ちょ、ストーップ! ここお店、店内だからね? 他の人に迷惑がかかっちゃうからねっ!」

 

「……店を出たら覚えておきなさいよ」

 

 

 と、言いつつも別に何もする予定はないのだが、瑞希が震えているのでそれは言わない。

 少しは反省すればいいのだと、私は残っていた紅茶を飲み込む。

 

 

 

 

 ──こうやって瑞希から揶揄われていたこともあり、25時の活動で話が出てくるまで、私はすっかり体力的な問題を忘れてしまっていたのである。

 

 

 

 






自信満々の瑞希さんですが、この後のイベスト的に危機がくるのはお察しでしょうね……

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