イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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ほんの少しのスパジョイパークです。





154枚目 暑さや日光に負けず

 

 

 

 蝉が鳴いている。

 

 耳を塞ぎたくなるぐらいの大合唱と、公園の葉っぱも少し焦げ付いてしまうぐらいの日差し。

 日焼け対策はしているものの、貫通してきそうだ。

 

 そう思いながら空を睨みつけていた目を、ゆっくりと地面に伏してしまいそうなぐらい深く座り込んだ奏の方へと向けた。

 

 

「奏、大丈夫?」

 

「……ちょっと休んだから、大丈夫」

 

 

 そう言ってまた、のろのろと公園の道を歩き始めた奏の数歩分後ろを私もゆっくりと着いていく。

 

 

 ──そもそも、どうして外に出ない奏がウォーキングをしようと思ったのかというと、それはいつものお父さんへのお見舞いがきっかけらしい。

 

 病院に行く途中で愛莉と一緒にアイドル活動をしている後輩の女の子、みのりちゃんに助けて貰って、体力不足を痛感したのだとか。

 

 

(そんなエピソードだけなら、奏を応援するだけで済んだんだけどねぇ……)

 

 

 残念なことに、奏は体力不足エピソードを私だけでなく瑞希の前でやったのだから、さぁ大変。

 最初はウォーキングをしてみてはどうかと勧めた瑞希は見事、私も奏の運動不足解消委員会の実行部隊へと巻き込んでくれたのである。

 

 どうせ巻き込まれるならまふゆや瑞希も引きずり込んでやりたかったが、まふゆは最近、ナイトコードでの作業も早めに切り上げるぐらいには忙しいし、原因は華麗に避けた。

 奏に気を遣わせるわけにもいかないし、嫌だと突っぱねるほどの強い理由がない。

 

 そういうわけで、予定が合う日に公園に来て2人で歩いているのだが……わかっていたつもりだったのに、奏が予想の斜め下を行くぐらい体力がない。

 

 暑いし外にいるだけでも体力が削られるような環境とはいえ、私も奏もまだ高校生と呼ばれる年齢だ。

 少なくとも今の奏のように、1キロも歩かないうちに休憩をちょくちょく挟むような体力の年代ではないはず。

 

 

(想像以上に引き籠り生活って体力の上限値を奪っていくんだなぁ)

 

 

 中学生の時までは普通に学生生活を送っていたというのに、この2年で何が起きたらここまで体力を失ってしまうのか。

 

 ……いや、体を動かすことをほぼしてこなかったからこうなっているのかもしれない。

 私も体力はない方だがここまで酷くないのは体育の授業のお陰だろう。

 

 

(画家になったらアトリエとかに閉じ籠って~みたいな想像してたけど、これは意識的に運動習慣を取り入れた方がいいかも)

 

 

 歩くだけでヘトヘトになって、体が最近重いと言っていた奏の背中を眺める。

 

 いくら天才になれたとしても、人並みの体力は欲しい。

 奏には申し訳ないけれど、今の奏の頑張る姿は私の将来への反面教師にピッタリだった。

 

 奏がまた、少し離れた所で止まって休憩している。

 そろそろ水分補給をした方がいいかもしれないとした瞬間。

 

 

「うわっ」

 

「ちょ、奏!?」

 

 

 急に奏が声を出して転んだので、私は慌てて駆け寄った。

 止まっていたところは見たし、何もないところで躓いて転んだというわけではなさそうだ。

 

 

「奏、大丈夫? 具合が悪いんだったら無理しない方がいいよ。日陰で一旦休もう?」

 

「大丈夫、急に蝉が飛んできてビックリして転んだだけ」

 

「蝉が原因だったんだ……それで、怪我とかは大丈夫なの?」

 

「うん、大したことはなさそう。でも」

 

「でも?」

 

「1キロぐらいしか歩いてないのに、足が動かなくなってきて」

 

「えぇっ?」

 

 

 それは嘘でしょ、と続けて言いそうになった言葉を慌てて飲み込む。

 

 奏は外に全く出ないのに、暑い中でも頑張って歩いているのである。そんなことを言ってはいけない。

 それでやる気がそがれたり傷付いてしまったらどうするんだと、酷いことを考えてしまった自分の心を叱りつけた。

 

 

「まぁ、初日から無理をしたら習慣にならないかもしれないし、今日はこの辺りで終わる?」

 

「そうしようかな。絵名、付き合ってくれてありが──」

 

『あら、もう終わっちゃうの?』

 

 

 今から「はい、解散」と言いそうな流れの間に入ってきたのは、奏のスマホから顔を出しているルカだった。

 リンやミクがこちらに来る姿はよく見かけるが、ルカがスマホからやってくるのは初めて見た気がする。

 

 もしかしたらセカイで何かあったのかもしれないという可能性も頭に過り、私はニコニコと笑っているルカに問いかけた。

 

 

「ルカ、急にどうしたの?」

 

『ふふ、奏が珍しいことをしてるでしょう? 面白そうだから来ちゃったわ♪』

 

 

 離れた所から人の姿を見て楽しむところがあるルカなので、こちらに態々顔を出した理由としては十分納得できる答えだった。

 

 

「楽しそうな所悪いけど、今日はそろそろ解散するつもりなんだよね。奏も限界だろうし」

 

『そうなの? 折角、応援しに来たのに残念だわ』

 

「応援……?」

 

 

 疲れていたはずの奏が聞く姿勢に入っている。嫌な予感がするが、ルカの話は止まらない。

 

 

『奏は集中して曲を作るために運動に挑戦してるのに、もう終わっちゃうなんてもったいないわ」

 

「曲の為……確かに、そうだね」

 

(あーあ、あっという間に乗り気になっちゃった)

 

 

 こういう時のルカの煽りは上手過ぎる。

 

 ただでさえ慣れていない運動なのに、ここで奏が曲作りの為に頑張ったとしよう。

 その結果、逆に翌日は筋肉痛で動けないので曲が満足に作れません、という未来が見えてしまって、私は仕方がなく口を挟む。

 

 

「ルカの言い分も最もだけど、奏は自分が運動初心者ってことを忘れちゃダメよ。こういうのは続けるのが大事なんだから、初日から飛ばさない方が良いと思うけど」

 

「でも……」

 

 

 すっかりルカにやる気を注入してもらったようで、奏の反応は芳しくない。

 さて、どうやって無理して発進しそうな奏にブレーキを取り付けようかと頭の中で算段を立てていると、またしても知らない声が乱入してきた。

 

 

「あれ? そこにいるのってもしかして……やっぱり、奏ちゃんと絵名先輩だ! こんにちは!」

 

 

 右手を大きく振って駆け寄ってくる姿はまるで犬のようだが、紛う方なきアイドルである。

 

 ずっと奏を見ていたせいか軽やかな足取りで近づいてくるみのりちゃんに感心しつつも、私は頭を下げた。

 

 

「こんにちは、みのりちゃん。この前は奏を助けてくれたって聞いたよ。ありがとね」

 

「いえ、助けただなんてそんな! ジョギングの途中で偶然会っただけなので!」

 

 

 みのりちゃんはこちらにはペコペコと頭を下げつつ、奏の方には距離感の近い調子で話しかける。

 

 

「でも、奏ちゃんとまた会えて嬉しいな! 今日は2人で散歩してたの?」

 

「うん、曲作りの為にね」

 

「曲作り?」

 

 

 私とみのりちゃんの距離は正しく先輩と後輩だというのに、奏とはまるで愛莉達のような近さを感じる。

 

 

(やっぱり、私よりも奏の方が誑しなんじゃ……)

 

 

 数回会っただけで年下の子からのこの距離感、やはり奏にも誑しの称号を与えた方がいいのではないだろうか。

 称号の押し付けができないか検討しつつ、私はまだ疲れている奏の言葉を引き継ぐ。

 

 

「私達、普段はインドアだからさ。体力作りの為にも偶にはウォーキングをしようって話になってね」

 

「それでちょっと、無理をし過ぎたみたいで……付き合ってくれてるのにごめんね、絵名」

 

「別にいいわよ。初日から無理したってしょうがないし」

 

「……それでも、この暑さじゃなければ、もう少し歩けそうなんだけどな」

 

 

 ふぅ、と息を吐いた奏はタオルで汗を拭う。

 横目で見ていても汗を拭っている頻度が増えている気がするし、そろそろ本気で解散した方がいいかもしれない。

 

 まだまだ気持ちだけはやる気な奏をどう説き伏せるか考えていると、みのりちゃんの口から新たな意見が飛び出した。

 

 

「なるほど……だったら、駅前のスポジョイパークに行くのはどうかな!?」

 

 

 どうやら駅前に新しいスポーツ施設ができたらしい。

 メジャーなものからちょっと変わったものまで、公園よりは暑くない場所で遊びながら楽しく運動ができるようだ。

 

 

「スポジョイパークか、それなら運動もしやすそうだね……」

 

「もしよかったら、今から一緒に行きませんか!?」

 

 

 みのりちゃんも配信のために下見したいと思っていたようで、グイッと体を近づけてきた。

 

 私は奏の付き添いなので、反対する理由はないものの。

 はたして、ウォーキングでも疲れる奏の筋肉がスポジョイパークでも耐えられるのだろうか?

 

 

(色々と心配だけど、無理し過ぎて苦しむのもまた経験、か)

 

 

 どんな選択であれ、奏が考えて決めたことならば受け入れよう。

 この後の展開次第では私の夜のマッサージ時間と、奏の明日の筋肉が犠牲になるのはそれぞれの自己責任ということで。

 

 ちらりとこちらに視線を向ける奏に頷き、任せたと視線だけで伝えた。

 後は奏次第なのだから、私はおとなしく任せるのみである。

 

 

「──じゃあ、わたし達も一緒に行こうかな」

 

「そうね。ただ、私達はイマイチ場所がわからないから……みのりちゃん、案内をお願いしてもいい?」

 

「わかりました! ただ、ちょっと寄りたいところがあるので、そこに寄ってもいいですか?」

 

「うん、私は大丈夫。だけど、奏はいけそう?」

 

「たぶん。頑張るよ」

 

 

 奏はそう言っているものの、顔には暑さによる疲労が薄っすらと出てしまっている。

 みのりちゃんの寄り道からスポジョイパークまで、奏の体力はもつのだろうか。

 

 

(これは……熱中症なども気を付けながら進まないとね)

 

 

 奏の手を引いて歩くみのりちゃんの後ろを、私はゆっくりと追いかけた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 そうして駅前に寄ったところで一歌ちゃんに出会ったり、みのりちゃんが奏を同い年と勘違いしていたから距離感が近いことを知ったり。

 色々とあった結果、一歌ちゃんも一緒に4人でスポジョイパークに辿り着いた。

 

 

「はい、到着しました!」

 

「あ、涼しい。生き返る……」

 

 

 みのりちゃんの元気な宣言と、奏の力のない呟きが私の耳に届いた。

 普段からトレーニングをしているみのりちゃんが元気なのは納得だし、奏に対してはここまでたどり着いただけでも拍手を送りたい。

 

 

「えっと。急にトレーニングのお邪魔してすみません」

 

「来る前にも言ったけど、ここで遊ぶだけでも奏にとっては重労働だから、一歌ちゃんが来てくれた方が嬉しいよ。3人よりも4人の方が遊べる範囲も増えるしね」

 

「なるほど、奏さんの為にも頑張りますね」

 

「いや、普通でいいから。普通で」

 

 

 私だって体力には自信がないのに、一歌ちゃんにつられてみのりちゃんも本気で遊んだら奏が消し飛んでしまう。

 

 

(軽い気持ちで来たけど、大丈夫かな……?)

 

 

 そんな心配をするからママなんなんだよ、とどこぞのピンクが笑ってそうだと思ったものの。

 私は頭から変な考えを追い出して、奏のフラフラと歩く背中を追いかけた。

 

 

 

 

 






インドアを自称する割にはえななんはフットワークが軽いので、奏さんからすると裏切り者になるのかもしれませんね。

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