運動後のケアは忘れないように。
「へぇ、本当に色んなスポーツができるんだ」
ぐるりと周囲を見渡してから、私は呟く。
バッティングやスケート、バスケットコートにテニスコートと、施設内を軽く見ただけでも遊べる場所は沢山あるようだ。
「屋上でフットサルもできるみたいだよ!」
「そんなこともできるんだ」
みのりちゃんが案内板の前で声をかけ、一歌ちゃんも隣に並んで最初に遊ぶ場所を品定めしている。
私も運動は不得意なのでお手柔らかにお願いしたいが、まずはこの言葉が必要だろう。
「みのりちゃん、いいところを教えてくれてありがとね」
「ありがとう、花里さん」
「えへへ、どういたしまして!」
私と奏のお礼に、みのりちゃんはにっこりと笑う。
その視線の先に何かを見つけたのか、目をキラリと輝かせた。
「あっ、あそこにゲームセンターがあるよ!」
みのりちゃんの指差す先には、見え辛いが本当にゲームセンターらしき場所がある。
スポーツ施設だから意外……でもないか。ただ単にここがレジャー施設に近いからなのだろう。
「ペンぴょんかぁ。取ったら遥ちゃん、喜んでくれるかな?」
そうやって頭の中で考察しているうちに、みのりちゃんがクレーンゲームの景品──ペンぴょんと呼ばれる子を見つめていた。
そういえば、遥ちゃんはペンギンが好きとかなんとか、雫が話していた気がする。
気になるなら取ってもいいと思うのだが、本題は奏の運動だ。
どうしたものかと隣を見ると、奏は微笑みながらわかってると言わんばかりに頷いた。
「星乃さんはお手洗いに行くみたいだし、わたしはここでちょっとだけ休憩しようかな」
「そう? じゃあ私はクレーンゲームに行ってみようかな。みのりちゃんも気になるなら一緒にいこうよ」
「はい! 遥ちゃんのためにもゲットするぞ、えいえいおーっ」
気合い十分なみのりちゃんを連れて、早速クレーンゲームで遊んでみる。
小銭を入れて動作確認。
取りやすいように位置を調整しようと思ったのだが、想像以上に景品が不動を貫いていた。
「何これ。このアーム、ビックリするぐらい弱いんだけど」
「でも、後もうちょっとでいけそうだし……わたしも頑張ろっかなぁ」
「いや、ちょっと待って。確か、アームが弱くてもこの角度で、この位置の子達なら」
みのりちゃんと私で数回ずつ挑戦し、ちょっとずつ景品をズラしていく。
ゲームセンターでまふゆに完敗してからというものの、冬弥くんからコソコソと話を聞いて暇と資金をちょっと投入しては実践してきた力を今、発揮する時──!
「ここから、こうして……」
「わっ、本当に落ちた!?」
「ふぅ……よし、取れたわね」
片手でガッツポーズをしつつ、戦利品を手に持つ。
運良く引っかかって2個取れてしまったし、キラキラとした目を向けてくるみのりちゃんに両方とも渡した。
「はい、これ。あげる」
「えっ、それは絵名先輩が取ったものじゃ……」
「景品取ったら満足しちゃったから、よかったら貰ってよ。2つあるから、遥ちゃんに渡したらお揃いでしょ」
「はっ!? 確かに! ……いやいや、でも!」
「ここはカッコつけてる先輩を立ててくれるとありがたいんだけど、どうかな?」
「……そういうことなら。ありがとうございます!」
最初からそのつもりだったので、受け取ってくれたことにこちらがお礼を言いたいぐらいである。
「一歌ちゃんも戻ってきたみたいだし、私達も戻ろっか」
お礼なんて言い出したら、みのりちゃんを困らせるだけなのは明白。
思っていることは顔に出さないように気を付けながら、奏達の元に合流する。
(さてと。最初はどこに行くのかなぁ)
体育の授業でやったスポーツ以外は初見のものばかりなので、足手纏いになるかもしれない。
一抹の不安を覚えながら、私はパンフレットを見ている3人の話に混ざり込んだ。
☆★☆
記憶になくても、体が覚えていることは意外とあるようで。
奏がローラースケートならできると言うので、皆でやってみたところ、私も意外とそれらしく滑れたことに驚いた。
昔はローラースケートで遊んでいたという話を聞いたことはあるものの、全く覚えていない私。
滑れるのかと不安になりつつ、周囲を盗み見ながら挑戦してみると、意外とどうにかなってしまった。
(……記憶にない私より、小学校の頃にやっていたはずの奏の方が滑れないのはビックリしちゃったな)
立とうとしたら足がガクガクと震え、ちょっと滑っただけでも転び。
とんでもなく滑れるみのりちゃんに助けてもらいながら、奏も頑張ってローラースケートで遊んでいた。
ローラースケートの後はバブル相撲をして、一時休憩中だ。
こんなに動いていたら奏の筋肉が心配になるが、楽しそうだしもう少し様子見である。
(……あれ。奏、みのりちゃんと話してる?)
そろそろ次に行こうと一歌ちゃんが言うので、休憩中であろう奏のところに向かうと、みのりちゃんと奏が2人で話していた。
所々で曲の話が聞こえてくるので、そういう相談をしているのだろうか。
(身近な人間の方がわかってなかったり、話しにくかったり、色々あるもんね。終わるまでちょっと様子を見ようかな)
幸いなことに、一歌ちゃんは別の方向に奏達を探しに行ってくれている。
奏とみのりちゃんの話が終わるまで、時間を稼ぐことができるだろう。
(……話、そろそろ終わりそうかな)
ほんの数分だけ様子を伺ってから、一歌ちゃんを探しに行く。
一歌ちゃんを見つけて奏の元に迎えば、丁度いい時間になっているという予定だ。
そうと決まれば早速行動。
一歌ちゃんを探して目的の場所に連れて行き、何も知らない風を装って声をかける。
「いたいた。奏、みのりちゃん!」
「そろそろ次に行こうと思うんですけど、何かやりたいものはありますか?」
私と一歌ちゃんが声をかけたタイミングは丁度よかったようで、さっき見かけた時よりも明るい顔をした奏が首を傾げる。
「じゃあ、最後に1つだけ……いいかな?」
そう言って奏が希望したのは『ストラックアウト』というものだった。
野球みたいにボールを投げて、数字の書いてあるパネルに当てるものらしい。
テレビで野球選手がそれらしいことをしていたが、アレのイメージで間違いないだろうか。
難しそうだとは思うものの、一歌ちゃんもみのりちゃんも反対意見はなかったので早速皆で遊ぶことになった。
(それにしても、奏がストラックアウトをしたい理由がお父さんとやって、楽しかったからだなんてね)
最初は曲のための体力作りが目的だったものの、楽しもうと思ってくれているのならば付き添ってる側としても嬉しい話だ。
(私が言えることじゃないかもしれないけど、奏も自罰的っぽいから……楽しんでくれてるのなら良いんだけど)
早速ストラックアウトのコーナーに移動して、みのりちゃんがボールを隣のレーンの的に当てているのを見ながら、考えに耽る。
皆でパーフェクト賞、又はビンゴ賞を狙おうという話になっているが……自慢ではないものの、私もノーコンの民。
一歌ちゃんやみのりちゃんが頼りである。私は祈りながら応援させてもらおう。
「って、次は私か」
そうやって心の中で応援していると、一歌ちゃんが真ん中の的にボールを命中させていた。
みのりちゃんと一歌ちゃんが投げたので、順番的には私の番だ。
「一歌ちゃんが作った流れに乗れたらいいけど……それっ!」
見様見真似で投げたボールは的の端っこスレスレにぶつかる。
ちゃんとぶつかったはずなのに、何故か一歌ちゃんのように当たった演出がいつまで経っても出てこなかった。
「あれ? 今、当たらなかった?」
「あのボールが当たったのは、ギリギリフレームのように見えました。だから当たり判定じゃないのかと」
「うっそでしょ。そんなに厳しいの、これ」
一歌ちゃんに言われて気がついた。
言われてみれば確かに、私が当てたのは的ではなくてフレームのところだ。
ビンゴ賞で飲み物だから甘く見ていたが、パーフェクト賞でフェニラン無料チケットなのだ。
施設側的にも簡単に取らせたくないだろうし、難しいのも当然かもしれない。
「惜しかったね、絵名」
「当たったって思ったから、ちょっと悔しい……判定、結構厳しいみたいだから奏も頑張ってね」
みのりちゃんや一歌ちゃんにも応援されて、奏は綺麗なフォームでボールを投げる。
だが、そのボールは弧を描いて的の前をバウンドし、そのまま地面を転がっていった。
「あっ……ごめん、みんな」
「大丈夫だよ、奏ちゃん! まだ1球目だし!」
「距離もありましたし、何回かやってれば奏さんもコツを掴めると思いますよ」
「そうね。フォームも綺麗だったし、こういうのも物量で押し込めばできるようになるって」
そう皆で励ましてみたものの、私はフレーム部分に当たるか横を素通りして戦力外だった。
みのりちゃんも壁と仲良しだったので、一歌ちゃん1人でリーチにまで持っていく。
──そして、最後の1球という難しい場面で奏が見事、ボールを的に当ててビンゴを果たし、スポジョイパーク最後の思い出としては満点の結果に終わった。
(私はほぼ応援係だったけれど、奏が楽しそうなら満点な1日だったかな)
みのりちゃんや一歌ちゃんとも笑顔で別れて、奏も家の近くまで送ってから、私もルンルンと帰宅する。
滑って、相撲もして、ボールを投げてと良く体を動かせたし、楽しかった。
そんな気持ちでいっぱいだったせいで、頭の中から最初の方に懸念していたことがすっぽりと抜けていた。
──それが起きたのは、スポジョイパークに遊びに行った翌日である。
誰かがスケッチブックを使って私を呼び出そうとしているのか、無性にセカイにすっ飛んで行きたくなった私は、描いていた途中の絵を投げ捨ててセカイに来た。
「はぁ、はぁ……げほ。呼び出してどうしたの?」
「絵名、ごめんね」
「どうしよう、絵名ちゃん。奏ちゃんが……」
セカイに辿り着いた私を出迎えてくれたのは、血相を変えたミクとレンだ。
2人の視線の先には海から打ち上げられた魚のように、スマホに触れながら倒れている奏がいる。
「……奏、起きてる?」
「う、うん。うぁっ、いたたっ」
声を出すだけで痛そうに震えている奏を見て、察してしまった。
……どうやら奏は、全身筋肉痛で体が上手いこと動かず、何とかスマホを使って曲を再生し、セカイの皆に助けを求めようとしたらしい。
「家に帰ってからケアとか、ちゃんとしなかったんだ」
「寝る前にちょっとだけ、曲を作ってたらいつの間にか寝ちゃってて……すごく痛い」
「後で家に行くから、とりあえず部屋に戻って今日は1日、安静にしててね」
「うん、ありがとう……」
終わりよければ全てよし、だと思ったのに……これが終わりだというのならば、締まらないではないか。
セカイから奏が消えるのを確認してから、私は奏の家に向かい、できる限りの介助をしたのだった。
運動しない民からすると、普段より動いたー疲れたーって気持ちですやすや寝ちゃうと、翌日に酷い筋肉痛で苦しむのはご愛嬌です。