イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

156 / 254


プロセカ4周年、めでたいですね。





156枚目 リベンジ大作戦

 

 

 

 

「え、ごめん。もう1度聞いてもいい?」

 

 

 (K)が筋肉痛から1日で復帰して、今日も深夜から活動中。

 そんな作業時間の休憩中に、Kから信じられないことを言われた私は思わず聞き返してしまった。

 

 

『土曜日にまた公園で運動しようと思うんだけど、えななんの都合が良ければ一緒にしたいなと思って』

 

 

 嫌がる素振りもなくKが答えてくれた言葉はやはり、聞き間違いでもなんでもないようで。

 

 正直に言うとだ。私はあの筋肉痛事件から、1日でも曲が作れなくなるぐらいならやめるんじゃないかと予想していた。

 しかし、その予想とは反してKは今週も歩こうと思うぐらいには乗り気らしい。

 

 一体何があったのか。そう思ったのは私だけではないようで、私の口から質問が飛び出す前に、イヤホンから瑞希(Amia)の声が聞こえてきた。

 

 

『この前までした方がいいのかな? ってカンジだったのに、すっかりノリ気だねぇ。何か良いことでもあったの?』

 

『その、笑われちゃうかもしれないんだけど……』

 

『いやいや。ボク達がKのことで笑うなんてありえないよ。ささ、ここはグイッと』

 

『ぐ、グイッと……?』

 

 

 Amiaがツッコミ待ちであろうボケを挟んでいるが、今はKの話の方が気になるので無視。

 こんな所でボケるのが悪いということで、Amiaには悪いがボケ殺しで悶えてもらおう。

 

 

『って、本当に誰もツッコんでくれないの!?』

 

 

 Amiaの素っ頓狂な声が聞こえてきても黙って耐えること数分。

 ようやく、聞きたかったKの言葉が耳に届いた。

 

 

『1日遊んだだけで次の日筋肉痛で動けなくなるのは、自分でも大丈夫かなって心配になって』

 

「『あー……』」

 

 

 理由を聞いたらこの場にいないAmiaとシンクロしてしまうぐらい、納得した。

 

 私達は10代。高校生に該当する年齢の子供だ。

 

 そんな若さが取り柄の年齢の人が、1日遊んだら次の日は筋肉痛で動けなくなりましたー……なんて。

 そんなことを経験したら、20代、30代はどうなるんだと心配になるのは当然のことだろう。

 

 少なくとも、私だったら心配になる。

 

 

「そういうことなら毎週、予定を合わせて歩こっか」

 

『いいの?』

 

「もちろん。体を適度に動かすのはいいことだし、Kのお願いなら叶えたいもの」

 

 

 それに、私も将来動けなくなるのは危惧していたので、Kの提案は渡りに船だ。

 私とKが土曜日の運動計画に盛り上がっていると、Amiaが話に入ってくる。

 

 

『本当にやる気なんだねぇ。じゃあ、今週はボクもバイトもないし、一緒に歩こうかな』

 

「急に参加しようなんて、どういう風の吹き回しなんだか」

 

『先週はバイトがあったからしょうがなかったんだよ。決して、けっっして、面白そうだとかそういうことは思ってないからね』

 

「あっそう。思っていないのなら、土曜日はよろしくね」

 

『うぅ……今日のナイトコードはひんやりしてるよぉ。クーラーの温度を下げ過ぎてるのかなぁ、いつも通りなんだけどなぁ』

 

 

 何かを待つような声が聞こえてくるが、これも無視だ。

 いつも要らないことばかり言うのだから、偶には反省しても良いと思う。

 

 増長しそうなAmiaはボケ殺し第2弾で抑え込むとして、他に気になるのは……

 

 

まふゆ()、生きてるー?」

 

『生きてるって何?』

 

「あ、いたわね。ずっと黙ってたから何かあったのかと思ったわ」

 

『……そう』

 

「それで、黙ってどうしたのよ? また誰かに何か言われたの?」

 

 

 雪のお母さんとか、雪のママとか、雪の母親とか。

 

 雪がどんよりと落ち込んでる理由は大体、決まった人間が言葉のナイフで滅多刺しにした後なのだ。

 他の人は刺された後に運悪く、死体蹴りしてしまった形である場合が多い。

 

 そういうこともあって、私の中での容疑者はほぼ固定だった。

 

 

『別にえななんが心配してるようなことはないよ。ただ、予定を確認してただけ』

 

「予定を? 何で?」

 

『はーあ。全く、えななんってばニブチンだなぁ』

 

「はぁ? Amia、急に話に割って入ってきて、ケンカを売らないでよね!」

 

 

 雪と話していたところにAmiaが横槍を入れてきたせいか、私の口から出た声は1トーン低かった。

 だが、Amiaには全く効いてないようで、全く怖がってなさそうな声で『おぉ、怖い怖い』と戯けながら理由を述べる。

 

 

『何でって聞かなくても、雪が予定を確認したって言葉でわかるでしょ』

 

「……もしかして、皆と一緒に歩きたかったの?」

 

『そこまでは本人に聞かないとわからないけど、ウォーキングの会に混ざりたかったんだよ。ね、雪』

 

 

 確信を持って問いかけたAmiaの言葉は、投げ返されることなくボイスチャットに響いて消えた。

 

 

『返事、ないね』

 

『あのー、雪さーん?』

 

 

 成り行きを見守っていたKまでもが口に出して、Amiaが不安そうに声を出す。

 

 何かがあってミュートにもせずに離席したのだろうか。

 不安が飛び出しそうになりつつも、私は冷静を装って声をかける。

 

 

「雪、聞こえてる?」

 

『うん』

 

「聞こえてるのなら返事しなさいよ。心配になるでしょ」

 

『Amiaが、言わなくてもいいことを言ってるから。私もえななんみたいに黙った方がいいのかなって』

 

 

 どうやら雪のあの無言は私の真似だったらしい。

 雪にとっても割り込みはお気に召さなかったようだ。

 

 また冷房の温度を気にし始めるAmiaがいるだろうが、自業自得である。放置しよう。

 

 

「もしもさっき、私が言っていたことが正しかったとしてもさ。無理してまで参加する必要はないからね」

 

『今週は難しいけど、来週もあるならいけると思う』

 

「来週、か。それは私じゃ決められないかなぁ……」

 

 

 今回の件は私が主催というわけではないので何とも言い難い。

 3回目をやるかどうかはKが決めることであり、来週に行こうと決めるのもKの都合だ。

 

 ここで仮に私が雪を誘ってウォーキングをしたところで、それは雪が求めることではないはずで。

 丸く収まる方法は明確ではあるものの、押し付けるわけにもいかず。

 

 

(私ができることといえば、Kが無理なら私と歩く? って聞くことぐらいだし……)

 

 

 それが意味のある誘いなのか、という疑問は置いておくとして、今の私にできることはあまりない。

 今回の話の流れはK次第。私には反応を待つことしかできなかった。

 

 

『えっと……じゃあ、できるだけ土曜日に頑張るってことにしようかな』

 

 

 暫く経ってから出てきた言葉に、私は胸を撫で下ろす。

 

 

『えななん、安心してそうだけど大丈夫かな~?』

 

 

 そんな私に対して声をかけてきたのはAmiaだ。

 声のトーン的に揶揄っているようにも聞こえるが、これは何となくスルーしない方が良い気がする。

 

 

「……何よ、大丈夫じゃないことなんて今の所ないけど」

 

『でも、えななんったら最近はまた絵画教室に行ってるんだよね? 忙しいんじゃないの?』

 

「それってAmiaに言ってたっけ?」

 

『リンとミクからちょこっとね〜』

 

 

 これはいつもの聞き出し術だろう。

 乗せられたらあっという間にペラペラーっと話を聞き出してしまうアレを、ミク達も体験したようだ。

 

 

「心配はいらないわよ。その辺の調整はできるから」

 

『無理はしないでね、えななん』

 

「ありがとう、K。無理そうならちゃんと伝えるから平気よ」

 

『うん……それにしても、また絵画教室に行ってるって、何かあったの?』

 

 

 絵画教室一時出禁事件から絵画教室に行く頻度を減らすようにと言われていたのに、また行き始めたと聞いたらKが気になるのも当然か。

 

 Amiaが話に入ってこないところを見るに、ミク達からそこまで深く聞き出せてはいない……と。

 絵画教室に行っていることを知られている以上、隠す理由もないので正直に話すことにしよう。

 

 

「最近、色鉛筆とか使ってたら、他にも表現の引き出しを増やしたいなって思うようになってね。それで週に1回ぐらい教室に通ってるのよ」

 

 

 天才は無から僅かなヒントで答えを導き出すが、凡人は経験という埃を大きな山になるまで積み上げて、やっと、その山の中から答えという宝を見つけるチャンスをゲットできるのだ。

 

 絵描きとして、ニーゴのイラスト担当としてもグングン成長していく天才に勝つために、日々の山作りは欠かせない。

 山から宝を掘り起こせるかは運次第だが、山がなければ宝探しもできないのだから、まずは行動から。

 

 そういう気持ちもあって、雪平先生に怒られない程度に教室に行く頻度を増やしているのである。

 

 

「というわけで、想像するようなことは何もないわよ。教室に行く日もこっちで調整できるし」

 

『えななんが無理してないのはわかったよ。でも、本当に用事があるならこっちは優先しなくてもいいからね』

 

「本当に無理ならちゃんと断るって。だから、Kも気にせずに誘ってよね」

 

『うん……実は1人だと続けられるか心配だから、えななんが付き合ってくれるのはすごく助かるよ』

 

 

 これで暫く定期的に運動をすることが決まったし、丸く収まっただろう。

 安心してこっそりと溜め息を零した私の耳に、Amiaの元気そうな声が聞こえてきた。

 

 

『じゃあじゃあ、まずは土曜日に向けてリベンジ大作戦だね!』

 

「リベンジ大作戦? 何よそれ」

 

『最初の1日はウォーキングじゃなくてスポジョイパークで遊んでたんでしょ? 今回は最後までやり切るためにどうすればいいのか、ちゃんと考えなくちゃいけないでしょ』

 

「確かに、暑さ対策とかは大事かも」

 

 

 いつもの揶揄い文句かと思いきや、Amiaにしては真面目な提案だった。

 それを口に出したら不満が噴出するのは目に見えているので口を噤んでいると、張り切っているらしいAmiaが仕切っていく。

 

 

『丁度詳しそうな雪がいるし、色々聞いて対策していこうよ!』

 

『別に詳しくないんだけど』

 

『でも、何かあるんじゃないの?』

 

『……熱中症対策で水分補給は大切だけど、水分一辺倒だと水中毒になる危険性がある。症状も熱中症と似てるから、水分補給のペースには注意した方がいい。そもそもの対策として日差しを遮る、冷感スプレーを使う、後は冷却グッズを付ける……Amiaが知ってるような一般的なことしか知らないよ』

 

『いやいや、さすがは雪。すっごい知ってるじゃん』

 

 

 こうして、定期的なウォーキング計画を持続させるために、本日の作業の休み時間は消えていくのだった。

 

 

 チャンチャン、なんてね。

 

 







習慣化するのに1番最適なのは人を巻き込むこと、らしいですね。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。