イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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予想も想像も、したところで当たるとは限りませんね。
プロセカの○○森のような機能とか、追加される予定なんて全く予想できませんでしたし……





158枚目 想像を超えていく

 

 

 

 

 相談した後日に奏は穂波ちゃんからお悩みを聞き出したようで、放課後に穂波ちゃんと会うことになった。

 

 待ち合わせ場所は私のホームグラウンドである美術準備室。

 予想通りの絵の相談なので、穂波ちゃんが夜の間に描けると思った絵を1つ、描いて来てもらうのを宿題にした……のだが。

 

 

「描けると思った絵ということでしたので、犬の絵を描いてみました。どうでしょうか?」

 

(こ、これは中々……エキセントリックな絵ね)

 

 

 真剣な眼差しを受けつつ、見せてもらった穂波ちゃんの絵はすぐに感想を言うのが難しいぐらい、印象的な代物だった。

 

 美術準備室に来たがったまふゆを自習室へと追い出して、紅茶と共に穂波ちゃんを迎え入れたところまでは良かったのだ。

 そこから一息入れて、さあ絵を見て穂波ちゃんの問題を見てみようと現物を見てみたら、私は言葉を失ってしまったのである。

 

 

(犬って言ってたから、デフォルメされた可愛い絵が出てくるかと思ったんだけど。これは想像を超えてきちゃったわね)

 

 

 正直に言おう。

 

 犬と聞いていなければ、この白い紙に描かれた黒い物体はナマコっぽいナニカにしか見えなかった。

 抽象画としてみれば想像力を掻き立てられる絵ではあるものの、犬を題材として描いたのであれば首を傾げてしまう。

 

 奏にお願いして引き受けた手前、穂波ちゃんに何と言ったらいいのか。

 悩ましいところだが、何かを言わなければおかしい状況なのは確かだ。ここは慎重に進めるしかない。

 

 

「うん、すごく印象的な絵ね。黒が綺麗に塗れているなーって思ったんだけど、何か参考にして描いたの?」

 

「はい。ウチで飼ってる犬を参考に絵を描いたんです」

 

「……えっ」

 

 

 嘘でしょ、と声を出しそうになって、寸のところで飲み込んだ。

 

 私の記憶違いでなければ、穂波ちゃんが飼っている犬は柴犬だったはず。

 もしかして黒柴だったりするのだろうか。そう考えたとしても、この黒ナマコが錬成されるとは思えないのだが……不思議だ。

 

 

(うぅん。でも、よく観察したら4本の足っぽい出っ張りがあるわね。上に向けて伸びてる短めの2つと長い複数の触手っぽいのは耳と尻尾……なんだろうな、たぶん)

 

 

 尻尾っぽいナニカは振っているのを表現したいのか、ウネウネと波打っている。

 柴犬だと未だにわからない部分もあるけれど、じっと観察していたら穂波ちゃんが伝えたいことは伝わってきた気がする。

 

 

「──モデルにした子、すごく嬉しそうにしてるのね」

 

「……えっ、わかるんですか?」

 

「この波打ったところ、尻尾を激しく振ってるところを表現したかったのかなーって」

 

 

 漫画的な表現として考えれば、尻尾のようなものが複数波打っている理由は理解できる。

 あまり自信はないが、穂波ちゃんなりに伝えようとしている努力は理解した。

 

 が、私が必死に読み取っているのも伝わってしまったようで、対面に座っている穂波ちゃんは眉を下げた。

 

 

「絵名先輩の反応的に、驚かせてしまうような絵でしたよね」

 

「えっと、そうねぇ。驚くというよりは、中々考えちゃう絵だったかな」

 

 

 かなり驚いたけれども、それを馬鹿正直に伝えるつもりはない。

 が、言葉を濁してもわかるものはわかってしまうようで、穂波ちゃんは力無く笑った。

 

 

「……見てもらった通り、わたし、全然絵が描けないんです。何回か自分でも練習したんですけど、どうしても上手くできなくて」

 

 

 自分の中で想像している絵と、実際に自分が描いた絵の乖離。

 それは私も通ってきた道であり、穂波ちゃん並みとは言わないものの、自分なりにはある程度近い解釈はできるつもりだ。

 

 

「お願いします。この絵を何とかする方法を、教えてください……!」

 

 

 だからこそ今、目の前で頭を下げる穂波ちゃんの力になりたいと思った。

 その為にもまずは、色々と知る必要がある。

 

 

「顔をあげてよ、穂波ちゃん」

 

「はい……」

 

「結論から言うと、私でよければ教えたいと思って奏にも話をしていたのよね。だから、最初から教えるつもりでここに来てもらってたんだ。でも」

 

「で、でも?」

 

「まずは穂波ちゃんがどうして絵を何とかしたいと思ったのか、それを聞くところからかな。旅行に行く時も自分の現在位置と目的地を知らないと、迷子になっちゃうでしょ」

 

 

 意識して笑みを浮かべてみせると、穂波ちゃんはホッと安堵の息を吐き出した。

 ちょっと脅かしてしまったらしい。だが、1度固めてから緊張を解したせいか、経緯を話してくれた穂波ちゃんの力は良い感じに抜けていた。

 

 

「──幼稚園の子達にちゃんと絵を教えたい、か。職場体験よね……そう言えば1年生であったなぁ、そんなの」

 

「絵名先輩は職場体験はどこにいったんですか?」

 

「強いて言うなら、修羅場?」

 

「えっ?」

 

「あぁ、いや。勉強になる場所だったかなー」

 

 

 南雲先生の職権乱用で1日、締め切りが近い現場に放り込まれたなんて言えるわけもなく。

 キョトンとした顔をする穂波ちゃんに対し、私は笑って誤魔化した。

 

 

(それにしても、1回きりの職場体験で苦手な絵を教えられるように絵を習いたいなんて。適当にできるならやっちゃおうと思う私とは大違いね)

 

 

 誰かのために一生懸命に頑張れる姿勢は、見習いたいかは置いておいて素晴らしいものだ。

 だからこそ力になりたいし……もう少し、見極めたいことができた。

 

 

「画力向上のための勉強、やっちゃおうか」

 

「はい! お願いします!」

 

「じゃあ。時間をとってやりたいし、空いてる予定を教えてくれる?」

 

「わかりました。えっと、こことここで──」

 

 

 私の予定と穂波ちゃんの予定を見合わせてみると、問題が浮き上がってきた。

 

 

「この日が1番良いんだろうけど、問題は場所をどうするかよね」

 

「わたしか絵名先輩、どちらかの家でやった方がいいですよね」

 

「もしくはここかな。ただ、休みの日にそれが許されるかなのよね。相談してみるから、場所が確保できたらまた連絡するね」

 

 

 他にも良い方法があるかもしれないが、この場でパッと思いつくことはなく。

 いいアイデアがない状態で穂波ちゃんをここに捕まえているのは時間の無駄なので、話し合いは一旦解散。

 

 私は職員室に寄ってから、考え事で上の空になりながら家に帰ったのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「──なるほどね~。そんなことを考えてたから難しい顔をしてたんだ」

 

 

 家に帰ってから誰かに相談できないかとセカイに来たところ、同じくセカイに来ていた瑞希に捕まった。

 どうやら傍から見てもわかるぐらい難しい顔をしていたようで、穂波ちゃんの件について根掘り葉掘り聞かれてやっと、解放されたところである。

 

 

「そういうこと。どこかいい場所がないかって悩んでたのよ」

 

「まふゆもよく避難してるっていう美術準備室じゃダメなの? 絵名の学校の私室みたいなものなんでしょ?」

 

「私室は言い過ぎだと思うけど、休日で部活のない日は流石にね。部活動に必要ってわけでもないからダメだって」

 

「空き教室や自習室は?」

 

「勉強なら許されたんでしょうけど、美術と言い訳してもお絵描きだからねぇ……先生からは許可が出なかったのよね」

 

「あちゃー、それは厳しいね」

 

 

 瑞希が次から次へとアイデアを出してくれるが、それらは私も考えていて相談済みの物だった。

 

 

「やっぱり、私の部屋に呼ぶのが1番かなぁ」

 

「嫌そうだね? もしかして、部屋が人に見せられないぐらい汚いのかな?」

 

「は? 違うし。今から部屋に戻って、写真を撮って来れるぐらい綺麗だっての」

 

「ホントかなぁ。口では何とでも言えるからな~」

 

「……」

 

 

 イラッってきたので有言実行してやった。

 黙って部屋に戻って複数枚、違う角度から部屋の写真を撮る。間髪入れずにセカイに戻って、スマホの画面を瑞希の顔に押し付けた。

 

 

「見える? この部屋の写真、見えるわよね~?」

 

「いや、近い近い! ボクの可愛い頬っぺたがスマホの形に型抜きされちゃう! 絵名がすっごい怒ってるのはわかったから、スマホを顔に押し付けるのはやめて!」

 

 

 ひーん、と瑞希が悲鳴を上げて懇願してくるので、スマホを押し付けるのはやめた。

 疑われたままなのは嫌なので瑞希にスマホを手渡し、部屋が汚い疑惑は払拭する。

 

 

「結構綺麗に片付いてるじゃん。じゃあ、なんで部屋に呼ぶのを嫌がってるの?」

 

「それは……あんまり言いたくないんだけど」

 

「でも、言ってくれないと力になれないよ?」

 

「う……」

 

 

 瑞希の言っていることは正しいのだが、それでも言いたくない。

 言うか言うまいか。迷って口を噤んでいると、瑞希の手にあった私のスマホの画面が光った。

 

 

「あれ、穂波ちゃんから連絡だ」

 

「おぉ、これはまたタイムリーだね」

 

 

 瑞希からスマホを受け取り、穂波ちゃんから来た連絡の中身を確認する。

 ……これは、冗談か何かだろうか?

 

 

「絵名、口が開いちゃってるよ?」

 

「人が増えた代わりに場所の問題が解決したみたいだったから、ビックリして」

 

「……何をどうしたらそうなるの?」

 

「それは私が聞きたいんだけど」

 

 

 穂波ちゃんから来た連絡には『えむちゃんも参加したいので、一緒に教えて貰ってもいいですか?』というお伺いの言葉と、1日絵画教室の場所としてえむちゃんの家はどうですかという提案の言葉があった。

 経緯は気になるものの、こちらとしては特に反対する理由はない。了承の連絡をパパッと返信してから顔を上げると、こちらを見つめてくる瑞希の目と目が合った。

 

 

「何か気になることでもあるの?」

 

「結局、絵名が部屋に呼びたがらなかった理由ってなんだろうなって」

 

「それは言いたくないんだけど」

 

「ボクは知りたいんだけどな、ダメ?」

 

「笑われそうだから嫌」

 

「笑わないよ」

 

 

 瑞希が酷く真面目な顔でそんなことを言うものだから、その時の私も絆されたのだ。

 

 

「……瑞希も皆も呼んでないのに、後輩の子を先に呼ぶのは何か嫌だったのよ」

 

 

 その絆された気持ちに後悔したのは、すぐのこと。

 調子のいい奴の口車に乗せられた私が悪いのだが、後悔しても吐き出した言葉が消えることはなくて。

 

 にっまぁ、と良い笑顔を向けてくる瑞希を見て、私は今すぐにでも過去の自分をぶん殴って止めたくなるぐらい後悔したのだった。

 

 

 







このお話も更新し続けて1年が経ったらしいですよ、ビックリですね。
いつもありがとうございます、皆様のおかげで今日も更新できてます。

もっとハーメルン様のプロセカ二次創作も増えろー!と念じてますが、プロセカの時系列は魔境なので難しいかもしれませんね……ううむ。

そんな私情はさて置いて。
これからもえななんが記憶を取り戻すまで、どうぞよろしくお願いします。


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