イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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えむさんのお家でお絵描きタイムです。





159枚目 取り越し苦労?

 

 

 

「うーわ」

 

 

 私はスマホを片手に持ったまま、目の前に広がる豪邸を前に声を上げた。

 

 事前に穂波ちゃんからえむちゃんの家の場所を教えてもらったはずなのに、今でも目の前にある建物が家だと認識できていない。

 これならまだ美術館ですと言われた方が納得できる規模だ。

 

 インターホンを押すのも躊躇ってしまう大きさに圧倒されていると、見覚えのある明るい茶髪が目に入った。

 

 

「穂波ちゃん、こんにちは」

 

「こんにちは、絵名先輩。じっとしてたみたいですけど、何かあったんですか?」

 

「……恥ずかしいんだけど、ちょっと圧倒されててさ。入るかどうか迷ってたのよね」

 

「確かに。すごく大きいですもんね、えむちゃ──鳳さんの家」

 

 

 穂波ちゃんの視線の先には『鳳家』という表札がある門が閉ざされている。

 鳳という珍しい苗字がこの周辺に幾つも存在しているとは考えにくい。

 

 地図と照らし合わせると、やっぱりここがえむちゃんの家なのだろう。

 

 

「いつまでもここで話してもあれだし、お邪魔しようか」

 

「そうですね……でしたら、わたしがインターホンを押します」

 

 

 インターホンに手を伸ばす穂波ちゃんを眺めつつ、私は門を見上げる。

 鬼が出るか、蛇が出るか。何が出てくるか予想がつかないが、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

(えむちゃんの家の前で覚悟を決めたはずなんだけどなぁ……レミドールの『パレード』が家に飾ってあるのは不意打ちだったわ)

 

 

 えむちゃんの自室に来るまでの道のりがもう、私にとっては衝撃的なものだった。

 

 お手伝いさんとか家政婦が迎えに来ることはなく、えむちゃんが直々に来てくれたのは良い。

 その後、お姉さんが出てきて顔合わせをし、穂波ちゃんと挨拶をしたのも想定内。

 

 だが、リビングから庭園が見えるホテルみたいな家の中に、レミドールの絵画がドーンと飾られているのは予想外である。

 偽物なのか、本物なのか。えむちゃんの部屋に来た今でも、頭の中で存在感を主張していた。

 

 

(忘れるぐらい身近に感じてたけど、えむちゃんは鳳グループのお嬢様なのよね……後でじっくり見学させてもらえないかな)

 

 

 そんなことを頭の中で考えつつも、私の体は事前に考えていた準備を済ませる。

 2人分ということで多めの画材や、トレース台とかも持ってきているので、ちょっと準備に時間がかかってしまった。

 

 

(さてと。今日この1日でどこまで力になれるか、それが1番の問題よね)

 

 

 えむちゃんの絵に関しては部屋に飾られている現物を見ているので、そこまで心配をしていない。

 だが、肝心の穂波ちゃんの絵はついこの前、見た通り。

 

 最終的な目標によって着地点は変わるだろうし、しっかり確認しなければ。

 

 

「──念の為に確認なんだけど、穂波ちゃん達は幼稚園の子達に絵を教えられるようになりたいんだよね?」

 

「はい! その為にまず、何の動物を描いたのかわかってもらえるようになりたいと思ってます」

 

「なるほどね。じゃあ、穂波ちゃんの目標はそれかな」

 

 

 少し気になるところがあるけれど、悪い目標ではない。

 穂波ちゃんからえむちゃんへ視線を向けると、こちらの目に気がついたえむちゃんが大きく手を挙げた。

 

 

「はいはい! あたしは幼稚園の子にどう教えたらいいのか知りたいです!」

 

「えむちゃんの気持ちはわかったよ。現時点の実力を知りたいし……まずは2人で絵を描いてみよっか」

 

 

 その後で穂波ちゃんは動物の絵の練習を、えむちゃんは幼稚園の子達に教える方法を考えれば良いだろう。

 

 

「見ての通り、画材はこっちでも準備したから、好きに使ってね」

 

「あっ。あたしも今日のために鉛筆や絵の具をいっぱい準備しましたので、一緒に使いましょー!」

 

 

 私が準備したもの以外にもえむちゃんも準備したらしく、更に鉛筆や絵の具が机の上に広げられた。

 その中でも、私が見間違いかと視線に入れたくなかった絵の具を手に持って、えむちゃんはニコッと笑う。

 

 

「この絵の具とかすーっごくピカピカして綺麗だから、いっぱい使いたいです!」

 

「ねぇ、それ……もしかしてラピスラズリの絵の具じゃない? 普通のチューブの半分で5万ぐらいするヤツよね……?」

 

 

 私の間違いでなければ、えむちゃんの手にあるのは南雲先生が『こういうのも経験だよー』と1回だけ使わせてくれた、とんでもなく高価な絵の具だ。

 

 まさか画材のお店で1度は使ってみたいなと溜息を零していたような高級品が目の前にあるとは思わず、口から出た声は自分でもわかるぐらい震えていた。

 

 私の指摘に穂波ちゃんも絵の具の価値を認識したらしく、ギョッとした顔でえむちゃんの手元を見つめる。

 

 

「えっ、えむちゃん。どうしてそんなすごいモノを……?」

 

「えっとね、大きな画材屋さんに置いてあって、綺麗な色だからお小遣いで買ったんだ。皆で使えたら良いなーって思って、出してきたんだよ!」

 

 

 えむちゃんはウキウキとした様子で「これならきっと、綺麗な絵が描けると思うんだ☆」と目を輝かせている。

 

 ……悪気がないのはわかるのだが、えむちゃんにはっきりと言わなければいけないこともある。

 

 

「えむちゃん、それは固形水彩絵の具だから、慣れてないとかなり使いにくいと思うよ。上手く塗るのにも技術が必要だし、今日、皆で使うのは難しいんじゃないかな」

 

「えぇっ、そうなの!? じゃあ、今日は無理ってこと?」

 

「うん、残念だけど難しいと思う。でも、その絵の具を使うのにわかりやすいサイトも教えるし、それでもわからなければ聞いてくれたら教えるから。別の機会に綺麗な絵を描いて欲しいな」

 

「……! はいっ!」

 

 

 ハッキリと言った後はションボリと悲しそうな顔をしていたものの、後の言葉ですぐに元気の良い声で返事をしてくれたえむちゃんに胸を撫で下ろす。

 

 私だったら長々と話すことで誤魔化そうとしているのでは? と疑うところだが、えむちゃんの素直さに助かった。

 

 えむちゃんも花のようにニコニコと笑っているし、絵画や絵の具の衝撃は傍に置いて、改めて本筋に戻ろう。

 

 

「じゃあ、気を取り直して絵を描いていこうか」

 

「「はい!」」

 

 

 2人の良い返事を聞いてから、早速絵を描いてもらった。

 

 えむちゃんは楽しそうな雰囲気と最初の予想通り、描いている間は順調そのもの。

 そして、意外なことに印象的な絵を描いていた穂波ちゃんもトレースはかなり上手くいっているように見えた。

 

 

(もしかすると……穂波ちゃんって自由に絵を描くのが苦手だったのかな)

 

 

 そうだとしたら申し訳ないことをしてしまった。

 そのことに気が付かずに印象的だとか、偉そうに評価してしまった自分に内心で頭を抱えてしまう。

 

 ──絵が完成したら謝ろう。

 そう決心していると、えむちゃんから元気の良い声で呼びかけられた。

 

 

「絵名さーん! 絵ができたので見てくださいっ!」

 

「はーい、ちょっと待ってね」

 

 

 意識を切り替えてえむちゃんのところに向かうと、可愛らしいファニーくんの絵が待っていた。

 歩きながら風船を持つ姿はフェニランのマスコットらしい可愛さを感じる。

 

 

「絵名さん、あたしの絵はどうですか! ちっちゃい子をニコニコさせられますか!?」

 

「そうね。こんなに元気いっぱいな絵なら、ニコニコさせられると思うよ」

 

「やったー!」

 

 

 ガバッと両手を挙げて喜ぶえむちゃんに合わせて、私も小さめに手を挙げる。

 嬉しそうな姿にこっちまで嬉しくなりそうだが、えむちゃんが知りたいのは『小さい子に教えられるかどうか』だ。

 

 今の様子を見ていたらそこまで心配していないけれども、教えて欲しいと言われたのであれば、私なりに伝えられることは伝えなければ。

 

 

「正直に言うと、今のえむちゃんでも十分だと思うな」

 

「えっ、そうですか?」

 

「うん。そうやって描いた子達と一緒に喜んで、絵を見て良いなーって思ったところをちゃんと褒めるの」

 

「褒める?」

 

「きっとえむちゃんならその子の絵のキラキラしてるところとか、良いところを沢山見つけられると思うよ」

 

「キラキラしてるのを見つけるのは得意です!」

 

「でしょう? 後は、えむちゃんなりにもっとキラキラできそうだなーって思うところを優しくアドバイスできたら、花丸満点かな」

 

「むむ、アドバイスですか。あたし、誰かにアドバイスするのは苦手です……」

 

 

 全くそんな風には見えないのだが、誰にでも苦手意識はあるだろうし、えむちゃんもそういうものに近いのかもしれない。

 

 あるいは、アドバイスという言葉が上から目線の言葉に聞こえてしまい、抵抗感があるか。

 どちらにしても、苦手意識に対する特効薬は練習や実戦で慣れる以外に打てる手は少ない。

 

 

「じゃあ、私も絵を描いてみるから、それを見て練習してみよっか」

 

「はーい、頑張ります!」

 

 

 えむちゃんの返事を聞いてから、2枚ほど絵を描いて練習をしていると、懸命にトレースしていた穂波ちゃんが顔を上げてこちらを見ていた。

 

 

「──絵名さん、なぞり終わりました!」

 

 

 穂波ちゃんは緊張した面持ちでトレースした紙を私に差し出す。

 

 

「お疲れさま……っと。うんうん、トレースはいい感じだね」

 

「わたしもこんな風に描けるなんて思ってなくて、感動しちゃいました……!」

 

「あはは。そんなに嬉しそうな顔を見てると、こっちまで嬉しくなっちゃうわね」

 

 

 トレースが完成したのが嬉しいのか、ニコニコと微笑んでいる穂波ちゃんに釣られて、私も笑顔になった。

 

 綺麗に写された絵を見ていても、能力は十分にあるように感じる。

 これならば次のステップに進んでも大丈夫だろう。

 

 

「よーし、次は写真を横に置いて、それを真似しながら描いてみよっか。トレースもすっごく上手にできてるし、頑張ってみよう!」

 

「はい、頑張ります!」

 

 

 両手をギュッと握りしめて写真と紙を並べると、穂波ちゃんは真剣な表情で鉛筆を握りしめた。

 この様子だと、えむちゃんも穂波ちゃんも大丈夫そうだ。

 

 

(準備室ですっごい絵を見せてもらった時は心配になっちゃったけど、杞憂だったみたいね)

 

 

 瑞希あたりからは「絵名は考え過ぎだってば」と言われるぐらいなので、そんな癖が出てしまっていたのだろう。

 

 ……そう、私は決めつけていたのだ。

 

 その後、結構な時間が過ぎてから──私は考えを改めることになるとは、思わずに。

 

 

 

 







……予告のイラストや文言から怖過ぎて、まだイベストを1話も読めていない私を笑ってください。

ニーゴの二次創作を書くものとして、絵名さんファンとしても読み進めるべきなのはわかってますが……イベントが始まってから声が低くてハイライトも迷子な瑞希さんがライブの選択画面とかに現れちゃったのを見ると、最後まで読む覚悟が削られるんですよね、ううむ。


(今、こちらで執筆してる瑞希さんがウッキウキな分、イラストとの落差で風邪をひいちゃいそうです。
記憶喪失えななんはよくあのタイミングで決心して、自爆特攻して頑張ったなって褒めたいですね!偉いですよ、えななん!!!)


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