まさか、この話を書くと決めた時にはあんなお話が来るとは思っておらず……瑞希さんの道に幸あれと願って、予定通りそのまま更新します。
というわけで、偶然って怖いなと思った話です。
なんとなくセカイに来て絵を描いていると、スケッチブックに影ができた。
「やっほー。今日も元気に絵を描いてるー?」
「あぁ、瑞希じゃん。バイトお疲れさま」
「今日は大変だったから是非とも労って欲しいなぁ」
「瑞希がそんなことを言うなんて珍しいわね。何があったのよ?」
流れるような動作で隣に座る瑞希へと視線を向けると、待ってましたと言わんばかりに話が始まった。
「今日もいつものようにバイトをしてたんだけどね。なーんか1人、挙動不審な女の人がいたんだよ」
「挙動不審って?」
「最初はカゴに商品を入れながら店をぐるぐる回ってるだけだったんだけど、監視カメラをチラチラ見たり、ボクや他の店員をジーッと見てるんだよ。すっごく怪しくない?」
「それは確かに怪しいわね」
何ならどうぞ疑って下さいと言っているようなものだろう。
瑞希のように店舗とかでのバイトをしたことのない私でもわかる。
「で、ビビッときたボクはこっそりその人を見張ってたんだよ。そしたらその人、監視カメラの死角で鋏を取り出して、商品のタグを切って鞄に詰めだしてさ!」
「完全に黒じゃん」
「でしょ! そこでボクはすかさずスマホで撮影してから店長を呼んで、その人を裏に連れて行ったんだよ」
「そこで何でスマホで撮影する行為が出てくるのかは疑問だけど、お手柄ね」
「ところが、ここで終わりじゃないんだよねー」
チッチッチ、人差し指を振りながら、瑞希はニンマリと笑った。
「裏に呼んで鞄の中の現物を出しても、その人は万引きを認めなかったんだよ。しかも監視カメラにははっきりと映ってなくて、免罪だ、こんな脅迫をして訴えてやるーって騒いじゃって!」
「いや、タグを切り離した商品っていう証拠があるなら、後は警察が来たら終わりでしょ」
「それが結構抵抗してきてさ。警察が来るまでの間、どったんバッタン大騒ぎして大変だったんだよ!」
「へぇ。ビックリするぐらい極まった迷惑客だったのね」
「でしょー? ま、そんな極まった人でもボクが撮ってたスマホの動画を見せたらあら不思議。印籠を見た時代劇の人のように、ボクに頭を下げてくれたんだけどね!」
「それ、項垂れてるの間違いじゃない?」
しつこかった相手でも、動かぬ証拠を出されては降参するしかなかったのだろう。
粘ろうとしていたのに最後の最後まで瑞希に気が付かないとは、間抜けな万引き犯もいたものである。
「じゃあ、今度こそ瑞希のお手柄でしたー、で終わり?」
「それがね……お手柄なのは確かだけど、業務中に私用のスマホを取り出して何をしてるんだーって店長から怒られちゃったんだよね。トホホ」
瑞希がご丁寧に擬音語を言ったのと、大袈裟に肩を落とした態度から、店長からかなりこってりと絞られたのが伝わってきた。
瑞希としても不本意なオチがついてしまったらしいが、話を聞いている側からすると面白い。
笑いを堪えようにも堪えきれず、私の腹筋にダメージが入った。
「あー、お腹いたい。いい話を聞かせてもらったわ」
「絵名のお気に召してなによりですよー。それで? ボクが大変なアルバイトを熟してる間に絵名は何してたの?」
「見ての通り、いつものお絵描き」
「それにしては……その絵、昔にニーゴで投稿した動画のイラストに似てない?」
手に持ったスケッチブックを左右に振ると、瑞希はずっと目を細めた。
絵はゆっくりだとしても揺れているというのに、1発で内容を当ててしまうとは驚きだ。よく観察していると感心してしまう。
「正解。最初の方に投稿した絵を見返して、ちょっと描き直してたの」
「なんか印象が違うから自信がなかったけど……どうして昔の絵を描き直したりしてるの? 過去の絵が気に入らなかったとか?」
なんだかとんでもない勘違いをしているので、私は慌てて首を横に振る。
皆で作った動画の絵が気に入らないなんてとんでもない。
時間が経っているのでその分、気になる粗はある。だが、その時の全力を尽くして描いた絵に不満なんてなかった。
「ほら、私ってイラスト担当でしょ。ということはサムネという動画の顔担当でもあるわけじゃん」
「確かに、ニーゴのファンの人とかじゃなければ、取っ掛かりはサムネだろうね」
「そういうわけで、少しでも目に入った人が再生できるようなイラストにしたくて……最近の流行とかを取り入れられないかなーって試してたのよ」
私の話を頷きながら聞いていた瑞希は、ハッとした顔でこちらを指差した。
「もしかして最近、イラストの彩度が上がってるのはそれが理由だったり?」
「それもあるかな」
後は奏もまふゆも最初の頃と比べると明るさが混ざってきたような気がするので、それに合わせているのも理由だ。
「絵名の言うとおり、人気な絵って暗めのものよりも明るいものが多いよね」
「後は最近の娯楽の傾向として『わかりやすさ』も大切なのかなって思うことがあるのよ」
「わかりやすさがねー。その心は?」
聞き上手な瑞希はこちらが欲しい反応をくれることが多く、今回も首を傾げて尋ねてくれた。
素人の分析なので頓珍漢なことを言っているかもしれないが、自分が感じていたことを素直に述べる。
「例えば、1番古そうなので言ったら『タイトルの長いラノベ』とか」
「タイトルを見ただけで話の内容が大体わかるヤツだね。見ただけで話が予想できるから助かってます」
画集を買いに行ったらついでに本屋でオススメとかを目に通したりすることもあるが、ライトノベルなどのコーナーに並ぶ本のタイトルの長さには驚いた。
しかもこれが最近の話ではないと言うのだから、さらにビックリ。
何がメインで何が出てくるのか、一目でわかるその本達が私の中に疑問の一石を投じた。
「後は『聴けば話が大体わかるアニメの主題歌』とか、何々だからアレだったーみたいに『行動を台詞で説明してくれるアニメ』とか」
「あぁ、あるよね。映像見てたらわかるのに、追加で丁寧に「雪の上に落ちて助かったー」とかキャラが説明してくれるの。わかりやすいけどね」
瑞希も心当たりがあるようで、私の知らない具体例を出して同意してくれた。
今度、そのアニメを教えてもらうとして。話の続きだ。
「こういうのからもしかしたら『わかりやすいもの』が良いのかな~って思って、伝えたいメッセージとかを強調した絵を描いてたのよ」
「ふーん、そうなんだ。でも、奏はあの絵でいこうって言ってくれたんだし、そこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
「奏が取引先なら相手が納得してくれた絵で良いと思うけど……私にとっての奏は『同じサークルの仲間』でもあるから。奏が良いなら良いじゃなくて、私の方でも模索したいのよ」
「なら、ボクも動画担当として協力しないとね!」
瑞希はニッコリと笑いながら両手を差し出してくる。
どうやら今の所、描き溜めていた絵を見てくれようとしているらしい。
話さずともわかるのはその分の付き合いがあるからだろうか、黙ってスケッチブックを手渡すと、瑞希は満足そうに頷いた。
「やっぱり、全体的に彩度が上がってるよね。後は……線がハッキリとしてるっぽい?」
「最初の方の曲の優しさというか。個人的に感じたイメージに合わせるために、モナリザみたいな描き方をしてたのよね」
「……ごめん、イメージしやすいように例を出してくれたんだろうけど。有名な絵画の名前を言われても、ボクにはキレイ・スゴイ・ヤバイの3要素ぐらいしかわからないかなぁ」
絵画教室でもないのに、瑞希を相手に当然のようにモナリザをよく見ている前提で言ってしまった。
瑞希は申し訳なさそうに謝ってくれたが、悪いのはわからない例えを出した私である。
「えっと、輪郭線……漫画とかイラストとかでよく見る線がモナリザにはないのよ」
「えぇ? そうだっけ?」
「モナリザはダヴィンチの「現実世界に輪郭線は存在しないから!」っていう拘りから、陰影だけで表現してるの。だから他の絵と比べると柔らかい印象になるのよ」
「ほうほう、そういう使い分けもしてたんだ。絵名って意外とよく考えてたんだねー」
「意外とっていうのは何よ。そんなに考えてないように見えるわけ?」
「……ううん、意外っていうのは冗談。本当は──逆に色々と考えてそうで、こっちとしては心配なぐらいだよ」
瑞希は苦笑しつつ、見ていたスケッチブックを閉じて私の頭の上に乗せた。
普通に返してくれたらいいのに、という意味も込めて睨みつけると、苦笑を浮かべていた顔が笑みへと変化した。
「きっと、喋れない呪いみたいに話しにくいことって、沢山あると思うんだ。でも、絵名が大丈夫だって思った時は、ボクにも話してくれると嬉しい……かな」
「……少なくとも絵に関しては動画担当と二人三脚なんだから、イラストのことを相談しないのは良くないわよね」
「うんうん。その調子でそれ以外のこともバンバン相談してくれてもいいんだよ〜?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。前向きに検討させてもらうわね」
「それ、その気がないやつじゃん」
周りの空気もジメッとしたものに変えそうなぐらい、湿度の籠った半目をお見舞いされたので、私は顔を背けた。
(喋れない呪い、ね)
薄らと感じる
今まで感じていた『絵を描かないと』と思って向かい合っていた気持ちと、最近になって感じる『スケッチブックに絵を描きたくなる』衝動。
いつも通り、絵を描いていたら満足するだろうと思っていたのに、全く満たされないこの焦燥感の原因の正体は1つだけだ。
「──絵名?」
「うん? 何、瑞希」
「……本当に、言えることがあったら言ってよ?」
先ほどまでぼんやりとしていた私には刺激が強いぐらい、瑞希は真っ直ぐこちらを見つめてきた。
ちゃんと返事をしないと逃さないと言わんばかりの視線である。
これは誤魔化すのも難しそうだ。
そんな判断を下した私は白旗をあげた。
「わかったってば。何かあれば真っ先に相談する」
「約束だよ?」
「はいはい、約束ね。その代わりに、瑞希も何かあれば話してよ?」
「えっ。あぁ、うん……そうだなぁ」
本当に何かあったのか、瑞希は言葉を濁す。
誰かにされたのであればオハナシしなくてはいけないし、なんとか聞き出さなくてはならない。
「本当に何かあったの?」
「えっと、あったと言うか。最近、奏とまふゆにもボクのこと、話したと言いますか」
「ふーん……って、そんな大事なことサラッと言う!?」
瑞希が話した内容が私の勘違いでなければ、こちらのカミングアウトと引き換えに聞き出したあの話のはずだ。
それを普通に言っちゃうものだから、私は変な声を出してしまった。
「そう言われても勿体ぶるような反応じゃなかったんだよ。奏は「そっか。話してくれてありがとう」って笑うし、まふゆは「そうなんだ。なんとなくわかってたけど」っていつも通りの顔だし!」
「……そっか。良かったわね、瑞希」
「ありがとう、これも絵名がぶつかってくれたおかげだよ」
「私はただ自爆しただけだし、おかげだなんて大袈裟よ。そもそも、瑞希が怖いって気持ちも乗り越えて、歩み寄ってくれたから今があるの。私じゃなくて自分を褒めてあげなさいよ」
「ははっ、そう言うと思ったよ。でも……絵名がそう思っていたとしても、ボクは感謝してるんだよ」
──だから、今度はボクが絵名の力になりたいなって、そう思うんだ。
そう言った瑞希は思わず見惚れてしまうぐらい、綺麗な笑みを浮かべていた。
……あのイベスト等を見てからだと、改めてえななんの『相手が難しいことを考える前に、爆弾には爆弾をぶつければいいじゃない』という先手必勝☆大爆発が、結果的には良かったっぽいなぁと思いました。
(あくまで個人の感想ですけど)
暫く、今回のようなフラグ回や書きたくなっただけの幕間話が続きます。