イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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特に何もないお話です。





163枚目 作り顔はなくてもいい

 

 

 

 

 

「絵名、顔を作って」

 

「は? 何言ってんの?」

 

 

 まふゆからセカイに来て欲しいと呼び出されて、ノコノコと言葉通りにセカイに向かった私が言われた言葉がこれである。

 まふゆのことは普段からわからないところがあるなぁとは思うことがあるものの、今日ばかりは本当に意味がわからない。

 

 そんな私の反応が気に入らないのか、まふゆは目を細めてこちらを見てきた。

 

 

(……不満そうに見られても、判断材料が少ないんだってば!)

 

 

 本気で考える時間が欲しいと思っても、こうなったまふゆ相手には自分で掴み取るしかなく。

 私は頭をフル回転させながら、時間稼ぎすることにした。

 

 

「あんた、私のことをパンを焼いてるおじさんか何かだと勘違いしてない? 新しい顔よーって投げることもできないからね?」

 

「? 絵名は絵名でしょ?」

 

「言うと思った……あのねぇ。そもそも、あんたが最初に変なことを言うのがおかしいんだからね。そこで首を傾げないでよ」

 

 

 まふゆが何を思ってそんなことを言ったのか知らないけれど、周りを見て欲しい。

 

 ミクもレンもすっかり私が顔を作れると思っているのかキラキラとした視線を向けて来ているではないか。

 唯一の癒しが馬鹿を見る目を向けてくるリンしかいない。

 

 ルカはいつもの面白そうに成り行きを見守っているので、論外。

 メイコは何処かで見守っているだろうし、言わずもがな。

 

 

「まぁいいわ。それで? どうしてそんなとち狂ったことを言い出したのか、理由を聞きましょうか」

 

「理由」

 

「まふゆは突拍子のないことを理由もなく言うようなタイプでもないでしょ」

 

 

 こういう時は大体、今この場にいない方のピンクが原因だろうが、まずはまふゆから話を聞き出さないと始まらない。

 

 一体、瑞希は何をいったのやら。

 怒らないよー、怖くないよーと身振り手振りで伝えつつ、まふゆが話してくれるのを待つ。

 

 

「……瑞希がオススメの動画を見せてくれた時に『面白くなかったかぁ』って少し、残念そうだったから。それをセカイで相談してたら、ルカが『絵名に顔を描いて貰えばいいじゃない』って」

 

「ふーん、そういうことね」

 

 

 涼しげな顔を装って相槌を打ってから、私は頭の中で叫んだ。

 

 

(瑞希! 疑ってごめん!!)

 

 

 またか、と疑ってしまったが、違う方のピンクが原因だった。本当に申し訳ない。

 こういう時に変なことを言うのは瑞希の場合が多いので、つい疑ってしまった。

 

 そんな言い訳はいくらでも思いつくものの、初めに言いがかりをつけたのはこちら側である。

 実際に会って謝罪しても困惑させるだろうし、頭の中だけで謝罪しておこう。

 

 

(それにしても……顔を作ってって『描いてほしい』ってことだったのね)

 

 

 どういう意図であんなとんでもないことを言ったのか理解できたものの。さて、どうしたものか。

 

 化粧とかで笑っているようにするのはまた違う気がするし、私はそんな特殊メイクができるほどメイクに通じていない。

 ボディペイントとはまた違う技術なのはわかる。が、それからどう発展させれば『顔を作る』まで至るのか、その想像ができない。

 

 ──いっそ、素直にできないと言ってしまおうか?

 

 頭の中に諦めの言葉が過ぎるのだが、ふと、期待するような4つの目がこちらを見ているのに気がついてしまって、私は吐き出しそうになっていた言葉を飲み込んだ。

 

 

(うっ、ミクとレンの純粋な視線が私の道を阻んでくる……!)

 

 

 現状を打破する何かはないか、視線を人から周辺へと散らす。

 

 『誰もいないセカイ』と呼ばれている割には人が増えているセカイには、私たちが何かと持ち込んでいるものによって、それなりに解決に役立ちそうなものが置いている状態だ。

 

 奏が置いて行った楽譜や、まふゆが持ち込んだ仮眠用のクッションや毛布、後は避難させているシンセサイザー。

 

 瑞希が持ち込んで来たらしい服や玩具も使い道はなさそうだ。

 後は……最近、私が置いて帰ったスケッチ用の白紙のノートブックがある。

 

 

(使えるものといったらこれぐらいしかないかな)

 

 

 レンやリンが絵を描きたいと言っていた時に、文具と共に置いていたノートブックを手に取る。

 

 きっと、もっとふさわしい答えはあるのだろう。

 だが、今の私にできそうなことといえば、これぐらいしか思い浮かばなかった。

 

 紙にパパッと線を描いて、千切って、ポケットに忍ばせていたヘアピンと共にまふゆの顔へと手を伸ばす。

 

 

「──はい、新しい顔ね」

 

「……」

 

 

 白紙にニッコリ笑顔を描いて、まふゆの顔に貼り付けた。

 ……いや、貼り付けたは語弊があるか。

 

 紙に小さく穴を開けてヘアピンを通し、髪の毛に挟む。

 そんな簡単な仕掛けによって、顔に貼り付けているように見せかけているのである。

 

 とはいえ、化粧とかそういうものに比べると、お粗末過ぎて急拵えのモノ。

 まふゆも何も言わずに無言で佇んでいるので、不評よりの反応なのは一目瞭然だった。

 

 

(あーあ。これは考えなしに動き過ぎたかなぁ)

 

 

 後悔してももう遅い。

 

 唯一の救いは肩を震わせて笑っているルカぐらいで、紙は既にまふゆの顔にセットされている。

 未だに反応がないまふゆが恐ろしいのに、取り返しのつかないところまで来てしまった。

 

 仮に『ここから入れる保険がありますか!?』と保険屋に駆け込んだところで、笑顔で『諦めてください☆』とサムズアップされるような状況だ。

 

 ここからどうしたものかと悩む私の前に突然、2枚の白紙が差し出された。

 

 

「絵名ちゃん」

 

「わたしも、描いて欲しい」

 

「えぇ……?」

 

 

 何事かと視線を向ければ、期待するような目を向けてくるレンとミクがいた。

 どうやら私の子供騙しがお気に召したようで、2人の目がキラキラと輝いて見える。

 

 

「絵名」

 

「リン? どうしたの?」

 

「これ」

 

 

 レンとミクが堂々としている後ろから、リンがそっぽを向きながら袖を掴んで来た。

 何かを隠しながら声をかけて来たので顔を向けると、その手には真っ白な紙が握られている。

 

 

(あぁ、リンも顔が欲しいのね)

 

 

 それを口に出したら意地になってしまうのは予想できるので、私は黙って紙を受け取った。

 

 

「レンとミクはどんな顔がいいの?」

 

「まふゆちゃんと同じで笑顔がいいな」

 

「わたしも、笑顔がいい」

 

 

 同じものがほしいと聞こえる言葉だが、2人の顔を見ていると同じ表情が良いだけであって、まふゆと全く同じものが欲しいわけではないようだ。

 

 そう読み取った私はレンにはまふゆに少し近いニコニコ顔を、ミクにはちょっと控えめの笑顔を顔につけた。

 

 これで残りはリンだけである。

 未だに目を合わせてくれないリンへと視線を向けて、紙をわかりやすく振って見せた。

 

 

「リンはどうする?」

 

「絵名に任せる」

 

「それ、結構困るんだけどね……」

 

 

 未だに目が合わないリンに似合う表情で、ミク達と仲間外れにならないような顔がいいだろうか。

 

 視線を下に向けて全く目が合わないリンの顔をじっと観察していると、1つの顔が頭の中に思い浮かぶ。

 サラサラっとペンを紙の上に走らせて、皆と同じようにリンにも顔に紙を装着させた。

 

 

「はい、できたよ」

 

「その……ありがと」

 

「ふふ。どういたしまして」

 

 

 珍しく素直なリンに心がほっこりとしていたというのに、私の元に良い笑顔をした来客が現れる。

 

 

「……まさか、ルカも?」

 

「ええ。面白いものを期待してるわ」

 

「本当に面白いのでいいのね?」

 

「もちろんよ」

 

 

 今日もつい先程、してやられたことを根に持っていたせいだろうか。

 笑っているルカに貼り付ける顔がすぐに思い浮かび、私は迷わずそれをルカに貼り付けた。

 

 

「ふふっ……!」

 

 

 ルカの顔に貼り付けられたのは皆のような笑い顔ではなく、ひょっとこのような顔だ。

 まさか本当に面白さを狙いに来ているような顔を描くとは、ルカですら想像してなかっただろう。

 

 

(……ところで、私が笑ってもいないのに後ろから笑い声が聞こえて来たんだけど)

 

 

 まさかと思って振り返ると、見覚えのある服と腕が柱からチラリと見えている。

 

 どうやら吹き出すような笑い声の発生源はこちらをこっそりと見守っていたメイコのようだ。

 よく観察してみると腕が小刻みに震えているし、メイコが笑っているのはバレバレだった。

 

 

「──絵名」

 

 

 こっそりと笑っているメイコに集中している間に、気がつけばまふゆがすぐ近くまで来ていた。

 不満そうに黙っていたのに、その顔には未だにニコニコ笑顔の紙が貼り付けられている。

 

 

「わかる?」

 

「……何が?」

 

 

 短い問いかけに首を傾げると、まふゆは指先で紙を揺らした。

 

 

(黙っていたのは感想を聞きたかっただけで、気に入らなかったとかそういう意味じゃないの?)

 

 

 こちらが深読みしていただけだったのか、顔が見えないせいでわかりにくい。

 こっちは何も読み取れないというのに、まふゆは無言で顔に付けた紙を指さして私の反応を待っていた。

 

 

(あぁもう、じれったいわね!)

 

 

 いくら考えたってヒントらしいヒントがなければ私の想像でしかない。答えは紙の向こう側にしかないのだ。

 私はまふゆの顔に付けていた紙を捲り、簡単に描いた笑顔ではなく、まふゆ本人の顔を見る。

 

 

「作っておいてあれだけどさ、やっぱりその顔の方が良いと思うわ」

 

「そうなの?」

 

「無表情でもわかるものはわかるもの。私はそのままでいいと思ったけどね」

 

「そうなんだ」

 

 

 付けていた紙を外して、まふゆに手渡した。

 それでも付けるのであれば、それはまふゆ次第だ。

 

 

(ま、これで話は終わりでしょ。さてと、私は部屋にもど……)

 

「絵名、終わったような顔のところ悪いけど、私はまだあなたに用があるの」

 

 

 ちっとも悪く思ってなさそうな声が聞こえてくる方へと顔を向けると、貼り付けたはずの紙を両手に持って、ニッコリと笑うルカがいた。

 

 

「私、絵名にもこれを付けてもらいたいわ」

 

「い、いや。私よりもルカの方が似合うというか」

 

「遠慮なんていらないわよ。きっと絵名にも、とっても似合うもの」

 

(ひぇっ……)

 

 

 どうやら私のささやかなつもりだった悪戯は、ルカにはやり返す理由になるものだったらしい。

 

 暫く抵抗してみたものの、ルカの方が1枚上手であり、あれよあれよとひょっとこ顔を私も貼り付けられた。

 

 

「ふっ、ふくくっ……絵名、とても似合ってるわよ」

 

「その笑い声を聞いたら、ルカがご満悦なことぐらいはわかったわ」

 

 

 私の視界は真っ白なので周りの反応はわからないけれど、少なくともルカの反応だけは手に取るようにわかった。

 

 ……周りの反応がわからないということは、ここから人が追加されても気がつくのが遅れるということで。

 

 

「おーい、皆ー。そこで集まって何してるの──ブフォッッ!!」

 

 

 瑞希がふらりと遊びに来ていたことを知るのは、私のシュールなひょっとこ顔が相手の腹筋を粉砕してからのことだった。

 

 

 

 






渾身のひょっとこ顔! メイコさんや瑞希さんには効果が抜群だったようで。
次回はイベスト前に露骨なお話を挟みます。
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