イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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166枚目 隠れ蓑・ボランティア

 

 

 

 

(あぁもうっ! 盲点だったーっ!!)

 

 

 早歩きで教室に向かう私の内心は荒れに荒れていた。

 

 私の内心が大荒れな理由は簡単。

 昨日、瑞希に相談した通りに休み時間に南雲先生の元に向かい、相談しに行ったのが原因である。

 

 連絡もなく突撃してきた私に驚きつつも、南雲先生は私の話を頷きながら聞いてくれて。

 最終的に「仕事関係は紹介できないよー」と、私の気分を落とした後に言われたのだ。

 

 

 ──うーん。でも、ドクダミちゃんが言うような条件なら、ボランティアで良いんじゃないかなー?

 

 

 私にとっては目から鱗でも、先生からすれば当然のことのようで。

 当たり前のように「シブフェス、ボランティア募集してたよー?」と笑って紙を渡してくれた。

 

 勉強をさせたいまふゆの母親へのパンチとしては少々弱く感じるものの、アリかナシかで言われたらアリだ。

 私を理由に使うよりも、伝え方次第では勝率は高い。

 

 問題はそのボランティアに参加できるかどうかってところと、まふゆを説得できるかどうかという点だ。

 

 

(でも、やるしかないよね)

 

 

 最近のまふゆは参っているようだし、ストレスを溜め込んで爆発してしまう可能性もある。

 気分転換をしてほしい身としては、口八丁でも何でもいいからまふゆを説得しなくてはならない。

 

 私は小さくガッツポーズをして気合を入れて、教室の扉を開いた。

 自分の席で紙を読んでいるまふゆをロックオンし、その机に紙を置いた。

 

 

「まふゆ、話があるんだけど」

 

「……もう、絵名ったら急にどうしたの?」

 

 

 いつもならば「何?」と絶対零度の視線を向けてきそうなものだが、ここは教室である。

 優等生フィルターを通せばあら不思議。困った顔といかにも困ってますと言いたそうな、明るめの声で尋ねてくるまふゆの出来上がりだ。

 

 掴みは少々悪かったものの、後は口でどうにかするしかない。

 意を決した私は、まふゆの目をじっと見つめながら口を開いた。

 

 

「まふゆ、シブフェスのボランティアに興味はない?」

 

「ボランティア? もしかしてこれのこと?」

 

 

 キョトンとした顔でまふゆは机に指を差す。

 その指先へと視線を向けると、まふゆが読んでいたらしい紙が目に入った。

 

 

(……あれ、まふゆが読んでる紙って私のと同じじゃない?)

 

 

 私が机に置いた紙と、まふゆが手に持っている紙は全く同じ内容だ。

 寸分違わず同じものだったので、私は「うん」と頷くことしかできなかった。

 

 

「まふゆ、その紙はどこで?」

 

「先生からボランティアをやらないかって話を持ちかけられたの。丁度良いし、お母さんに話してみようかなって思って」

 

 

 私がきっかけにならずとも向こう側からやってくるとは、まふゆの日頃の行いが恐ろしい。

 

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、まふゆはボランティアに参加するの?」

 

「うん、そのつもり。お母さんもボランティアなら何とか説得できると思うし、これで私もシブフェスの最後の方なら合流できるよ」

 

「……そっか」

 

 

 まふゆも、行きたいと思ってくれていたのか。

 

 そのことに胸が温かくなるのを感じていると、まふゆの視線が私の口元に注がれているのに気がついた。

 どうやら笑ってしまっていたらしく、急に笑みを浮かべている私に対し、まふゆが心底不思議そうな視線を向けてきた。

 

 

「何よ?」

 

「ううん、そんなに嬉しかったのかなって思って」

 

「うっ……それは」

 

 

 真正面から聞かれたら、恥ずかしくて狼狽えてしまった。

 

 だが……ここで誤魔化したら、普段からまふゆに「自分の気持ちを話してみたら?」と言っている自分へのブーメランになってしまう。

 

 

(あぁもう。逃げなくてもいいところで逃げるな、私!)

 

 

 逸らしていた視線をにこやかに微笑んでいるまふゆの方に戻し、私は動揺した己に喝を入れた。

 

 

「まぁ、その。嬉しいに決まってるでしょ……私の独りよがりじゃなかったんだから」

 

「絵名……」

 

「そ、そういうことだから! 順番が逆であれ、私が提案したのに参加しないのはどうかと思うし。私もボランティアの募集のこと、先生と話してくるから!」

 

 

 予想外だと言わんばかりに目を見開くまふゆの前に立っているのが辛くて、私は捨て台詞と共に教室から逃げ出した。

 

 まふゆにボランティアを提案しようとしていたのに、私だけ安全圏で遊ぶのは最悪だろうと思っていたのだ。

 丁度良い言い訳を使って、私は小走りで階段へと向かう。

 

 

「絵名、待って」

 

 

 私の小走りは相手にとっては遅かったらしく、余裕で追いついてきたまふゆに捕まえられた。

 まるで猫を捕まえるかの如く、制服の襟を掴まれた私は進むこともできずに潰れたような声が口から漏れる。

 

 

「ぐぇっ……く、苦しいって」

 

「ごめん」

 

「はぁ、はぁ……物理的に止められるのはキツイんだけど」

 

 

 ちょっと首が締まっていた状態から解放されたので、私は改めて雑に食い止めてきたまふゆの方へと向き直す。

 

 

「それで? 待ってって、何か問題でもあった?」

 

「問題というか、絵名までボランティアに参加する必要はないと思う」

 

 

 階段の踊り場という人目のつきにくい場所であるせいか、優等生の仮面を殴り捨てたまふゆがハッキリと意見を述べた。

 

 

「気持ちは嬉しいんだけどさ。誘おうとした手前、あんただけボランティアに参加させるのは嫌なの」

 

「先生から先に聞いていたし、話を聞いた時点で参加の意思は伝えてたよ。だから、絵名が気にすることじゃない」

 

「そう言われても、あんた1人だけ参加させるってのも違うじゃん」

 

「2人で参加すると担当がバラバラになるかもしれない。こっちとしては3人まとまってくれてた方が、後から合流するのも楽だよ。それに──」

 

 

 自分に理がある時のまふゆはとんでもなく強い、ということを私は忘れていた。

 

 指を折りながら1つずつ理由をあげていって、私の逃げ道を丁寧に塞いでいく手腕。

 私の『後ろめたさ』という感情的な理由では全く対抗できず、こちらが折れるしかなかった。

 

 

「……もう、わかったわよ。ボランティアには参加しない。それでいい?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 こちらが折れるまで理由を並び立てていたまふゆは、私が折れたのを見てゆっくりと頷く。

 

 

(最初はわからないって言ってばかりだったのに……ちゃんと言えるようになってるよね、まふゆ)

 

 

 無表情でありながらどこか満足そうにも見えるまふゆに、私は少しだけ安心した。

 が、それと同時に不安な気持ちも顔を出してくる。

 

 

(まふゆのお母さんは勉強してほしいみたいだけど、ボランティアとはいえ許してもらえるのかな)

 

 

 まふゆも乗り掛かったということは、勝算が高い案ではあるのだろう。

 こちらとしては説得できますようにと祈ることしかできないのが歯がゆい。

 

 

「念の為に聞くけど、ボランティアで許してくれそうなの?」

 

「たぶん。難しくても、何とか許可は貰ってくるつもり」

 

「無理なら言いなさいよ。その時はセカイで勉強会でもしましょ」

 

「勉強会って……シブヤ・フェスタに行かないの?」

 

「あんたが行けないのなら、シブフェスに行くよりも勉強したい気分になるの。悪い?」

 

 

 1人だけ行けないなんて、瑞希達には悪いが放って遊ぶ気分にはなれないのだ。

 私の我儘にまふゆは目を見開いたものの、すぐにいつもの表情に戻して呟いた。

 

 

「……シブフェスの日は槍が降るのかな。本当にそんな気分になったら、奏達も一緒に一緒にセカイにいようって伝えておくね」

 

「は? 何それ、喧嘩売ってんの? 買うわよ? いくら!?」

 

「非売品」

 

「こ、こいつぅ……」

 

 

 腹立つやら少し嬉しいやら。

 色々と複雑な感情が入り混じっているが、まふゆも言うようになったらしい。

 

 キーンコーンカーンコーン、と。

 言い返す間もなく予鈴が鳴ってしまったので、今回の所は仕方がないので許してあげることにしたのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 25時を過ぎて、作業もひと段落が付いた頃。

 休憩時間に学校で話していた内容をそっくりそのまま(まふゆ)が話した後、Amia(瑞希)の声がボイスチャットに響いた。

 

 

『ということは、雪もシブフェスに行けるようになったってことだよね? よかったよかった!』

 

『ボランティアがあるから、夕方からの合流になるけど』

 

 

 Amiaが我が事のように喜んでいるのに対して、当事者であるはずの雪の反応は淡々としたものだった。

 それもいつものことだと慣れているAmiaは特に気にした様子もなく、まだまだ足りないのか喜びの声を上げる。

 

 

『それでも皆で行けるから全然ダイジョーブ! 雪が頑張って許可を取ってくれて嬉しいよっ。ねぇ、K』

 

『うん、そうだね。皆で一緒に行けるのは嬉しいよ』

 

 

 K()の静かな声が耳に優しくて癒される。

 Amiaの夜中にしては元気な声に挟まるウィスパーボイスに癒されていたいところだが、私は雪の気になる言葉に口を挟んだ。

 

 

「それにしても、ボランティアは夕方までなのに、よく夜まで時間が取れたわね」

 

『お母さんには夜までボランティアだって伝えてる』

 

「へぇ、考えたわね」

 

『夜遅くまでは遊べないけど』

 

 

 それでも前の雪ならば正直に言って夜は遊べなかっただろうから、大きな進歩だろう。

 そう思ったのは私だけではないようで、Amiaの声が聞こえてきた。

 

 

『それでもある程度までは大丈夫ってことでしょ。それで十分だよ』

 

『寧ろある程度で切り上げてもらえる方が助かるかな。わたしの方が先に限界が来そうだし』

 

 

 Amiaのフォローに続いて発せられたKの言葉は、あまりにも実感が篭っていた。

 Kの体力についてよく知っている側からすると、それが本心から出たものであることがよくわかった。

 

 

『そうそう、えななん。シブフェスってフェニランのショーキャストをしてる友達だけじゃなくって、弟くん達も出るらしいけど、知ってた?』

 

「そうなの? 聞いてないから知らなかったわ」

 

『その割には淡白な反応だね?』

 

「頑張ってるところを見てやろうとは思ってるから、淡白ではないと思うけど……何でそう思ったのよ?」

 

『何というか、思ってた反応と違って残念だなーって』

 

「あんたは私を何だと思ってるわけ?」

 

 

 朝の雪といい今のAmiaといい、私のことを何だと思っているのだ。

 

 そう思って問い詰めようにも、相手はAmiaである。

 のらりくらりと躱されて、結局、作業を再開する時間になるまで逃げ切られてしまったのであった。

 

 

 

 






次回はシブフェスに行きます。

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