イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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サブストあたりにあったかもしれない記憶……




167枚目 シブフェス屋台巡り

 

 

 

 

 

 まふゆから『終わった頃に連絡する』といった連絡を受け取った後、私も2人と待ち合わせしている場所に向かった。

 

 普段であれば1、2分前に行動している私だが、今日は15分ぐらい早く到着できるように急ぐ。

 私の予想通りであれば……待ち合わせ場所で先に1人、先に待っている子がいるはず。

 

 

(やっぱり)

 

 

 その考えは正しかったらしい。

 まふゆが来ることはないのに、いつものように奏が先に待ち合わせ場所に立っていた。

 

 

「奏、おはよ」

 

「おはよう、絵名。今日は早いね」

 

「今日ぐらいはね。いつもはまふゆも早いから、時間ピッタリで行動しても良いかなーって思っちゃうんだけど」

 

「今日はそういう気分じゃなかったんだね、ありがとう」

 

 

 くすくすと笑う奏にこちらも自然と笑みが浮かぶ。

 

 ……奏ならばいつも通りの時間に来ているかもしれないと思い、早めに来てよかった。

 普段はまふゆもいるから何とも思わなかったが、今日のような人が更に多そうな日に奏を1人にするのは色んな意味で心配になるのだ。

 

 

(普段はまふゆがいるから何にも思わないんだけど……こうやって奏と話せる時間もできたし、結果オーライってことで)

 

 

 学校で会話できるまふゆや向こうから絡んでくる瑞希と違って、意識して時間を作らなくては喋る頻度が下がってしまうのが奏だ。

 折角作れたこの時間を、無駄にしてしまうのはもったいない。

 

 そうやって奏との何気ない話で時間を過ごしていると、大きく手を振った瑞希が小走りで近付いてきた。

 

 

「やっほ~、2人共。お待たせ~!」

 

(……めちゃくちゃウッキウキじゃん)

 

 

 傍から見てもわかるぐらいの良い笑顔の瑞希を見ていると、一瞬だけ犬に見えてしまった。

 朝から疲れているのだろうか。頭を振って変な妄想を追い出している間に、奏が瑞希に声をかける。

 

 

「おはよう。全然待っていないから、走って来なくてもよかったのに」

 

「それって待ってる人が言うセリフだよ……絵名は置いておくとしても、奏は待たせちゃったみたいだね」

 

「置いておくって、瑞希は私を何だと思ってるのよ?」

 

 

 何かとんでもなく失礼なことをサラリと宣う瑞希がいたので、思わず2人の会話の間に割って入ってしまった。

 あまりにも失礼なのでキッと睨みつけて不満を訴えてみるものの、睨みつけた相手には効果がいまひとつのようだ。

 

 無敵状態の瑞希は申し訳なさも何も感じない良い笑顔のまま、人差し指をピンと立てる。

 

 

「ボクにとっての絵名は『ピッタリスト』だからね~」

 

「ピッタリスト? なにそれ?」

 

「いつも時間ピッタリに動く絵名に対して、ボクが3秒間じっくりと考えた新しい称号だよ。てんてろりーん、絵名は『ピッタリスト』を手に入れた~」

 

「3秒は殆ど考えてないのよ、それ。後、そういうのならアーティストとかの方が嬉しいんだけど」

 

「アーティストならボクら皆、当て嵌まるからダメでーす♪」

 

 

 ニッコリと笑ったまま胸の前でバッテンマークを作る瑞希は楽しそうだ。

 

 瑞希から変な称号(ピッタリスト)を貰った側としては、また変な呼び方のようなものを増やしてくれた瑞希に溜め息が溢れた。

 

 

「2人共、そろそろ移動しようか」

 

 

 人が少しずつ増えてきたからなのか、微笑ましそうにこちらを見ていた奏が声をかけてきた。

 いつの間にか予定していた時間を少し過ぎているし、瑞希との戯れ合いを切り上げるには丁度いいタイミングだ。

 

 

「移動するなら目的があった方が良いよね。とりあえず、皆が行きたいところに行った後は屋台に行く?」

 

「お、絵名ってばお目が高い。専門家なボクの視点的に、屋台なら宮益坂から行くのがオススメだよ」

 

「あんたはいつから専門家になったのよ……」

 

 

 そもそもシブフェスの運営側でもないのに専門家とは何だ。瑞希の自称が謎である。

 

 

「ボク希望のステージに寄った後は絵名希望の絵画展でしょ。その後、奏はどこか行きたいところとかないの? それとも屋台で遊んじゃう?」

 

「わたし? そもそも何があるのかわからないから、答えるのが難しいかな」

 

「この間の夏祭りの時の屋台をイメージしたらいいんじゃないかな。まずは食べるか、遊ぶか。それを決めるだけでもいいと思うよ。ね、絵名」

 

「決められないのなら、行ってから気になるものを見るのもいいと思うけどね」

 

 

 突然のパスを受け流して、奏に決定権を委ねる。

 

 

「そうだね……わたしは朝ごはんを食べちゃったし、遊ぶ方を優先して欲しいかも」

 

「ボクは逆に食べられるように朝は抜いてきたよ」

 

「瑞希ってば張り切り過ぎでしょ。あんただけはちゃんと食べ物を買っておきなさいよ」

 

 

 まさかフェスのために、ご飯を抜いてくるような猛者が近くにいるとは思ってもみなかった。

 

 今日はまふゆの合流もあるし、夜まで遊ぶのだ。

 朝を抜いてどうにかなるとは思えないけれど、不安要素はできる限り減らしたい。

 

 

「絵名も奏も、食べたいものがあったら言ってよ。軽く食べた後の残りは請け負っちゃうよ〜? ポテトとかだとボクが喜びます」

 

「はいはい、あったらねー」

 

 

 ポテトなら屋台にあるだろうし、大丈夫だろう。

 

 瑞希が「それじゃあ、まずは会場へレッツゴ〜♪」と元気な声と共に先導してくれるので、私と奏は並んでその後ろをついていった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「瑞希ー。そのポテトとこの唐揚げ、交換して」

 

「えぇー? これ、ボクが食べたくて買ったんだけどなぁ」

 

 

 愛莉や雫のステージ、絵画展と色々と見て回った私達は屋台が並ぶ宮益坂へと移動していた。

 屋台を物色した上で、列に並んでやっとの思いで戻ってきた瑞希に、私は笑顔で手を伸ばす。

 

 

「いいじゃない。ほら、この美味しい唐揚げもあげるから、ポテト貰うわよ」

 

「あーもう。ウチのイラスト担当はワガママなんだから」

 

 

 私は揚げたてなのか見てわかるぐらい熱そうなポテトをひったくり、冷ました唐揚げを押し付けた。

 

 私と奏で1つずつ食べたので数が減っているものの、まだまだ量は残っている。

 ちょっとぐらい唐揚げを食べたのは、許してもらおう。

 

 

「はい、奏も1本食べよ」

 

「えっ。い、いいのかな?」

 

「絵名は納得しきれないけど、奏は食べてもいいよー。遠慮しないで!」

 

「……瑞希がそう言うなら、貰おうかな」

 

 

 瑞希から許可を貰った奏がポテトを1本摘み、ゆっくりと食べ始める。

 少しずつ食べるその姿は小動物のようだ。見ているだけで癒されるような気がする。

 

 

「あれ、この唐揚げって」

 

「あぁ、それ? 瑞希がポテトが唐揚げか迷ってる時に、食べたくなってさ。並んでる間に買ったのよ。冷めちゃったから全部食べていいわよ」

 

「う、うん」

 

 

 私もポテトを1本摘みつつ、熱いポテトを食べた。

 これは冷まさないと瑞希には辛いだろう。そう思いながらも横目で猫舌ピンクの様子を窺う。

 

 

(ちゃんと食べれる熱さになってたみたいね)

 

 

 並んで買って、冷まして食べてと繰り返していると、時間がかかるからと片方を諦めていた瑞希は目を見開きつつも唐揚げを食べていた。

 

 瑞希が食べ終えるのを確認しつつ、私は丁度良くなったポテトを押し付ける。

 

 

「瑞希ー。ポテト、冷めちゃったから返すわ」

 

「ええっ!? これ、殆ど食べてないじゃん」

 

「私はあっつあつのポテトが食べたいのであって、適温のポテトはいらないの。丁度いいし、あんたが食べちゃいなさいよ」

 

 

 今度は空っぽになった容器を奪い取って、ポテトを押し付ける。

 唖然としつつも瑞希がポテトを手に持ったのを確認してから、私は容器をゴミ箱に捨てた。

 

 

「……ねぇ、奏」

 

「何かな」

 

「これってそういうことだよね?」

 

「たぶん。絵名はそういうところもあるから」

 

 

 私が容器を捨てに行っている間に、瑞希と奏がコソコソと何かを話している。

 

 一体何の話をしているのやら。

 我儘でムカつくーとか言われているのなら、仰る通りの行動をしているので、何も言い返せないのだけど。

 

 

「瑞希! コソコソ喋ってないで、早く食べなさいよね」

 

「いやぁ、でもねぇ」

 

「何よ、言いたいことがあるなら今だけは聞いてあげるけど?」

 

「そうだなぁ。絵名って属性の欲張りセットだなーって改めて思ったよ」

 

「はぁ?」

 

 

 急に何を言い出しているのだろうか、このピンクは。

 予想外の発言に首を傾げると、瑞希は摘んだポテトを振り子のように振った。

 

 

「ワガママっぽいツンデレと、すっとぼけ鈍感でしょ。この時点で属性が多いよねって奏と話してたんだよねぇ」

 

「残念でしたー。瑞希じゃあるまいし、奏がそんな話をするわけないでしょ。ねー、奏」

 

「……強ち、間違いじゃないかも」

 

「奏ぇ!?」

 

 

 まさかの裏切りに間抜けな声が出てしまった。

 まるで信頼して預けていた背中を、後ろから撃たれたような衝撃だ。

 

 瑞希は兎も角、奏までそんなことを言うなんて……これが偉い人がよく使う『誠に遺憾である』という感情なのか。

 なんとも言い難い気持ちになっていると、瑞希がポテトを食べ終えてゴミ箱に向かっていた。

 

 

「……よーし、お待たせー。次は何するー?」

 

「食べる前に遊んじゃったし、わたしはパッと思い浮かばないかな」

 

「あー、そうだよね。射的でもあれば、絵名のリベンジもできただろうけど……ないもんねぇ」

 

「あってもやらないからね?」

 

 

 どうして揶揄われるのがわかっている場所に自ら飛び込むと思っているのか、不思議でたまらない。

 こちらをじーっと見つめてくる瑞希がいるけれど、見られたってやらない。絶対にだ。

 

 

「じゃあ輪投げとか、的当てゲームはどう? 向こうにあったよ?」

 

「瑞希は私に恨みか何かあるの?」

 

 

 意地でもノーコンの称号を確固たるものにしたがるなんて、そんなにさっきのポテトの件が嫌だったのか。

 

 的確にコントロールを要求されそうなものばかりを並べ立ててくる瑞希に恐怖していると、ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「──おや、瑞希じゃないか」

 

 

 女子高通いの私には、男子校生の知り合いはそこまで多くはない。

 そんな私でも聞き覚えがあり、かつ、瑞希の名前を呼ぶ人物といえば、その範囲は限られてくる。

 

 

「えっ、類?」

 

 

 驚く瑞希の言葉通り、視線の先にはまふゆとはまた違う、明るめの紫髪の姿が。

 瑞希の高校の先輩にして、えむちゃんも一緒に活動しているパフォーマンス集団の演出家。

 

 

「こんなところで会うなんて、偶然だね」

 

 

 神代類さんと、その仲間達であるワンダーランズ×ショウタイムの皆が勢揃いしていた。

 

 

 

 






実はこの話……化けの花の時期といいますか、我が推しである絵名さんも大変なご様子で頭が破壊されてた時期に書いてたので、引っ張られそうで大変でした。

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