宮益坂からセンター街まで移動する道で、瑞希の声が響く。
「にしても、びっくりしたなぁ! 類達はショーの準備をしてるだろうから、屋台の方で会うとは思ってなかったし!」
「今の時間は小学校の出し物とかでステージがまだ混んでるからね。もう少ししてから行こうと思っていたんだよ」
「あー、なるほど。そういうことだったんだね」
瑞希と神代さんの話で、えむちゃん達も屋台巡りをしていた理由が大体理解できた。
瑞希の事前の話によると、神代さん達のショーは夕方かららしいし、時間にも余裕があるのだろう。
そうやって分析していると、久しぶりに鼓膜を貫通する声が聞こえてきた。
「夕方からのショーは時間帯や場所にふさわしいものになっているから、是非見に来てくれ!!」
さすがはショーキャストと言うべきか、今日も天馬さんの声が大きい。
間に挟まる瑞希という距離のワンクッションだけが、私の鼓膜の救いだった。
「そういえばそちらは東雲さん……と、暁山のご友人か?」
「うん! 同じサークルで活動してる絵名と奏だよ!」
天馬さんの質問と瑞希の紹介で、こちらに注目が集まった。
ちょうどいい機会だし、この前のお礼を言っておこう。
「神代さん、草薙さん、天馬さんも久しぶりです。この前は私の相談に乗ってくれて、ありがとうございました」
「いえいえ。僕は大したことはしてないよ」
「こちらこそお礼の品とか、色々とありがとうございました」
「力になれたのなら何よりだ!」
対面にいた神代さんと草薙さんが軽く頭を下げ、天馬さんは力強く頷いた。
一応、お礼の品はえむちゃんに渡していたのだが、この機会に改めて感謝を伝えた。
「絵名さん、こんにちはっ! この前はお絵描きを教えてくれて、ありがとうございました!」
「こんにちは。教えるって言うほどのことはしてないけど、楽しかったのなら良かったよ」
「はいっ。今度はあの絵の具のことも教えてくださいね!」
「あの絵の具ってラピスラズリのことかな? 私で良ければ今度、時間を作るね」
「よろしくお願いしますっ」
えむちゃんとそんな話をしていて、油断していたと言い訳すれば良いのか。
距離という盾があったはずなのに、それを貫通するような声が私の鼓膜を襲った。
「──そしてこのオレが、未来のスター・天馬司!!! 以後、お見知りおきをっ!!!!」
奏に自己紹介をしているのに、こちらの耳も貫く大音量。
思わずこちらの声もつられて大きくなりそうな天馬さんの声は、どこにいてもよく通る。
えむちゃんが隙を見て奏に自己紹介をしているが、どこまで聞き取れているのだろうか。
覚悟していた私でも辛うじて聞き取れている程度なので、至近距離の奏が聞き取れているのか、怪しいところがある自己紹介だった。
「奏、大丈夫?」
「ありがとう。すごい声だったけど、たぶん大丈夫だよ」
「もーっ、先輩! 声が大きいってば!」
今回ばかりは瑞希の意見に賛成だ。
耳を塞がない私と奏を褒めて欲しいぐらいなので、もう少し加減をしてくれると助かる。
(あっ、そういえば。チケットの件もお礼を伝えなきゃ)
天馬さんの声と個人的なお礼の方に気を取られていたが、会えた時に瑞希経由でもらったフェニランのチケットのお礼もしようと思っていたのだった。
「えっと、神代さんが瑞希にフェニランのチケットをくれたんだよね? お陰で皆で楽しめたし、そのお礼も言いたかったの」
「神代さん、フェニランで見せてもらったショー、すごかったです。ありがとうございました」
「フフ、楽しんでいただけたなら何よりです」
こちらの都合で週をズラしちゃったのに、神代さんはそこには触れずに笑っていた。
同じ高校生なのにできた人である。瑞希が嬉しそうに紹介するのも納得だった。
「あーあ……本当は、まふゆも紹介できたら良かったんだけどなぁ」
瑞希の友人である神代さん達と話している間に、ふと、思い出したのだろう。
さっきまでニコニコと笑っていた瑞希の顔がほんの少し曇っていた。
「む? そのまふゆというのは誰なんだ?」
「実はボクらのサークルはもう1人いるんだよ。夕方から合流するし、ショーは一緒に見れると思うけど……できれば皆にも紹介したかったなって」
天馬さんの疑問に瑞希が答えると、えむちゃんが「あ!」と短い声を出す。
「それって朝比奈センパイのことですよね?」
「そうそう! そうだった。この中だとまふゆとえむちゃんは宮女だったね!」
「ねぇ、私も宮女の生徒なんですけどー?」
せめて『えむちゃんはまふゆの後輩』とかにしてもらいたい。
サラッと仲間はずれにしてくるものだから、思わず瑞希の発言にツッコんでしまったではないか。
「最近の朝比奈センパイ、元気なさそうだったし……お祭り、楽しめると良いなぁ」
「そうね。まふゆのことを心配してくれてありがとう、えむちゃん」
本当に、えむちゃんはよくまふゆを見ているようで、細かい変化も見えているらしい。
こっちは毎日しつこく話を聞いてやっとわかるレベルなので、えむちゃんのセンサー感度が羨ましい限りである。
「この前はちょっと嫌なことがあったから、落ち込んでたみたいだけど……今はそんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ」
「そうそう! まふゆもえむちゃん達のショーを見れば、元気になるかもしれないし。ボクらもショーを楽しみにしてるよ!」
「……! そっか。よーし、今日こそは朝比奈センパイを笑顔にするぞー。えいえい、おーっ」
瑞希の援護射撃もあり、えむちゃんの顔に笑顔が戻ってきた。
(瑞希、ナイス)
──ふふん、任せてよ。
言葉を交わすことなく、目と目でお互いの気持ちを伝え合う。
お互いにこっそりと親指を立ててグーサインを送り合ったので、たぶん通じた気がした。
「むっ! 話している間に、咲希達のライブが始まる時間が迫っているではないか!? 急いで良い場所を確保しなければっ!」
私がえむちゃんの方に気を撮られている間に、天馬さんがまたしても大きな声を出した。
こちらに向けられていないのに、鼓膜への刺激が少し強めだ。
しかし、瑞希には慣れたものらしく、特に変わった様子もなく話を投げかける。
「司先輩達もステージに行くなら、一緒に行かない? ボクらもちょうど、行こうと思ってたんだよね!」
「おお、そうなのか! 目指す場所は同じということだな! ならば共に行こう!! 咲希達のステージへっ!!!」
(天馬さん、何でちょっと芝居っぽい口調なんだろ……)
どこかのテーマパークの冒頭音声として収録されてそうな天馬さんの言葉と共に、私達もステージに移動するのであった。
☆★☆
その後、ステージに行くと自分達の出番まで出演者のステージを見学していたらしい彰人達と出会い、一歌ちゃん達……レオニのステージを大人数で見ることになった。
どうやらボランティアの担当がステージ付近のモノだったらしく、忙しそうにしつつも遠目でステージを見ているまふゆの姿も目撃できた。
途中で胸を抑えている姿が気になったけれど、まふゆにも何か思うところがあったのかもしれない。
(まふゆにとっては大変かもしれないけれど……思うところがあるのなら、良かったのかもしれないな)
何を見てもわからないと言っていた時と比べると、きっと今の方が見つかりそうな気がするから。
少しでもまふゆのわからないことに近づいているのであれば、友達としてそれを喜ばしいことだなと思う。
「絵名ー、ボランティアって何時ぐらいに終わるの?」
「時間的にもう終わってると思うけど」
瑞希に声をかけられて時計と空を見てみたものの、それ以外に言えることは何もなかった。
空が青から赤っぽく変化して、そろそろ一般枠最後である彰人達の出番になる頃だ。
そろそろボランティアが終わって良い時間帯なのだが、未だにまふゆの姿は見えない。
「迎えに行った方がいいかなぁ」
「まふゆも探してるだろうし、じっとしてる方がいいでしょ」
「そうだよねぇ。あぁー、わかっててもソワソワする〜」
「心配なのはわかるけど、ちょっとは落ち着きなさいよね」
瑞希が1人でソワソワしてて目立ってるし、まふゆならすぐに見つけそうだ。個人的にはまふゆよりもずっと無言な奏の方が不安になる。
静かにステージとは違う方向を見つめている姿は疲れているようにも見えるが、大丈夫だろうか。
ただ、私の心配は無駄だったようで、奏はこちらの視線を気にすることなく手を挙げた。
「瑞希。あそこにいるの、まふゆじゃないかな」
「あっ、本当だ! おーい、まふゆー!」
ステージが盛り上がる中、声が消えないか心配だったものの、瑞希の声に気がついたまふゆは小走りで近づいてきた。
「……ごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ。ボランティア、お疲れさま」
「今からちょうど弟くん達のステージだし、間に合って良かったよね!」
奏と瑞希がそれぞれ声をかけて、まふゆを間に立たせた。
司会の女の子がVivid BAD SQUADの紹介をしていたので、そろそろ彰人達もステージに現れるのだろう。
「夏休みに冬弥くんと一緒にやってたのを見たのが最後だけど……あれから結構時間も過ぎてるし、どうなってるのかしらね」
「お、その言葉から察するに……絵名ってば弟くん達のステージ、楽しみにしてた?」
「んー、まぁ。あいつに関して楽しみにしてるって言うのはアレだから、なんとも。でも、心配はしてないかな」
記憶を無くしてからの期間しか知らないけれど、彰人は自分で夢を掴める人間だと思っている。
目を離しているうちに血反吐を吐きそうなぐらい努力して、勝手に目標を立てて追いかけていくだろうから心配はしていないのだ。
……それを相手には絶対に言ってやらないけれども。
「絵名も偶には素直になればいいのにね~」
「うるさいなぁ……別に私が何か言わなくてもあいつには沢山人がいるんだから十分でしょ。そろそろ始まるから黙ってなさいよ」
「ホント、ツンデレなんだから~」
「ツンデレじゃないから」
まふゆが近くにいるせいか、瑞希の鬱陶しさが増した気がする。
「ほら、彰人達も出て来たし集中しなさいよね」
「は~い」
本当にわかっているのだろうか。
微笑ましいものを見るような視線から逃げるようにステージへと目を向け、私は溜め息を零すのだった。
なんということでしょう。
フェスイベントはサラッと流すつもりだったのに、結構ガッツリやってますね……
次回にはシブフェスを終わらせます。