イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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この話からオリキャラが出て、話しています。
(この話を合わせて2話限定ですが)


17枚目 ドクダミの花

 

 

(……ダメ。今日のも納得できない絵になっちゃった)

 

 

 今日も今日とて、学校に行った後に絵画教室に来ている……のだが。

 お父さんと話した後の私の絵は自分でもわかってしまうぐらい、酷いものを生み出してしまっていた。

 

 そのせいで雪平先生の言葉のナイフがキレッキレ。

 昨日は思わず枕を涙で水没させてしまったぐらい泣いた。

 

 ……3日経っても立ち直れない私が悪いんだけど。それでも凹むものは凹む。

 

 いい加減どうにかしないといけないと焦るのに、どうも解決の糸口が見つからない。

 

 愛莉の商業施設でのライブを本人には内緒でこっそりと見に行って、楽しいって感性的な何かが死んでないのは既に確認済み。

 技術も炎上した時よりも確実に向上しているのに、袋小路。

 

 私は何をしたら良いのか、どう改善したらいいのかわからない状態に陥っていた。

 

 原因はわかっている。明らかに精神的なものだ。

 ただ、どういう精神的な問題なのか。それをどう解決すればいいのか。

 その具体的な方法が思いつかなくて、八方塞がりなのである。

 

 

「東雲さん」

 

「あ、雪平先生」

 

 

 キャンバスを両手に呆然と立っている私は、雪平先生に声をかけられてやっと、自分が教室に1人、ポツンと残っていたことに気が付いた。

 

 

「コンクール後からかなり調子が悪いみたいですね。今までにあった迫力も焦燥感も、消えてしまったように見えます」

 

「やっぱり、そう見えますか」

 

 

 お父さんと話した結果、私は漸く、自分の弱さを認めることができた。

 東雲絵名は『絵の才能』を願ってはいなかった。だから私の絵の才能も記憶を無くす前の彼女と一緒だと知ることができた。

 

 才能があるなら描かなきゃいけないし、画家にならなきゃいけない。

 記憶の代わりに貰ったのなら、才能を証明しなくてはいけない。

 記憶喪失の自分がここにいてもいいと認める為にも、才能を認めさせなければいけない。

 

 その気持ちの群れが、願いの内容が違っただけであっけなく崩れてしまった。

 今まであった焦燥感も、ひたすら追いつめられる感覚も、絵の才能を貰っていないというだけで消えてしまったのである。

 

 

「この、燃え尽きてしまったような絵から抜け出すには、どうしたらいいんでしょうか」

 

 

 雪平先生だって言われても困るであろう、精神的な悩み事。

 しかし、どうやら雪平先生は心当たりがあるらしく、1つの光を見せてくれた。

 

 

「元はと言えば私があのコンクールを勧めたのが原因ですからね……良ければですが1人、会ってみませんか?」

 

「その人ならヒントとか、貰えますかね」

 

「可能性はあります。ただ、かなり、その……人を選ぶ性格だと思いますが。そういう目や感性は一流だと思っています」

 

 

 紹介すると言った割にはかなり歯切れの悪い雪平先生の言葉が少し、気になったものの。

 

 

「……お願いします。会わせてください」

 

 

 私は藁にも縋る思いでその話に飛びついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と決めたのにも関わらず、早速後悔しながらファミレスの奥の席に座っている間抜けが私です。

 

 そんな間抜けの目の前にはおっとりしてそうな空気を放つ女性が1人座っている。

 

 

「どーもー、私が南雲でーす。昔は漫画家、今は企業家。最近は趣味と副業も兼ねて美術の講師とかもやってま~す。キミが薊先生の生徒さんの『しののんえななん』で間違いないかな~?」

 

「薊先生が雪平先生のことだと考えても『しののんえななん』は名前の原型がないんですけど。改めまして、その……東雲、絵名です。よろしくお願いします」

 

 

 相変わらず名前を言う時だけほんの少し躓きつつも、なんとか口にして。

 そもそも雪平先生の名前に薊なんかあったかなと暗記した記憶を掘り起こしていると、南雲さんはニッコリと微笑んだ。

 

 

「あー、ごめんね。私、人の名前を覚えるのがすっごく苦手で、間違えちゃってるねぇ……」

 

 

 呑気な口調に「先生の名前もやっぱり覚えられないや」と笑う胆力。

 かなり人を選ぶと雪平先生がお茶を濁していた理由が、なんとなくわかるような気がした。

 

 

「じゃあ、早速要件を片付けようか。今まで描いた絵、持ってきてくれた?」

 

「1年分のスケッチブックを持ってきてます」

 

「わ~、1年で結構描いてるねぇ。頑張ってて偉いなー……うん、大変そうだ~」

 

「お手数ですが、よろしくお願いします」

 

「はいはーい、洗っちゃうねー」

 

 

 本当に、大丈夫なのだろうか。言葉を重ねる度に不安に苛まれていく。

 雪平先生の紹介だというのに、私は懐疑的な目で南雲さんを見ていた。

 

 

 

 

「──うん、整いました~!」

 

 

 スケッチブックを渡してから十数分。

 飛ばしたりじっくり見たり、全ての絵を見たらしい南雲さんは少し曇った顔を見せて、こちらに問いかけてきた。

 

 

「あのー、君のお父さんってすごい画家さんだったはずだけど……何かされてたりする? すごく厳しいとか、人格否定とかー。何かあるなら相談に乗るよ?」

 

「え? そう言われても別に何もされてませんし、厳しいこともないですけど」

 

 

 お父さんは『才能がない』と突き放しているような言葉をかけてきても、今も絵画教室や画材のお金を出してくれているし、人格否定は言い過ぎだろう。

 教えてもらうことだって、絵に関しては放任主義みたいなものだし、南雲さんが想像するようなことはない。

 

 本当に心当たりがなくて首を傾げると、南雲さんも真似するように首を傾げる。

 

 

「そっかー。君が自分にすっごく自信がなくて、かなり自罰的に考えてるみたいだから、ご家庭の事情なのかと思ったんだよねー」

 

「絵を見ただけでそんなにわかるんですか?」

 

「字を見て性格がわかる人だっているんだから、絵を見て性格がわかる人だっているよ」

 

「そう、ですか」

 

 

 ということは、私の自分勝手な悩みが絵に出て家族が疑われてしまったのか。

 あの人達は悪くないし、私が絵名を取り上げた張本人なのに、他人に勘違いされる要素を作ってしまうのはかなり申し訳なかった。

 

 

「ほら、また自分のせいで~とか考えてるでしょ。眉間の皺を伸ばそうねー」

 

 

 こちらに手を伸ばし、うりうりと眉間の皺を伸ばしてきた南雲さんは、タレ目をほんの少し吊り上げた。

 

 

「さてと、君が今、絵に対して悩んでいる原因は大体わかったよ」

 

「本当ですか!?」

 

「もちろん。今までの君は強迫観念的使命感っていうのかな? そんな気持ちをエンジンに頑張っていたんだけど、今は枯渇してるみたいなんだよね。今の君の絵は自信のなさと自罰的な思考が隠しきれなくて、絵として出てきちゃってるってワケ」

 

「それで、あんな死んでるような絵になるんですか」

 

 

 自分に自信がないから表現できず、イマイチ魅力のない絵になっていたのか。

 それがわかっても、この解決はまた難しい。

 

 強迫観念も自信のなさも、記憶がないこととスケッチブックの件という共通点があり、更にはどうしようもない理由なのだ。

 原因が分かったところで記憶が戻ってくるわけでもあるまいし、どうすればいいのかわからない。

 

 

「ドクダミちゃん、諦めるのはまだ早いよ」

 

「東雲です」

 

「こういう時は自信をつける為に行動あるのみだよ」

 

「……そこは無視なんですね」

 

 

 ドクダミってお茶の名前でも聞いたことがあるが、雑草としても有名じゃなかっただろうか。

 もしかして私、雑草女って言われてる? それぐらい野太くあれってこと?

 

 ……いや、あまり言葉を交わしていないが、たぶん南雲さんはそういう意味で言ってるわけじゃなさそうだ。気にし過ぎだろう。

 愛莉みたいにポジティブに頑張って、バラエティでもガンガン食らいつくようなハングリー精神を持てと励まされていると思い込もう。

 

 

「自信をつけるには行動あるのみだし。こういうの、やってみよっかー」

 

 

 南雲さんが取り出したのは50枚以上重なっていて、山のようになっている色紙(しきし)だった。

 

 

「ここに、3枚セットで税抜100円で売ってた色紙を買い占めた山がありま~す」

 

「そうですね」

 

「で、ドクダミちゃんには今度の土日にフェニランにて、この色紙を売ってもらいます。1枚200円で!」

 

「え?」

 

「あ、もしかしてフェニラン知らない? フェニックスワンダーランドっていうテーマパークで、私のオススメのアトラクションは──」

 

「いや、そうじゃなくて! 何で絵を売るって話になってるんですか!? こんな無名の素人中学生が絵を売るなんて無理ですけど!?」

 

 

 南雲さんの言葉に否定の言葉を被せた。

 

 フェニランも記憶を無くしてから行ったことがないので、名前以外知らないけれども、そこはどうでもよくて。

 問題は画家でもない絶賛スランプで悩んでいる中学生が、絵を勝手に敷地内で売ることになっている件だ。

 

 

「勿論、許可は取るから心配しなくてもいいよ。それに、ドクダミちゃんは自分の絵をどうにかしたいんでしょ?」

 

「それは、そうですけど」

 

「それに……絵の才能がなくても天才と戦おうとしているんでしょ? なら、人がやらないことをしないと」

 

「いや、でも」

 

「君、きっと才能がないとか言われてる側の人間だよね? それなのに『いや、でも』ってその場で足踏みして、躊躇って。そんな行動で君の悩みは解決するのかなぁ?」

 

 

 ニヤリと悪戯っぽく笑う南雲さんは、行動も相まって子供っぽく感じた。

 でも、私1人だとこのスランプから抜け出すのはかなり難しいし、南雲さんの言うことも不思議と納得してしまうところがあって。

 

 

「~っ。わかりました! やりますよ!」

 

「そうこなくっちゃ~」

 

 

 そんなこんなで、私は来週の土日で50枚の色紙を売ることになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、絶望の土日がやってきた。

 

 

(あー、我ながら馬鹿なことをしちゃった)

 

 

 私はフェニックスワンダーランドのアトラクションを前に絶望していた。

 南雲さんは上の方の人に本気で話を通してしまったらしく、とんとん拍子で許可を貰ってしまい。

 

 

「じゃ、困ったことがあったら電話してね~」

 

 

 そう言い残してどこかに消えてしまった南雲さんを頼ることもできず、私は途方に暮れていた。

 

 1枚大体33円の色紙に167円程の価値をつけて200円で売る。

 

 言葉にすれば簡単だが、問題はどうやってフェニランに遊びに来ているお客さんを相手に、5倍の値段で絵を売りつけるような価値を付与できるか……だ。

 

 

(ム、ムリ! 全くイメージできないんだけど!?)

 

 

 アトラクションの間に用意されたシンプルな折り畳み机とパイプ椅子。

 それが私の商売スペースで、ちっぽけな聖域だった。

 

 試しに見える範囲のアトラクションを絵に描いて『200円』とスケッチブックの破片でポップを作って並べてみたものの、見向きもされず。

 声を出して売子をやってみても、クスクスと遠くから笑われるだけである。

 

 

(これ、雪平先生とは別の意味で心が折れそう)

 

 

 この場には厳しい言葉もナイフもない。

 売れないという現実がじりじりと近づいてきて、真綿で首を絞められているような苦しさだけがある。

 

 でも、ここで逃げたってなにも解決しない。

 この場で逃げても解決するのは、今この瞬間、感じている苦しさだけだ。

 スランプ等の根本は解決できない。

 

 自分の目的の為にも逃げられない、だから逃げないと今、1つ決めた。

 

 

(そう格好つけてみたのは良いものの……本当にどうしようかなぁ)

 

 

 長くて深いため息が口から漏れ出る。

 考え事に夢中な私はいつの間にか人が潜んでいたことにも気が付かず、頭を悩ませていた。

 

 

「こんなに楽しい場所で、ため息なんてどうしたんですか?」

 

 

 だから、仕方がなかったのだ。

 

 

「ひゃぁっっっ!?」

 

「わんだほーい!」

 

 

 机の下からひょっこり飛び出して笑うピンク髪の少女に、思わず大声を出してしまった私は悪くない。

 そう言い訳させて欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 ……って思ったけど、流石に園内でも迷惑だよね。ごめんなさい。

 

 

 

 

 





雪平先生はサブキャラですが、南雲さんはオリキャラです。
スランプでボッコボコな記憶喪失えななんの軌道修正や誘導役なので、今回と次回が過ぎれば後は回想の台詞や単語とかでサラーっと出てくる程度になります。

それはさておき、次回はフライング登場したあの子が出てきてくれてます。
わんだほーい!
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