イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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急に布団の中から出るのが難しい寒さとなりましたね……




170枚目 その微睡で見るものは

 

 

 

 

 

(あれ、何だったんだろ)

 

 

 担任の先生がいつもの様に話している中、私は午後の授業中に来たメッセージを思い出していた。

 

 事の発端は午後の授業中、ナイトコードに奏から個別のメッセージがあったこと。

 そもそも曲を送っていることが多い奏が、個別に送ってくるだけでなく文字まで送ってきた。

 

 あまりの珍しさに思わず授業中なのにスマホを確認してしまい、まふゆからジト目を進呈されるような行動をしてしまったが、そこまでして確認した内容も内容だった。

 

 

(そもそも『すぃ』って何?)

 

 

 送られてきたたった2文字の何かに『どうしたの?』と返信しても、奏からの返信はなく。

 電話も何も全く効果がなかったので、帰ってからミク達に奏の家の様子を見てもらうように頼むことにした。

 

 

「まふゆ、また明日ね」

 

「うん。奏のこと、よろしくね」

 

 

 今日はまふゆが部活後に予備校なので、短い言葉を交えた後に教室で別れた。

 私は部活もバイトもない日なので、速足で家に帰れば最速で帰宅できる。

 

 

「ただいまー」

 

 

 お母さんに声をかけてからいつもの手洗いうがいを終わらせ、自室へダッシュ。

 扉を閉めるのとほぼ同時にセカイへと向かった。

 

 

「えっと、ミク達はどこかなーっと……ひゃぁっ!?」

 

 

 セカイに来てぐるりと周囲を見渡すと、地面に散らばる白髪が視界に飛び込んできた。

 探しているミクの髪質とは明らかに違う、長くて癖がない髪。該当者は1人しかいない。

 

 

「か、奏……?」

 

 

 パッと見るだけでは奏がセカイで倒れているように見える。

 しかし、冷静になって観察すれば頭に白いクッションがあり、奏がセカイで仮眠を取っていると予想できる要素が目に入った。

 

 

(呼びかけちゃったけど、寝ているのを邪魔するのは良くないか)

 

 

 どうしてセカイのこんな場所に寝ているのか、色々と気になるところはあるものの……それを寝ている人にぶつけるほどではない。

 私はセカイに置いているであろうブランケットを探し出し、奏の体に掛けた。

 

 

「あれ……絵名?」

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 

 

 起こさないようにと思っていたのに、奏は薄っすらと目を開いてこちらを見ていた。

 ブランケットを掛けるのも悪手だったとは、もしかすると声をかけた時点で意識が覚醒しかかっていたのかもしれない。

 

 

「ううん。実は絵名がセカイに来た時には起きてたんだ。最近、部屋ではあまり眠れなくて」

 

「大丈夫なの? 眠る予定ならセカイから出ていくけど」

 

「目が覚めちゃったから大丈夫。それより、少し話せないかな?」

 

 

 体を起こした奏はブランケットを敷き、奏の隣に人1人分座れるぐらいの空間を作る。

 話の流れ的に隣に座っても良いということだろう。そう判断したので、私は誘導されるがままに腰を下ろした。

 

 

「部屋で眠れないって言ってたけど、そもそも寝付けないってこと?」

 

「目を閉じて寝ることはできるんだけど……徹夜した後の睡眠でも、1時間もしないうちに飛び起きちゃうというか」

 

「うわ、それはキツイわね」

 

 

 熟睡できないのは辛いだろう。奏は限界まで眠ろうとしない節があるのに、その限界が来ても眠れないのは体力的にも気力的にもキツいのは何となくわかる。

 

 

「原因はわかってないの?」

 

「精神的か、体が疲れてないからなのか……あまりよくわからなくて。さっき、瑞希に勧められた睡眠音楽を流して寝てみたんだけど」

 

「効果ありそう?」

 

「どうだろう。流したつもりだったんだけど……確認する前に寝落ちして、すぐに目が覚めたから効果がわからなくて」

 

(あー、あの『すぃ』ってもしかしてそういうこと?)

 

 

 謎の連絡の原因が薄っすらわかって、私は頭の片隅に残っていた疑問が氷解した。

 話題に出さなかったものの、気になっていたので頭の中がスッキリした気がする。

 

 

「でも、奏に睡眠音楽は合わなさそう」

 

「え、どうして?」

 

「奏なら寝るよりも音楽の方に集中しちゃいそうじゃない?」

 

「あぁ……否定はできないかも」

 

 

 思い当たることがあったのか、奏は眉をハの字にさせて肩を落とす。

 ……そういう私も絵とかを見ると目が覚めるので、人のことは言えないんだけど。

 

 

「……ふぁ」

 

 

 そうやって話しているのが、落ち着く要因になったのか。

 奏は小さく欠伸をすると、眠たそうな目をこちらに向けてきた。

 

 

「ごめん……少し、眠たくなってきちゃって」

 

「眠たいなら寝た方がいいんじゃない? ほら、横になって」

 

「う、うん」

 

 

 私の勢いに負けて、奏は体を横にする。

 初めは眠らないように目を開こうとしていたみたいだが、時間が経つにつれて耐えられなくなったらしく、瞼がゆっくりと下がっていく。

 

 

(後はどれだけ眠れるか、よね)

 

 

 奏の話や今までの様子を見るに、体は睡眠を求めているように思う。

 しかし、しばらく眠っていると飛び起きてしまって満足に眠れないと奏は言っていた。

 

 

(それってどう考えても原因は──ううん、仮にそうであっても言わないのは理由があるんだろうし)

 

 

 もしかしたら本当に心当たりがない可能性もある。

 そうであれば、こちらから追い詰めるのは更に眠れなくなる原因になってしまうかもしれない。

 

 

「……って……うさん……」

 

 

 奏の唸り声が聞こえて、眠る彼女の顔を覗き込む。

 嫌な夢を見ているのか、覗き見た奏の寝顔は険しいものになっていた。

 

 夢の中であっても友達に苦しんでほしいとは思わないので、私は奏の頭に手を伸ばし、ゆっくり撫でる。

 

 

(良かった。険しい顔じゃなくなってる)

 

 

 撫でるのも効果があったらしく、険しかった奏の顔も心なしか穏やかに見える。

 このまま飛び起きませんように、と祈りながら頭を撫でていると、前の方に複数の影が見えた。

 

 それと同時にナイトコードに1つのメッセージが届く。

 『やっほー♪』と届いた言葉に通知音を消してから、私は返信の文字を打ち込んだ。

 

 

『瑞希、そこで見てたのなら声をかけなさいよ』

 

『いやぁ、奏を起こすわけにもいかないでしょ? これも苦渋の決断なんだよね〜』

 

 

 瑞希が少し離れた場所で笑顔を浮かべながら、手を振っている。

 ミクやレンも一緒にいるようで、瑞希を真似て控えめに手を振ってる姿が見えた。

 

 

『瑞希達はこっちに来ないの?』

 

『奏が寝てるのを邪魔するのも良くないし、ボクらはここから見守ってるよ〜』

 

 

 寝ている人のそばで喋ってたら睡眠妨害になるのは私だって理解できる。

 理解できるものの、遠くから見守られてるのは落ち着かないのは、我儘なのだろうか?

 

 

『見守らなくてもいいんだけど』

 

『いやいや、遠慮なさらずに』

 

『遠慮してないっての!』

 

 

 あっちはミク達にスマホを見せながらやってるはずなのに、無駄にレスポンスが早い。

 しかも返信するたびにニヤニヤとした顔でこちらを見てくるので、ムカつく感情が倍増だ。

 

 

(いつもなら文句の1つは言うんだけど……私を揶揄うって名目で付き合ってくれてるのがわかるから、怒るに怒れない)

 

 

 そう思ったからこそ、喧嘩腰な返信の勢いは無くなってしまった。

 

 奏もいるから動くに動けず、瑞希の気遣いが伝わってきて文句も言い難く。

 瑞希がセカイから帰ってしまうまで複雑な気持ちに襲われながらも、メッセージを送り合っていた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 私の家の夕食の時間が近づいてきた頃に、奏の目が開いた。

 まだ目が覚めきっていないのか、ぼんやりとした顔で周囲を見渡している。

 

 

「おはよ。少しは眠れた?」

 

「おはよう……もしかして、ずっといてくれたの?」

 

「途中まで瑞希も一緒だったんだけど」

 

「そうだったんだ。ありがとう、絵名。瑞希にも後でお礼を言わなきゃ」

 

 

 目元を拭って体を起こした奏は、小さな笑みを浮かべた。

 寝る前に見た時よりも、顔に出ていた疲れが取れているように見えるのは気のせいではなさそうだ。

 

 

「奏が少しでも休めたのなら嬉しいけど。眠れそうな時はちゃんと横になってね」

 

「うん。そうする」

 

 

 そう言って奏は頷いてくれるものの、同族である私は知っている。

 ──あ、これは私がよく言う『善処する』とかと同じだな、と。

 

 だからこそ、こういう時は深く突っ込んだところで改善はされないのだ。

 私も中々改善できないからわかる。業のようなものなので、周りが気をつける方が早い。

 

 

「どうしても起きちゃうなら、セカイに来たらいいと思うよ。今日みたいに誰かが一緒にいたら、眠れるみたいだから」

 

「えっ。でも、皆に迷惑かけるのはちょっと」

 

「私も皆も、奏のことで迷惑だなんて思わないって」

 

「そうかな……でも、わたしは大丈夫だから」

 

 

 そう言って薄らと笑みを浮かべる奏に、私は目を細めてしまった。

 

 

(こういう時の大丈夫って言葉は、基本的に大丈夫じゃないことが多いんだけどなぁ)

 

 

 自分や周りが多用するから、余計にそう思う。

 とはいえ、これにツッコミを入れたところで悪化するのは火を見るよりも明らかなので、私は口に出さずに別の言葉を生成した。

 

 

「あれなら、今日から時間が合う時に寝る努力もしてみる?」

 

「今日だけでも時間をもらっちゃったみたいだし、悪いよ」

 

「奏はほぼ動かないし、ちょっと隣で絵を描くついでだから迷惑とかは気にしなくてもいいって」

 

「えっと……じゃあ、時間が合う時なら」

 

「やった。決まりね!」

 

 

 まるで瑞希のように大袈裟に喜ぶ私の脳裏にはさっきの奏の寝言と、瑞希とやり取りしていた文章が想起されていた。

 

 

 ──奏、寝言でお父さんの名前を出してるみたいなんだよね。ミク達が言ってたんだ。

 

 

(……さっきのアレも、たぶんお父さんを呼んでたのよね)

 

 

 奏のお父さんに何かがあったのだろうか。

 最近は怒られるのも嫌なのか、上手いこと躱してくるお喋りな医者に問い詰めるのもいいかもしれない。

 

 

(それか、生活習慣とかのせいで最悪なことを考えちゃってるだけかもしれないし……よく眠れる方法を調べてもいいかも。まふゆなら詳しそうだし、ついでに相談しようかな)

 

 

 頭の中で医者への乱暴な手段と奏がぐっすりと眠れそうな睡眠方法を思い浮かべながら、私は夕食の連絡が来るギリギリまで奏と喋っていた。

 

 

 






悪夢はストレスやトラウマ、不安などの精神的負担だけでなく、睡眠不足や生活習慣の乱れでも見ちゃうらしいので、皆様もお気をつけください。

奏さん? 奏さんが夢見の悪い原因は……いえ、何でもありません。

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