ビビバス女子組による宮女爆走事件……じゃなくて『絶叫!?オオカミの森へようこそ!』のイベスト開始です。
またしても診察室に行くだけの病院の日と学校の行事──というか、文化祭の出し物を決める日が被った。
体育祭と文化祭とは種類が違うのだが、今年は既に似たようなことがあった記憶があるせいか、物凄く嫌な予感がする。
(いや、どんな出し物であれ看板を描いたりする係はあったはず。私もそっちに振られてるはずだから、気にしなくても大丈夫……なはずなんだけど)
文化祭の進行役は余程のことがない限り、基本的には学級委員がする。
そう、『学級委員』がするのである。
ここで思い出してみよう。体育祭でも私に対してやらかしてくれた──朝比奈まふゆの委員会を。
……もう、おわかりいただけただろうか?
まふゆが割り振られた仕事は学級委員だ。
司会進行で役割を決めやすいあの学級委員会に、まふゆは所属してしまっているのである。
ここで無難な人ならば『東雲さんは休んじゃってるし後日、空いてるところに入って貰おっか~』となるか、『あ、東雲さんって美術部だったよね。それ関係の仕事をして貰ったらいいんじゃない?』となると思う。
だが、あのまふゆがそんな磨き抜かれた球体のような丸い回答を、私に用意してくれるのか?
私の今までの経験的に──断じて否!
だからこそ、授業を乗り切って文化祭の準備時間に入った私の頭の中は、けたたましく警報が鳴り響いていた。
「ねぇ、まふゆさん? 私の係って決まってる? できれば看板とかがいいんだけど」
「絵名は私と同じ『宝探し用の謎作りとクイズブック作成係』だよ」
「えっ?」
「謎作りとクイズブック作成係だよ」
「待って。聞こえてないわけじゃないから、繰り返さないで」
てっきり去年と同じような出店系をしそうだと思っていたのだが、違ったらしい。深く考えなくても『宝探し』なんてワードが出てくる出店はない。
どうやらまた面倒そうな出し物をするようだ。私の嫌な予感が外れていなかったのが悔やまれる。
「私、謎解き系って苦手なんだけど」
「そこは私が考えるから大丈夫だよ。絵名に手伝って貰いたいのはクイズブックのデータ作りだね」
「いや、それこそ専門外なんだけど!?」
コイツ、ただ私を誘うことで被ってる猫を脱ぐ時間を作りたいだけなんじゃないの?
そう思ったものの、教室の中で優等生モードのまふゆに言うことじゃないと考えられる程度の分別は残っていた。
とはいえ、そこで黙ったら相手の思う壺なので、反論しなくてはならない。
「あのね、絵を描くのと冊子を作るのはまた別だから。勘違いしないでよね」
「あれ? でも、絵名はそういうのも作れるって聞いたよ」
「は? 誰よ、そんなことを言ったのは」
「絵名もよく知ってる美術の先生」
「はぁ? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃないよ」
「……まぁ、でしょうね」
まふゆはこんなところで嘘をつくようなタイプではない。
ただ、ここまで育ててくれた恩師の1人に背中を撃たれるとは思っていなかっただけだし、悪人を決めるとしたら先生以外に存在しなかった。
しかし、まだ逃げ道はある。
諦めるタイミングではない。まだいける……いける、はずだ。
「できると言われても、私は専用のソフトを使ってしか作ったことがないし。学校のパソコンじゃどうすればいいのかわかんないんだけど」
「そう言うと思って、先生からソフトが入ったノートパソコンを借りてるよ」
「何やってんのよ先生ーっ!?」
あまりにも丁寧に舗装された善意の道に、私の内心は大荒れだ。
万事休す。ビックリするほど逃げ道がなかった。
「じゃあ。絵名も納得してくれただろうし、行こっか」
「いや、待って。まだ納得したわけじゃ……」
「もう、早くしないと私達だけ作業が遅れちゃうよ」
「あぁぁ~~っっ!!」
優等生らしい綺麗な笑みからは考えられないぐらい、掴んでくるまふゆの手は力強い。
結局、私は碌な抵抗もできないまま、教室の外に連行された。
「朝比奈さんと東雲さん、今日も仲良いよねー」
「ねー。女子高だからそういうのもあるけれど、あの2人は別物というか」
「いつもは東雲さんがリードしてる感じだけど、積極的な朝比奈さんもいいよね……」
「ええ。ファンクラブの一員としてはまふえな成分を摂取できて満足……個人的に東雲さんは受けの時こそ輝くと思うの……!」
「おーい、そこのすみっこのお2人さーん。クラスメイトで勝手に掛け算するのはやめようかー」
──勿論、私達が立ち去った後の教室でそんな会話があったなんて、私の頭では想像することもできなかった。
☆★☆
まふゆに連行されて、いつもの美術準備室まで来た。
「うわっ、本当にソフトが入ってるんだけど」
まふゆが借りて来たノートパソコンを起動すると、ホーム画面に私が使っていたソフトのショートカットが鎮座していた。
一目見てわかるところになければ知らないフリもできただろうに、道を塞ぐことに関しては丁寧過ぎる。
「……冊子はできてもクイズの内容は作れないから、そこはあんたが考えなさいよね」
「うん。最初からそのつもり」
ここまでお膳立てされたら無理だとも言えず、渋々ではあるものの受け入れた。
まふゆはクイズとかすぐに答えられるぐらいには得意なようだし、私の役目はこの冊子を作ることだけ。
「それで、クイズの宛はあるの?」
「瑞希とナイトコードでそういう話もしてるし、幾つかあるよ」
「あー、やってたわね。内容、薄っすらとしか覚えてないけど」
「その辺は期待してないから大丈夫」
「期待してないって何よ!?」
「だって、興味がないことは覚えてないでしょ」
ぐうの音もでない正論である。
いつの夜にクイズをしたのかは思い出せても、クイズの内容そのものは全く興味がないから覚えていなかった。
「はぁ。言い返せないのがムカつくわ」
「得意不得意だから、気にしなくても良いと思うけど」
「何? 慰めてくれてるの?」
「……ううん、変な顔だなって思ってた」
「ちょっと! その言い方は酷くない!?」
もうちょっとこう、あるだろう。
具体的な内容が出てこなくてもにょもにょする。
「そこまで言うなら勝手にクイズとか作ってなさいよねー……ま、思いつかなかったら私の方から瑞希にお願いするし、無理はしなくてもいいけど」
「素直じゃないね」
「何、張っ倒されたいの?」
口を開けば生意気を言いやがって、初対面の時と比べると成長したものである。
いくらムカつくとはいえ、本当に張っ倒すわけにもいかず。
やり込められた敗者はおとなしく作業をすることにした。
「……そういえば、クラスTシャツって何色か決まってるの? ブックの表紙と合わせたいんだけど」
「クジで紫に決まってる。柄は今から考えなくちゃいけないんだけど、まだ決まってない」
「クラスTシャツのデザインって誰が担当なの?」
「……」
「もしかして、あんたが抱えたまま?」
恐る恐る尋ねると、まふゆは黙ったまま頷いた。
「何やってんのよ。誰かに任せられないわけ?」
「皆、忙しい中で手伝ってくれてるから」
「あんたも忙しいでしょ。ほんっと、こういう時はバカなんだから」
程よく仕事を任せられないのも、それはそれで問題だろうに。
この優等生様は勝手に重荷を背負って沈んでいくから、つい目が離せなくなってしまう。
「で、宝探しってどこでどうする予定なの?」
「場所は中庭が出発とゴール地点で、近くにある家庭科室以外にもコースを作ってもいいか悩んでるところ。内容は謎を解いてもらいながら、用意した宝を見つけてもらう予定だよ」
「ふぅん。そっか」
今の話で大体のデザインの方向は決まった。
紫という派手な印象のある色なので、デザインはシンプルに。謎を解くタイプの宝探しということで鍵の絵とかも追加して……と、紙にざっと描いた。
「はいこれ、ブックの表紙に使う予定のヤツ。クラスTシャツもこれを元にしたら?」
「いいの?」
「力を入れるところと抜くところを決めないと苦しいだけでしょ。こんなの、いい感じに得意な人に任せておけばいいのよ」
「……うん」
まふゆは私が手渡したデザイン案を受け取り、まじまじと紙を見つめた。
「表紙としては良いと思う。けど、シャツとしては色々足りない」
「足りないのは?」
「まず、学年とクラスは必須だから入れて。それと──」
まふゆがビシバシと指摘するところをその場で描き加えていく。
最終的にそれらしいものができたので、それを提案用紙に清書して担任に渡せばいいところまで持っていた。
「よし、後は先生に渡すなり好きにして。クラスの皆に見せるかどうかはまふゆに任せるわ」
「うん……ありがとう、絵名」
「他にも何かあるなら言いなさいよ?」
「大丈夫。後はクイズブックと謎解きの準備だけだから」
まふゆの自己申告が正しければ、これで予想の外側から問題が飛んでくることはないはずだ。
後は私の仕事として振られたクイズブックを完成させることに集中すればいいだろう。
「じゃあ、私はブックの方で忙しくなるから。よろしくねー」
「まだ内容も考えてないのに、何で忙しくなるの?」
後の仕事はまふゆに任せて、私はノートパソコンと向かい合う。
逃げるように仕事を始めようとした私の前に、逃がさないと言わんばかりにまふゆの手が伸びてきた。
「ほら、あれよ。表紙とか中身の雛形を作らなきゃいけないし」
「高校生の出し物の冊子なんだから、中身は手書きでいいよ。後で手分けしてやろう」
「手書きでいいなら何で態々、ご丁寧にソレ用のソフトが入ったノートパソコンを借りてるのよ!?」
「あった方が絵名が逃げないかと思って」
「そこまで考えられるのなら、Tシャツのことも考えなさいよ!」
「……ごめん」
顔は変わっていないはずなのに、落ち込んでるように見えるのは何でだろうか。
まふゆだって色々と忙しいのに、無責任なことを言ってしまったかもしれない。
そんな罪悪感が芽生えたせいで、私の中にあった勢いはみるみるうちに萎んでしまった。
「あぁもう、クイズブックは後なんでしょ。なら、先に下見に行くわよ!」
「……宝を隠す場所や内容を考えるためにも、ちゃんと見ておきたい」
「はいはい。すぐに思いつくものでもないだろうし、写真も撮るから。スマホ、忘れないでよ」
「うん」
美術準備室から出て、廊下を歩く間に相手の様子を盗み見る。
ついさっきまでのまふゆは落ち込んでたみたいなのに、もう嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。
(ったく、しょうがないやつ)
クイズブックの手書きはまふゆにも沢山手伝ってもらう予定だし、しょうがないやつなのは許しておこう。
えななん、まーたまふゆさんに嵌められちゃって……あまりにも身内に対しての警戒心が足りませんね。