イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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3ヶ月前に買ったオーブンレンジがクッキーを焼いてる最中に壊れて、土曜日までレンジ無し生活になりました……

大切なものは壊したくないですね、本気でそう思います。





174枚目 絶対に、絶対に

 

 

 

 

 

 文化祭当日になり、朝から一仕事終えた私は校門の近くでまふゆと一緒に奏達を待っていた……のだが。

 

 

「うーわ、ペアルックとか仲良しじゃん」

 

「クラスTシャツだから。ペアルック的な何かなら、クラス皆がとんでもなく仲良しってことになるでしょ」

 

 

 奏と一緒に来た瑞希の第一声がこれである。

 寝起きでもないのに寝言を言うとはどういうことなのか、私には理解できない領域だ。

 

 別にクラスの皆と仲が悪いとは言わないが、ペアルックをするほどの好意はない。

 呆れて溜め息しか出てこない私に追い打ちをかけてきたのは、隣にいたまふゆだった。

 

 

「……ペアルック」

 

「そこ、真面目に受け取らないの」

 

 

 いつもだったら『何言ってるの?』と首を傾げるのに、どうして今日は素直に受け取っているのだろうか。

 頭の痛くなる展開に付き合っていたら、こちらが先に倒れてしまいそうだ。全員揃っているし、早く話を進めよう。

 

 

「文化祭を回るんでしょ? どこか希望とかないの?」

 

「ボク、絵名とまふゆのクラスは絶対に行きたい! 後は楽しそうなところがいいな〜」

 

「事前にまふゆから見せてもらったパンフレットを見てると、どこも楽しそうだね」

 

「私はどこでもいいから、皆に任せる」

 

「……じゃあ、うちのクラスの出し物がある中庭が1番近いし、そこからいこっか」

 

 

 奏もまふゆも特に希望がなさそうだったので、とりあえず瑞希の希望通りに動くことにしよう。

 4人揃って中庭まで移動すると、瑞希が急にきょろきょろと周囲を見渡し始めた。

 

 

「瑞希、急にどうしたのよ?」

 

「近くに2年D組の屋台があるから、いないかな~って思って」

 

「あぁ。もしかして愛莉と雫を探してるの? 2人なら朝から売子をしてるのを見たし、ここにいないのなら休憩時間で離れてるんじゃない?」

 

 

 朝に私とまふゆが自分のクラスの出し物を担当していた時に、愛莉と雫も近くで頑張っていた姿を目撃している。

 そう考えると午後も店番を頑張ることはないだろうと思い、軽く発言しただけだったのだが……それが少々まずかったらしい。

 

 

「それ、ホントなの?」

 

「そんなことで嘘をついてどうするのよ」

 

「ボクを落ち込ませたいのかなって」

 

「趣味悪過ぎでしょ……って、もしかして落ち込んでたりする?」

 

「ちょっとだけ。やっぱりファンだから、チャンスがあればちゃんと顔合わせしたいというか、なんというか?」

 

「……それはわからないけど。ま、ここで会えなくても愛莉達だって学校内にいるし。運が良ければ会えるでしょ」

 

 

 運が悪ければ愛莉達とは会えないけれど、学校内だしモモジャンの誰かとなら会えるだろう。

 楽観的な考えで話を切り上げると、タイミングよくまふゆが声をかけてきた。

 

 

「今、クラスの子に聞いてきたけど、こっちは少し待つことになるみたい」

 

「ということは少しの間、暇になっちゃうんだね。どうしようか?」

 

 

 私達が話している間にまふゆが話を聞いてくれたようで、隣にいた奏がこちらに視線を向けながら首を傾げた。

 幸いなことにここは中庭だ。周りにはうちのクラス以外の出し物もあるし、時間を潰すのは簡単だろう。

 

 

「なら、さっき瑞希も気にしてたし、D組の屋台に行かない?」

 

「D組は……日野森さんがお菓子の屋台をするって言ってたし、ちょうどいいと思う」

 

「お菓子なら手軽に摘めていいね! じゃあ、早速買いに行こ~♪」

 

「そうだね。人も並んでなさそうだし、今のうちに買おう」

 

 

 全員の同意も得られたのでB組のエリアからD組の方へと移動する。

 お菓子、という先入観があったので取り扱っているモノには驚いてしまったものの……とりあえず全部種類買ってからBクラスの場所に戻ってきた。

 

 

「あ、このラーメン。パウンドケーキだったんだ」

 

「こっちの餃子はクッキーみたい」

 

 

 早速選んだお菓子を手に持ち、奏とまふゆが話している。

 

 この会話で私が驚いた理由がわかるだろう。

 愛莉達のクラスが出しているお菓子はただのお菓子ではない。なんと別の食べ物をモチーフにしたお菓子なのだ。

 

 奏が持っているのがラーメンっぽい見た目のパウンドケーキで、まふゆが摘まんでいるのが餃子型のクッキーだ。

 私はコロッケにしか見えないレアチーズケーキを買って、瑞希はたこ焼きみたいなプチシューを食べている……のだが。

 

 

「瑞希、変な顔をしてどうしたの?」

 

「変な顔じゃなくて、宇宙猫みたいな顔と言って欲しいなぁ。今日のような日のために練習してきた渾身の顔なんだよ?」

 

「あっそう。そんなところを頑張った瑞希には『バカ』って称号をあげるわ」

 

「こんなカワイイボクを捕まえて言うことがバカだなんて、絵名ってば酷いよ!」

 

「いや、捕まえてないから。あんたは今も放流されてるでしょうが」

 

 

 そもそも、言われないと伝わらないような微妙な間抜け面を晒している瑞希が悪い。

 クレームのような文句を受け流し、私もコロッケチーズケーキを1口。

 

 

「何というか……視覚的にはコロッケなのに、味的にはチーズケーキだから頭が混乱するかも」

 

「そうそう。こっちは頭が勝手にソースの味を想像してる中、口に広がるのはカスタードなんだよ。絵名もボクがあんな顔をしていた理由もわかったでしょ?」

 

「ううん、それはわからない」

 

「えぇー。そこは理解してくれるところでしょ」

 

 

 不満そうな目を向けられても、無理なものは無理である。

 

 ウザ絡みしてくる瑞希をあしらっていると、こちらをじっと見つめてくるまふゆと目が合った。

 

 

「そんなにこっちを見て、どうしたのよ?」

 

「手、出して」

 

「え? うん」

 

 

 私と瑞希の掌の上に餃子のクッキーが1枚ずつ置いたまふゆは満足げに頷く。

 満足したらしいけれども、どういうことなのかはイマイチ掴み切れなかった。

 

 

「ありがとう、まふゆ! ボク、クッキーも気になってたんだよね~。お礼にたこ焼きシューをプレゼントだよ!」

 

「まふゆ、ありがとね。とはいっても……このチーズケーキ、わけるのが難しいんだけどどうしようかな」

 

「別にいいよ、奏にもあげたから。それより……そろそろ入れるみたいだし、準備した方がいいよ、瑞希」

 

 

 私もまだ食べてる途中なのだが、まふゆは何故か瑞希だけを指名した。

 

 

「えー。何でボクだけ?」

 

「内容を考えたのは私と絵名だよ。奏と瑞希で頑張るしかないんじゃないの?」

 

「なるほどね。ネタバレ厳禁ならそうなっちゃうか〜」

 

 

 うむうむと頷いた瑞希は、手に持っていたたこ焼きシューを素早く平らげ、餃子のクッキーを最後に口に入れた。

 

 

「……ご馳走様でしたーっと! まふゆ、美味しかったよー」

 

「そう、よかったね。あと……タイミングも良かったみたい」

 

 

 まふゆが目を向ける先にはちょうど、宝探しが終わったであろう人が出ていく姿があった。

 

 

「絵名はともかく、まふゆが作った謎解きなら、腕が鳴るな~」

 

「ともかく扱いなら、そこで私の名前を出さないでよ」

 

「いやいや、絵名も一緒に作ったのなら必要でしょ。打倒、絵名とまふゆのタッグだ~ってことで、頑張ろうね、奏」

 

 

 いつの間にタッグ戦になったのか、何も知らずに巻き込まれた奏は目を丸くする。

 

 

「えっ。これってそういう勝負事なの……?」

 

「瑞希が勝手に言ってるだけだし、気にしなくていいわよ。無視して楽しんでね、奏」

 

「えぇー。無視しろなんて、絵名ったらさっきから酷いよーっ」

 

 

 私の言葉に噛み付く瑞希はもう、忘れているのだろう。

 

 

「──瑞希、行くなら早く行こうね」

 

 

 ニッコリ、と笑うまふゆが瑞希の肩を掴む。

 普段のまふゆと優等生のまふゆが合体したかのような声のトーンと凄みを前に、瑞希の顔は青くなった。

 

 

「あっ、はい」

 

 

 震えた声で連れて行かれる瑞希は、まるで借りてきた猫のように受付へと連行される。

 

 

「まふゆを怒らせちゃダメね」

 

「うん、早く追いかけよう」

 

 

 私と奏も顔を見合わせてから、慌ててまふゆと瑞希の背中を追いかけたのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 宝探しの後に美術室や1年生の教室を回ったりと、午後の時間を楽しむために歩き回った。

 

 途中で爆走するゾンビみたいな狼──小豆沢さんをみのりちゃんに預けるというハプニングはあったものの、午後という限られた時間を楽しめたと思う。

 

 

「あー、楽しかったぁ。もう少し遊びたいんだけど、時間がないのが残念だなー」

 

「そうだね。わたしと瑞希はそろそろ帰らないと」

 

 

 空も青から茜色に変化して、歩いている廊下もオレンジに染まっているように見える。

 

 

「……残念なら、また皆で遊べばいいと思う」

 

「! まふゆがそう言ってくれるのなら、皆でまた来たいね、文化祭」

 

「じゃあさ、来年は神高の文化祭に来てよ! 4人で遊んだら、きっと楽しいと思うんだ!」

 

 

 まふゆと奏の間を通り、瑞希が前に出る。

 3人の顔は夕陽に照らされていなくてもわかるぐらい、キラキラしてた。

 

 

(……来年、か)

 

 

 そのキラキラしたモノを後ろから見ていた私は、目を細めて3人の後ろを追う。

 

 

(来年、私は皆の隣に立ててるのかな)

 

 

 このキラキラした夕陽の世界と共に、夜みたいな暗い闇に飲み込まれてしまわないかと……そんなことばかり考えてしまって、胸の中が冷たく感じた。

 

 

(春にはまた皆で桜を見に行って、神高の文化祭に行って。きっと楽しいんだろうな)

 

 

 だからこそ、私は──

 

 

「──絵名?」

 

 

 気がついたら、奏が心配そうにこちらを見ていた。

 いや、顔に出ていないまふゆも、じっとこちらを見ている瑞希からも、奏と同じ空気を感じる。

 

 

「あぁ、ごめん。神高の文化祭って聞いて、瑞希と回ってた時を思い出してた」

 

「……もう。いくらボクとの思い出が楽しかったからって、ボーッとしてたら危ないぞ〜?」

 

「危なそうだし、わたしと手を繋ぐ?」

 

「奏、そこまでじゃないと思う」

 

 

 皆、何か言いたそうな目を向けているのに、誰もそのことには触れなかった。

 まるで私から言うのを待ってくれているようだ。そう思うと、自然と笑みが溢れた。

 

 

 

 

 

(やっぱり皆、温かいな)

 

 

 すごく危ない賭けを勝手にしてしまうけれど、それでも皆は許してくれるだろうか?

 

 

(約束、守りたいな)

 

 

 遊ぶぞって強引に約束したこともあるのに、私が約束を破ったら優しい皆でも怒られちゃうかもしれない。

 

 

 

 この先、大切な皆を傷つけることしかできない私という存在なんて、嫌われた方がいいはずなのに……私はいつものように、知らないフリをしてしまった。

 

 

 

 

 

 






予感はまだ、予感のままで。

というわけで宮女の文化祭イベ、終了です。次回からは恒例の幕間話です。

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